13話「光へと行くのです」
「私みたいな人間で本当に良いのですか?」
王子である彼と共に生きる。
それは人生においてかなり大きな決断となるだろう。
たとえ彼が望んでくれているとしても、だ。
王子の妻、その座につくのであれば、それに相応しい女性とならなくてはいけない。そうしなければきっと周囲から反対の声が出たり不快だと思われたりしてしまうだろう。
「そんな風に仰らないでください」
「貴方と隣に立つ自信は……正直ありません、まだ何も心の準備ができていなくって。それに相応しいとも思えず」
あと一歩が踏み出せない私に。
「誰にも何も言わせません」
ローゼットは力強い言葉をかけてきた。
「え……」
「周囲の反応なんかを気にしていらっしゃるのでしょう? ですがそれは不要な心配です。貴女を傷つけるようなこと、誰にも言わせませんから」
「そ、それは難しいのでは」
「それに、たとえ貴女を悪く言う者がいたとしても、絶対にお守りしますから」
彼にそこまで言わせてしまった、そんな罪悪感が湧いてくる。
「……ごめんなさい、身勝手なことばかり」
「いえ」
「あの――」
少し間を空けて。
「はい。……そうお答えしても構わないでしょうか」
ついにそう口にした。
言ってしまった、答えてしまった、私はもう引き返せない――が、面を上げて彼の安堵した表情を目にした瞬間すべての暗雲が晴れた。
「良かったです」
彼が発した短い言葉に、光が射し込むようであった。
◆
「結婚式緊張しますね」
「ええ」
「パレードもあるんですよね!? 式の後」
「そうですね」
私たちは今日正式に結ばれる。
「長くなるでしょうが、頑張りましょう」
「そうですね!」
「なんて言っても、こちらですよね問題は。気を失わないよう気をつけないと……」
「配慮はしてくださるでしょうし大丈夫ですよきっと」
そうそう、そういえば。
王子を襲ったことで拘束されたオフィティだが、あの後永久拷問刑に処されたそうだ。
その刑というのは労働刑よりも上に位置する刑である。
基本的に罪人であっても多少の人権は認めようという方針ではあるのだが、永久拷問刑に処されることとなった者だけは全人権をはく奪されるのが通例となっている。
なので彼もまたそういうことになった。
それゆえオフィティはもう人として扱われることはなくなっていて――毎日朝から晩まで様々な種の拷問を受けることを強制させられているのだそうだ。
彼の未来に光はない。
でもそんなことは私には関係ない、どうでもいい。
「あっ、私そろそろ準備の時間です」
「ラスティナさんの方が準備時間が長いですからね、女性ですから」
「そうなんですー。でも頑張ります!」
「力抜いて力抜いて」
「あっ、はい、そうですね。……変に力まないよう注意します!」
私は私なりの幸せを掴むのだ。
◆終わり◆