12話「目覚めました」
「はっ!」
次に気がついた時、私は自室のベッドの上にいた。
「起きたみたいですね」
少しして声が届く。
聞き慣れた声だ。
「え……ローゼットさん、どうして……」
何があったんだっけ? と脳内を探る。
まだ記憶が怪しい。
「急に倒れられたので驚きましたよ」
「あっそうでした私確かオフィティに……」
「そうですそうです」
思い出した。
私はオフィティに絡まれていたのだ、それで、ローゼットが助けに入ってくれて。
「あの後倒れたのですか!? 私!?」
今になって記憶が戻ってくる。
何があったのか。
なぜこんなことになったのか。
徐々に思い出せてきた。
「そうです」
彼はベッド脇の椅子に腰かけてこちらへ視線を向ける。
その双眸からは優しげな色が滲み出ている。
「だからローゼットさんがここにいらっしゃったのですね」
「前に一度部屋へ入れてくださったことがあったでしょう? ですから部屋は覚えていました」
「凄い……賢い……って、あっ、失礼ですみません」
「いえいえ」
彼はふふふと控えめに笑う。
「可愛らしいですね、何だかとても」
いきなりそんなことを言われて困惑。
「これまたいきなりですね……」
「変でしたか?」
「いえ、そうじゃないですけど……でも、いきなり可愛いなんて仰るなんて、ちょっと不思議で」
「そうですか?」
「はい。だって私、可愛いなんて言っていただけるような女じゃないですよ。何かとパッとしないし、家柄だって……」
するとローゼットはきっぱりと「そうは思いません」と言いきった。
「貴女は素敵な女性ですよ」
真っ直ぐな言葉に苦笑して「またそんなプロポーズみたいなことを」と言えば、彼は「そうですね、そろそろ良いかもしれません」と呟いて、それから。
「よければなのですが」
「……はい?」
少し間を空け、彼は言葉を紡ぐ。
「ラスティナさん、我が妻となってはくださいませんか」
すぐには理解できず。
けれどもこちらをじっと見つめる彼の瞳に偽りや冗談といった色はない。
彼は本気でそう言っているのか? ……多分、そうなのだろう。分かってしまう、彼の瞳を見れば。思い込み? 過剰反応? 乗せられている? そんな感じと思われてしまいそうなものだが、彼の目を見たなら誰もが真剣な話だと理解するだろう。
「……本気、なのですか」
確認すれば。
「はい」
彼は一度だけ頷いた。
「……あの、冗談なら、早めにそうだと言ってください」
「本気です」
「冗談じゃないのですか……? 本当に……?」
どうしても、何度も確認したくなってしまう。
「本当に、妻となっていただきたいと考えているのです。嘘でも何でもありません。いきなりで申し訳ないですけど、しかし、想いだけは確かなものです」
信じていいの?
今になってそんなことを思ってしまう自分が情けない。
彼のことは好きだ。
今は心理的な意味ではもう特別な関係になっていると自覚している。
でも、疑う心を捨てきることも難しい。
彼を疑っているのではない。
その言葉を真っ直ぐに信じられないだけで。
「ローゼットさん……」
意味もなく名を呼んで。
「私、今、まだ信じられない思いでいます」