6話「場違いなのかもしれません」
後日、ローゼットから連絡があり、倒れたところを助けてもらったお礼として大量の果物やら何やらが家に届いた。
両親も驚いていたくらいの量であった。
さすがは王子、と言ったところか。
一般人の常識の範囲など爽やかに軽やかに超えてくる。
そして、そのお礼の品の中には、手紙も入っていて――それは、近く城で開かれれる食事会へのお誘いでもあった。
「それで、参加するの? その食事会」
「できるならしてみたい、けど……でもどうしようかなって思って……あまり勇気ないから……」
「心に素直になって行動すればいいんじゃない」
「母さん?」
「大事なのはラスティナがどうしたいかってところよ。誘ってはもらったのだから、あとはラスティナの気持ち次第だわ」
行ってみたい、そんな気持ちもある。
でも勇気が足りない。
私みたいな人間が城に足を踏み入れるなんて、と思ってしまう。
「どうしよう……行きたい、でも……」
「でも、何?」
「私みたいな人間が行っていいのかなって……」
こんな時に限って、かつてオフィティから言われたことを思い出してしまうのだ。
「何それ? いいのよ。いいに決まってるじゃないの! だって誘われているのよ? 誘っておいて来るのは駄目、なんて、そんなことあるわけがないわ」
「堂々としている自信がないの」
「何を言っているの。堂々としていなさい、誘われて参加するのだから」
「けど」
「……もしかして、まだ気にしているの? オフィティに言われていたこととかを」
ハッとして顔を持ち上げる。
目の前の母と目が合った。
「やっぱり、そういうことみたいね」
うじうじしていても何も生まれない、そんな行為に意味なんてない――分かっている、分かってはいるのだけれど。
「自信を持って。誘ってもらったのだから、凛として参加すればそれでいいのよ」
母に背を押してもらって、私はようやく心を決めた。
「うん、参加する」
◆
食事会当日。朝早くから髪を結い軽く化粧をしてコバルトブルーのドレスを身にまとって、と準備をした。そうしてバタバタしているうちに時が過ぎて、あっという間にお迎えの馬車が来る時間になった。
「気をつけてね、ラスティナ」
「うん! 行ってくる!」
母に手を振り、馬車に乗り込む。
目指すは王都。
――馬車に乗り揺られることしばらく、思っていたよりも早く王城前へ到着した。
「こちら、会場です」
「あ、ありがとうございます」
「案内の者がおりますので」
「はい!」
馬車を降りて驚く。
周囲に華やかな女性たちがいたからだ。
皆、まるで王族であるかのよう。あくまでイメージだけれど。驚くほど華やかなドレスを身にまとう姿はまるで蝶のようでもある。それに、指に巨大な指輪をつけている人もいて、年齢問わず非常に派手だ。
「こちらへどうぞ」
「あっはい」
会場まで歩いていく間、話せそうな人には出会えなかった。
他の女性たちは知り合い同士みたいで、今回急に参加しただけの私にはどうやっても入っていけそうになかった。
仕方ない、か。
私が急に参加したんだもの。
けど。
「何あの子、地味ね」
「ふふっ、だっさい、だっさいわ」
「あんなぱっとしないドレスでねぇ。もしかして実家が貧しいのかしら? それに指輪だってしていないし」
歩いている時にそんな悪口のようなことを言われてしまって、少し傷ついた。
……やっぱり場違いなのかも、私。