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《⭐︎》婚約破棄より大切な事


☆さらっと読めるショートショートです。


「マリアナ・ドーク公爵令嬢! お前とは婚約破棄する!」

 王立学園の卒業パーティーで、アーノルド王子の声が響き渡った。


「お前はこのモニカ・ルーナー男爵令嬢の教科書を破り、ドレスを切り裂き、噴水に突き飛ばし、階段から突き落とすという虐めをはたらいた! そのような女に国母となる資格は無い!」

 アーノルドの横にはモニカが縋り付くように立ち、アーノルドに守られている。


 優雅な足取りで二人に対峙したマリアナは、困惑した顔で答えた。

「私は、そんな事をした覚えはありませんわ」

「とぼけるな! 証拠はここにある!」

 黙って後ろに控えていた宰相の息子が、書類の束を掲げる。


「まあ、証拠があるなんて不思議ですわね。それより、一つだけ質問に答えていただけます?」

「命乞いか! よかろう」

「ではお聞きしますが…、殿下は、何故今ごろ言い出したのです?」

「何?」

「だって、教科書を破られた時点で問題にすれば、ドレスや噴水や階段の件などは起こらなかったと思うのですが…。それに、卒業した後に言われても、もうモニカ様は円滑な学生生活を取り戻す事はできませんわ」


「は、犯人が何をぬけぬけと…!」

「どうぞ質問にお答えください。ご自分が、質問に答えると言いましたのよ」

「だから、婚約破棄が」

「まさか、婚約破棄できるだけの罪状になるまで待っていたら、卒業してしまったとか?」

「い、いや!」

「ですわよね。では、お答えを」

「………」

 殿下を見る周りの目が次第に冷たくなる。

 

「あぁ、簡単に言えないほどの事情がおありになるのですね」

「そ、そうだ!」

「しかし、それは為政者としては問題です」

「何!?」

 

「例えて言いますと、ある領で水害がありました。畑も道路も流されて、伝染病が発生しました。民は飢えと病気に苦しんでいます。なのに、殿下は『あそこは水害にあって可哀相だから、来年の予算を多くしてあげよう』としたのです」

 自分の領で想像したであろう周りの目が、一気に氷点下になる。


「即断即決、臨機応変、初動の早さが為政者に必要なのに…。もう、モニカ様には取り返しがつきませんわ。きっと、もっと学びたい、何の憂いも無く勉学に励みたいと思ってらっしゃったでしょうに…」

『いやいや、遊びに忙しくて成績は低空飛行でしたよ』と、一同が内心で突っ込む。

 アーノルドと一緒になってマリアナを断罪するつもりだったモニカも、自分を心配されては何も言えない。


「殿下は、そんな愚鈍な自分の不甲斐なさの責任をとって、私との婚約を破棄してモニカ様と結婚するとおっしゃるのですね」

 いつの間にかモニカとの結婚が罰ゲームのようになっているが、アーノルドは悲しそうなマリアナの表情のせいで気付かない。

「婚約破棄を承ります。どうぞお幸せに」


 マリアナのした深いカーテシーが合図のように、誰からともなく拍手がわきおこり、卒業パーティーは円満に終わった。






 


「アーノルドお兄様が卒業パーティーでやらかした事は、国中の貴族に広まりましたわ。『そんな奴には、国どころか領地も任せられない』という声があがって、アーノルドお兄様は王位に就く事も、臣籍降下して領地を賜る事も(はばか)られる身となったので、王位継承権を返上して王家の裏方として働くことになりましたの」

「まあ…」

 マリアナは、今日はティナ王女に招かれて王宮でお茶会だ。


「それでは、弟のフォルト様が王太子になられるのですか?」

「ええ。五歳年下だから、これから教育することになるわ」

「きっと立派な王太子になられますわ」

「アーノルドお兄様という悪い見本を見てるからね」

「まあ、ティナ様ったら」

 笑い声が響く。


「そう言えば、モニカ様との婚約はどうなりましたの?」

「お兄様の今後の努力次第で話をすすめるって事になっているけど、モニカ様は結婚出来ても王家の裏方って聞いて逃げ腰みたい。だからって、今更他の家との縁談なんて無理でしょうけどね。それより、マリアナ様の縁談は?」

「殿下から婚約破棄された私なのに、ありがたい事に何件かお申し込みをいただいてますわ」


 そりゃあ来るでしょう。マリアナ様、ご自分が冤罪で断罪されているという時に、その断罪をしているモニカ様の心配してたんですよ。女神か。

と、思うが口には出さない。

 本人が自覚していないなら、言わないでおこうと思ってるのだ。

 

 きっと、求婚者から聞かされた方がずっと幸せな気持ちになれるから。


2024年6月2日 

日間総合ランキングで9位になりました!

ありがとうございます^_^

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