第12話 女神様流、洋服の選び方②
「ファッション雑誌には服のブランド名と値段が書いてあるわ。自分がいいと思ったコーデを見つけたら、その服の値段を見て手が出せるって値段のブランドを探して、そこから他の服を探すと一人でも他の服を探せるやり方ね。ブランドイメージが掴めていれば他の服も好みに合うと判断していいわ」
「他には……」と前置きをすると、「同じようなデザインのものを画像検索で探して雑誌のコーデを真似して買うなんて方法もあるわ」春姫は続けてこういった。
「実店舗では肌触りやサイズ感を実際に確かめることも出来るし、もし気に入った服があればバーコード下にある数字をネットで、検索することでより安価に買うこともできるわ」
「それなら僕でも出来そうだ。だけど清潔感以外の判断材料を僕はまだ教えて貰ってないぞ?」
「ファッションセンスなんて流動的で感覚的なものを一朝一夕で習得できるわけないでしょ? ゲームでもなんでも先ずは出来る人を真似ることから始めなさい。学ぶことと真似ることの本質は同じなのよ」
「ファッション誌を“真似る”。マネキンを“真似る”……――ッ!? あ、そういうことか!? プロが作ったセットを真似れば失敗は少ないってことだな!」
「そのとおり! 女性向けファッションなら十二分にアドバイスできるんだけど男性向けは難しいわ。だからこういう手段しか取れないの……相手は強者よ? つまり騙されつつも利用されなさい。
予算はそうね四万円とでも言って着回しができるセットが欲しい旨を伝えて複数パターンを用意させるの。それを控えた上で似た商品を最安で買うなり、店員の提案どうり買うなりすればいいわ」
店員をとことんまで使い倒した上で安い店で買えなんて悪魔見たいな女だ。
だが金がないことは事実……よく考えてみればファッション誌を立ち読みしている時点で似たようなものか……
春姫っさん曰く売り場のマネキンはわりと服を脱がされるらしく、開店早々でもなければ仮で服を着せられていることもあるため、恥ずかしくても店員に予算と方向性を相談し選んで貰う方がいいのだとか。
店員に案を出させるとジャケット二枚、シャツ二枚、パンツ二枚の合計八通りほどの組み合わせを提案してくれたもののお値段は四万と少し足が出るぐらいになった。
「意外と良心的ね……」
春姫さんは以外……とでも言いたげだ。
「高校生だから手加減してくれたのかな?」
「店員が良心的なだけだと思うけど……完璧に予算内に入れようとすると靴が問題ね」
お洒落な靴ともなると一足で万金は余裕で飛ぶ、出来るだけ安く済ませたいものだ。
「シャツとパンツは持っているもので似たような色合いのものがあったでしょ? それを使えば七、八割程度の再現は出来るでしょうから、浮いたお金でいい靴を買いましょう」
「いいのか? パンツもジャケットもより安価なものをネットで探したほうがいいんじゃない?」
僕は耳打ちした。
「一着あたり千円~二千円程度安価にはなるでしょうけど、それで靴を二足買うぐらいなら、全てネットで買いそろえたほうがいいわよ。それにお店の人にも相応の対価を支払うべきだわ。靴まで揃えられれば16種類の服装に出来るから同じ服とは言われないわ」
「……知識と時間を頂いたからには確かに対価を支払うべきだな」
僕は相手が人間だということを軽視していた。
「すいません。ジャケットだけ頂きたいんですけど……幾ら負かります?」
大阪人以外は値切ることを基本的に恥ずかしいと感じる生き物のため、値切る行為はよほど高額な買い物以外には行わないというがしかし、恥も外聞も捨て去り大阪人の演技をする春姫には関係なかった。
「えっと……」
店員の目は泳いだ。
カップルの相手をしたと思ったら彼女の方が関西人でなおかつ値切ってくるのだ。
経験のない店員ならてんぱっても仕方がない。
僕ならてんぱる。
しかし僕も乗っかることにした。
関西弁……関西弁、遊佐〇二が演じる糸目の関西弁キャラなら真似できる気がする。
「姉ちゃん。店員さんも困ってるだろ? すんません姉ちゃん僕にいいとこ見せたいみたいで……」
「でもアンタ高校生にもなってお洒落一つ出来ないなんてガチで危機感持った方が良いと思うけどなぁ」
姉弟設定と関西風のイントネーションで追い打ちをかける。
「……そうでしたか、では入学祝いとしてじゃあ端数切りましょうか……今後とも御贔屓にお願いしますね」
と出鼻を挫かれた店員さんも、調子のよい台詞で乗っかってくれる。
こうして一万円台後半で二着の服をゲットし、パンツは流用と通販で購入することで、靴に予算を十分に割くことが出来た。