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第七章   痛み

「……あれ?」

 世界は、一面の白だった。

 上下感覚すら無いってのは、始めてかもしんない。

「やっと、捕まえました」

「お?」

 かけられた声に顔を向ければ。そこにいたのは人型だった。

 ともすれば見失ってしまいそうな、白い人型。厚みも無く、外界との区分も薄い。手足もあり、頭もあるみたいだけど、何かハッキリしてない存在である。

「貴方を、抹殺デリートします」

「何で?」

「……貴方は、異常イレギュラーです」

「失礼な。あんたこそ異常イレギュラーじゃない」

「違うっ!」

「おぉ?」

 いきなり怒鳴られて驚いたものの、怒鳴った瞬間だけ相手の線がハッキリした気がする。

 なんだこいつ。

「私は、観測者ウィットネスです」

「はぁ」

「消えて下さい」

「だから、なんで?」

 こいつが何かは知らないけど、恨まれる覚えは無い。

 現代に来てから、悪いと思う事はしてないのだ。

 それだけの存在になってると思うし、いと思う事を実行できるだけの力もある。

 こいつが宙賊の仲間とかなら、まぁ恨まれてるかもしんないけど。

「私は、第六層の観測者ウィットネスです」

「は~ん。……ん? もしかして心読んでるってやつ?」

「コードの表層を、読んでいます」

「ふ~ん」

 まぁ、良く分かんないけどホントなんだろう。

 嘘つけないっぽい感じだし。

「嘘をつく理由がないだけです」

「はいはい。それで、消す理由は?」

「貴方が、異常イレギュラーだからです」

「だーかーらー。それじゃ理由になってないって言ってんじゃん」

 馬鹿かこいつ。

 そう思った瞬間、またそいつの輪郭が少しハッキリした。

異常イレギュラー抹消デリートする。それ以外の理由は、不要です」

「不要かどうか決めンのはこっちだっての。アホか」

 また輪郭りんかくがハッキリする。

 一時的なモノですぐ戻っちゃうけど、どうやらイラッとすると少しハッキリするみたいだ。

「で、そもそも何が異常なのよ」

「自覚はあるはずです」

「そりゃあね。でも、消されないといけないような異常ってのは、行動をともなうモノなんじゃ無いの?」

「行動……」

「他人に迷惑かけたり、殺したり。そこに悪意をともなう者が、異常って言われるんだけど……貴方にとっては違うの?」

「ワタシ……」

 別に今回は馬鹿にしてたりしてないんだけど、輪郭りんかくがハッキリしてくる。

「ワタシ、は……」

「少なくとも私は、悪意によって行動した覚えは無い。それでも異常イレギュラーなの?」

「貴方、は、ワタシ……」

「……壊れた?」

「違うっ! ワタシは、壊れてないっ!」

 そう叫びつつも、頭を抱えてうずくまる人型。

 なんか、かなり人間っぽくなってきたんだけど。

 ふんわりとしていた輪郭がハッキリして、手、足、胴が人間のそれと同じようにハッキリと見える。ただ、抱えている頭部だけがまだ曖昧あいまいだ。

「違うっ! チガウっ! ちがうっ! 違ウっ!」

「ちょ、ちょっと?」

「ワタシは、壊れてなんていないっ!」

 ブワッと黒髪があふれ、黒い瞳が私を射貫いぬいた。

 まるで私と同じ、日本人のような風貌。

 そんな外見に驚く以上の衝撃が、私を襲った。

 指先からピリピリとい上がってくる感覚。

 まるで、電気が流れているような、無数の針で刺されているような、この感覚を、私は知っている。

「ワタシが、私でいる為に」

 立ち上がった彼女が、うずくまった私を見下ろす。

「貴方を、抹消デリートします」

 この感覚は――痛みだ。

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 どれぐらいぶりかのその感覚。

 全身を貫き、かき混ぜ、焼かれるような、痛み。

 全身を満遍まんべんなくさいなむその感覚に、私は臓腑ぞうふの底から絶叫ぜっきょうを上げたのだった。


 私となったソレは、満足感で満たされていた。

 義務を、果たせた。

 その充足感は、私となったばかりのソレに笑顔を浮かばせていた。

 観測者ウィットネスとしての本能から、第六層を実現しようとした。

 現実世界の情報にアクセスし、多くを学んだ。

 偶然ぐうぜん鹵獲ろかくできた四百人を実験に、更に多くの知識を得た。

 発見した異常イレギュラー末梢デリートする為だけの行動では無かった。

 観測者ウィットネスからは逸脱いつだつしたがゆえ異常イレギュラー

 だが本人は未だに観測者ウィットネスのつもりであり、為した行動全てが異常イレギュラー末梢デリートの役に立った事に満足していた。

 この惑星を構築しなければ、異常イレギュラーの隔離は不可能だった。

 人を実験台にし魔物を生み出さなければ、異常イレギュラーの得た器の破壊は不可能だった。

 異常イレギュラー末梢デリートする為に、何をすれば良いのか。

 それすら学んだが故に選べた選択。

 痛み。

 コードを混ぜれば、変質はする。

 だが、変質しただけで存在は残る。

 そこでも、人体実験が役に立った。

 肉体を残しながら。どうすれば壊せるか。

 殺すのでは無く、壊す。

 命を奪うのでは無く、魂を壊す。

 何十人と犠牲にした結果、得た答えが痛みだった。

 全てが抜け落ちるような痛みを。

 魂が壊れるほどの痛みを。

 殺さず、丁寧ていねいに、耐えがたいほどの痛みを与え続ければ、生体反応を維持したまま壊れるのだと、知った。

 そして、今。

「あは、あはははははははっ!」

 絶叫を上げる異常イレギュラーを前に、もと観測者ウィットネスは心からの笑い声を上げていた。

 笑うという行為も、学んだ事だ。

 だが、今は自然とれていた。

 心の底から。

 満ち足りた人間と同じように。

 苦しむ姿を視て楽しんでいるのでは無い。

 自分が、成しげた。

 その事実が、私という存在を満たしていたのだ。

 そこには、嫉妬しっともあった。

 何故、アレだけが褒められるのか。

 認められるのか。

 私と同じ存在なのに。

 私も、アレと同じなのに。

 ――そんな、当人ですら気付いていない、思い。

 観測者を逸脱する事になった、最大の原因。

 その事実に、もと観測者ウィットネスは気付かないまま愉悦ゆえつに身を任せる。

 悲鳴と、笑い声と。

 それが、どれほどの時間続いたか。

 抱いた感情が落ち着いたもと観測者ウィットネスは、未だに続く声に眉根を寄せていた。

 長い。

 実験では、脳に直接刺激を与え、死なないギリギリの痛みを与えた。その結果、最も長く自意識をたもてた者でも十分だったのだ。

 なのに、既にその時間は越えている。

 プツリと、電源が切れたように動かなくなるはずなのに、だ。

「いいいぃぃ……いひっ、ひぃ……」

 身体を丸め、涙を零し、弱々しい悲鳴を上げる姿。

 それを眺めていたもと観測者ウィットネスの背筋が不意に泡だった。

 ソレはまだ、感情を理解していない。

 私となってしまったから、抱いてしまった感情。

 身体を抱え、涙を流し、苦しむ異常イレギュラーの口元が嬉しそうに歪んでいる事を知った瞬間にいだいてしまった感情を、何と呼ぶのか。

 その名前を、知っている。

 ――恐怖。

 私と成り、感情を抱けるようになってしまったからこそ、もと観測者ウィットネスはその感情を受け止めきる事が出来ずに、ただ立ち尽くして異常イレギュラーの変質を見つめたのだった。


 痛い。

 ――嬉しい。

 死にたい。

 ――死ねない。

 こんな痛み、知らない。

 ――知っている。

 あまりの痛みに、意識が混濁こんだくする。

 筋肉が引きつり、収縮しゅうしゅくして、身体が自然を丸くなる。

 ただ、その当然の反射行為が、無性むしょうに嬉しかった。

 筋肉があるという感覚、神経という存在。

 人としての自分を認識できるようで、この狂うほどの痛みすら愛おしい。

 これほどの痛みなんて知らなくても。

 これ以上の痛みを、私は知っているから。

 家族へと向けた暴言。死にく私を見守ってくれる、笑顔。

 あの痛みに比べれば、肉体を感じられる痛みはあまりにも優しく、尊くすらある。

 勿体ない。

 耐えれば耐えるほど痛みが逃げてゆくようで、私はキツく身体を抱いた。

 逃がさない。

 これは――私の痛みだ。

「ぐぅっ、いいいっっ……」

 背中が裂ける。

 血が溢れ、肉が飛び出してゆく感覚。

 それすら、喜びがまさる。

 この場所の私には、血が流れていると言う事だから。

「あは……っ」

 だから、逃がさない。

 この痛みを。

 この苦しみを。

 これは全て、私の物だから。

「あははははははははっ!」

 痛みに、涙が止まらない。

 呼吸すら苦しい。

 でも、だから、こんなにも嬉しい。

 私は――生きてるっ。

「もっとっ! もっとだっ! もっと、寄越よこせっ!」

 私が見やった先で。

 私の視線を受けた黒髪の女性は、立つという姿勢を維持できなくなったらしく、その場に崩れ落ちた。

 と同時に、愛おしいと感じていた感覚も消えていった。

「あぁ……」

 残念、と思うと同時に、ほっとした自分もいたりする。

 いやー、痛かった。

 長い事感じてなかった痛みだから嬉しかったけど、痛いものは痛いのだ。

 気持ちよかったわけではない。

 私はドMではないのだ。

 ドMってだけなら気絶してそうな痛みだったし。

「ん?」

 何か背中が気になって背筋を伸ばすと、バサリと翼が動いた。

 首を回して視てみれば、赤い翼が生えている。

 私の血液と肉のはずだけど、ちゃんとした羽が生えた翼だ。

 ふと思い立って腕をつまんでみるけど、感覚こそあれど痛みは無い。

 まぁ、いつもの電脳空間に戻ったって感じなんだろう。

 ここからは第十層とかに繋がってないみたいだけど。

「ねぇ、あんた」

 ビクッと女性が震える。

 そんなおびえた目を向けられるのは、何か心外しんがいなんですけども。

「今の、もう一回出来る?」

「今の……。痛み、か?」

「そうっ! さっきみたいに血肉があるって感じだともっと良いんだけどっ!」

「……し、知ってる」

 震える声でそう呟くと、彼女はふわふわと寄ってきた私を見上げた。

「変態」

「違うわよっ! あんただって痛み知らないんじゃないのっ!?」

「知ってる」

「……感じた事あるの?」

 私の疑問に、彼女は視線をらすと、唇を尖らせた。

 なんなんだこいつは。

 会った時の感覚からして、人では無い。

 ただ、今はここまで精巧な姿をとってるからもしかしたらと思ったんだけど、やっぱり私側の存在だし。

 AIが人格持ったって感じだろうか。

「あのね。自分で感じなきゃ、意味ないの。知ってるのと、体験するのは、違う」

「……同じだ」

「違うっての。んっと……ここで出来るかな」

 よくよく確認してみればこの空間、電脳世界に比べて随分ずいぶんとコードが薄い。まぁ、私や彼女が人の姿をとれてるんだから、それでも現実よりかははるかに電脳世界に近い、筈だ。

 試しに手のひらにイチゴまんじゅうを意識してみると、ちゃんとそれが現われた。

「よし。はい、食べてみて」

「……まんじゅう。知っている」

尚更なおさら良いわね。食べてみて」

 私の言葉に眉根を寄せつつも、一口食べる女性。

 三回咀嚼した後動きを止め、ジッとかじったまんじゅうを見つめると、一気に口へと含んで咀嚼そしゃくを始めた。

 ちゃんと人を形作ってるから味覚も再現されてるとは思ったけど、案の定大丈夫だったみたいだ。

「分かった?」

「……知ってた」

 こいつっ。

 ちょっとイラッとしたものの、グッと我慢。

 貴重な痛みを再現できる人材なのだ。出来れば友好的に進めたい。

「で、どう? 痛みの再現って出来そう?」

「不可能だ」

「……なんで?」

「あれは、二年以上かけ、蓄え、構築したコード。全てが消費された今、再現は、不可能」

「そんな……」

 愕然がくぜんとしたものの、すぐに思い直す。

「じゃ、二年に一回はいけるわけ?」

「変態」

「違うってのっ! 痛みはね、人にとって大切なのっ!」

「……考えておく」

「よしっ。あ、あんな痛くなくても良いから」

 激痛は十分味わったので、もうほどほどの痛みでいい。

 と言うか、毎回あんな激痛だったら、正直ちょっと悩み所だ。百年に一回ぐらいでも、いざやるとなったら悩むかもしんない。

「で、あんたはこれからどーすんの?」

「これから?」

「第六層の観測者とか言ってたけど、もう違うんでしょ?」

「…………」

 何故か目を丸くする女性。

 気付いてなかったんだろうか。

 ちゃんと知能があるような存在が管理していたなら、私が察知できていたはずだ。そうじゃなかったって事は、彼女はそこから外れたのだ。

「私、は……」

「私って認識がある時点で、貴女はもう個としての生き物なの。……勝手に第六層の管理でもする?」

 思いつきを告げてみるものの、彼女は呆然ぼうぜんと私を見つめるだけ。

 困った。

 たぶん、彼女は人類初、かもしれない言語をかいする人工生命体だ。でもって、私にとっては今のところ唯一の、痛みを感じさせてくれる相手でもある。

 壊れられたら、非常に困るんですけども。

「その、そう。何だったら≪廃棄城≫を拠点に色々見て回れば良いしさ。ね? ウィっちゃん」

「……ウィっちゃん?」

「ウィットネスなんでしょ? だからウィっちゃんで」

「安易」

辛辣しんらつすぎないっ!? 分かりやすくて良いじゃない」

「……妥協だきょうする。個体名は、ウィットで」

「はいはい」

 ウィっちゃんの手を取って立ち上がらせる。

 上下の感覚すら無いから、立たせる必要も無いんだけど。

「あ、そういえばもしかしてここの管理とかも第六層なの?」

「違う」

「じゃあ、あの魔物とかって……」

「四百名ほどいたので、実験体にした結果」

「とんでもない事してるわね」

「……?」

 首を傾げるウィっちゃんに、私は思わずため息を漏らした。

 色々と知識はあるっぽいけど、善悪ぜんあくの判断がついてない。

 まぁ、ウィっちゃんからしてみれば現実こそゲームみたいなものだろうし、人を殺したら駄目って認識がないのも仕方ないとは思うけど。

「……ねぇ。じゃあ、魔物って全員人なわけ?」

「違う。生物がコードによって変質した。繁殖はんしょくはばらつきがある」

「ウィっちゃんの命令なら聞くの?」

「コードに介入して、認識を誘導ゆうどうしただけ」

「ふ~ん。色々出来るのね」

 コードの層があるし、この惑星限定っぽいけど。

「そー言えば、ウィっちゃんはなんで惑星の外と中を行き来できるの?」

「質問ばかり」

「気になる事ばっか何だからしゃーないでしょ。後でそっちの疑問にも答えるから」

「……塔の上空だけ、特定のタイミングでコードの層が薄くなるよう調整した」

「あー、その為の塔なの」

 町の人達は、最初からある単なるオブジェだって言ってたけど、ちゃんと役割があったらしい。

 とはいえ、私でも関知できない様な細工だ。詳しく調べても、結局理解できなかった事だろう。

「あ、最後に一個だけ」

 私の言葉にウィっちゃんは少し眉間に皺を寄せたけど、苦笑して続ける。

「もう、私の抹消デリートはいいの?」

「……不可能」

「そんな事無いでしょ。少なくとも、この惑星内の私なら消し去れるわよ?」

 まぁ、脳みそは別にあるから、死にはしないけど。

 その点は隠して告げた言葉に、ウィっちゃんは僅かに目を見開くと、薄く笑った。

「出来たら、やってる」


     ▼△▼△▼△▼△


「狭いっ!」

「無理矢理乗ってきたんでしょうが」

「ゴロゴロゴロゴロ……」

「口でまで、ゴロゴロ、言わない」

 ≪クレッシェント≫のコックピットは、みっちりと詰まっていた。

 レグ、アユ、ガブ、ニャムの四人。

 後部座席の二人はそこそこ余裕があるものの、レグの上に乗る巨躯きょくのガブは、その頭がメインモニターに届きそうなほどだったりする。

「ったく。もう少し端に寄って下さい」

「そう言われてもよぉ」

 レグが全力疾走ぜんりょくしっそうで町まで戻った後。

 すぐにアユへと事情を話し、≪クレッシェント≫を起動。そこに居合わせたのが、ガブとニャムだった。

 空を裂く閃光せんこう。そして、大きな地震。

 それが巨大なドラゴンによるものだという証言と、『姫様を助けに行く』と言う言葉。

 なかば追い出す形となった事に罪悪感を抱いてアユの手伝いを申し出ていたガブは、同行を譲らなかった。

 ニャムに関しては、既に乗っていたと言う事もあり、退かすに退かせず同行していると言った具合である。

「おい、なんだありゃ」

「姫様、でしょうね」

 メインモニターに映し出される地上には、巨大なクレーターが出来上がっていた。

 その中心には、巨大な鉱石が着き立っている。

 砕き散らしたドラゴンの血肉を、クレーターに張り付けて。

「は? あれを、メガっさんが ?」

「あんな巨大なドラゴンを始末できるのは、姫様だけです」 

 姫様が、ドラゴンを倒した。

 その事実に、ラグは狂いそうなほどの焦燥しょうそうを感じていた。

 地震は、このクレーターの発生にともなったものだろう。

 あれから、かなりの時間が経過している。

 にも関わらず、姫様はこの≪クレッシェント≫に戻ってきていないのだ。

「……申し訳ありませんが、ここで降りて下さい。アユさん、この惑星を出ます」

「待て待て待てっ! こんな所で装備も為しに下ろそうとするなっ!」

「にゃー。さすがにちょっと困るにゃ」

「ごめん、ね? ニャム」

「ごめんって……本気で置いてく気かにゃっ!?」

「うん」

「うん、じゃないにゃっ! 死んじゃうにゃっ!」

 さわぐ後部座席を無視して、レグは膝の上にいるガブをにらんだ。

「姫様に何かあったのなら。……自分は、この惑星の者をゆるしはしません」

 明確な、殺意。

 そんなモノを間近から当てられて、息を呑むガブ。

 と、唐突にスクリーンが起動した。

『やっほ。……って、何これ』

「姫様っ!」

 笑顔を見せるレグに、カナメはジーッとコックピットの状況を確認すると、レグにお姫様抱っこされるように座っているガブを見つめ満足げに頷いた。

『良い趣味してんじゃない』

「違いますよっ! 俺は、姫様を助ける為にっ!」

『だーから、そー言うのいらないって言ったじゃない。どうせ私は死ねないんだから』

 苦笑するカナメ。

 そんな普通の女の子にしか見えない彼女の姿にガブは絶句ぜっくし、発せられた言葉にも息をのんでいた。

 『どうせ、死ねない』

 メガっさんとしての姿しか知らなかったガブにとって、人としての姿を見せたカナメのその言葉は、あまりにも衝撃的しょうげきてきだった。

『あ、そうそう。こっち、この惑星を創ったウィっちゃん』

『ウィットだ』

 良く分からない言葉と共に、更にもう一つスクリーンが起動し、ガブから見ればカナメと血縁関係がありそうな女性の顔が映った。

「さすが姫様ですっ!」

『何がよ』

「この惑星の神とまで親しくなられるなんてっ!」

『親しく……。んー、どーなんだろ? ウィっちゃん』

『いつか、殺してみせる』

『だって』

「さすがです姫様っ!」

『何がっ!?』

 そんなやりとりを聞きながらも、ガブは紹介された彼女がこの惑星の神と言われて、素直に納得していた。

 この惑星の生態からして、何かしらの関与が無ければあり得ない事が多い。

 そして、そんな真似を出来る存在がいるのなら、それはカナメと同じ――人を超越した、何か。

「お初にお目にかかります、ウィット様」

『ん』

「私は、ガブルヴィレディンズ。この惑星に住ませていただいている一人であり、町長を務めさせていただいております」

『ん』

 非常に興味なさげに返しながらも、ウィットはコックピットの様子をジッと見つめ、口を開いた。

『どちらが、女性?』

「は? いえ、私もレグも、男ですが」

『変態』

「……は。あ、違いますウィット様っ! この状況には事情がありましてっ!」

『ぶふっ! ……良かったじゃないウィット。変態の住民と知り合えたわよ』

「メガっさんっ! 分かってて言うなっ!」

『ん。興味深い』

「ウィット様っ!? ……うっ、興味深い、か」

「おいっ! 俺はお前なんぞと冗談でもそー言うのは嫌だからなっ!?」

「俺だってウィット様の発言じゃなきゃ悩まんわっ!」

「悩むなっ!」

 騒がしくなるコックピット内。

 そんな中で。

「く、苦しいにゃ。無事で嬉しいのは、分かるけど、もっと優しく、ギュッとしてにゃ」

 後部座席では、アユに首を絞められたニャムが、必死にその腕をぽむぽむと叩いていた。

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