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∽連環∽ - catenation -  作者: 之 貫紀
第1章 ハティ
4/36

地下

「い、いてて……」


 突然空中に放り出されたアルダは、あちこちをぶつけながら、地下へと滑り落ちて行った。

 見上げれば、ハティが開けた穴が遠くに小さく見えていた。ハティはそこに鼻面を突っ込んでしばらくフガフガしていたが、さすがにあきらめたのか、何処かへ行ってしまったようだった。


 どうやら、ハティの巨体が突っ込んできたことで床の一部が崩れて、地下室のような場所に落ちたらしい。頭上の穴の遠さを考えると、結構な深さにある場所だ。

 腕や足をおそるおそる動かしてみたが、あちこち打ち身はあったものの、幸い骨が折れたりはしていないようだった。打ち身と擦り傷で体中がずきずきと痛んではいたが、まだ生きている証拠だと我慢した。


「しかし、まさか囮の肉盾にされるなんて、思っても見なかったな」


 あの手際の良さなら、いままでも似たようなことをやっていたはずだ。砂の牙の生還率と損耗率が共に高いわけがよく分かった。

アルダは、あまりのことに、ふうと大きくため息をついたが、なんとか気持ちを切り替えた。


「どうやら、ハティに食べられる危機は脱したみたいだけど……ここはどこだろう?」


 上に開いた小さな穴から射し込む光は、余りにも心許なく、周囲の大部分は闇に包まれていたが、幸い自分の荷物は一緒に落ちてきたようで、ポコが見つけて持ってきてくれた。


「ありがとう、ポコ」


 バックパックの中を調べてみると、用意しておいた何本かの松明や、いくつかの道具類は概ね無事なようだった。

残念ながら、サイドポケットに入れてあった皮の袋は、どこかに飛んで行ってしまったようで、お金はなくしてしまったが、命がなくなるよりはましかと、諦めた。

水や食料を始めとする、生きて行くのに必要なものは、ほとんどポコの中にあるはずだし、こういう時は頼りになる相棒だ。


 アルダは、すでに頭の上の定位置によじ登っているポコをポンポンと叩いてねぎらった。


「数日くらいならなんとかなるかな」


 アルダは不安にならないよう、そう声に出して呟くと、松明を取り出して、それに火をともした。


 松明の光に闇が後退していくと、どうやらここは前後に伸びる通路であることが分かった。これはもはや地下室と言うよりも、地下遺跡の一部と言った方がよさそうだ。

どちらに行けば出口があるのかは分からないが、とりあえずどちらかへ進んでみるしかないだろう。


 アルダはゆっくりと立ち上がると、足の状態を確認しながら歩き始めた。


 ∽━…‥・‥…━∽


 通路の両側には、時折、何に使われていたのか分からない部屋のような空間があったが、ざっと見まわしただけでは、特に何も見つからなかった。

そして、通路自体は、途中で分かれるわけでもなく、ずっと一本道のようだった。


「一体、いつ頃のものなんだろう……」


 今年はエルニル歴268年だ。

 ソーナスは、ファーイントレット領が成立した後、もともとは遺跡山の調査や監視を行うために作られた集落が元になって大きくなった街だ。

諸侯が集まってエルニル連邦が作られたとき、すでに遺跡山もソーナスもあったわけだから、少なくとも268年よりも前のものだということだけは確かだった。


「凄く古いってことだけは間違いないな」


 それから一体どのくらい歩いただろう。手に持った松明が、そろそろ燃え尽きそうになったころ、揺らめく影の向こうに、道の終わりが見えてきた。


「扉?」


 行き止まりだと思った場所には、立派な装飾が施された扉があった。

扉の向こう側を伺ってみたが、もちろん何の気配も感じられなかった。少し扉を調べてみたが、扉自体に危険はなさそうだ。


「ま、案外、この先が外なのかも知れないしね」


 アルダは、その扉をゆっくりと押した。

 扉自体はさび付いていたが、どうやら鍵は掛かっていなかったらしく、力を込めると、嫌な音を立てながら少しずつ隙間が広がっていった。


 隙間の大きさが、ギリギリ通り抜けられる程度の幅になると、そっと松明を差し入れて部屋の中を覗き込んだ。何か危険なものが目に入れば、すぐに扉を閉めて逃げ出すつもりだった。

上にだって居るはずのないハティが居たのだ、ここにだって何かが居ても不思議はない。


 だが、松明の光が届く範囲には何もなかった。


「随分広い部屋みたいだね?」


 頭の上でポコがそれに同意するように体を揺らすと、ぴょんと飛び降りて部屋の中に入っていった。


「あ、ポコ、一人で行くなよ!」


 慌ててポコを追いかけ扉の内側にはいると――


「なんだ?!」


 突然扉側から順番に、灯りの魔道具が点灯していく。


「うげっ、これってダンジョンのボス部屋的な?!」


 慌てて振り返っても、扉がいきなり閉まったりはしていなかったので、いつでも外に飛び出せる位置取りで、見える範囲が広がっていく部屋を見ていた。


 その広い部屋はまるで謁見の間のようだった。いや、そのものだったのかもしれない。

全てが見渡せるようになると、その部屋には、ほとんどなにもなかった。ただ、部屋の奥に、少し高くなっている場所があって、そこには大きな椅子と――


「な、なんだ、あれ?」


 ――元は豪奢だったと思える服を着た骸骨が、そこに座っていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 日間ハイファンランキング35位、どこまで伸びますかね~ dジェネのほうも面白いので、こっちも安心して読めそうです。 やっぱポコの名前って、スライムの鳴き声?からですかね? リアルでスライ…
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