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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死湖

死湖と魔紅

作者: 紫 芋屋

 

 グチャグチャと破壊され血と肉の混じりあう音、甲高い悲鳴や怒号が飛び交う、何が起こったのか正しく理解出来る者はここには居ない。


 それは大空から降ってきた。


 なにか大きな物が空を覆い暗く陰る。

 次の瞬間、奇怪な音が鳴り響き、ぼたぼたと空から何かが落ちてくる。





 その数日前から何か良くない事が起こる気がしていた。

 朝起きた時、なんとなく今日だとわかった。

 急いで鳥矢(とや)を山魔に向かわせ逃がした。

 里の者に逃げろと言う時間もなければ義理もない。

 親から泣きつかれしぶしぶ刀鍛冶の家を継いだが、若い時分に里を捨てたのだ。

 外で破邪師をしていたわしは、里からは余所者として冷たくされていた。

 鳥矢(とや)は赤子の時に家の前に置き去りにされていた。

 わしなら子を捨ててもよいのかと、誰かもわからぬ捨てていった者に、当時は腹が煮えくりかえったが今では感謝している。


 あれは天才だ。

 わしの全ての破邪の知識を授けた。

 後はあれの運次第か。

 まあ、悪運は強そうだ、大丈夫だろう。


 さて、わしは最後の破邪師としての仕事をするか。

 本来は二刀の夫婦刃の術だが、わしと里の者の命でなんとかなるじゃろ。


 空から化け物が落ちてくる、うねうねと空で卵を撒き散らしている魔千虫。

 里の人間を食い散らかしたら別の里へ移動するのだろう。

 この里へやって来たように。

 どうせこの里はもう助からない、ならばここで狩るのみよ。


 家の外に出ると、魔紅刃を空にかかげる。

 こんな日もくるかなと、今よりも若い時分に埋めた補助の破邪陣を発動させた。


 空で生まれた魔千虫の卵は落ちてくる間に孵化して人の腕程の魔虫になり人や家畜の肉を食いちぎる。

 落ちてきた魔千虫の妖虫は最初は踏みつけ殺せるが、数が尋常ではなく多い、肉をたらふく食らい少し大きくなると別の妖虫と絡み合いどんどんでかくなる。


 左足も右目も右肩も咬まれ喰われている。


 激痛で意識が戻る、これで最後の破邪文を唱え終わった。


 鳥矢(とや)…こんな世界は辛いだけかもしれねぇなあ。





 里の人間や家畜から命を吸い魔紅刃に集められた破邪の焔は老人の体から放たれ真っ直ぐに天に昇った。

 巨大な魔千虫は燃えて絶叫を響かせ里に墜ちてきた。

 まさに隕石か火の玉、卵や妖虫も次々と発火し里は業火に包まれた。



 ◇◇◇◇



 俺を引き取ってくれたじい様の家は代々刀鍛冶。

 東方の刀と言えば、魔を切る業物として広く知られている。


鳥矢(とや)よ、山魔から鉄岩持ってこい」

「じい様、昨日の鉄岩じゃだめなのか?」

「あれは駄目だ」

「まぁいいけどよ、昨日のはかなり質がいいぞ?」

「蒼鉄岩じゃねえ、金鉄岩持ってこい」

「はぁ?!金鉄岩ぁ!」

「早くしろ」

「ちぇ、わかったよ」

鳥矢(とや)、これ持ってけ」

「ん?魔黒刃じゃんかこれ」

「いいか、見つかるまで戻ってくるなよ」

「へえへえ、行ってくるぜ」



 山魔に入り目ぼしい鉱脈を探っても有るのは朱や蒼、そもそも金は採れる時季が違う。

 山魔に入って半日たった頃、里の方から物凄い地響きと禍々しい死の匂いがした。


「まさか!?」


 魔黒刃は冥刀だ、全てを冥府へ切り返す。

 転げるように里へ戻る。


 じい様、じい様、じい様!捨て子の俺の育て親。

 どうか神様、俺を間に合わせてくれ!




 里はあちこちで火の手があがり、煤で真っ黒だった。

 目の前が真っ暗になる、酷い匂いが立ち込める、焼け落ちた家々そして道には炭化した人や動物の死骸と得体の知れない炭の塊が転がっている。


 なんだこれ、なんだこれ、何なんだこれはよう!


 自分家へ向かう。

 まるで空から火の粉が降ったような有り様なじゃねえか。

 鍛冶屋は里の西にある。

 転げるように走っても辺り一面焼け野原。


 遠くに見える家の前、誰かが立っていた。


 じい様!助かったのか!


 走って近寄り違和感に気がつく。

 

 じい様は破邪刀の1つ、魔紅刃を抜き天に向けて炭化している、魔黒と夫婦刃の魔紅は傷1つなく、この色が塗り潰された世界で魔紅だけがキラキラと輝いている。

 じい様の横にデカイ化け物の死骸が転がっていた。


 若い頃は名の知れた破邪師だったと聞く。

 俺に破邪の技を叩き込み、最後の獲物を討ち取ったじい様、俺はその足元で泣き崩れた。


 

  

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