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01 忍者誕生の巻き


 ザザ~……ザザ~……


 日本海沖合に浮かぶ木造船で揺られる半荘(はんちゃん)は、遠い目をして自分の世界に閉じこもっていた。



 オッス。俺は忍チューバー服部半荘こと田中半荘。

 二十歳だ。

 現在、俺は日本海沖合で、ボロ船に乗って漂流している。


 え? 忍チューバーってなに?

 そんな所で何をしているか?


 そうだな~。どこから話そうか……

 やはり……産まれたところからかな?


 そこから!? ……て、普通は思うよな。


 でも、俺の生まれた家は、ちょっと特種なんだよ。

 忍チューバーって響きから、理由はわかるだろ?


 そうなんだよ。

 俺は産まれた瞬間から、忍者になるべくして訓練を受けていたんだ。


 まぁ赤ちゃんの頃の記憶は無いんだけどな。

 運動もできないのにどんな訓練をしていたかと言うと、毒草を肌に貼り付けられたり、少量の毒を食べさせたと、父親が言っていたよ。


 ビックリだろ? どんな児童虐待やねん!


 と、なんとか生き延びた俺は、物心が付いた時には山の中にあるポツンと一軒家で、父親と二人っきりで暮らしていたんだ。


 そこで木をジャンプして飛び越えていたよ。

 聞いた話だと、10センチ程の木から始めたらしいけど、その時には1メートルぐらいになっていたかな?

 俺の身長より大きかったよ。


 さっき飛び越えたと言っていたけど、子供が飛べる高さじゃない?


 普通はな。なんてたって、俺は忍者だ。


 ベリーロール、背面飛びを駆使して飛び越えたんだ。

 そのせいで、生傷が絶えなかったから、父親もクッションを用意してくれたよ。


 あとはフンドシを地面に着けないように走る訓練もしていたな。

 都会に住んでいれば楽だったんだろうけど、山の中に住んでいたから、地面が整備されていなくてよくこけていたよ。

 ただ、あまり長いフンドシが無かったから、途中から10メートルぐらいの紐に変わっていたけどな。



 それから14歳頃まで、起きている間は過酷な訓練が続いていたんだ。

 その頃には、だいたいの忍術は使えていたよ。


 壁も走れるし、水の上も走れるんだぜ?

 火だって吐けるし、火薬の調合もお手の物だから、煙り玉も自分で作れる。

 大凧の術だけは、父親の協力が必要なんだけどな。


 でも、もう父親には会う気はないから、大凧の術は封印だな……


 父親と会いたくない理由?


 反抗期とかじゃないんだな~。

 これでも14歳までは、そこそこ良好な関係だったんだけど、そこで事件が起きたんだ。


 ある日、児童相談所の人が来てな。

 俺が一度も学校に行っていないのはどうしてかとの話になったんだ。


 学校? 初めて聞く単語で、俺は理解できなかったよ。

 だって父親しか、人間を見た事がなかったんだからな。


 食事は自給自足。

 読み書きは父親から習って過ごしていたんだよ。

 そりゃ、知らない事が多いってもんだ。


 児童相談所の人に怒られた父親は、土下座をして謝っていたよ。

 父親のそんな姿を見たのは初めてで、その日、俺は泣いたんだ。


 そこから学校に通い出したんだけど、授業は全然ついて行けなかったよ。

 これなら父親と忍術の修行をしたほうがマシだと思ったね。



 それほど、俺は父親が好きだったんだ。



 でもな、ある物を発見してから一変したよ。


 その日は、父親が月に一度、家から居なくなる日でな。

 学校の宿題をしていた俺は、わからない事が多いから辞書なる物を、父親の部屋で探していたんだ。

 そうしたら、見てはいけない物を見付けてしまったんだ。


 聞いたら笑えるぞ?

 俺の鉄板ネタだ。

 誰に話しても笑われたよ。

 そして無言で肩を叩かれたよ。

 たぶん、元気出せって事なんだろうな。


 見てはいけないある物とは……


 「誰でもなれる忍者入門」だ。


 いいんだ。笑ってくれ……

 じゃないと、俺の目から水が(あふ)れるからな。


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