表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/80

第3話 最悪な店



 頭の中でガンガンと音が鳴っている。銅鑼を耳元で連打されているみたいにうるさい。


「くそ」


 頭を押さえながら、体を起こすと、そこは寝室である仏間だった。カーテンの隙間からは明るい光が漏れているところからすると、もう日中なのだろう。


 枕元に置いてある眼鏡を見つけ、それをかけてから襖を開けると、蒼はいなかった。居間にぶら下がっている振り子時計は、2時を指していた。


 座布団の上に腰を下ろし、外を眺めると冬晴のいいお天気だった。円卓のちゃぶ台の上に置いてあるメモは蒼の字だ。昼食を用意していってくれたらしい。


「なんだか心配ばっかりかけるな……」


 自分が情けなく感じられた。


「その曲はやめろ!」


「もっと楽しい曲にしろ」


 昨晩の野次が頭から離れない。結局、昨晩は桜に促されるまま店でヴァイオリンを弾いた。曲はなんでもいいと言われたので、自分のレパートリーを披露したのだが。ともかく客の野次が酷い。これではピアニストも辞めたくなるわけだ、と思った。


 特に、カウンターにいた野木という男は、性格がひん曲がっているのではないかと言いたくなるほど、人の揚げ足ばかり取ってくる。


「くそ。なんなんだよ。あの店」


 もう金輪際行きたくはないが柴田の手前、そうもいかない。スマホを持ち上げて、さっそく柴田へ連絡を取る。柴田はすぐに電話口に出てくれた。


「先生! 一体、あそこはなんなんですか」


「桜はね。とっても腕がいいから。きっと学べることがたくさんあると思うんだよね。まあ、とりあえず来るなって言われなかったんでしょ? 桜に気に入ってもらったならよかった。頑張るんだよ」


 柴田はそう言うと電話を切った。やはり間違いないということだ。柴田が自分では力不足だからと紹介してくれた人が彼女なのだ。


「どういうことなんだよ……。気に入っただって? あれで?」


 意味がわからないのに、とにかくやるしかないというのだろうか。関口は頭をもしゃもしゃとかきむしってから大きくため息を吐く。それから風呂に向かった。


「こんなことしている場合じゃないんだよ……」


 本選まで期日は一か月に迫っていた。



「最近、関口坊ちゃまを見かけないんじゃないのか?」


 夕方、事務所で一同が介して仕事をしていると、ふと尾形が言い始める。他の職員たちもパソコンから手を離し、彼の話題に乗った。


「そうだな。——なあ、蒼。大丈夫なのか? 関口は」


 星野の意地の悪い言い方に、蒼は苦笑いを見せた。


「コンクールの準備で忙しいみたいですよ」


「それはそうだよな。もう一か月だもんね」


 吉田はカレンダーを見ながら何度も頷いた。コンクール本選は正月明け、1月11日。もう一か月しかない。


 ここのところ、関口は午前様ばかり。毎日のようにお酒と煙草の匂いを纏って帰ってくる。生活スタイルが全く真逆になってしまったのだ。食事を一緒に摂ることもなくなり、会話をする機会も絶たれた。


(本当に練習になっているのかな? 大丈夫なのかな……)


 蒼は悶々とする気持ちを持て余していた。夜、遅くなることも知っているくせに、いつ帰ってくるのかと思うと、ゆっくり眠れないのだ。雪も降り始める時期だ。寒暖の差が大きく体調がいまいちだった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ