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19.区切りの儀式

 


 領主の屋敷に入ると使用人たちが並んで迎えてくれる。

 その奥には茶色の髪にアイオルドとよく似た琥珀色の瞳をした女性が立っていた。


「ようこそ、アクアオーラ様。

 お迎えできたこと喜ばしく思っています」


 問題が起こったときはどうなることかと思ったと笑みを見せる。

 アクアオーラも挨拶を返して笑みを浮かべる。笑った顔がアイオルドと似ていて、軽い緊張は簡単に解けた。


「それにしてもまさか姫様を攫ってくるなんてね驚きました。

 無茶をする子だとは思っていたけれど、大丈夫でしたか? 無理強いはしていませんか?」


「そんな無理強いなんて!

 私の方から連れ出してほしいとお願いしたのです」


 ローデリオを利用してアイオルドに連絡を取ってもらい王宮からの脱走を計画したのだ。

 彼も自分の利益になるから快く引き受けてくれた。


 アイオルドと一緒になる方法はあれしかないと考えた。

 今思えばアクアオーラの発想の方が無茶だったのではないかと思える。


 ちらりとアイオルドを窺うと口元を嬉しそうに緩めて笑った。


「アクアオーラの願いでなくても攫いに行ったけど、望んでくれてうれしかった。

 何があっても何度でも攫いに行くよ」


 アイオルドのセリフに周囲から息を呑む音がした。音の方を見ると使用人たちが口元を押さえて顔を赤らめていて、その様子に多数の使用人がいたことを想い出した。


 お母様の反応が気にかかったけれど、呆れを滲ませながらも微笑ましそうな顔をしていた。








 場所を変えて改めて挨拶をする。

 お父様がいないのは他の町の領主と商談に行っているそうだ。


「帰ってきたら改めて挨拶に来て頂戴。

 そのときはお祝いで夕食を一緒に取りましょう」


 是非、と答えて出されたお茶を飲む。

 次の言葉でお茶が気管に入って咳が止まらなくなった。


「それで、結婚式はいつ上げるの?」


「……っ!」


「アクアオーラ、落ち着いて。

 母さん、俺たちはもう結婚したことになってるんだよ?」


「それはそうとして結婚式も上げればいいじゃない。きっと楽しいわ。

 それに私が言ってるのは披露するための結婚式のことではなくて儀式のことよ」


 けほっと咳をして椅子に座り直す。

 ようやく呼吸が落ち着いた。

 私が喉の痛みを癒すためにお茶を飲み下すのを待ってお母様が口を開く。


「世間的に結婚したと見なされるとはいえあなたたちまだ何もないでしょう?」


 今度はアイオルドが(むせ)た。

 アクアオーラも顔が真っ赤になっているのが自分でわかるほど顔が熱い。


「身も心も結ばれたばかりの夫婦ってもっと雰囲気がふわふわしてるものよ?

 私とスクテルドだって結婚したばかりの頃はそうだったし」


「ちょっと待って聞きたくない」


 両親の夫婦模様にアイオルドが顔を顰める。


「まあ夫婦のあれこれは置いておいても儀式をして区切りをつけるのはいいことよ。

 これで愛する人と夫婦になれたっていう実感が湧くとても幸せなものだもの」


 だからはい、と小瓶がアイオルドに渡される。


「この辺りでは結婚式の夜にお酒に花を浮かべて飲むのがしきたりなのよ。

 ぜひアクアオーラ様もアイオルドとやってみてね」


 お母様の気遣いがうれしくて満面の笑みを浮かべてしまう。

 頬の火照りがまだ取れない顔で隣を見るとアイオルドも顔を赤く染めてアクアオーラを見ている。

 硬直したように言葉の次げない私たちを余所に、お母様は楽しそうに微笑んでいた。




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