援軍
(カウン:多数の冒険者が森に侵入)
ご飯を食べておえて、進もうか泊まろうか考えていたとき、カウンから連絡が来た。
(へ?)
(カウン:推定120)
(120?! 近いの?)
(カウン:発見は後方のチーム。そちらまで2時間)
(わかった。見つからないように気をつけて)
(カウン:了解)
「どうした?」
突然様子の変わったアルダに、心配するようにクレアが問いかけた。
「いえ、なんか、冒険者の人が、大勢近づいて来ているらしいです」
「なに? 討伐依頼は取り下げられたはずだろう?」
「そうなんですけど……この人数だと、ソーナスのDランク以上の冒険者はほとんど来てるみたいですよ」
「依頼もなしでか?」
クレアは戦力を売る職業のうち、軍と関わり合いの深い傭兵のことは知っていても、冒険者のことはよく知らなかったので、同じようなものだと思っていた。
しかし、これが傭兵なら、どんな理由があろうとも、決して報酬なしで行動したりはしない。自分達の命がかかっているのだから当然だ。
冒険者も命がかかっているところは同じはずだが、と首をひねった。
「冒険者って、みんなちょっとひねくれたところがあるんですよ。あと恥ずかしいから誰も言わないけれど、多かれ少なかれ『正義の味方』に憧れてる人も多いんです。もしかしたらクレア様が一人で出たと聞いて、みんながふざけるなと奮起したのかも」
「それはまた、暑苦しい連中だな」
クレアはそう言って笑ったが、まんざらでもなさそうだった。
「しかし、共闘するわけにはいかんだろう」
アルダ達のプランに、派手な戦闘エフェクトはあっても実際の戦闘はない。近くで見ている者がいるのはまずかった。
「もちろんです。距離は2時間ほど後方だそうですから、これから17番の方へ出て、丁度、彼らがこの辺りに来る頃を見計らって、派手に仕掛けましょう」
クレアはアルダの言葉に頷くと、すぐに準備を整えた。
アルダは周辺の制圧と、弱い魔物の追い立てをレッドキャップに依頼して、全チームのフォレストウルフを、野営地の少し奧に集めておいた。
他の森チームは、こちらに合わせてうまくやってくれるだろう。
そうして、2時間後、アルダとクレアは、野営地から1カミルと少し離れた場所にいた。
「この向こう側って、人はいませんよね?」
目の前には果てしなく広がる、暗く深い森があった。
「ああ、遺跡山から先は本格的に暗黒の森だ。まさに、モル・タウレと呼ぶにふさわしい場所だから、人は誰もいない。もしいたとしても、すでに魔物の腹の中だろう」
「それを聞いて安心しました」
そう言って、アルダは、パンデモニウムルプスを実体化した。
一瞬だけ、強大な存在感が膨れ上がる。
「おおっ!?」
クレアはちょこんと座った大柄で毛並みの良い『破壊と混沌の使者』を見ると、思わず声を上げた。
怖がられたかな、と思ったアルダは、大丈夫だと言おうとしたが、クレアは目をきらきらさせて、思わぬ事を言い出した。
「これ、なでても大丈夫かな?」
「は?」
「やはりだめか?」
「い、いえ、大丈夫ですけど……」
そう聞いたクレアは抱きつきかねない勢いで近寄ると、現状を忘れたように、頭をなでたり、顎の下を掻いたりした。クレアは犬派だったのだ。
パンデモニウムルプスは、まるで殉教者のような顔をして、クレアにその身を委ねていた。
「おおー」
「クレア様、犬がお好きなんですか?」
「うん。子供の頃は大型犬が欲しくてな。いろいろ事情があって、あきらめたのだが……やはり可愛いな! こいつはとても頭が良さそうだし。寡聞にして知らないのだが、これはなんという魔物だ?」
第4位階の魔物の名前など言っていいものかどうか迷ったが、今更かと思い直した。
「パンデモニウムルプスといいます」
「聞いたことがないな。どこか遠くの魔物なのか?」
「まあ、遠いと言えば遠いですね」
悪魔の集う館は、たぶん近くにはないよな、とアルダは思った。
「おー、パルプスは可愛いなあ」
クレアは頬をこすりつけて喜んでいる。
「パルプス?」
「おお、すまん。名前はなんというのだ?」
「い、いえ、まだ名前はありませんが……」
「そうか! じゃあ、お前はこれからパルプスだ!」
クレアのネーミングセンスも少し……いや、かなり残念だったが、当の本人は、名前が付けられたことが嬉しかったのか、アルダの方に『いい? それでいい?』と訴えかけるような目を向けていた。
「まあ、いいですけど」
「わふっ!」
パルプスは名付け親のクレアの顔を嬉しそうに舐めた。
(カウン:冒険者 野営地に到着)
とうとう冒険者集団は、野営地付近までやってきたようだ。
アルダは、クレアと戯れているパルプスに向かって、詳しい段取りを説明した。
「まずは、中くらいの雷を落として。それからいくつか単体の雷を落とした後、合図をしたら広範囲殲滅魔法。いける?」
「がうっ」
「じゃ、始めよう」
アルダがそういうと、赤く色づき始めた雲が切れ切れと浮かぶ快晴の空に、突然黒い雲が沸き起こった。
続いて、一条の雷が大きな音を立てて空間を引き裂き、ドラマの幕開けを告げた。




