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∽連環∽ - catenation -  作者: 之 貫紀
第1章 ハティ
6/36

腕輪

 何かがぽよんぽよんと額の上で跳ねていた。


「ん……んん?」


(ポコのやつだな、まったく。もう朝なのかな……)


 何だかいつも泊まっているクラスの宿よりも、ベッドが固く冷たい気がした。砂の牙と泊まった、朝露の恵み亭のベッドは柔らかかったから、あれに慣れちゃったのかな、とアルダは寝ぼけた頭で考えた。


「じゃないよ!」


 何があったのかを思い出したアルダが、上半身をがばっと起こしたところで、額の上にいたポコが、ぽーんと飛んでいった。


「そうだ! 左手!!」


 異常を感じていた左手を確認してみたところ、特に異常は……あった。


「なんだ、これ?」


アルダの左腕には、見たことのない腕輪が嵌っていたのだ。


「外れないぞ?! まさか、呪いのアイテム!?」


 だが、呪いのアイテムにしては、特に体の異常を感じるわけでもないし、今のところ問題なのは、ただ外せないということだけだった。

とはいえ呪いのアイテムは多岐にわたる。中には幸運を下げたり、男子が生まれなくなると言った、すぐには効果が分からないものも多いのだ。


 少しの間、それを弄りまわしていたアルダは、結局腕輪を調べることを諦めた。たとえ呪われていたとしても、この場ではどうしようもないし、まさか腕を切り落とすわけにもいかないだろう。

効果にしたって、いずれ分かるだろうと立ち上がって、辺りを見回した。すると、さっきまでそこにあったはずの骸骨がなくなっていた。


「え……やっぱりアンデッドか何かだったの? だけど頭がもげても平気だったしなぁ……」


 頭が取れても大丈夫なアンデッドと言うとデュラハンが有名だが、骸骨だって話は聞いたことがない。

 

 頭をさすりながら、もう一度玉座への階段を上ってみると、骸骨が身につけていた服もアイテムも内容がわからない本も、全てが消えていたが、よく見ると、残された椅子やサイドテーブルの上に、砂のようなものが積もっていた。

それはまるで、何もかもが朽ち果てて、すべてが塵に帰ったようでもあった。


「まいったな。何が何だかさっぱりだ……」


 辺りをぐるっと見回してみても、入ってきたドア以外に出て行く場所は見あたらない。

アルダはため息を吐きながら玉座を下りると、今度こそ帰ろうと、ポコを頭に乗せて、荷物を拾い上げようとした。

その時――


「は?」


 思わず間抜けな声が出た。

今、拾い上げようとして掴んだ荷物が、手の中から消えていた。まるでそこにあったこと自体が夢だったように。


「ええ? なんだそれ?? ていうか、荷物はどこへ――」


 そう考えた瞬間、目の前に何かが展開された。


「え?」


 それは、1冊の本――カードホルダーだった。


「な、なんだこれ?」


 12個のホルダーのうち2カ所には、カードのようなものが入っていて、残りは空だった。

そのうち1枚のカードには、いつまでも眺めていたくなるような、とても美しい女性の絵が描かれていた。そうして、もう1枚のカードには――


「これって僕のバックパックじゃ……」


 そこにはいつも使っているバックパックの絵が描かれていた。そうして絵の下には、次のような説明があった。


 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽

  名称 バックパック

  分類 アイテム

  状態 41/100

 存在値 1 (1)

  解説 いろいろなものが入った背負い袋。ちょっと痛んでいる。

 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽


 まさか荷物がカードになってしまう呪い?! アルダは思わず左手首の腕輪を見た。


「困ったな。ここを出たら松明だって必要なのに……これ、なんとか元に戻す方法はないのかな?」


 そう呟いた瞬間、目の前のカードが光の粒子に還元されて――


「え?!」


 手の中に元のバックパックが現れた。


「ええーーー?!」


 ∽━…‥・‥…━∽


 アルダはその腕輪にホルダーと名前を付けた。まさにそういう機能を持った魔道具のようだったからだ。

自分の持ち物を何度か出したり入れたりして調べてみたところ、次のことが分かった。


1.対象に触れながら、カード化したいと考えるとカード化される。

2.カードになると、説明が表示される。

3.ホルダーを展開して、カードに触れながら元に戻したいと念じると元に戻る。

  思考でショートカットも可。

4.入れものにまとめておくと1枚のカードになるが、バラバラでは別々のカードになる。

5.違う種類のカードは同じポケットに入れられない。

6.ポケットが一杯だとカード化できない。

7.ホルダーの機能は、状況に応じて表紙裏に表示される。


 機能の説明が表示されるだけに、もっと詳しく調べれば、更に色々なことが分かりそうだったが、いつまでもここで時間を潰しているわけには行かなかった。

なにしろここは、ハティがうろついている遺跡山で、アルダひとりでは、グレイウルフどころかフォレストウルフですら、その餌になりかねないのだ。

独力で、なんとか戦えそうなのは、せいぜいがゴブリンの1匹程度といった有様だ。


 バックパックから短剣を取り出して身につけて、松明をひとつ手に取ると、後はカード化して身軽になった。


「さあポコ。今度こそ帰ろう! っと、その前に」


 アルダはホルダーを展開すると、ずっと気になっていたカードをそっと撫でた。

そこに描かれているのは、気品と優しさを兼ね備えた、誰もが想う理想の女性。そのイデアとでも言うべき姿だった。


「すごく綺麗な人だけど……」


 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽

  名称 エレン(アルタエルダ)

  分類 従魔 lv.482

  状態 100/100

 存在値 -- (--)

  解説 ********

 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽


 カードに書かれた分類は、確かに従魔になっていた。ただしレベルは、なんと482!だ。


 従魔師の常識では、彼女を従魔にするためには、職業レベルが482を越えている必要がある。

もしもさっきの骸骨の人が契約者だとしたら、()の人の職業レベルは482を越えていたはずだ。しかしこの世界の職業レベルの上限は99なのだ。482なんてあり得ない。


「超越者ってやつなのかなぁ……」


 それはすでに、おとぎ話の世界。

小さな頃からポコと一緒に育ったアルダは、従魔師が主役のおとぎ話が大好きだった。


「ご主人様が亡くなったのなら、やっぱり解放してあげなくちゃね」


 従魔師が亡くなると、その従魔は解放されて、自由になれる。アルダはカードを見つめながら、エレンが元に戻るように念じた。


「え?!」


 その瞬間、体内の魔力が、無理矢理腕輪に吸い上げられる感覚に襲われると、視界が急激に狭まって闇に閉ざされていった。


 ちゃんと説明を呼んでいなかったアルダは気がつかなかったが、実体化には対象の存在値に応じた魔力(MP)が必要になるのだ。

MPはレベル(職業(ジョブ)レベルに対して、ステータスレベルと呼ばれるレベル。主に経験の過多を意味数する値)に応じて育つステータスの一種で、レベルが2しかないアルダの保有量は、言うまでもなく大して多くはなかった。

そして全てが使われる――アルダは、本日二度目の暗転を経験し、そのまま意識を失った。


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[良い点] 新作に感謝! [一言] もっと!もっと気絶を!!! (^o^)
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