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∽連環∽ - catenation -  作者: 之 貫紀
第1章 ハティ
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謁見の間

「あー、すみません。お邪魔します」


 骸骨に向かってお辞儀をする姿は、見ている人がいれば滑稽に見えただろう。しかし、もしかしたら、相手はリッチなどの高位アンデッドかも知れないのだ、油断はできなかった。

もっとも、そういう魔物に出会った場合、挨拶をしても殺されそうな気もするが。


 従魔師の魔物センサーには何にも引っかからなかったが、アルダは自分のスキルを信用していなかった。なにしろ職業レベルは1なのだ。


 骸骨は特に反応しなかった。


「返事がない。ただの屍のようだ」


 骸骨は特に反応しなかった。


「ホントに? 不意打ちで脅かすのなんてなしですよ?」


 骸骨は特に反応しなかった。


 どうやら本当にただの骸骨らしいと、アルダがほっと息を()いた。

それでも、おそるおそる階段を上って近づいたとき、突然骸骨の頭がこちらを向いた!


「うわっ! やっぱり!!」


 慌てて遠ざかろうとすると、骸骨の眼窩からおぞましい何かが――


「って、ポコ、なにやってんの……」


 骸骨の眼窩からでろーんと現れたポコは、してやったりとばかりにぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。その振動で骸骨の頭がもげて膝の上へと転がり落ちた。なんて悪趣味な……


「結局、本当にただの骸骨だったのか……」


 もげた頭を、なんとか元の位置に戻しおえると、アルダは「ご遺体を傷つけてご免なさい」と声に出して謝った。


「でもこの人は一体誰なんだろう?」


 着ている服は立派だし、この部屋だって、元は凄く立派だったように思えた。

なにしろ今でも動作する、あんなに凄い灯りの魔道具が使われている部屋なのだ。


 ふと手元を見ると、左手をおいたサイドテーブルに、本のようなものが置かれていた。何かの手記だろうか、表面には何か文字のようなものが書かれていたが――


「……読めない」


 ――それは見たこともない複雑な文字だった。凄く古い文字なのかもしれない。


 手に取ろうとすると、簡単に崩れてページすらめくれそうになかったので、そのままバックパックの中の板に、消した松明の消し炭で、その表面の文字を写し取った。

もしかしたら何か重要な発見で、報奨金が貰えるかも知れない。そう考えるのは、冒険者の性だった。


 その後しばらく調べてみたが、この部屋には壁にある灯りの魔道具や、階段に敷かれている敷物の残骸を別にすれば、骸骨が身につけているもの以外、他には何もなさそうだった。


「ちょっと惜しい気もするけど、この人の体からものを奪うなんて抵抗があるし、もれなく呪いとかがセットで付いてきそうな気もするし……だから何も持ち出したりしませんよ?」


 アルダは骸骨に向かってそう言うと、そろそろ帰ろうとポコを探した。ポコは袖の内側を通って、今はサイドテーブルに置かれた左腕の袖口から顔を出していた。


「ほら、ポコ帰るよ」


 そういって、ポコに手を伸ばした時、突然、指先にぱちんと静電気のような刺激を感じた。

驚いて手を引っ込めると、骸骨の左手首から霊気のようなものが立ち上がり、まるで何かを確かめるようにアルダのまわりに漂い始めた。


「うわっ、ちょっ、何?!!」


 普通の人間の肉眼でも捉えられるほど、濃い霧のようになったそれは、自身が生命を持つようにアルダに絡まっていった。


 それが絡まる左腕が熱く燃えるようだった。まるで体中の魔力が左腕に集まっていくような、そこから全てが吸い出されていくような、そんな感覚――

なんだよ、やっぱり罠だったんじゃないか! と、(いきどお)ったところでなすすべもなく、アルダは、なんとか骸骨から離れようと数歩後ずさった。


 そうしてさらに次の1歩を引いたとき、彼の足の下には何もなかった。


「げっ!?」


 そう、ここは王の御座(みくら)。誰よりも高みに御座(おわ)す方のための場所。そはいと高きところにありき。

 

 階段から足を踏み外したアルダは、なすすべもなく転落し、したたかに後頭部を打ち付けた。そうして、目から出た星が、闇夜に溶けて消えていった。


 Eru órava (o)messë.(*1)


*1) Eru órava (o)messë.

古の言葉で、「神よ憐れみたまへ」


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