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第11話 僕もあなたが嫌いです



「すみませんでした……」


 ベンチに並んで腰を下ろしていた二人。あたりはすっかり暗闇に支配されている。蒼にとったら長く感じられる時間だが、一体どのくらいの時間が経過したのだろうか。


 ひとしきり泣いて、我に返ると、頭のてっぺんまで熱くなるくらい、恥ずかしくなった。大の大人が。なんて様だ、と。


 蒼はこの場から立ち去りたい気持ちでいっぱいになった。しかし、関口は一向に動こうとはしない。ただじっと押し黙って蒼の隣に座っているのだ。蒼は、なんとかこの雰囲気を変えようと、「練習の時間ですね」と関口を見た。


「別にいいです」


 しかし、関口は「別にいいです」と、ぶっきらぼうに答えた。


「恥ずかしいところばかり見られるね」


 蒼は何度も謝ることしかできない。自分をさらけ出してしまうなんて、思いもよらなかったからだ。


「そんな時は誰にだってあるものだ。むしろ、僕でよかったのか。少々、後悔している」


「ですよね。こんな話。聞かされても、困っちゃうよね」


 言葉が続かない。黙り込んで俯いていると、ふと関口が声を上げた。


「いや。それは構わないが。蒼の気持ちはどうなんだろうか?」


「へ?」


「蒼は、お母さんが本当に嫌いなのだろうか?」


(母さんを嫌いかどうかだって?)


「そ、そんなの決まっている。おれは、おれはずっと悪いなって思っていて。それにきっと母はおれのことなんか……」


「違う。お母さんが蒼をどう思っているかじゃない。僕は、蒼がお母さんを好きなのか、嫌いなのかを聞いているんだ」


 好きか嫌いか。そんなことは決まっている。嫌いだったら、こんなに悩むこともないのだから。


「好きに決まっているでしょ……」


 消え入りそうな声でつぶやく。


「そう。よし。わかった」


 関口は「うん」と頷くと、蒼を見た。


「会いに行こう」


「え?」


「だから、会いに行く。決まり」


「き、決まりってなんだよ?」


「だから会いに行くんだよ。耳悪いの? 聞こえないわけ?」


「聞こえています!」


「じゃあ、頭悪いの? 僕の話している意味わかりませんか?」


「言葉はわかります。でも、意味がわかりません」


 蒼の答えに関口は真面目な顔をして考え込んだ。


「そっか。地方公務員って頭悪くてもなれるんだ」


「お、おおい! なんだよ! それ」


 バツの悪い気持ちなんてどこかに飛んで行ってしまう。憎まれ口をたたかれると、つい反射的に反論してしまうのだ。


「え。本当のことを言ってみただけですよ。なにも気を悪くされる必要はありません」


「いやいや、ちょっと待ってよ。それは関口が言う事じゃないよね?」


「そうでしょうか? おれは気を遣わないでください、という意味で言っただけです」


「だから……」


 屁理屈を並べ立てる彼の話に付き合っている暇はない。蒼は大きくため息を吐いて、少しずつ星が輝きだしている宵闇を見上げた。


「あ~あ。なんか話て損した気がする」


「損得の問題ではないでしょう」


「うう、本当にうるさいね」


 涙もどこかに吹き飛ぶとはこのことだ。なんだかおかしくなって笑うしかない。蒼はぷっと吹き出して笑いだした。笑われた関口は不本意そうな顔をした。


「もうやだ。あのねえ。ハッキリ言いますけど、おれ。嫌いです。関口のこと」


「ああ、そうですか? 奇遇ですね。僕もあなたが嫌いです。見ているとムカムカしてきます」


(もう、本当に可愛くない!) 


 蒼はむっとした顔で彼を見据えるが、大して気にもしていないのだろう。


「そうだな。今週末は時間、取れますけど」


「あのねえ——。勝手に話を進めないでよ」


「では、星野さんに託しましょう。今日の話は全部星野さんにお伝えして——」


「ああ~! それは、ダメ! それだけはダメ!!」


 この話題をこれ以上、同僚や先輩たちに知られたくはない。蒼は両手を振って関口の言葉を遮った。


「では、どうしましょうか?」


「……本気なの?」


「本気です。無職なんでね。暇ですから。人の人生覗き見るのも一興かと思います」


「本当に悪趣味だね!」


 にんまりと笑みを浮かべる関口を憎々し気に見つめ、それから二人は週末の約束を交わした。





なんだかんだで関口に巻き込まれている蒼。

明日に続きます!

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