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鮮血のララバイ  作者: むちち丸
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落ちこぼれのエイダン

○小さな光エイダン


天は二物を与えずとよく言うがそんなことは決して「ない」。生涯の内にその天に与えられたかもしれぬたった一つの才能に気付けなく棺桶の中に眠る者も勿論だがいるし、逆に自身の才能を幼少期の内から開花させて思うままに扱えて有名なスポーツ選手や学者に成る様な者…即ち世間にて「天才」と呼ばれるような者もいる。


「なんで僕だけが・・・」

世の中は地上に多くの魔物を残し地下へと人間や文明は移ることとなった。何故魔物が地上に現れたかは、発展途上国が異常な程に汚染物質を流した事によっての奇形動物はネットやニュースなどのメディアで度々目にするだろうがそれの延長線と考えれば分かりやすい。奇形な動物になっても尚汚染物質を流した末が動物の魔物化であったのだ。勿論だが一朝一夕ではそんなことには成らないが地球や生物には長年人間が流してきた石炭を扱ってきた時代からの排気ガスや工場から排出される汚染物質、原子力発電所からでた汚染物質の廃棄など環境に負担となる事が蓄積して「魔物」と言う形で人間へ「自然」が復讐しに来たのだとその当時地上にて魔物を目にした人々はそう口にした。

しかしながら人間は愚かなる生き物故にその様な恐怖も自然の忠告も聞き入れようとなどする筈もなく如何(いか)に自然の怒りである魔物を討とうかとありとあらゆる手を駆使して取り組んだ。そして人間が辿り着いたのは「魔法」が使える「新たなる人間」であった。

しかも魔法が使える人間の遺伝子は優性遺伝であったために早く浸透していき200年程経つと産まれる赤子の殆どが魔法を使えるようになっていたのだった。

だがしかし、そんな魔法中心の世の中に「たった一人」魔法が使えない少年がいた。

少年は血が滲み出る程強く拳を握り締め、声を震わせながら一言だけ呟いた。

「なんで僕だけが・・・魔法が使えないんだ・・・」

その魔法が使えない唯一の少年の名を、この世の小さな光・・・「エイダン」と呼ぶ。


○少年エイダン


 地下の国『ダーツ』の都市『インターブル』にある一つの大きな小学校から物語は動き出す。そう、たった一人の教師の可笑しな発言が無かったら物語の歯車は動かなかっただろう。

学校の校庭で教師クロドは体操座りをする生徒を見下ろしてシャキリとした大きな声が響いた。

「今日は演習を行う!」

このクロドと言う教師は生徒に対しての態度や発言等の対応のせいにて生徒間での評判がとても悪く職員の間でも、ささくれの様な厄介者として煙たがられている。

「今日の演習はズバリ『魔法』だ、魔法は今どんな職業に就いても重宝されるものだから今回の授業は『対戦形式』でお前たちの『魔法』を鍛える…以上だ、早速取り掛かれ!」

その様に言われると生徒は各自で好きな者同士でバディー(ペア)をつくり広がり互いの魔法を見せつけるように出し合っていた。そんな楽しいムードの中、体操座りのまま誰にも誘われずにちょこんと無言で俯いている者が『二人』いた。

無論「魔法の使えない」僕ともう一人は「魔法の天才」であるオーウェンであった。僕が誘ってもらえないのは勿論魔法の使えない様な奴に自分の物を当ててしまったら怪我を負わしてしまうと分かっているからで、僕と真逆な存在である筈のオーウェンが誘われないのは自分の物との差が大きすぎるからだ。例えば自分が新しく発売された車を納車した事を同じような経済環境などの境遇またそれよりも少し下の境遇の人に話したり自慢したりするのは分かるが、滅茶苦茶経済環境が自分よりも上でプレミアがついて一生値が下がらずに上がり続けるような車を保持している様な人には自からそう言う話も自慢もしたくはないようなものでクラスメイトと僕、クラスメイトとオーウェン、勿論僕とオーウェンとは格が違っていた。

するとそんな風に座っている僕等を見てクロドは皆を集合させて僕やオーウェンにとって地獄の様な一言を放つ

「注目、今からエイダンとオーウェンが対戦形式でやるそうだ確りと見るように!」

「え…でも先生僕魔法が使えないの知ってるじゃないですか!?」

「そうだよ先生、俺とエイじゃ相手にもなりやしないぜ!?」

「なんだ、お前等この俺に文句でも有るのか?」

「いえ…そういう訳では…」

「それじゃあ早くしろ!」

ここでクロドが言った教師としても人間としても有り得ない発言が無ければ数年後の俺は無かっただろうが、それは少し先の話だ。

そのようにして無理やりクロドに対戦することとなった僕等は向き合っていた。

「お前等…分かってるとは思うがこれは対戦形式と言っても演習だ、本気でやらないとお前等の内申点は無いと思え!!」

「エイ…アイツもああ言ってるし内申が無くなるのはキツイ、本気で行かしてもらうよ」

「じゃあ僕は勝つ以前の問題で生き残るために必死で足搔くとするよ」

そう互いに言うと開始のゴングは響いた。


ゴングと共に歓声や罵声が響く中、先に攻撃をしたのはエイダンであった。攻撃方法は単純でただ走ってからそのままの勢いに任せて殴り目くらましの為に地面の砂を掌いっぱいに持ち、オーウェンの顔面に思いっきり投げつけたのだった。

「エイ…やっぱりお前やるじゃないの」

オーウェンはやられたにも関わらず嬉しそうに笑った。

しかしそんな弱き者が強き者を直ぐに倒す酔うように世の中出来ている筈もなく、上手く直ぐに試合は終わる事となる。

それはエイダンの渾身のストレートが先程の攻撃に続いて繰り出そうとした時にオーウェンはカウンターとして魔法を撃ったのだった。

「風の陣 破衝」(空気の塊を一気に放つ風系の魔法)

オーウェンはその様に口にすると鈍い音を立てながらエイダンが宙を舞ったのだった。


…僕は負けたのか、そりゃそうだよな…魔法が使えもしない奴が天才なんかに勝てる筈もないんだ…だけど…やっぱ悔しいや…僕だって皆みたいに…いや僕はそれ以上になりたかったんだ…


オーウェンとの対戦に負け、大の字になりつつその様に考えていると涙が溢れ出た。いくら頑張っても雀の涙程の可能性もない、つまり同年代とは肩を並べることは最初から無理だとましてそれらに勝とうなど天地が引っ繰り返ろうともあり得ない話だったのだ。

「でも僕は決して諦めるものか…」

エイダンはその様に言うとオーウェンに礼を言ってから帰路へ着いた。

エイダンとオーウェンは幼い頃からの友達同士で互いに助け合ったりしていて仲が良かった。互いの事なら何でも知っていて今回でも本気でやらなくては相手に失礼だからこそ手を一切抜かずにやり合ったのだ。そして互いの事をちゃんと知らない奴つまりクラスメイト等はエイダンとやるときには絶対に手加減をする故にエイダンはオーウェンに「今回もちゃんと本気でやってくれてありがとう」という意味で礼を言って帰路へ着いたのだった。


オーウェンが手加減をしないで戦ってくれたと言えど「負けた」事実は変わらない。周りから見れば当然の結果かもしれないがエイダンの頭は狩り時の稲の穂の様に垂れ下がっていた。

「諦めないとは言ってもどうやって強くなれば良いんだ…」

気が付くともう家の玄関前に立っていた。いくら俯いて茫然と歩いていても無意識のうちに家まで歩いていたんだろう。言わば体が勝手に動いていたという奴だ。

「なんだ、もう帰ってたのか」

茫然と玄関の前で立ち尽くすエイダンの背後から包み込むような優しい声がした。

「父ちゃん…」

「その顔だと何か悪い事でもあったんだね、ここだと何だし家に入ろうか」

そう言われるがまま家に入りエイダンは学校の用具等の片付け、そしてエイダンの父はスーツや仕事のものの片付けを済ましてからリビングにて先程の件について話そうとした。

「さて、何があったか話してみてごらん」

「父ちゃんは僕が魔法を皆と違って使えないの知ってるでしょ?」

「うん」

「別に今迄努力しなかった訳じゃないんだ、必死になって魔法が使えるように魔法陣を描いたり魔導書を復唱だって沢山したんだ」

「うん」

「それでも今日オーウェンに負けたんだ、完敗だったんだ」

「それでエイはどうしたいんだい?」

今迄相づちだけを打っていた父がそう聞くと弱音が次々と溢れ出た。

「もっと強くなりたい…でも何をやったって魔法が使えないじゃないか…魔法が使えなかったら勝つどころか同じ土俵にすら立てない」

「じゃあ辞めちまえ」

「え?」

唐突な父の厳しい意見にエイダンは驚き固まった

「自分を信じれない様な奴に努力をする価値などない、魔法が使えないと分かったのなら他を当たれば良い話だ。そしたら今よりも僅かでもオーウェンとの差は縮まるはずだよ」


エイダンはその父の言葉を聞くと椅子から立ち上がり明後日の方角を向きつつ拳を強く握った

「落ちこぼれでも天才に勝ってやる、父ちゃん…ありがとう父ちゃんが安心して笑ってみてられるくらいの強い男になってみせるよ」

「じゃあエイ、お前に良いものをあげよう」

そう決意を露わにした息子に対して父はウィンクをしながらそう言ったのだった。


…とてつもなく大きく細かい魔法陣を描きつつ

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