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第8話 プレゼント



 結局。深夜まで続いたお祭り騒ぎは、水野谷の挨拶で幕を閉じた。「今日は帰っていい」と言われた関口を連れて蒼はタクシーで帰宅した。その夜。二人とも相当酔っていたようで、風呂にも入らないで寝てしまった。


 翌朝。蒼は日勤だ。いつもよりも早起きをして入浴を済ませてから居間に顔を出すと、珍しく関口が朝食を作っていた。


「昨日は楽しかったね」


 そう声をかけると、関口は「そうだな」とぶっきらぼうに答えた。


(怒ってる? もしかして、店まで行ったのは迷惑だったのかな)


 結局。彼に買ってきたプレゼントはリュックの中だ。渡すタイミングもない。大きくため息を吐きながら、出来上がった味噌汁を運ぶ手伝いをする。盆にのせたお椀を茶の間に持っていくと、いつも蒼が座っている席に茶色のシンプルな袋が無造作に置かれていた。


 そばに座り込み、それを眺めていると、ごはんを持ってきた関口が言った。


「それ。クリスマスプレゼントだから」


「へ?」


(これ? ただの茶色の紙袋?)


 味も素っ気もないラッピング。いや、ラッピングとは言わない。ただ袋に入っているだけ。しかし中を見ると、蒼が欲しかった改訂版国語辞書が入っていたのだ。


「あ、あの。どうしてこれ?」


「別に。まだ買ってないんでしょう?」


「買ってない、けど……」


 蒼は、はったとして席を立つと部屋に駆けだす。


 そしてリュックからプレゼントを掴むと、急いで茶の間に戻った。


(やっぱり買っておいてよかった!)


「こ、これ。これ」


 プレゼントという言葉が恥ずかしくて出てこない。震える手でその包みを突き出した。


「なに? おれに?」


「そ、そうだよ。別に。ただ、クリスマスだし。いつもご飯作ってもらってるし」


「いいのに。むしろ、僕が養ってもらっているんだし」


「そ、そういうのじゃない。これは、本当。心からの感謝の気持ち——。ああ、でも! 関口にはこんな安物、いらないかも。あ、ねえ。いらないなら、おれ使うからいい。ね? いらない……でしょう?」


 最後のほうは声が小さくなってしまう。生まれて初めて。人にプレゼントを渡す行為は。緊張して心臓が高鳴った。プレゼントとは、こんなにも緊張をするものだ、と初めて知った。相手がどう受け止めてくれるのか不安になった。人はなぜこんな思いをしてまで人にプレゼントをするのだろうか。


 そう疑問に思ったとき。関口が袋を開けてマフラーを取り出した。それは瑠璃紺色と黒色の毛糸で織り込まれたチェックのマフラーだった。


「関口には何色が合うのかよくわからなくて……」


(もう返して欲しい。自分で使うから、返して欲しい)


 頭のてっぺんまで火傷をしたように熱くなる。彼の感想を聞きたくなくて、目をぎゅっと瞑って手を差し出した。しかし、返ってきたのは「ありがとう」という言葉だった。


「こういう色は持っていない。僕がマフラー好きってよくわかったね」


「え?」


(そうだったの? 本当に好き?)


「しかも持っていない色。蒼はよく見てるんだね」


「べ、別に。ストーカーじゃないし。家政婦は見たじゃないし」


「なにそれ?」


(2時間サスペンスの見過ぎ!)


 もう穴があったら入りたい。口をぱくぱくとさせていると、彼はさっそくそれを首に巻いた。


「いいじゃない。——本当に嬉しいよ。蒼。ありがとう」


「あ、あの——。うん。よかった……」


 生まれて初めてのプレゼントは大成功? 


 関口と出会ってから、蒼には初めてが増えていく。なんだか気恥ずかしいし、居心地が悪いしで、落ち着かない。だけど心がじんと温かくくなるようなクリスマスだった。




O Freunde, nicht diese Töne!

(おお友よ、このような旋律ではない!)


Sondern laßt uns angenehmere

(もっと心地よいものを歌おうではないか)


anstimmen und freudenvollere.

(もっと喜びに満ち溢れるものを)



— 第七曲 了 —

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