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前奏

 何から語るべきなのか、それとも或いは、何も語らないでおくべきなのか。

 仮に何も語らないことを選択したとしても、あの忌まわしくも懐かしい記憶が拭い去られるわけでもなく、そしてまた、あの騒乱が己が夢想に過ぎなかったのだと妙な安堵を得られるわけでもない。何せあれは疑いようのない事実で、疑いようのない現実だったのだから。

 であるなら自然、語らなければならないのだろう。

 あれは確かに、物語だった。

 物語。

  物語はどうしてか、何時も唐突に幕を上げる。

 名前の如く物を語る行為であるそれは本質的に誰かに何かを伝えるという構造の中にある。

 故に自然、そこには語られるべき物と、その語り手とが存在する。

 その物語に如何なる幻想が内包されていようと、如何なる虚構が織り込まれていようとも、そしてそれが微少の現実性しか帯びていなかったとしても、語り手に選ばれた存在は語らなければならない。此度は私が、それに任じられただけのことだ。

 別に誰かに聞いて貰いたくてそれを語るわけじゃない。

 誰かに聞いて貰ったとて妄想か狂言か、若しくは嘘偽りだと嘲笑されるのが透けて見える。

 そんな相手の為に態々呼吸してやるのも気に喰わないから、これを綴ることにした。

 事実と現実とが記録として残るように、そう、言うなれば備忘録としてこれを記す。

 ……いいや、本当は違う。

 これを文字にしておきたかったのは、純粋に備忘録としてだけではない。

 だがそれを素直に認めてしまうのは癪だったので、私はこれを敢えて手紙とすることにした。

 手紙であるからには誰かに差し出さなければならぬ。

 人生で手紙なぞを認めるのはこれが初めてであるから正しい作法は知らない。

 けれどもこれを受け取ってくれるであろう君は、そんな些事に構いはしないだろう。

 ……はは、君の迷惑そうな顔を思い浮かべたら、自然と笑ってしまったよ。

 まぁ、じゃあ、あんまりにも長く前置くと君が本当に退屈してしまいそうだから、そろそろ本題に入らせて貰うこととしようか。

 あ、そうだ。

 手紙の作法に明るくない不慣れな私でも知っているものがあった。

 折角だから君への手紙で、是非それを試させておくれ。

 んん、こほん、それじゃあ。

『―――――――――』


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