いたいよぉ!
※この作品は、拙作『お空が晴れてる!』の続編として書かれていますが、そちらを読まれていないかたも楽しめるように書いています。もちろんそちらをお読みくださったかたも楽しめます(*^_^*)
「うぅ、いたいよぉ……」
まんまるふっくらした、くじらのぬいぐるみが泣きそうな顔をしています。
「どうしたの?」
ぬいぐるみたちのなかでも、一番古株の、アザラシのぬいぐるみがたずねます。
「おれはかじったりしてないからな」
アザラシの次に古株の、シャチのぬいぐるみが怒ったようにいいました。
「まだぼくはなにもいってないじゃないか。それなのにそんなあわてるってことは……」
「いやいや、かじってないってば! おれのキバもふわふわなんだから、かじってもけがしたりしないよ」
アザラシとシャチがケンカしそうになったので、みんながあわてて止めに入ります。
「待って待って、ちょっと待ってよ。ケンカしないで、くじらちゃんがどうしたのか聞かなくっちゃ。……あれ、くじらちゃん、ここ……」
小さなひよこのぬいぐるみが、やっぱり小さなうりぼうのぬいぐるみといっしょに、くじらのしっぽをじっと見ています。みんなもくじらのしっぽに集まってきました。
「……うん、ちょっとちぎれちゃったみたい」
くじらは泣きそうな顔でつぶやきます。まんまるふわふわのくじらですが、しっぽは細くなっているのです。
「ゆいちゃん、わたしのこと抱っこしてブンブンするから、しっぽもブンブンして、それで『イタッ』て思ったら、こうなってたの」
くじらの言葉に、みんなも顔を見あわせました。
「……ママ、どうするかなぁ」
アザラシがさびしそうにつぶやきました。シャチがしっぽでアザラシをバシッとたたきます。
「いたた、なにすんだよ!」
「よけいなこというなよ!」
シャチがじろっとアザラシをにらみます。アザラシはハッとして、それから小さくうなずきました。
――ママ、コップが割れたりしたら、すぐ捨てるから、もしかしてくじらちゃんも――
アザラシはそれ以上なにもいえませんでした。
「まったく、ゆいったら、いつもきれいにしてなさいよっていってるのに……」
ゆいちゃんのお部屋を掃除しに、ママが入ってきました。そして目を丸くしてしまいます。
「……ゆいったら、なにやってたのかしら?」
ゆいちゃんのベッドに、ぬいぐるみたちがいっぱい積み重なっていたのです。ママは首をかしげました。
「よし、みんないいぞ、このままくじらちゃんを隠して、ママをやり過ごすんだ」
一番上に乗っているかえるのぬいぐるみが、小声でみんなをはげまします。一番下から、くじらのよわよわしい声が聞こえてきます。
「でも、ちょっと重いよぉ……」
「がまんしろ、ママに捨て……、じゃない、ママに見つかりたくないだろ」
シャチが怒ったようにいいました。みんなもじっと身をちぢめて、ママにくじらが見つからないように祈ります。ですが……。
「もしかして、なにか隠してるんじゃないかしら? そういえばゆい、このあいだの算数のテストを、まだ見せてなかったわよね」
ママが目を三角にして、ずんずんぬいぐるみたちのところへ近づいてきたのです。かえるがひぃぃっと悲鳴をあげて、おともだちのキノコのぬいぐるみをぎゅうっと抱きしめます。
「さては、ここに隠してるのね! まったくもう、帰ってきたらおしおきね!」
「あっ、ダメーッ!」
ぬいぐるみたちのさけびもむなしく、ママはひょいひょいっとぬいぐるみたちをどけていきます。そして――
「ただいまー!」
「こら、ゆい、ちょっとこっちに来なさい!」
帰ってくるなり、ママのどなり声が聞こえてきたので、ゆいはひゃあっと飛びあがってしまいました。ママがこしに手を当てて、目をつりあげてにらんでいます。
「えっ、わたし、なんにもしてないよ!」
「いいからほら、こっちに来なさい!」
こうなってしまっては、もうどうにもなりません。ゆいはぶるぶるふるえながら、ママのあとについていきました。
「まったくもう、ゆい、あんたちゃんとぬいぐるみちゃんたちを大事にしてるの?」
「……えっ?」
ゆいは目をまばたかせて、それからママを見あげました。ふーっと小さく息をはいて、ママはちょっとだけやさしい顔になりました。
「ほら、このくじらちゃんのぬいぐるみ、しっぽのところがちぎれちゃってるでしょう?」
「あ、ホントだ……」
ゆいの顔が、少し泣きそうになりました。ママはぽんぽんっと軽く頭をたたいて、それから笑いました。
「ちゃんと大事にしてあげないと、くじらちゃん泣いてたわよ」
「ママ……。くじらちゃん、ごめんなさい」
ゆいがぎゅうっと、くじらのぬいぐるみを抱きしめました。ゆいの温かさが伝わってきて、くじらはうれしそうに胸に顔をうずめます。
「さ、それじゃあママがお裁縫のしかたを教えてあげるから、いっしょにくじらちゃんを直してあげましょうね」
「うん、ありがとうママ」
ゆいが太陽のように笑いました。
「ありがとうゆいちゃん! チクチクしたけど、もう痛くないよ!」
くじらがはずんだ声でゆいにいいます。もちろんその声は聞こえませんが、ゆいもなんだかうれしそうです。
「ほら、これで次からはゆいがくじらちゃんを直せるわね。でも、もうあんまり乱暴しちゃだめよ」
「はーい」
ママに注意されて、ゆいはぺろっと舌を出しました。そのままくじらをかかえて、お部屋へ帰ろうとするゆいに、ママが……。
「あ、そうそう、ゆい。算数のテスト、返ってきてるわよね?」
顔を真っ青にして、ゆいはブルブルふるえるのでした。
お読みくださいましてありがとうございます(^^♪
こちらの『ゆいちゃんのぬいぐるみ』シリーズは、9/19、9/26にも投稿予定です。そちらもどうぞお楽しみに(^^ゞ
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