05 ボロ船の巻き
ふぅ……ようやく海に出た話になったな。
ここから、俺がボロ船に乗って、日本海沖を漂流している話になるぞ。
当然の事を言うと、俺の購入した船は、ボロ船ではない。
八千万もしたクルーザーだ。
買う時も、現金一括払いだ。
いくら広告収入で金持ちになったと言っても、そんな大金を払う時には心臓が飛び出しそうだったがな。
ポツンと一軒家より、遥かに高い買い物だ。
販売店のお兄さんも、俺が札束をドンッと置いたら、ビックリしていたしな。
そうして出港の際には、どこで知り得たのかわからない人々に見送られて、出発したんだ。
出港した港は島根。
せめて、見送りのファンを減らそうと思って選んだ。
ここから、岸から離れずに北上して、北海道を回って九州まで行く計画だ。
夜は危険があるから港に停泊し、そこで毎日動画を投稿する予定と、ファンには説明していたのだが……
急遽、逆回りにしてやった。
だって、港に先回りされるだろ?
喧騒から離れ、のんびりする事が、俺の目的だったからな。
ひとまず次の港ぐらいは、迎えのファンは来ないだろう。
そうして俺は、プカプカと沖に向かったんだ。
何も急ぐ事はない。
何も無い場所まで行ってもいい。
港に停泊できなくても、岸の近くに錨を下ろせばいい。
「俺は自由だ~~~!!」
そう。俺は自由を満喫するために、沖に向かって船を走らせたんだ。
これが悪かった……
お昼を食べたら、何も無い景色に安心して眠ってしまったんだ。
起きた時には、もう真っ暗。
船を走らせるには危険な視界だ。
かと言って、眠るわけにもいかない。
漁船と衝突する可能性もあるし、クジラとも衝突しかねない。
レーダーを見ていないと、沈没してしまう。
ただ、真っ暗闇で、レーダーを見続ける作業は一人では辛い。
本来ならば、乗組員が二人は必要なんだからな。
もちろん俺も、頑張ってレーダーと格闘していたよ。
死の危険があるんだからな。
しかし、コーヒーを飲んだところで、激しい眠気がやって来た。
なんとか耐えようとしたが、自由の空気に触れたせいか、どんどん瞼が重くなり、仕方なく、15分だけ仮眠を取る事にしたんだ。
たった15分だ。
目覚ましもセットした。
エンジンも止めた。
これぐらいなら、大丈夫だろう。
そう思って目を閉じたんだが、目覚ましよりも先に目を覚ます事となった。
何が起きたと思う?
船とぶつかった? 違う。
クジラとぶつかった? 違う。
暗礁に乗り上げた? 違う。
エンジンが爆発して、その音に驚いて飛び起きたんだ。
エンジンは止めていたんだぞ?
それが爆発して、火を吹いたんだぞ?
俺も想定の範囲外だ。
焦って消火しようとしたけど、火の勢いが強くて消火器は役に立たず。
急いで荷物を掻き集めて救命ボートに乗ろうとしたが、火が回ってしまって乗り込めず。
俺は海に飛び込むしかなかった。
そこからは、八千万のクルーザーが沈没していく姿を、涙ながらに見ていたよ。
絶対、CIAか、KGBが、爆弾を仕掛けていたと思う。
だって、新船だぞ?
だって、エンジンを止めたんだぞ?
だって、15分も経っていないんだぞ?
だって、爆発したんだぞ?
俺の不備は無い。
不備があるとすれば、船を売った奴だ。
もしくは、秘密工作員に何かをされたんだ。
そんなありもしない事を考えていたら、クルーザーは完全に沈没して、俺は海に取り残されてしまったんだ。
そうして、俺はこのまま死ぬんだな~……と、考えていた時に、ボロボロの木造船とぶつかりそうになったんだ。
これぞ渡りに船ってヤツだ。
これが、俺がボロ船に乗っている理由ってヤツだ。
「はぁ……」
ため息も出るってもんだ。