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6.アクアオーラの体質


 翌日、早速試してみようと裏庭にやってきていた。

 同じ時間でなければ意味がないと日の高い時間に来たのだけれど、ちょっと無理かもしれない。

 建物の影になる場所から日向を見つめていたらそれだけで目が痛くなってきた。

 日陰の緑に視線を移してから目を閉じる。少しの間目を閉じ落ち着いたところで目を開く。


「大丈夫ですか姫様?」


「ええ、大丈夫。

 だけど外に出るのは難しいわね。

 まずは日陰で一節舞ってみましょうか」


 心配そうな女官に楽器を構えるよう伝えて草の上へ足を踏み出す。

 腕輪の起動を確かめてから、女官に目配せをする。


 楽の音と共に地を蹴った。

 肌に感じる風の感触が不思議な心地で。

 女官が奏でる楽さえ響きが違っていた。


 休憩を挟みながら何度か舞を終え、冷やした手巾で汗を拭う。

 結果としては芳しくない。

 太陽の下に出るのは危険過ぎると日陰でのみ練習をしていたにも関わらずアクアオーラの頬は火照り、息が上がっている。

 これ以上続けたら夜には熱が出ることだろうと練習は中断することにした。

 側で見ていた女官が控えめに切り出す。


「あの、やはり早めにアイオルド様に相談した方がよいのでは?」


「そう、ね」


 次にアイオルドがくるのは一週間後。方法が見つかったとしても準備に時間がかかることも考えられる。


「手紙を書くわ」


 アイオルドに手紙を書くなんて久しぶりだ。

 確かこの前はアクアオーラが熱を出して予定の日に会えないと伝えたときだった。

 その時もわざわざお見舞いに来てくれて、移ったら悪いからと短い時間で面会を終わらせたのに窓の外から歌声を聞かせてくれた。

 アイオルドの優しさを思い返すと胸が温かくなる。

 さらさらと要件を認めて女官に手紙を託す。


 返事があったのは翌日早々のことだった。




 朝に訪問の報せがあり、午後すぐにアイオルドは訪れた。

 手紙に日中外で舞の練習をしたと書いたからか、アクアオーラの部屋に来るなり体調の心配をする。


「アクアオーラ、体調に無理はない?」


「大丈夫よ、すぐに止めたから。

 熱も出してないもの」


 よかったと表情を緩めるアイオルド。心配性ねとは言えない。

 それくらいアクアオーラを気遣ってくれているのだと知っているから。


「でも涼風の腕輪を着けていたけれど2曲は続けて舞えなかったの。

 途中から息苦しくなってきてしまって」


 室内と違って外の熱に耐えられなかったのだと思うけど、舞の途中から呼吸が乱れてしまった。


「うーん、涼風の腕輪は普段のアクアオーラの行動に合わせてるからかな。

 本宮に行く必要があったり食事会の日が熱帯夜だったときの使用を想定しているから、走ったり舞ったりっていう運動をするには不足だったみたいだ」


「そう……。

 太陽の下に出るのも無理そうだったし、やっぱり難しいのかしら」


 日差しを和らげるためのベールがあるのだから試してみようと言ったのだけれど、耐えられなくて肌が焼けたらどうするのかと女官に止められてしまった。

 日に焼けて肌が爛れたら祭事までに治らないかもしれない、万が一痕が残ったらどうするのかと言われては試すわけにもいかない。


「いや、そっちはどうにかなると思う」


「本当?」


 すごい。一番の問題は陽の光だと思っていたのに、もう解決策を導いてるなんて。


「前から試しに作っていた物があるんだ。

 ただ、そのままでは使えないから改良しないといけなくて……」


 言うなりアイオルドは黙ってしまう。

 思考の邪魔をしないように静かにお茶や紙の用意をして待つ。

 没頭するアイオルドの瞳が段々キラキラ輝いてくる。


「アクアオーラ、紙と筆記具貸してくれる?!」


「ええ、用意してあるわ」


 テーブルの上に紙を広げると一気に筆を走らせていく。

 何かの形と部品の説明らしきものや魔法陣が次々に描かれていった。

 筆を置き確認に何度か視線を滑らせ、アクアオーラに向き直る。


「何とかなりそうだ!

 帰ったら早速取り掛かるよ!」


「私にできることはある?」


「そうだな……。

 水の魔晶石で冷却効果のある物を20個ほど作ってくれるか?

 品質は上級で」


「今作ってしまった方がいい?」


「いや、また来るからその時で大丈夫だよ」


「わかったわ」


「それに、せっかく一緒にいるのに魔晶石作りに集中してたら寂し……」


 言葉を止めたアイオルドが申し訳なさそうに眉を下げる。


「ごめん、さっき俺もアクアオーラをほったらかしにしてた」


「いいのよ?

 私はそんなアイオルドを見てるのも好きだから」


 もちろんアイオルドと話をしたり一緒に楽を奏でたりするのも好きだけれど、真剣に魔道具のことを考えているアイオルドを見ているのも楽しい。

 難しい顔をしたり目を輝かせたり、くるくる変わる表情を見ているだけで時間が過ぎるのを忘れてしまう。

 もっともアクアオーラといるときにあまり長く思考に没頭していることはないので今日は貴重な機会だった。


 気にしなくていいと微笑むと言葉を詰まらせたアイオルドが無言で肯いた。

 おかしな様子に首を傾げるとアイオルドの耳が赤くなっているのが目に入り、鼓動が落ち着かなくなる。

 目を伏せるとおかしな沈黙が落ちた。


「とにかく、俺に任せておいて。

 アクアオーラが女神様の御前で舞ができる環境は俺が作るから。

 安心して舞の練習をしておいて」


 頼もしい言葉に笑みが浮かぶ。

 アイオルドがこう言ってくれたのなら舞台のことは心配しなくても大丈夫。


 舞の手順の話に移り、久しぶりに舞を見たいと願われる。

 アイオルドが歌ってくれるならと返すと少し渋られたけれど最終的には受け入れてくれた。

 喜びに手を叩くと少しだけ恥ずかしそうな顔をして楽器を手に取る。


 弦が弾かれ、アイオルドの少し低い歌声が二人の部屋に響く。

 手順も何も考えずに手を動かし自由に足を運ぶ。

 楽の音に乗り身体を動かしていると余分な考えが剥ぎ取られ、思考が澄んでいく。

 祭事の舞台で舞が舞える。

 諦めていた願いが叶うことの幸せに胸を高鳴らせながら楽の音が止むまで舞い続けた。





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