11話「暴力は罪となります」
「う、うるせえ……うるせえんだよおおおおお!!」
一度は怯えたような顔をしていたオフィティだが急に逆ギレし私との間に入ってくれたローゼットへ襲いかかる。
その拳は今度はローゼットに向いた。
怒り、苛立ち、憎しみ――いくつもの色を混ぜたような黒い感情をまとわせた拳。
「ローゼットさんっ!」
思わず叫ぶ。
が、その拳をローゼットは片手で止めた。
「っ……!」
「危険ではないですか、いきなり殴りかかるなど」
オフィティとローゼットの視線が交差する。
「最低な行為ですよ、暴力は」
静寂の後、ローゼットは拳を掴んでいるのとは逆の手を掲げた。すると少し離れたところに停まっていた乗り物から人が降りてくる。従者か護衛かだろう、恐らくは。
「お呼びですか!」
「この男を拘束してください」
「え」
「殴りかかる者、ラスティナさんを傷つけようとする者、許しません」
「は、はい! 承知しました!」
男性は素早くオフィティを縄で縛った。
慣れた手つきだ。
多分やり慣れているのだろう。
「おっ、おいっ、やめろ! 離せ! 人間を勝手に拘束して許されると思うのか!? おい! 離せ、離せよっ!」
「王子の命です」
「クソが! 身勝手な権力の行使には反対だ!」
「暴れても無駄ですよ。王子に襲いかかったのでしょう? それは罪、許されることではありません」
オフィティは顔に深いしわを刻みつけつつ抵抗する。しかし四肢を拘束されている状態では何もできやしない。暴れることも抵抗することもまともにはできないのだ。頑張っても胴をうねらせるくらいが限界。
やがて、ローゼットがこちらへ目をやってきた。
「もう安心ですよラスティナさん」
「あ……」
「この男は捕らえますので」
「す、すみません……ご迷惑を……」
「いえ。お気になさらず。では予定通りこれからお茶でもしましょうか」
ローゼットは何事もなかったかのように話を進め始める。
どうやら彼はこの出来事にそれほど動じていないようだ。
「あ……あぁ、はい、そうでしたね」
「どうされました?」
「いえ、その……少し、疲れて」
「体調不良ですか?」
「違います、けど……少しでいいので休みたいです」
目の前から敵が消えた途端、とんでもない脱力感に見舞われた。
「――ナさん!?」
意識が遠ざかっていく。
声がするけれど手を伸ばせない。
ああ私はどうしてしまったのだろう――。