プロローグ第一話 最強傭兵団に拾われた少年
傭兵団≪三本柱≫(トリニティ)。
≪剣鬼≫ソル・ブレイズ。
≪大賢者≫ミスティア・マクスウェル。
≪黄昏の聖女≫ウィンリィ・エーカー。
剣術、黒魔法、白魔法――世界を代表する三つの技術体系を極めた三人の構成員からなる、ミッドガルド大陸最小にして最強の傭兵団の名だ。
彼らの力はまさしく一騎当千。規格外。
≪剣鬼≫ソルの振るう剣はたった一振りで鎧をまとう兵士百人を輪切りにし、
≪大賢者≫ミスティアの唱える黒魔法は百の大砲に匹敵し、
≪黄昏の聖女≫ウィンリィの治癒魔法は万の命を奪う疫病すら退けたという。
オーレリア王国はこの≪三本柱≫の圧倒的な強さによって、ドラクマ帝国とヨークシャン帝国という二大帝国の間に挟まれながらも、独立を保っていた。
だが、多くの勝利は多くの恨みを買う。
どれだけ強力な力を有していても、たった三人の傭兵団。
目に映るものは守れても、目に映らないものは守りきれない。
その日、また罪のないオーレリアの村が焼かれた。
村人の死体の背中には、ナイフで≪三本柱≫の紋章と巨大な『×』印が刻まれている。
三人は燃え盛る炎の中、肺が焼ける痛みにも構わず、叫んだ。
生きている者はいないかと。
なかば悲鳴のような声で。
自分たちの力で弱き者を守る。
三人は誰もがそれを誇りに生きてきた。
だからこそ、一度として大国についたことはない。
彼らがつくのはいつだって、大国の理不尽に困窮する弱小国だ。
それが強く生まれた自分たちの責任だから、と。
しかし、彼らはあまりにも勝ちすぎて、強すぎた。
結果、≪三本柱≫に真正面から挑んでは、万軍をもっても勝てないと判断した両帝国は、オーレリアの村や町に対して無秩序な殺戮を行うようになった。
≪三本柱≫との契約を咎めるメッセージを、死体に残して。
この春に入り、すでに五つの村が同様に焼かれていた。
その現実に、三人は否応なく考えてしまう。
自分たちの存在は、本当に彼らの助けになっているのだろうかと。
自分たちが悪いわけではない。敵が卑劣なのだ。それはわかっている。
わかってはいても、どうしても善良な三人は考えてしまうのだ。
もういっそ、自分たちなどいなくなった方が、この国の弱き人々ためなのではないか――
そんなことを。
――その時だった。
声がした。
か細い泣き声が。
どこから?
三人は必死になって探して、濡れた藁の中から小さな赤ん坊を見つけた。
男の子だ。
襲撃者から隠されていたのだろう。
彼を守る様に巻かれた布には、手紙が挟まれている。
そこには震えた筆跡で、こう殴り書かれていた。
――この子の名前はジークです。
――どうかこの子に、生きる力を教えてあげてください。
――この世界の理不尽に負けないように。
「……約束するぜ」
三人の意志は、相談せずとも決まっていた。
≪剣鬼≫ソルは力強く泣き続ける命を、大切に大切に抱きかかえ、言った。
一人、生き残っていてくれた彼に感謝の涙を溢しながら――
「こいつには、オレ達全員の最強をくれてやる……!」
お話の構想は決まっていますが、書き溜めはそんなにないので、仕事の合間に自分のペースで少しずつ投稿していこうと思います。
気が向いたときにでも読んでくれると嬉しいです。
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