3話「必死ですね」
浮気がばれ不利な立場になったオフィティはそれをひっくり返すべく驚くくらい身勝手なことを言い出した。
それが婚約破棄。
彼の行動は大問題。それこそ婚約を破棄されてもおかしくないくらいのことだ。だが彼は敢えて自分から終わりを告げてきた。そこには明らかに、婚約破棄されるのは嫌だという彼のプライドが存在している。どうせ言われるくらいなら自分から言ってしまおう、というような発想に至ったのだろう。
「オフィティ、それはさすがに……」
「ガーディアは黙っていてくれ、これは俺とこいつの話だ」
婚約者をこいつだなんて、よくそんな風に呼べるわね。
正直もう彼への感情はない。
今や彼という存在は私にとってただの害悪でしかなくなった。
「ってことで、いいな? ラスティナ。俺たちの関係、もうここまでにしよう」
「そうですね。……その方が良さそうです」
「ああ? 何だその態度! 低級家の娘のくせに、それ以上調子に乗るなよ!? そんなことしてみろ、俺がぶっつぶしてやる! それも、家ごとな!」
オフィティはとんでもなく感情的になっていた。
その口から出てくる言葉はどこまでも毒々しく、優しさの欠片もないようなものばかりだ。
ああ、どうしてこんな人と婚約してしまったのだろう……。
もう遅いけれど、後悔しかない。
いや、でも、逆にそれでいいのか。
彼に嫌われて捨てられる、そのやり方であれば、問題なく彼から逃げられる。
多少は私の名誉に傷がつくかもしれないけれど、でも、彼とお別れできるならそのくらいどうでもいいと今はそう思える。
こんなややこしい人と生きていくのは嫌だ。
「まぁ泣いて謝るというのなら許すかどうか考えてやってもいいが――」
「では私はこれで去りますね」
さらりと言えば。
「な!?」
彼は驚きの声を吐き出す。
私が泣いて謝ると思っていたの?
非なんて少しもないのに?
そこまで弱い人間ではない。
「オフィティさんの浮気が発覚したため婚約は破棄に、そういうことで。ではこれにて、失礼します」
「お、おい! 待て! どういう話だ!」
「え? どういう話、って……実際に起きたことそのままを申し上げただけですけど」
忘れ物の回収も済んだし、もうここにいる理由はない。
「さようなら、オフィティさん」
彼とはもうおしまい。
ここまでにしよう。
◆
あの後色々手続きが忙しかったけれど、両親の協力もあって無事婚約を破棄することができた。
苦労もあったが、段々心も落ち着いてきた。
今は実家で両親と暮らしている。
不自由のない日々は快適そのものだ。
「母さん、ちょっと散歩してくるわ」
「え? また珍しいわね」
何にも縛られない日常というのもなかなか良いものだったりする。
以前は特にそうは感じなかったけれど、今は強くそう思う。
「うん。なんか天気がいいからさ、出掛けたくって。晴れの日は外の空気でも吸いたいな~って」
「そう、分かったわ。じゃあいってらっしゃい。気をつけてね」
「ありがとう母さん!」
「暗くなる前に帰るのよー」
「はーい」
さて、今日は少し散歩でもしようか。