10話「どうしましょう」
オフィティは「ガーディアに捨てられたのはお前のせい」と呪文のように繰り返した。その時の彼の眼は私への憎しみで満ちていて。それ以外の可能性は皆無、そう思い込んでいるようであった。
つまり彼は私に恐ろしいほどの憎しみを抱いているのである。
そんな人と二人きりなんて恐ろし過ぎる。
「お前のせいで俺の人生が壊れたんだ」
「それは違います」
「何だと? 俺を否定するのか!」
「そういう話ではないです」
「生意気な! さっきから口ごたえばかりして! 馬鹿にしているんだな!? 俺を! 捨てられてしまった俺を! お前は性格が悪すぎる!!」
彼はどんどん前に出てくる。
私はただ下がるしかなかった。
……大丈夫か、この状況。
「償え、償えよ……お前、俺ともう一度婚約しろ……」
「できません」
「俺はこんな惨めな目に遭って、お前は王子と仲良くして幸せ、そんなの理不尽過ぎる……それも低級女が幸せになんて……そんなことがあっていいわけがない!!」
感情が昂ったオフィティは殴りかかろうとしてくる――が、一秒後にはまずいと思った瞬間。
「何してるんですか!!」
声がした。
信じられない思いでそちらを見る。
するとそこにはお土産袋を手にしたローゼットが立っていた。
「離れなさい!!」
彼は凛とした姿勢で叫ぶ。
これにはさすがのオフィティも少し正気を取り戻したようだった。
「な、何だお前……」
「そちらの女性から離れるのです、今すぐに」
「うっせえ!」
「一旦離れてください」
ローゼットは冷静な面持ちのまま真っ直ぐにこちらへ歩いてきた。
オフィティとの間に入ってくれる。
「無事ですか、ラスティナさん」
「あ……は、はい、もちろんです」
彼の顔を見たら涙が溢れそうだった。
安堵やら何やらがごちゃ混ぜになって。
そうか、私は怖かったのだ――その時になってようやく己の本当の気持ちに気がついた。
「良かった」
「ありがとうございます……」
こんなに嬉しいことって、人生でそう何回もはないと思う。
「ま、まさか、お前」
「恐らく正解ではないでしょうか」
「最近そいつと仲良くしていると噂の……王子!?」
するとローゼットは目の前の男を静かに睨んだ。
「呼び捨ては無礼ですよ」
これにはさすがのオフィティもびくっと身を震わせていた。
「去りなさい、愚かな人」