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地方公務員になってみたら、配属されたのは流刑地と呼ばれる音楽ホールでした  作者: 雪うさこ
▶︎▶︎▶︎05 独奏ヴァイオリンのための組曲 Op.123 Ⅳ chaconne
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第6話 決心



「ありがとう」


「——え?」


 驚いて顔を上げる。関口は蒼をじっと見ていた。どことなしか嬉しそうに微笑を浮かべていた。


「あの。えっと。ごめん。僕も言葉にできないや」


「へ? そ、それはおれのセリフ」


「いやいや。それ、僕のセリフ」


 人間とはどうしようもできないと笑ってごまかすらしい。蒼はぷっと吹き出す。関口も釣られて笑みを見せた。


「ごめん。意味わかんない」


「僕もだ」


 なにがなんだかわからないのに、二人はただ笑い合った。


「ねえ! 関口」


「なに?」


 蒼は関口の元に歩み寄ると、関口の腕を掴んだ。


「ねえ、コンクール出よう!」


「え?」


「うん。出たほうがいいよ! ねえ、絶対に出よう! おれ、応援するから!」


「でも」


「出ない」とは言わせたくない。蒼は関口を見上げた。必死だった。


 ——どうか、お願い!


「——わかったよ」


「本当?」


「僕もそろそろ限界だったんだ。もう22歳だ。ヴァイオリニストとしては遅すぎるくらいなんだ。続けるか辞めるか、決めなくてはいけないんだ」


 彼はそう言うと愉快そうに笑った。


「まさかね。初対面でイライラさせられた蒼に、背中押されちゃうなんて。本当に変なの。おかしい」


「なに? だって。関口だっておれの背中押してくれたでしょう。本当に感謝しているんだよ。でもね。そのお礼とかじゃないんだ。おれはその。純粋にね。関口の演奏にグラグラさせられて、それで、ドキドキして。それでそれで、もう体じゅうがモヤモヤとしちゃって……」


「ねえなにそれ。意味わかんないし。っていうか興奮したってこと?」


 関口の言葉に蒼は顔を真っ赤にした。


「ち、違う!」


「へえ。性的な興奮と音楽を聴いて得る興奮って似ているんだよ。蒼」


 関口の指摘に蒼は耳まで熱くなる。


「せ、関口って変態——」


「変態って。あのねえ。いい年の男だろう。ねえ、恥ずかしいの? そういうの。蒼って初心うぶなんだね」


「お、おれだって。彼女くらい、いたことあるし……」


 自慢できるほどの女性遍歴はない。声が小さくなる蒼を見て、関口は笑ってばかりだ。


(どうせ、関口みたいに王子様キャラじゃないし。バカにして!)


 いつもは冷静で聡明な関口の視線はどことなしか熱を帯びているように見えて、心臓が口から飛び出しそうなくらい拍動を早まった。


 なんとかそれをごまかそうと、蒼は自分でもびっくりするくらい大きな声を上げた。


「——と、ともかくね! 関口の音楽はすごいってこと!」


 興奮してなにを言っているのかわらかなくなった。肩で息を吐く。


「なんだかよくわからないけど。嬉しいもんだね」


「そう?」


「そうだね。どんなに言葉を並べて評価されるよりもなによりも。蒼のその、ド・ストレートな感想って、すっごく嬉しいかも」


「へへ。おれもよかった」


 蒼は恥ずかしい気持ちのまま笑みを浮かべた。その視線に応えるように、関口も目を細める。先程まで、うるさいくらいに聞こえていた風の音が、まるで気にならないくらい。蒼は関口のことだけを見ていた。


 不思議な感覚だった。この気持ちがなんであるか、蒼にはわからない。けれども、この目の前にいる男が、蒼にとって、特別な存在になりつつあるという事は確かなことだった。








やっと近づいてきた二人です。

前に進むといいなー!

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