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∽連環∽ - catenation -  作者: 之 貫紀
第1章 ハティ
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脱出

 何かがぽよんぽよんと額の上で跳ねていた。


「ん……んん?」


(ポコのやつだな、まったく。もう朝なのかな……)


「じゃないよ!」


 上半身をがばっと起こそうとしたら、急なめまいを感じて起き上がり損ねた。


「あっ……」


(一体何が……)


「そうだ! カード!!」


 気絶する直前のことを思い出したアルダは、エレンがどうなったのか知りたくて、ホルダーを開いた。

エレンは何事もなかったようにそこにいた。カードの絵が笑っているのは最初からだったろうか。どうにもはっきりとは思い出せなかった。


「実体化できなかったのか?」


 不思議に思ったアルダだったが、もう一度試してみる気にはならなかった。

ふらついたアルダは、自分のお腹がものすごく減っていて、喉もカラカラになっていることに気がついた。


「な、なんだこれ?」


 めまいを堪えながらバックパックを実体化すると、一食分だけそこに分けておいた水と保存食を取り出した。

むさぼるようにしてそれを食べおえ、一息ついたところで、ポコにも少しお裾分けしようと――


「あれ?」


 そこには、なんというか、見る角度によって透ける色が違って見えるけれど、全体としてみると銀色に見える奇妙な色合いのスライムがぽよぽよしていた。


「え、ポコなのか?」


 ポコはもともと透明感のある淡い水色だったはずなのに……と思いながらそう聞くと、はっきりと肯定するようなイメージが伝わってきた。

どこからともなく『そうだよー』という声が聞こえてきたような気すらした。


 従魔師は、従魔との間で意思の疎通が可能になる。とは言え、せいぜいが、お腹が減ったなどの感情が何となく分かる程度のはずだった。

それが、もっとしっかりとした意志や輪郭を持って伝わってくるような、そんな気がした。


 ポコに何かの変化があったのが原因なのか、腕輪のせいでなにかが変わったのが原因なのか、理由は分からなかったが、ともあれポコと仲良くなれるなら大歓迎だ。


 アルダは落ちていた短剣と松明を拾い上げると、今度こそ何もせずにとにかく帰ろうと、ポコを頭の上に載せて、その部屋を出た。


 ∽━…‥・‥…━∽


 謁見の間(アルダ命名)を出て、松明が燃え尽きそうになったころ、崩れた土が散らばった見覚えのある場所へと戻って来た。アルダが落ちてきた場所だ。

見上げると、遥か上空に小さな穴が見えた。とは言え、あそこへは空でも飛べない限りとてもたどり着けそうになかった。


 アルダは落ちてきた穴から脱出することをあきらめ、松明を取り換えると、謁見の間とは逆の方向へと歩き始めた。


 どのくらい歩いただろうか、松明の長さが半分くらいになった頃、道の先から水が落ちるような音が聞こえ、出口らしきおぼろげな光が見えてきた。


「ポコ、外だ!」


 通路を出てみれば、そこは滝の裏にできた浅い洞窟の、天上にほど近い位置にある目立たない岩棚の上だった。下までは5ミールといったところだろう。


「これは、誰かが入ってきたとしても気がつかないな」


 感心したようにそう呟くと、岩棚から慎重に下りて、濡れないように注意しながら滝の裏の隙間から抜けだすと、滝壺のほとりへと降り立った。


「やっと出られた!」


 そう言って、のびを一つしたアルダは、しゃがみこんで冷たい水を手ですくって飲んだ。冷たい刺激が喉を滑り落ちていくと、まるで生き返ったような気分になった。

 彼は、バックパックから取り出した水筒にその水を詰めると、顔を上げて下流を眺めた。


 この辺りに流れている川は、エルド川だけだ。だからここはその上流か、そうでなくても支流のひとつだろう。

川沿いに下っていけば、いずれはソーナスに戻れるはずだ。


「ただ、川沿いってのは、他の生き物たちと出会う確率が高いからなぁ」


 見通しが立ったことを喜ぶべきか、その道程の危険度を(うれ)えるべきか、いずれにしても運を信じて進むしかないことは、アルダにもよくわかっていた。


「魔物と出会いませんように!」


 アルダは、冒険者とは思えないくらい情けない神頼みをして、帰路への一歩を踏み出した。


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