第11話 女神様流、洋服の選び方①
バスに乗った俺達は隣町のショッピングモールに来ていた。
できたばかりということもあってか建物がデカくて綺麗で、吹き抜けになっている構造が建物全体の統一感を演出している。
「服を買いに行くハズなのにどうして本屋にいるんだ? 確かに僕は本が好きだけど利便性だけならネットで買えばお得だし、何より無くさない」
昔は文庫本派だったが家を出ずに本を購入できて、セール時にはお得に買える。それに最近視力が落ちたため最近は専ら電子書籍派である。
高倍率だと目が楽なのだ。
「本を買いに来たんじゃなくて見に来ただけよ? 服を選ぶにしても私が全て選ぶままだと、ママが選ぶようなファッションから脱却出来ないわよ? まあ勇気くんの場合はお義父さんのセンスだけど……永遠に彼女が途切れない前提なら彼女に服を選んで貰うって手段もあるけど……」
そんなヤリチンムーブができるほど、器用な人間になれる自信はない。
「分かった。ファッション誌で大体の方向性を見定めて実店舗に向かうってことか……」
「その通りだけど多くの場合はお店では買わないわ。実店舗はテナントや人件費分高いことが多いから、同じか似たものをネットで探すのよ……」
「家電屋と同じで服屋もネットと価格を比べられる時代なのか……」
「知識を持った強者が搾取するのは、いついかなる時でも変わらないってことね……センスの有無は気にしなくていいわよ、雑誌やマネキンはどれを選んでも基本的にはおしゃれだから。まあ、洋服には似合う似合わないがあるけど……それは客観的な判断ができる私が止めるから」
「お、おう……」
つまりマネキンや雑誌のコーディネートは、ゲームで言えば攻略サイトや動画で紹介されているテンプレ装備や、厨パのようなモノだと理解すれば分かり易い。
つまりゲームで言えば今はキャラ選択画面と言う訳だ。
格ゲーで言えば遠距離、近距離、投げ、弾幕、トリッキーのように大まかな方向性を定めつつ環境に沿った服装を選ぶことが重要なのだろう。
Ter1は長生きだとだいたい相場が決まっている。
雑誌を眺めると無難そうな服装が目に付いた。
シンプルな服装でもモデルが着るだけで絵になる。
昔プレイしたギャルゲの舞台が被服学校だったので、「日本人が洋服にかけるお金は収入比で言えば世界平均より高額だ。」なんてセリフが出ていたことを思い出した。
「これとか無難な気がする……」
「清潔感を言語的に理解した状態だからかしら、100点に近い装飾のない洋服を選んだわね……でもこれはイケメンにこそ許されるレベルのシンプル差よ。普通レベルは多少なりともアクセントが必要なのよ……」
「もっと腕にシルバー巻くとかって話?」
「シルバーは違うけれど方向性としては似たようなものね。冬服だとしすれば普通のコートではなく装飾のある……トレンチコートを着るとかそう言う感じ、もう一回今の踏まえて選んでみて」
華美ではなくいものの多少は装飾のある服装。
つまり100点ではなく90~80点近い組み合わせを選べと言うことだろう。
うーん。と唸なりながら、「条件に当てはまるか?」と思える組み合わせを見つけ指を指した。
指をさして気が付いたがズボンだけでも38,000円と大変高額だ。
ズボンは使い回しが効くとは言え、一着で万金をポンポン払えるほど金に余裕はない。
ズボンでこれならジャケットは……値札を見るのが正直怖い。
「合格よ。その洋服が売っているお店に行きましょうか」
春姫はそう言うと僕から雑誌を奪い取ると売り場に戻し、モール移動する。
そうして到着したのは小洒落た洋服店が立ち並んだ区画で、軒を連ねる店の展示物からして学生の僕には場違いな気がする。
“僕” であって “僕達” でないところが重要なんだけど……僕の隣にいる春姫さんは大人びた容姿や体型も相まって凄くマッチしているように感じる。
財布の中には六万ほど衣装代として父さんに貰ったけど、使い回しの効き辛い上着には払いたくない金額だ。
「高い洋服を何着も買う余裕はないぞ?」
「大丈夫よ。ここのお店そんなに高くないもの」
春姫は僕を先導するように歩いていく。
本来デートであれば男の僕がエスコートするべきなのだけど、これだけ頼もしい姉がいては口を挟むのは邪魔になる気がする。
春姫はそう言うとハンガーに掛かったジャケットを手渡す。
値札を見て見ると一万円を切っている。
ブランドモノと考えるとかなりお手頃と言える。
「意外と安いんだなちゃんとしたやつを買うんだろ?」
「高いものを買えばいいってわけじゃないのよ? 商品をきちんと見て安いやつを買うの。それが出来ない人って男女ともに多いのよ」
「そういうものか……」
春姫さんは口にしなかったが、そういう高級志向の女が簡単に稼ぐために、売春などに手を出して水商売のハードルが下がりなんやかんやで梅毒が流行るんだよ! 心の中の冷笑系が顔を覗かせる。