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4 噂を確かめに夜の学校へ

 そして、それから2日後の夕方の6時半になる少し前。

香奈と静江は、一度其々(それぞれ)の家に戻った後にスマホで連絡を取り合った後に、また学生服姿で家を出て、学校近くのコンビニの店内で落ち合う事にした。

待ち合わせ時間に合わせ、香奈がそのコンビニに近付くと、コンビニの雑誌コーナーの窓の向こうから、先に来て待って居た学生服姿の静江が手を降って迎えた。

二人とも学生服を着て来たのは、当然の事だが放課後の学校で目立たないようにするためだった。

そうして準備万端で来た筈の二人だったが、実は大きな不安要素があった。

それは、深夜の学校に侵入するという色々と不安な事をこれからするのに、二人ともスマホを家に置いて来たからだった・・・。


それには理由があった。

二人が通う中学校では、クラブ活動をしてる等の条件が揃わないと、学校へスマホを持ち込む事は認められて無かった。

二人は実質『帰宅部』で済むような緩いクラブにしか所属してなかったので、夜に教師に見付かったら勿論だが、放課後であっても遅い時間に見付かってしまったら所持品検査をされるだろうと言う話しになり、そうなればスマホは没収され、暫くはスマホ無しの生活になってしまうから、今回はスマホを持って行くのは止めようという話しになったのだった・・・。


 この日は水曜日だったのだが、翌日も平日である日を敢えて二人は調査の日に選んだからであったのだが・・・香奈はその意味を深く考えないまま、静江の計画に乗せられて、ここまで来てしまってたのだった・・・。

ここまで来ても、まだ学校に侵入するのを躊躇(ためら)ってた香奈は、静江に「幽霊とか居るとは思って無いけど、人拐(ひとさら)いとか居るかも知れないから、やっぱりやめよう?」と言ったが、静江は、学校の職員室の窓を指差し「まだ、先生達の誰かが居るから、大丈夫。」と言って、玄関へと向かって歩き出した。

静江は、学校に生徒が残って無くて、教師が学校に残ってて残業を終える前で、尚且(なおか)つ玄関が施錠される前となれば、この時間しか無いだろうと考えてたのだった。

そんな静江にすがり付く様にして香奈は「先生が帰ったら、学校に鍵を掛けられて、勝手に開けたら警報器が鳴っちゃうよ!」と、もう一度、引き留めようとした。

しかし静江は「出られなくなったその時は、学校に泊まるの。ほら!」と、そう言って鞄のなかを探ると、コンビニ袋に入った菓子パン2個とペットボトルのコーヒー2本を香奈に見せた。

「ちゃんと二人分!これで、バッチリでしょ?」

「バッチリって・・・泊まり込みなんて聞いてないよ!」

「いいじゃない!いつもの学校で夜を明かすとか、何だか凄くワクワクするし!一度でも良いから、やってみたかったんだよね~。それに、これも!」

そう言って静江が最後に取り出したのは、自分の家から持って来たLEDのペンライトだった。

香奈は(なか)ば呆れてしまったが、ここまで付き合ったのに、今更一人で帰る訳にもいかないのか・・・どうしようか・・・等と考え迷って居た。

しかし、そんな香奈の様子に気付いた静江は、香奈を置いてくようにして、学校の玄関へと一人で入ってしまったのだ。

「静江!・・・もう!」

香奈は仕方無く静江の後を追った。


自分の靴箱から取り出した上履きに履き替えた静江は、玄関から入った最初の廊下の様子を見ようと通路の角に身を隠しながら、香奈が上履きに履き替えるのを待った。

すると直ぐに、上履きに履き替えた香奈が静江の近くに静かに来た。

静江が動きを止めてるのに会わせた香奈も、そこで動きを止め、静かに呼吸を整えた。

それから10秒ほど、二人は耳を澄まして廊下の先に目を凝らして居た。

「今なら誰も来ないみたい。」

香奈に顔を向けて、そう言った静江を見て、香奈もまた、確かに今は人影も足音も無いと思い「うん。」と、小声で頷いた。

すると静江は無言で頷き、それを合図に二人は体育館の方へと向かって静かに歩き出したのだった・・・。


 校内には、扉や窓を開けた時に反応するセンターは付けられてたが、防犯カメラはどこにも設置されて無かった。

だから一度入ってしまえば、後は残業で遅くまで勤務してる教師や、車で来て、校舎を外から見回る巡回の警備員にさえ見付からなければ、翌朝まで学校に潜む事は容易だった。

ただ、最後の教師が帰る時には、教職員用の玄関を施錠してから警報装置を作動させて帰るので、そうなると外からは勿論、中からでも扉や窓を開けたら警報器が鳴るので、直ぐに警備員が駆け付けて騒ぎに成るのは(まぬが)れ無い事であった。

だから静江は、待ち合わせ場所のコンビニに香奈よりも先に入ってパンとコーヒーを買って、それを鞄に隠し持ち、周到に泊まり込む準備をして来たのだ・・・。

ただ、周到と言っても、それは中学生の考える事であり、また社会的にも中学生のする事として許される範囲内と思ってるからこそ出来る行動だった。


 非常口を示す緑色の明かりと、窓から入る外からの街灯の明かりだけが、廊下を薄暗く照らしていた。

昼間の学校の喧騒を日常と思ってた香奈と静江には、その光景はとても不気味に見えた。

目的の場所である体育館近くの廊下の近くにあるトイレは、この長い廊下を突き当たりまで行ってそこを右に曲がった先なのだが、その廊下からは職員室の窓が見えるので、そこの明かりが消えたなら残業を終えた最後の教師が帰ったのだと分かり、その後の探索がしや易くなると香奈には思えた。

しかし、それは同時に職員室側からも体育館へと続く廊下の窓が見えるという事でもあった。

静江はポケットからペンライトを取り出し右手に握ったのだが、スイッチは入れなかった。

「点けないの?」

このまま薄明かりの廊下を行くのを不安に思った香奈は、静江がペンライトで辺りを照らしてくれないのかと思ってそう聞いた。 

「当たり前じゃない。ライトの光を先生が見るかも知れないのに。」

まだ職員室に残ってる教師が、どこに現れるかも分からないと思た静江は、このまま体育館の方へと行くと香奈に言った。

それから二人は足音を忍ばせながら、長い廊下の先に在る体育館へと続く廊下を目指し歩き始めたのだった。


 薄暗い廊下は不気味であったが、まだ教師が職員室に残ってるので、見付からないようにしようという行為が、逆に怪談の真相を確かめるという恐怖心を忘れさせてくれたのは、二人にとっては不都合と好都合が同居する事だったのは皮肉だったのだが、二人はそんな自分達の感情には気が付いて無かった。


それから二人は『学校で話題のトイレ』に直ぐに着いた。

そしてトイレのドアから少し離れた場所に二人は鞄を置いて、辺りの様子を確かめた後に、トイレの近くの廊下の窓から、そっと顔を出して職員室の方を見たが、どちらにも変化は無かった。

たどり着いてしまえば、何て事も無いように二人は思った。

「意外と簡単だったね。」香奈がそう言うと「そうだね。でも問題はここから。」と静江は答え、廊下から奥まった場所にあるトイレの方を見た。

しかし、廊下の天井に吊るされた非常口を示す緑色の明かりが少しだけ届いてるトイレのドアを見た時、二人はドキリとした。

それは予想どうりだったのだが、トイレのドアノブが白いロープで縛られて塞がれてたからだった・・・。

そして噂どうり、ドアノブには『使用禁止』の黄色い札が下げられてあった。

二人は噂を確かめる為にここまで来たのだから、それは予想してた筈の事だった。

しかし、昼間には誰にでも解放されてる学校のトイレの一つだけが、夜には使えないようにされてる事に、改めて異常さを感じずには居られなかった。

香奈は、ブルッと膝が勝手に震え、その光景から目を逸らそうと、顔を少し下に向けた。

静江は、目を見開いて凝視して居た・・・。

「学校の怪談・・・噂は、本当だったんだ・・・。」

香奈がそう言うと、静江は「そんなの。まだ、分かんないよ。」と、強気に言った。

「何で?これって噂どうりって事でしょ?」

「噂では、このトイレの中にある鏡の中に、内の学校の生徒が閉じ込められてるって話じゃない。」

「それは・・・そうだったけど・・・。」これだけ調べられたなら、もう良いよと香奈は思った。もう、帰りたいと思ったのだ。

しかし静江は違っていた。

こんな中途半端な調査では、後に学校で友人に話す時に「結局、怖くて、真相を確かめられなかったんじゃない。」と、笑われるのがオチだと思ったからだった。

静江は右手に握ってたペンライトを香奈に見せて「これで、私の手元を照らして。」と言って香奈にペンライトを渡した。そして「でさ・・・。ライトの明かりが広がり過ぎると、職員室から見られるかも知れないから、手でライトの先を覆って、明かりの広がりを小さくして。」と言って、香奈にペンライトを手渡した。

ペンライトを右手で受け取った香奈は、左手でその先を覆ってからスイッチを入れた。

「こ・・・こう?」香奈は、静江の言ってる事の意味を理解できてるか不安に思いながら、ペンライトの先を覆う手から漏れる光の当たる範囲を調節してみた。

「そう、そんな感じでお願い。」

「分かった・・・。」

そうして香奈は、ドアノブと、その近くに取り付けられてる金属製の(リング)を縛って固定にしてるロープを(ほど)こうとする静江の手元を照らしつつ、辺りに明かりが漏れすぎない様にした。

このトイレは朝から夕方まで解放されてるのだから、きっとロープは早出の教師によって毎朝(ほど)かれるのだろう。

だから、ガッチリと縛ってある様に見えても(ほど)ける様に縛ってると静江は考えてたのだが、実際にロープを良く見てから手を掛けてみると、少しずつ(ほど)く事が出来たので、静江は内心、ホッとしながら作業を続けた。

(ほど)けたよ・・・全部・・・。」そう言った静江は、額と背中に少し汗が浮き上がってるのを感じながら「ふぅ~・・・。」と、ため息をついた。

香奈が「いよいよ、本番・・・?」と、不安そうに静江に聞くと。

「どうだろう・・・。」と、静江は言葉を区切ったあとに、緊張した面持ちで香奈を見て「鏡の前に立った時が本番じゃない?」と、急に低い声で言った。

「なに?・・・脅かさないでよ・・・。」

「ごめん。そんなつもりじゃ無かったんだけど・・・なんか・・・。」急に怖くなったと静江は言おうとして止めた。

すると静江は、不安を振り払おうと急に動き出し、体育館へ続く廊下へ出ると、そこの窓から顔を半分だけ出す様にして職員室の様子を窺った。

「明かりが消えてる・・・。」

「え?」さっきの静江の雰囲気と。教師がもう一人も残って無いという事で、香奈も改めて怖くなって来た。

「じゃあ・・・もう。」と、香奈は静江を見て言った。

静江も香奈を見て「二人で朝まで学校で過ごすしか無いってこと・・・。」と、覚悟を決める様にして言った。

さっきまでは教師に見付からない様にしてたのに、教師が帰った後に始めて、これから朝まで、たった二人で校舎で過ごさなければ成らないのかという不気味さと圧迫感が、急に現実のものと成ったのを、今更ながら二人は感じた。

それだけに、今更『どうしよう?』と言っても『どうにも成らない』と思った二人は、そうした事を言えなくなってしまたのだった。


 しかし実際には、警報器に引っ掛かってでも学校から出る事も出来たのだ。

それで今夜、警備員や教師が呼び出されて騒ぎになったとしても、名乗り出て謝れば、生徒のイタズラとして教師や親に叱られればそれで済んだろう。そしてそれが学校で暫く噂になったに成ったにしても、後に振り替えれば、大した事でもなかっただろう。

それに、学校には監視カメラは取り付けられて無いのは二人も知ってたのだから、騒ぎを起こしても名乗り出なければ、それで逃げ切れる可能性も高かったのだ。

きっと、そうしてたなら、後に香奈と静江は、この夜の体験を『二人だけの秘密の笑い話』に出来ただろう。

だから香奈は、今でもこの時の事を後悔していた・・・。


 職員室の明かりが消えたのを確認してからも、二人は直ぐにはトイレのドアを開けなかった。それは職員室から教師が職員用の玄関を出て施錠をするまでは、まだ見付かるかもと警戒してたからだった。

自分達二人しか居なくなる校内を怖いと思いながら、一方では噂の調査を諦められないで二人は居た・・・。

いや、実際に諦められないのは静江だけだった。

香奈は静江を放って置けないからズルズルと付き合って、ここまで来てしまってただけだった。

二人は体育館へと続く廊下の端に座り、壁に背中を付けて並んで座た。

この時、静江は、大胆にもスカートであぐらをかいて、目を閉じた。

香奈は不安を抱える様に、スカートごと膝を抱えて、床を見て居た・・・。

そうして、教師が学校を施錠して居なくなるまで、ここで待つ事にした。

その(かん)、15分ほどだったが、二人はずっと無言だった・・・。



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