93 アフターファイブ その2
「これまた派手にやらかしてくれたな。」
「街中メチャクチャになってるじゃない……」
19時45分。街の各所で戦闘が繰り広げられてる中でユウヤトメグミもまた、戦いに身を投じていた。
彼らの進行はこの街の南西から始まって北東へ進路を向け、病院近くの路地に来ていた。この路地もゾンビと穴とガレキだらけになっている。
「とにかく北上して仲間と合流しなきゃな。みんなが無事である事を祈るぜ。メグミ、離れないようについてきてくれ。」
「ええ、進路については任せるわ。出来る限りサポートするから。」
ユウヤが先導して路地を進む。ゾンビ達は酔っ払いの如くフラフラと彷徨っていて、必ずしもまっすぐこちらへ向かってくるわけでは無いらしい。しかしガレキの影から現れたり、複数体のグループで迫って来たりと殺意の高い者が多いのも確かで、油断は禁物だ。
「うわ!また死角からの不意打ちかよ!」
ユウヤは愚痴りながらも速度を変化させてゾンビの襲撃を回避する。足払いを掛けて転がすと、腹に蹴りを入れて穴の中に転げ落とす。
「ナイスキック、ユウヤ!」
パン!パン!パン!
「ウガッ、ガアアア……」
拳銃で横から迫るゾンビ集団の、先頭の足を撃って転ばせるメグミ。
その真後ろのゾンビが4体ほど連鎖で体勢を崩したのを確認したユウヤが、即座に近づいてショットガンで頭を撃って沈黙させる。
「こいつら、やっぱり多少は考える頭が有るみたいだ。」
「その辺は訓練のと同じって事か。酷い事するわね。」
「襲いかかってくる以上、倒すしか無いのがな……」
「今は合成ワクチンも無いし、無理と油断はしちゃダメよ。」
「おう、せいぜい慎重に行くとするぜ。」
2人は再び北上する。メグミは回復の光を使うことが出来る点を考えれば、ゾンビとの連戦に対してソウイチ達より遥かに有利に進む事が出来る。
しかしそれは傷や体力面の話であり、ウイルス駆除などの効果は無い。なので慎重に事を進めるに越したことはないのだ。
「ちょっとユウヤ、あれ……」
「身体が腐敗している?」
路地を進むと布地が少ないゾンビ……どころか肉分も少ないゾンビがチラホラと確認できた。その傷口は再生しようとしているのか、細胞がうごめいている。しかし結局再生が追いつかず、ぽたぽたと肉片が崩れたアスファルトに血らしき液体とともにタレていた。
「やっぱり再生持ち……ちょっとニオイがエグイわね。」
「ウイルスだけじゃなくクスリも入ってるのか?」
「多分ね。色が見えればわかりやすいけど、こう暗くちゃ……」
すでに街灯は申し訳程度にしか機能していない。事故か故意か、破壊されている物や、ガレキによって光が通り辛くなっている。
「右手に病院があったよな。もしかしたらそこの患者か?」
「シンプルな服からしてそうかも。もしかして感染源は――」
メグミは顔に手を当てながら病院からじゃないかと推測する。薬物を混入させるなら連想しやすいのは病院だからだろう。実際患者ゾンビの身体が傷んでいることから、無くはない発想ではあった。
「病院にウイルスを?いや、それだけじゃ短時間でここまでは……」
「うーん、それもそうよね。街中がこんななのに。」
ソウイチからの情報では街中がゾンビ騒ぎらしい。自分達が朝に街を出てから12時間程度しか経っていない。何時から漏洩したのかは知らないが、病院1つで満遍なく街を汚染させるのは難しいと考える。
「感染も怖いし傷んだ連中は避けて……あっちに明かりが見えるな。」
「あれはコンビニ?この状況でまともなお客さんが来るのかしら。」
「なにか補給出来るかもしれない。行ってみよう。」
ユウヤ達は進行方向左手に見えた明かりを目指す。幸い傷んだゾンビは速度はそんなに出ないようで、ショットガンで数体纏めて体勢を崩してやると簡単に抜けることが出来た。
…………
「外は化物だらけ、ネットも使えない。これが世界の終わりか?」
コンビニ・スターライトフレンズ南店の店員は、レジに立ちながらスマホを眺め、世界を憂いていた。世界的に見ればこの異変はこの街1つとその周囲で起きているだけなのだが、個人がこの状況に直面すればそう見えてもおかしくはないだろう。
(本当なら泣き叫ぶ所なんだろうど、意外と冷静……いや諦めただけなんだろうなぁ。)
店員は自己分析をしながらペットボトルの水を飲む。この店は今でこそ通称スターズではあるが、彼の祖父が個人経営の小売店をしていたのがこの店の歴史の始まりである。
当時まだ小さかった診療所と住宅地に挟まれた立地で、地元民に愛される店だった。だが父の代で目まぐるしいコンビニ商戦が始まり、大手に迎合してヘブンセイブンの名を冠することになった。
それが功を奏して売上は跳ね上がったが、労働力の確保は苦労した。店長は受験に失敗した息子を引き入れて、それを補うことにする。
おかげでなんとか営業を続けてきた店だったが、突如別のブランドに鞍替えするように”命令”が下る。そんなのは経営者の自由であるが、相手が超大手のミキモトグループ、政府の推薦状付きという訳の解らない状況に従うしか出来なかった。
(思えば怪しさしかなかったよなぁ。オヤジもビビってたし。特にコレなんて誰が買いに来るんだよ……)
店員はレジの下に置いてある箱をチラ見しながら考える。その箱には弾丸・グレネード・治療薬が各種、取り揃えられていた。本社の説明ではテロ災害時に必要とする者達に提供しろとの指示が出ていたのだ。
(今日がこれの出番なんだろうけど、銃本体があるわけでもないし。オヤジは客に襲われて病院に行ったきり帰ってこない。それでも他にする事もないしなぁ。)
店員は心の中で愚痴りながら営業を続ける。狂気の沙汰だと思われるであろうが、それ以外の選択肢を取るとすぐに死ぬ予感がしていた。
逃げる先は無いし、引きこもるにも自宅はココの2階と3階。店を荒した延長で襲われるのがオチである。
(たまにゾンビが入ってくるけど、何故か金を払ってくれるしな。でもオヤジは襲われてたし、オレもいつまで保つのか……)
などと考えていたら、自動ドアが開きチャイムが鳴る。
「すいませーん、営業してますか?」
「いらっしゃいませー。」
反射的に挨拶をした店員が入り口に顔を向けると、武装した若い男女が来店していた。時刻は20時である。
…………
「じゃあ病院ももうダメなのか。」
「おそらくは。昼間は街中で火事があったとか駅で騒ぎがあったとかウワサも有ったのですが、時間が経つにつれてヤツラのうめき声しか聞こえなくなりました。」
「うーん、詳しい情報が手に入らないのは厳しいわね。」
「ええ。ニュースでは宮戸島のテロリストの話ばかりだったし、スマホも日が暮れてからは使えなくなったしで、散々です。」
スターズに来店したユウヤとメグミは、店員からこの街の状況について話を聞いていた。その中で宮戸島の話が出て舌打ちする。
(ちっ、あの事件はカムフラージュにされたのか。)
(通りでテロリストが人工モンスターを持っていたわけだわ。)
ユウヤ達は昼間の出動の意図を理解した。恐らくはミキモト教授の仕込みだったのだろう。ただ自分達が何故こんな事に巻き込まれているのかは解らない。
「ゾンビが買い物をするっていうのも気になるな。」
「習慣が残っていたとかじゃないですかね。映画とかでも……」
「外のは問答無用なのがほとんどだったけど。」
「個人差があるのか?頭の……やられっぷりに。」
「それは後にしましょう。」
ユウヤはややぼかした表現で言ってみる。ウイルス関連の話はあまり外部の人間に聞かせたくない事からの配慮だったが、メグミも気がついて話をぶった切る。返事のしようがないのだ。
「ところで道路の破壊跡については何かわかります?」
「突然空から妙な光が降ってきたと思ったら、あんな状態でした。」
「光が降る……空から?」
「ええ。なんでそうなったかはわかりませんが……」
「わかった、ありがとうございます。買い物をしてもいいですか?」
「もちろん、特殊部隊向けのモノもありますよ。」
そう言って店員はレジの下から頑丈そうな箱を取り出す。
「これって!どういう事ですか!?」
「本社の意向です。スターズだから……と答える様に言われてます。」
「ああ、だからスターズ……でもあれって警察だったんじゃ。」
「時代に合わせたんじゃないですか?知りませんけど。」
「ちょっと何を言ってるのかわからないわ。」
男2人の会話についていけないメグミだった。彼女はゲームどころか映画版も見ていなかったのだ。
…………
「凄い腐臭……早い所ここは抜けたほうがいいわね。」
「ああ、なるべく無視で……あぶない!」
20時20分。店員に礼を言ってコンビニを後にしたユウヤ達。
患者らしきボロボロのゾンビを避けて移動するが、突如黒い何かがメグミに対して高速で飛びかかってきた。
「きゃっ!」
「このおおっ!」
ユウヤは速度を切り替えて高速ストレートで横槍を入れる。
小手越しなので感染の心配はないので、思い切り叩きつけた。
「ギャウン!」
まともに食らった黒い何かは悲鳴を上げて吹き飛ぶ。ユウヤはそのままショットガンでトドメを刺すと、次が来ないか索敵する。
すると足の肉がえぐれた女子高生のゾンビが近づいてきたので、頭を撃って楽にしてあげる。
「うーん、人相手だとエグさが……」
「気にしたら負けよ。それよりさっきのは?」
「……犬だな。どっかの飼い犬が感染したんじゃないか?」
「犬、か。やっぱり感染源は病院じゃないわね。」
「ああ、入れないもんな。首輪は付いてるから飼い犬か。」
もしかしたら女の子はゾンビ犬の飼い主だったのかもしれない。メグミは飼い犬がゾンビ化する原因を考えて――
「となると、まさか……水道?」
「おいおい……いやあり得るか?でもどうやって!?」
「よく分からないけど、水道水には気をつけましょう。」
「わかった!今は先を急ごう!」
思い至った考えの恐ろしさに、踏み込むのを後回しにする2人。どちらにせよ別のゾンビが近づいてきたので穴に蹴り落としておく。
「まったく、次から次へと……おっと!」
ガレキの影に女の子座りした女性看護師が食事をしていた。
その女は右腕がなく、左手でよく解らない肉片を齧っている。
絶対領域が黒い三角形を作って見えるが、ビジュアル的に色気など一切感じない。
「ユウヤ、私が!」
パン!パン!パン!……
ショックな見た目に少しだけ棒立ちしたユウヤに変わって、メグミが
拳銃を連射する。相手の身体に銃弾が突き刺さって身動きが止まると、一気に近づいて2連の平手打ちで地面に沈めた。
「すまねえ、トドメだ!」
ささっと後ろに下がるメグミに代わってズドン!とショットガンで頭を撃ち抜くとユウヤは周囲を見回す。
「追加は来なそうだな。ん?このケースは?」
「もう、油断しないでよね……これ合成ワクチンじゃない!?」
小型のジェラルミンケースが落ちているのを見つけて開けてみると、中には見慣れた容器が入っていた。メグミは思わず大きな声をだす。
それは訓練で見慣れた細身の容器で、注射器とセットになった合成ワクチンだった。訓練ではゾンビタイプのモンスターも居るので、それらからダメージを受けた時はよく使う。
名前はワクチンだが本来のその効果にプラスして既に活性化したウイルスの滅菌効果もある謎のクスリである。おかげでこの6年半である程度ウイルスに対する耐性がついていた。
「これがどういう経緯でココにあるかはともかく、念の為に持っていくのは有りだな。」
「うん。病院のお偉いさんにでも使う予定だったのかしらね。」
これまでの情報から、今回の件は周到に仕組まれたモノであると2人は感じていた。なら巻き込みたくない相手に対してコレを融通する可能性もあるだろう。結局その相手には届かなかったようだが。
素早くワクチンをメグミの腰のポーチに入れて先に進む2人。
途中のゾンビは極力無視しながら仲間との合流を目指すのだった。
……………
「落ち着いて!ケンカはダメですって!」
「離れなさいショウコ!危ないわよ!」
17時。病院のロビーにて、取っ組み合いのケンカが発生する。昼過ぎくらいから事件事故が多発したせいで、病院はどこもかしこもごった返していた。
土曜日なので外科の医師が不足しており、診察が滞っているせいでストレスが爆発してしまったのだろう。それにしても片方は本気で殴ったり噛み付いたりしている。目も若干緑に濁って見えた。
マズイと思って止めようとするが、先輩看護師に引き剥がされてショウコはロビーの隅に連れて行かれる。
「ちょっと、止めるならあっちじゃないの?」
「まったく貴女は……見れば明らかにオカシイってわかるでしょ?」
「う、それはそうですけどー。」
「警官だって来てるんだから、プロに任せればいいの!」
事件事故の聴取の為、警察官も病院へ来ている。街全体でフル稼働状態なので、その数は少ない。
「それもそうか。でも今日は何なんです?事故にしてもこんな……」
「駅でテロ騒ぎがあったのよ。爆破と銃の乱射ですって。」
「うえええ!?まるで世紀末じゃないですか!?」
「声が大きい!患者さんを動揺させるような事は控えて!」
ケンカに注目が行っているが、院内に人は非情に多い。周囲の人達に睨まれる看護師2人はそそくさと逃げるのであった。
…………
「それで?爆発の後に一体何が有ったのですか?」
「自分の目で見たわけじゃないが、武器を持った自衛隊が――」
「ううう、熱い。痛い。苦しい……」
「あなた、しっかり!」
「まったく、ワケェのが誰も見舞いに来やがらねぇ……」
「おたくもですかい。ウチのモンも薄情なヤツばかりでして。」
病室では様々な患者さんがベッドの上に横たわっていた。
警官が順番に事情聴取していることから、事故やテロに巻き込まれた者達だと解る。一応カーテンで仕切ってはあるが、側にいる看護師達にはわりと丸聞こえだった。ショウコの先輩看護師もここから情報を仕入れてきたのだろう。
「夕ご飯のお時間でーす。」
18時。ショウコはカートを押して5階の入院患者達へ夕食を届ける。1階の調理場で丹精込めて作られた品々は、とてもいい香りがする。バランス重視で作られたそれらは一昔前に比べて、味付けもしっかりしている。
「はい、おまわりさん?事情聴取は一旦中断して、ごはんを食べさせてあげてくださいね。おまわりさんも1階の食事処で食べてきてはいかがでしょうか?」
「もうこんな時間でしたか。では、そうします。」
警官はすんなりと退室していく。患者は多いし同じ証言ばかりなのでそこまで急いでは居ないらしい。長丁場になるのを見越して、食べられる時に食べておこうという判断を下したようだ。
ショウコは事情聴取を受けていた患者さんに夕飯を渡していく。
「大変でしたねぇ。お疲れさまです。」
「ありがとう。事件の事で緊張してたけど、ごはんと聞いて空腹を思い出したよ。」
「はい、ごゆっくりどうぞ!」
この患者さんは駅でテロに巻き込まれてパニックの中、銃撃と民衆の逃走タックル&足踏みで骨折して運ばれた人である。弾丸はかすめただけだったのが不幸中の幸いか。テロ自体は警官隊の手で犯人の射殺により幕を閉じていた。犯人の遺体は事情により別の研究施設に搬送されており、警察はこれに反感を覚えているが何も出来ないでいた。
「はい、痛みはどうですか?食べられそうですか?」
ショウコは次の患者さんに声を掛ける。お腹と左腕と右足に包帯を巻かれていて、付添の奥さんが心配そうに声をかけている。
「看護師さん、腹は減ってるんだがどうにも痛くて……」
「夫は、ウチの人は大丈夫なんですか!?」
「空腹の自覚があるなら、きっとすぐ良くなりますよ。落ち着いてゆっくりご飯を食べてください。」
銃撃を受けた患者さんとその奥さんを適当に元気づけて食事を渡す。
彼女は次々とごはんを配って周る。中には明らかにカタギで無い者も居たが、ショウコには愛想よく応じてくれた。彼らとて無駄に全方位に対してヘイトを売買するわけでは無いということだろう。
彼らのルールはショウコには判りかねるが、深くは考えずに仕事をこなしていく。
「―――――ッ!!」
「―――――ッ!!」
カートを1階に戻しに行くと、ロビーだけでなく食事処でもケンカが発生しており、警官が止めに入っていた。
(いくらなんでもケンカ多くない?いや大変だったのだろうけど、自分達で余計なトラブルを増やしてどうするのよ。さっきの強面さんだって大人しくしてたのに。)
ショウコはさすがにおかしいと思いつつも、仕事に従事するしか無い。
18時50分。院内は未だに騒然としており落ち着かない。これ以上患者の受け入れも出来ず、怒った市民が騒いでいるのだ。
看護服のショウコを見ると血走った目で近づいてくる人達が居たので、すぐさまステルスで逃げておくショウコ。彼女はこの後も仕事が満載なので、面倒事に関わっている暇はない。
(まったく、こっちの業務が滞ったらそれこそ診察どころじゃ無くなるってのに。八つ当たりは勘弁願いたいわね。)
彼女は食器の取り下げや点滴の交換のために5階へ向かう。患者さんに外から声をかけてカーテンを開く。
「看護師さぁん、ご馳走様ぁ。ウケケケケ……」
「うぇ!?」
最初に夕飯を配った患者さんは、ベッドの上に立って酔っぱらいの様に腕を振り回して笑っている。足は骨折していたはずなのにまるで痛みを感じている様子もない。
「なんだか身体が熱くて、骨折も治っちまったよぉ。ケケケケケ。ここの料理はケガも治るし気分も良くなるんだなぁぁぁぁあああ!」
「お、お元気そうで何よりです。食器片付けますね。」
ショウコは即座に食器を回収して次の患者に向かう。明らかに常軌を逸した患者さんに恐怖を覚えた。彼についてはナースステーションに戻って報告しておくとして、そそくさと次の患者に声を掛ける。
「食器下げに来ましたー。どうです?食べられまし……た?」
「看護師さんの言う通り、ヒヒ!メシ食ったら元気になったぜ!」
カーテンを開けるとベッドは血だらけになっていた。患者さんは口から下を赤く染めており、食事を食べこぼしたにしては不自然な色合いだ。
身動きも難しかったハズなのに今はベッドの上であぐらをかいて骨付き肉らしきモノを貪っている。
「クリスマスにはまだ早いですし、その赤い……ケチャップは今日のメニューに使ってなかったハズですが……」
「それがよう、いくら食べても腹が減って……丁度良い肉があったもんで、ついな。ヒヒヒヒヒヒヒ!」
ショウコはベッドの影から倒れた人の足が見えるのを確認した。あの靴は彼の奥さんのものだと気がつくと、背筋がひんやりしてくる。
「もう治ったなんて、さすがウチの病院は技術が高いですね。それでは食器を下げさせて頂きます。」
「まぁ焦るなって。それがいくら食っても腹が減ってな?ちょっと看護師さんにも協力を――」
「お断りしますぅぅぅっ!」
食器やら何やらを放り投げて逃げ出すショウコ。慌てて廊下に出ると、戻ってきた警察官と正面からぶつかってしまう。
「す、すみません!」
「どうしたんですかー?そんなにアワテテ。」
「なんか患者さんたちの様子がおかしくて……そうだ、血が、肉が!患者さんが治ってて、赤いのを食べてて!」
支離滅裂な説明でまくしたてるショウコに、警官は何かを察して彼女の肩を軽く叩いて笑顔を向ける。
「大丈夫、だいじょうブ。本官が見てきまーす。」
警官は軽い足取りで部屋へ入っていく。だがその手には拳銃が握られていた。
「もっと食わせろぉぉぉおおおお!」
「りょうかーーい。射殺しまーす!」
パン!パン!パン!
「ひい!?」
カーテンから飛び出して警官を襲おうとする、胸元が血だらけでお行儀の悪い患者さん。しかし警官にあっさり撃たれて崩れ落ちた。これにはショウコもびっくりである。
「あのあの、ちょっとこれはやりすぎでは……」
「市民を守るのが、本官のツトメですのデー!」
振り返った警官は片方が緑色の瞳に変化しており、ショウコは更に恐怖する。
「オツトメご苦労さまでしたああああ!!」
「あひゃひゃひゃひゃひゃ!」
動揺の所為で床を転がるように走って逃げる。警官はその場で妙な笑い方をしていて追いかけては来ないようだ。だが幾つもの病室を通り過ぎるたびに、似たような笑い声や唸り声などが聞こえてくる。
彼女は今ようやく、普通の日常とは程遠い状況にある事を自覚した。
「センパイ、何かおかしくないですか?みんな気が狂ってます!」
「なによ今更?やっぱり貴女、ズレてるわよね。」
その階のナースステーションに飛び込み、先輩看護師に問いかける。彼女は左腕に包帯をまいていて、若干血が滲み出ている。
「先輩、ケガしたんですか!?」
「ちょっとドジってね。患者さんが急に引っ掻いて……私はまだかすり傷みたいなものよ。他の子は噛みつかれたりしたらしいし。」
「えええ!?」
「みんな何故か凶暴になってる。もう仕事どころじゃないわ。」
「でしょうね。警官が発砲してたし。いっそサボって帰ります?」
「それが出来れば良いのだけどね。って発砲!?よくもまぁ無事で。」
「とりあえずお茶でも入れます?」
「自販機で何本か買ってきて。水道は何か変な菌でも居るのかも。」
「あー、確かに怖いですね。ちょっと行ってきます。」
先輩看護師は財布を預けてきたので受け取り、ショウコはステルスで談話室前の自販機に買い出しに行く。6本のペットボトルを抱えて帰ってきた彼女に、先輩は薄く笑いながら声を掛ける。
「ありがと。そのチカラって便利だけど、病院向きじゃないわよね。こういう時は役に立つから良かったけど。」
「大学時代からずっと言われてますよ。おかげで命拾いすることも多いです。バレンタイン事件とか下手すれば死ぬかと思いました。」
「あの事件?悪運だけは強いみたいね。」
「今思うと綱渡りばかりでしたねー。」
「ショウコと居るなら、今回の件も生き抜けるかしら。」
「どうでしょう?いつもギリギリなんで。」
「はぁ。そこは元気づけるトコロでしょう?やっぱり貴女は……」
「いやー、こんなんですみません。」
時間は19時40分。周囲から暴力的な音や奇妙な笑い声や唸り声が聞こえてくる。2人はナースステーションの奥に籠もって会話をすることで心を保たせていた。他の同僚は”居ない”。それが答えだ。
「お加減どうです?」
「ちょっと視界が緑かも。まるでホラー映画かゲームね。」
「痛みます?消毒して包帯取り替えましょうか?」
「言うほど痛まないのが怖いところよ。」
「お約束ってやつですか。先輩は屋台のラーメン屋にご興味は?」
「なぜここで屋台?」
「なんでも相談に乗ってくれる伝説の屋台があるみたいです。」
「なにその都市伝説みたいなの。」
「実際都市伝説ですね。水星屋っていうとんこつの。」
「何年も前、一時期そんなのが有った気がするわ。」
「大学の友人が実際に世話になって結婚まで行ってました。」
「へぇ。それならこの状況を何とかしてほしいわね。」
内容に意味なんて無いが積極的に話しかけることで、先輩の意識を繋ぎ止めようとするショウコ。先輩は顔色もお肌もだんだん悪くなってきている。
「ねえショウコ、あなたサボりが得意よね。」
「あまり言いたくないですが……はい、自身はありますよ。」
「その水星屋、探して来てくれない?貴女なら可能でしょう?」
「この中をですか?移動だけならなんとかなるとは思いますけど。」
「サボる言い訳が必要ならほら、洗濯物が溜まってたでしょ。」
「流血沙汰ばかりでしたからね、きっとカゴに山積みですよ。」
「それを持って行きなさい。貴女ならきっと役に立てられるわ。」
「言いたいことはわかりましたけど、先輩を置いていく訳にも。」
要は先輩はショウコに逃げろと言っているのだ。大量の布は逃げる時の使い捨ての道具にしろと。自分を捨て置けと。
「私はそろそろマズイみたいよ。さっきから鼻が利くようになってきててね。あなたの体臭がとても……美味しそうに感じているの。」
「こ、こんなアブノーマルな告白を受けたのは初めてです!」
背中にゾクゾク来てしまったショウコは両腕で胸を抑えてドン引きする。先輩は面白そうにその反応を見ているが、あまり冗談ではなさそうな雰囲気だ。
「その反応、逆効果だからやめておきなさい。ほら行くわよ。」
「え、え?先輩、動いて大丈夫なんですか!?」
「痛みは無いわ。それより洗濯物を取りに行くわよ。搬入口からならそのまま脱出も可能でしょう。急ぎなさい。」
先輩が手を引っ張ったりしないのは感染を恐れてのことだろう。口と身振りだけで促すと、廊下へ出る。
「うばーーー?」
「あー……ふしゅるるるるる。」
「カチカチカチカチ……」
スケルトンと化した者やスケルトンとゾンビのハーフみたいな者、首が取れて自分の手で持ってる者など多種多様の患者さんが廊下を彷徨いていた。それらはショウコの姿を見ると徐々に近寄ってくる。
「うえぇぇ、いっぱいいるなぁ。」
「ショウコは黙ってステルス、今の私なら敵視はされないみたい。」
そう、先輩は症状が進んでいるせいか見向きもされていない。2人はエレベーター……は乗り降り時が怖いので階段で1階に向かう。
「ついてきてる?」
「居ますよー。」
ショウコの姿が見えない先輩は定期的に確認をしながら、洗濯物置き場へ向かう。業者に委託して洗って貰う為に一箇所に纏めている部屋だ。
先輩が扉の鍵を閉めて、ショウコはステルスを解いてカゴ付き台車を物色する。
「てんこもりですね。この血って大丈夫なのかしら。」
「騒ぎが起きる前、食事前の物なら行けるでしょう。」
「じゃあこの辺かな。気になるなら洗濯すればいいか。」
街にはコインランドリーもあるが、そんな考えをするショウコを見て呆れた顔をする。
「その発想はなかったわ。使い捨てにするつもりなのに……」
「あはは、どうも自分はズレてるみたいでして……」
本当は洗濯済みの物があれば良いのだが、今日は全て出払っていた。この惨状なら綺麗所のシーツ等は引く手あまただっただろう。
比較的マシな布だらけのカートを選んだショウコに対し、シャッターのスイッチに近寄り先輩が確認する。
「いい?もう戻ってこなくて良いから、必ず逃げ切りなさい。」
「やっぱり先輩も行きません?」
「あんたが危険になるでしょうが!どこまでズレてるのかしら。私は看護師よ。最後まで居るわ。患者でもない貴女は病院からさっさと出ていきなさい。診療時間は過ぎていてよ。」
先輩看護師はシャッターを開け、ショウコへ逃げるように促す。カートが通れる高さまで開いたら、ショウコはペコリと頭を下げる。
「……先輩、こんな私ですがお世話になりました。」
「ふん。ショウコとは、まあまあ楽しかったわよ。」
ステルス状態になってカートを押して出ていくショウコ。
充分離れたのをカートの位置で確認すると、先輩はシャッターを閉じるのであった。
「ゾンビ達は移動は遅い、ならこの布で!」
20時。病院を脱出したショウコはまず自宅へと足を向ける。
途中のゾンビに対しては布でくるっと撒いて深い穴に落としたり、もっと単純に上から被せてモタついている間に切り抜ける。
人が集中していたエリアなのでゾンビの数も多く、ステルスだけでは切り抜けられない箇所が有ったのだ。そもそも先輩のように嗅覚が鋭いタイプだと、見えなくても近寄って来てしまう。
(やはり面での妨害は強いわね。このまま病院エリアはさっさと抜けてコインランドリーを使おう。)
カゴ付き台車の中身が減っていくと、赤いナニカの所為で開けそうに無いものや異臭を放つモノも出てきた。
とりあえず自宅を目指すにしても、ここを無事に抜ける方法が必要だ。
病院から北へ向かい、Y字路に出る。この正面右側がコインランドリーなのだ。左側は自動販売機が並んでいた。事故を防ぐ為の蛍光タイプの表示版が正面に有ある。それを避けながらガラガラとカゴ付き台車を押していく。
「まだ使えるみたいね。さっさと洗っちゃいましょう。」
食べ物等が有るわけでもない場所だからか、壊されずに居たようだ。
ショウコは洗濯機の中に次々とシーツを叩き込む。どさくさ紛れに持ってきた先輩のオサイフで支払いをして後は暫く待つだけである。
「飲み物、買っておこうかな。」
隣に並んでいる自販機を眺めてペットボトルの飲み物を買う。
「ゴクゴク、ふう……結局何がどうなったのかしらね。」
ショウコはコーヒー牛乳を飲みながら周囲を見渡す。病院前と比べてゾンビは少ない。騒がなければこちらにも無関心のようだ。
「ん、公衆電話ってここにあったっけ。最近見ないわよねぇ。」
自販機とコインランドリーの間にひっそりと佇む緑色の公衆電話。こんな時にこれに興味を持つとはさすがショウコ。
(あーあ、これからどうしよう。自宅で籠もる?お母さん達大丈夫かなぁ。街を出ても頼れる場所は……会長くらい?うわ、今度こそ愛人がどうとか言われたら嫌だなぁ。困った時は水星屋を頼る?電話番号しらんがなー。スマホは……電波なし。ホラーの鉄板ね。)
とりとめもなく色んな考えが頭をよぎる。結局はこの先どうなるのかサッパリわからない。送り出してくれた先輩と彼女のサイフを預かる身としては無事に切り抜けたい所。いやサイフは不可抗力だったが。
「このまま死んだらアケミと再会することになるのかしら?でもこんな終わりは嫌よね。もっと美味しいものや素敵な恋……は期待薄かなぁ。」
などと独り言をつぶやいた時、どおおおおおん!という音とともに洗濯機が爆発した。
「うぇ!?何々!?」
そのまま逃げれば良かったのだが、ショウコは思わずコインランドリーに駆け寄って確認してしまう。破壊された洗濯機はちょうど脱水の工程に入った所で破壊され、中からシーツやらなにやらが飛び出して宙を舞っていた。
「うわわわわわ!ス、ステルスを……」
姿を消そうとするショウコだったが動揺からチカラの練りが甘くて発動しない。そうこうしてる内にシーツ達に気づかれて、接近を許してしまった。
「お助けーーー!」
覆いかぶさろうとするシーツを必死に躱しながら叫ぶ。しかしその声は他のゾンビも引き寄せてしまう。徐々に囲まれていくショウコ。
(まずい、なにか手は……)
彼女の頭の中には走馬灯が駆け巡る。命の危機に何か手段は無いかと人生を振り返る!
これ以上ゾンビに気づかれず助けを呼び、あわよくば自力でも逃げきれる方法は……。
(こ、これだわ!)
「トントントン・ツーツーツー・トントントン!」
まさかのモールス信号だった。やはりショウコは何かが違っていた。
20時30分。病院北のY字路に助けを呼ぶ謎のモールス信号が響いた。
…………
「病院を抜けたせいかゾンビも少しは減ってきたな。」
「まだ油断はできないけどね。」
20時30分。コンビニでの補給と合成ワクチンの入手を経て、北へ向かって進むユウヤ達。そろそろY字路が見えてくる頃合いだ。
「お助けーーー!」
「「!?」」
「だれか生存者が居るのか?」
「急ぎましょう!」
ユウヤ達は走ってY字路まで来ると、シーツ数枚に付きまとわれている看護師と、それを囲もうとするゾンビ達に遭遇した。
「トントントン・ツーツーツー・トントントン!トントントン・ツーツーツー・トントントン!」
「叫び声がモールス信号ってのは古いのか新しいのか……」
「そんな事より早く助けましょう!」
「おう、そこまでだ!大人しくしろ!!」
ユウヤは目を光らせて速度を変更すると、包囲に飛び込んでシーツを踏みつけて抑える。
ズドン!ズドン!ズドン!
そのままメグミに当たらない様にショットガンを順に撃っていき、ゾンビ達の頭を粉砕していく。ランドリーの明かりに照らされて緑色の血液が飛び散っているのが分かった。
(うわ、ガチでオレ達のところの漏洩じゃねーか。)
ユウヤは心で舌打ちしつつ、飛び回るシーツにショットガンを撃つ。
「ユウヤ、こいつは抑えるから他のを!」
ぎゅむっとメグミが暴れるシーツを踏むのを代わってくれた。ユウヤは速度を活かしてシーツを掴むとクルクルと巻いていく。
「うらーー!メグミ、こいつを縛っておけ!」
「こら、大人しくなさい!」
メグミは巻いたシーツを受け取るとシーツ同士を縛り付けて繋げ、全てをまとめた後、グレネードを突っ込んで爆破した。
洗濯物は粉微塵になり、もう動くことは無かった。
「ふー、こんなもんか。なんだってこんな事に……」
「お疲れ、ユウヤ。」
「トントントン――あれ?あなた達は……特殊部隊!?助けてくれてありがとう、サボりがてら外に洗濯しに来たら酷い目に遭ったわ……」
助けた看護師はこちらに気がつくと近づこうとして、動けなかった。どうやら無理に回避しようとして転び、ケガをしているようだ。
「サボリ?」
「いやー、いろいろ事情あるサボリです。重要任務です。」
看護師・ショウコの言うことがよく解らないユウヤだったが、彼女が大変な状況だったのは解るので今はいいかと捨て置く。
「ケガをしてるんですか?治療はお任せ下さい!」
メグミは腰のポーチから絆創膏を取り出すと指に挟んでチカラを込める。
(あの治療方法は……まさか!?)
見覚えのあるメグミの行動に目を見開いて驚くショウコ。
絆創膏がおでこに貼られて光が漏れ出し全身を包む。気がつけば傷も痛みも全てが消えていた。
「ありがとう、楽になったわ。あなた達テレビに出てたわよね?政府の特殊部隊サマサマね。」
ショウコはお礼を言って立ち上がると、メグミに握手をする。
ユウヤ達は教官の離反以降、マスコミへの露出は減った。しかしたまにはCMやニュースの特集などで存在をアピールはしていた。
「看護師さん、この街は現在危険な状態にあります!一緒に安全な所まで避難しましょう。」
「いえ、私は自分でなんとかするわ。昔からスニーキングには自信があるのよ。近くに実家があるので家族も心配ですしね。」
「でもそれじゃぁ……」
不可解な返答に困惑するユウヤ。自信有りげにショウコは言葉を続ける。
「伊達にアケミの同級生じゃないわよ。貴女の技術、そういう事なんでしょう?」
「「!!」」
ユウヤとメグミは先程のショウコのように目を見開いて驚いている。推測から確信に変わったショウコは満足そうな表情を浮かべている。
「本当はいろいろ話を聞きたい所だけど、そろそろ行くわね。助けてくれてありがとう。またどこかで会えたらよろしくね!」
ショウコはスーっと身体が透明になっていき、どこかへ走り去ってしまった。
「行っちゃったかー。意外な所で意外な人に出会えたわね。」
「あの人もチカラ持ちだったのか。縁ってのは不思議なモノだな。」
半分ぽかんとしながら見送った2人。我に返った彼らは周囲の索敵と装備のチェックをする。
「オレたちも行くか!っとその前に……あの公衆電話を一応試してみるか。無線でダメなら有線ってね。」
「うん、ユウヤに任せるよ。私が周りを見ておくから。」
2人は自販機横の緑の公衆電話に近づいていく。少ない可能性でも追って損はない。そう心に言い聞かせながら受話器を取った。
…………
「ふー、あの2人には本当に助かったわ。本来なら一緒に行った方が安全なんでしょうけど、それは出来ないのよね。」
ショウコは自宅にたどり着くと残ったコーヒー牛乳を一気飲みする。
「アケミの遺言からして、特殊部隊に関わると命の危険があるもん。」
疲れ切ったショウコはベッドに大の字になっている。その胸にしまってある手紙を表示させて確認する。
”特殊部隊とその運営には絶対に関わらないでね”
そう書かれた追伸部分を忠実に守った形だ。”普通”なら実力のある彼らに付いていくのが得策だろう。親友の教え子なら尚更だ。
だがそれでも遺言の方を選んだのには考えがあったからだ。
恐らく彼らはこの事件になんらかの関わりか、心当たりがあると見た。あのユウヤとか言う男の表情からは、なんとなくだがそう見えたのだ。
それは女のカンか、今日の経験からショウコのチカラが更に強化されて彼の考えが”透けた”のかはわからない。
とにかくすぐに離れなければ、更なる窮地に立たされることになっていた可能性があった。
「父さんも母さんも帰ってない……。とりあえず一休みして、それからだなぁ。でもまぁ親友の技術が受け継がれてたのは、悪い気は――」
21時。ショウコはそのまま意識を手放し、ひとまずの生還?の安息を貪るのでだった。
…………
「おかけになった電話番号は――」
「やっぱ携帯には繋がらないか。なら……」
20時40分、ユウヤは公衆電話からソウイチの携帯へコールしてみるが繋がらない。なのでダメ元で特別訓練学校に掛けてみた。
「はいコチラ、特別訓練学校じゃ。今この番号に掛けてくるという事は、ユウヤ君あたりかの?」
「繋がった!その声はミキモト教授か!?一体この街はどうなってるんだ!」
「ほっほっほ……お膳立てをしてやっただけじゃよ。何年もズルズルと時間だけが過ぎていくのは忍びなくてのう。」
「なんだと!?どういう事だ!?」
「君達には素敵なプレゼントを送っておいた。せいぜい頑張って生き残ることじゃな。」
「オレにも解るように話をしてくれ。」
老人の妄言に付き合いきれないユウヤ。
「それはそうとてコチラからも1つ聞きたいことがあるのじゃが……。君はドコの電話から掛けてきてるんじゃ?この街の通信は――」
ザ、ザザザザ……ザーーー……。
「もしもし、教授?何て言ったんだ?」
「どうしたの?なにかわかったの!?」
「いや急にノイズが酷くなって……」
突如発生したノイズによって互いの声がかき消される。周囲を警戒していたメグミは様子の変わったユウヤに問いかけるが状況は変わらない。状況を変えたのは受話器から聞こえはじめた女の声だった。
「ふふふ、くふふふふ。」
「な、なんだこの声は!?ホンモノの怪奇現象か!?」
「電話で怪奇現象って言ったら……ユウヤ、後ろよ!!」
「私、メリーさん。今――」
その言葉を聞いたユウヤはまっさきに後ろへ拳を振りながら振り返る。
ブオン!と空を切った拳。振り返って見たものの何も居ない。
「あ な た の う し ろ に い る の 。」
その時続きのセリフが聞こえてくる。それは受話器からではなく、今まさに後ろに位置する公衆電話からだった。
…………
「何だこのメール。パリからか。交換研修をした時の彼からか。」
2014年4月27日。警視庁の警部のパソコンに1通のメールが届いた。
警部は以前パリで研修をした際に現地の警官と夜の街を楽しんだ事があり、その時の警官からのメールとあって興味を持った。
「ん、これフランス語じゃないな。ドイツ語か?コーフン先生、出番ですよっと。」
警部は翻訳サイトに本文をコピペして張り付け、翻訳ボタンを押す。
「私はいるの、メリーお嬢様は今捨てられてゴミ箱に?意味がよくわからないが……添付ファイルがあるな。」
一応セキュリティソフトを使ってスキャンを終えてからファイルを開く。するとパソコンがフリーズした。
「うわ、なんだよイタズラか?こういうのは信頼関係が大事なんだから、やめてくれよなぁ。再起動して、削除削除っとぶわっ!」
「勝手に私を捨てるな―ーーッ!」
メールを削除しようとした警部の後頭部をメリーさんがぶん殴って阻止する。きれいなバックスタブが決まって警部は意識を失った。
「危うく文句を言う前に消される所だったわ。ニンゲンってすぐにモノをポイする生き物っていう情報は間違ってなかったわね!」
メリーさんは仁王立ちでぷりぷり怒りながら愚痴を言う。メールを開いて貰うまでに自分に吸収された化物としての知識と、ネットで得たニンゲンの知識から偏見まじりの人格が出来上がっていた。
「メールは長距離移動に便利だと思ったけど少し考え直そうかしら。」
「なんだなんだ?うわ警部、どうしました!?」
「誰だお前、警部に何をした!?」
「あ、やば!ごきげんよう!」
メリーさんはさっさとパソコンに戻ってネット回線を伝って行方をくらます。騒ぎを聞きつけた警官は一瞬見えたゴスロリ少女とドイツ語の挨拶にぽかんとするが、慌てて警部を介抱するのであった。
「しばらくは勉強した方が良さそうね。角張った変な文字とか全員無個性な服装とか、とんだ田舎に来たものだわ!」
メリーさんはネットの海をあちこち行き来しながら知識を蓄える。どちらにせよ日本語を覚えなければキメ台詞も伝わらない。
こうして自分を捨てたテンスルに物申すために、現代日本のお勉強を始めるのであった。
「ふふふ、くふふふふ。ついに日本語を覚えてやったわよ!これであとはテンスルの居る街に少しずつ飛んでいけば良いのよね!」
9月21日。この数ヶ月、様々なオタクのお宅のパソコンを漁って知識を自分の物にしたメリーさん。ついに特別訓練学校を目指す事を決意する。
今や3Dホログラム技術の応用で、変化の術まで使えるようになっていた。お気に入りは今となっては懐かしい緑の公衆電話である。
本当は黒電話も気に入っていたのだが、近年の某国指導者イメージの問題で泣く泣く変身リストから外している。
「田舎と侮っていたけど、日本のレトロ文化はとても興味深いわ。」
などと言い張るくらいには日本を気に入っていたが、断捨離の概念については否定的である。物とは末永く付き合うモノとの考えている。
「さっそく電話して驚かせてあげましょう。まずは福岡辺りからが良いかしら?」
「お掛けになった電話番号は――」
「ガーン!じゃあメールよ。これなら……戻ってきちゃった!?うぬぬ、私だけでなく携帯までポイするなんて非道なニンゲンね。命の探知は出来るんだから、こうなったら直接……あれ?」
都市伝説としての手段がことごとく空振りし、直接乗り込もうと思い至った所で彼女は何かに気がつく。
「これ、本当にニンゲンなのかしら。前よりなんか禍々しい気配になっるんですけどぉ……。ついにニンゲンである事をポイしたの?」
自分がメリーさんとして目覚めた日にも命が変質していたが、ここまで禍々しくはなかった。
「これは文句を言っても聞き耳持ってもらえるのかしら。でも私の存在的には会いに行かなきゃだし、普通に様子を見に行こうかな。」
そう結論して某県某市に飛ぶメリーさん。食いログというグルメサイトに潜り込み、そこの飲食店の情報から現地に飛んでいく。
「ここのパフェ美味しそうだなぁ。こっちの平和うどんも捨て難いわね。コスプレ広場?ニンゲンって自分でお人形さんの着せかえ遊びをする習慣もあるわよねー。うーん、なんなの?たどり着けない!」
該当する街に辿り着いたものの、特別訓練学校には上手く入り込めないメリーさん。ミキモトグループか防衛省のネットワークからなら行けるのだが、直線的な距離しか計算に入れてなかったのだ。
「こうなったらチャンスを待つしか無いわね。待ち伏せするにはドコが良いかしら。」
うんうん唸って考えるメリーさん。ニンゲンは食事が大事だから飲食店?いや、移動している気配が殆どない事から難しいだろう。ならば……。
(ニンゲンは日々汚れるモノ。場合によっては病気になる。だったら決まりね!病院近くのコインランドリーで網を張るわ!)
メリー式メイ推理によって場所も決まった。しかしどちらも学校内で完結してる事だったので、そのチャンスは訪れなかった。
毎日情報収集をしながら暮らして良い加減待ちくたびれた10月4日、ついに動きがあった。
(街がボロボロになって……ニンゲンのやる事はまだ解らないわね。この女は珍しげに私を見てるけど、少しは話せるニンゲンかしら?)
看護師の女が一息つけるのを見守りながら考える。その後の爆音に思わず呼び鈴鳴らしそうなくらい驚いたメリーさんだが、なんとかこらえて様子を見守る。
「トントントン・ツーツーツー・トントントン!」
(モールス信号?ちょっと可愛いわね。助けてあげようかしら?)
とか思ってたらあっさり武装した男女に助けられた看護師さん。
(あら、そんな簡単に別れちゃうの?これは助けなくて正解だったわね。やっぱりニンゲンって薄情よ。)
不思議な治療を受けてさっさと逃げていくのを見て、その姿に軽く失望する。だがそのまま助けに入った男が自分に近づいてきた。
(ん?この男はネットで見た……ていうかあの時の特殊部隊!ついに、ついに運が向いてきたわ!彼に憑いていけばきっと……ふふふ、くふふふふ。)
直接テンスルに会うチャンスが回ってきてご満悦なメリーさん。男の指示通りの番号に回線を繋いであげるとお爺さんと会話を始める男。女の方は周りをキョロキョロ見て動く死体を警戒していた。
「君はドコの電話から掛けてきてるんじゃ?この街の通信は――」
(さあ、ここで回線をいい感じに切ってホラー演出と行きましょう!)
ザ、ザザザザ……ザーーー……。
「ふふふ、くふふふふ。」
「な、なんだこの声は!?ホンモノの怪奇現象か!?」
「電話で怪奇現象って言ったら……ユウヤ、後ろよ!!」
「私、メリーさん。今、あ な た の う し ろ に い る の 。」
…………
「うわぁっ!公衆電話のメリーさんなんて聞いたこと無いぞ!?」
「ふふふ、くふふふふ。」
10月4日20時40分過ぎ。正体を表したメリーさんに驚き飛び退くユウヤ。彼もメグミも臨戦態勢を取って変な笑い方のメリーさんの様子を伺う。
「あなた、ちょっとは腕に自信がありそうよね。少し遊んで貰おうかしら。くふふふふ。」
メリーさんは手に持った受話器を振り回して2人に襲いかかる。バネの効いた連撃にメグミはあたふたするが、ユウヤの方は全てを回避して
メグミのフォローもしている。ついには受話器を掴んでメリーさんに投げ返してきた。
「ふんふん。まあまあね。じゃあ次はこれでどう?」
投げ返された受話器を左肩に掛け直すと大音量で呼び鈴を鳴らす。
「「くうう……」」
思わず耳を抑えたユウヤ達。次の瞬間にはユウヤの後ろにメリーさんが現れて後頭部を強打する。
ドゴッ!
「ぐぇっ……」
「これで1人、次はあなたよ。」
余裕たっぷりでメリーさんはメグミに向き直るが、彼女は既に黄色い光を発していた。
「サンキュー、メグミ!」
「な、バカな!?」
倒れていたユウヤは復活すると、メリーさんの足を掴んで立ち上がる。そのままぐるぐると横回転し、ジャイアントスイングで壊れかけのコインランドリーに放り投げられた。
「きゃあああ!」
「メグミ、大丈夫か!?」
「ええ、でも油断しないで!まだくるわ……ょ。」
「バックスタブよ。油断大敵ってね。」
いつの間にかメグミの後ろに現れたメリーさんがメグミを平手打ちして彼女は倒れ込んで昏倒する。だいぶ脳が揺れてしまったようだ
「このおおおお!!」
頭に血が上ったユウヤは一気に速度のギアをあげて高速ストレートを叩き込む。が、2連のパンチは虚しく空を切る。
「この程度じゃ私は捉えられないわよ。」
すぐ後ろから声が聞こえて振り返りながら蹴りを放つ。しかしこれも当たらない。
「ほらほら、ニンゲン君頑張りなさ……い?」
シュバン!ズダダダッ!!
また後ろに回られて受話器で殴ろうとしたメリーさん。だがユウヤは急速に回転して、彼女の胸に4発の衝撃……拳が突き刺さった。
「そんな……私を捉えるなんてッ!」
「”光速”ストレート!オレの速度はまだまだ上があるんだぜ?」
常に後ろを取ろうとするメリーさんに合わせてチカラを開放して備えていたユウヤ。それは本当に光速なわけではないが、目にも止まらぬ早さという点では同じだった。
「あいたたた、ユウヤ、やったの?」
メグミは黄色い光で自身を癒すと起き上がってくる。
「ふふふ、楽しめたわ……あなた、強いじゃないの。」
メリーさんは少し離れてユウヤの腕を抜くと胸の穴が修復されて服ごと元に戻る。何が嬉しのか、彼女は笑ってユウヤを見ている。
「もっとたくさん遊びましょう?」
「うへぇ、面倒なやつに絡まれたもんだぜ。」
ユウヤは冷や汗をかきながら目の前の怪奇現象をどうしたものかと考えていた。
(胸を貫いてもダメージ無し、戦えば常に不意打ちを食らう。快楽愉快犯な超常現象を相手にするには、正面からじゃなく相手の目線で嫌がるような……そう、プライドをへし折るのが正解か?)
方針と覚悟を決めたユウヤはメグミに叫ぶ。
「メグミ!こいつはオレがなんとかする、先に行け!」
「ユウヤ、何をする気!?」
「心配するな、オレに考えがある。お前はその路地を進んでモリト達と合流するんだ!」
ユウヤはY字路の左側を指して指示を出す。そちらならモリトが来る可能性も高まるし、とにかく北上すればソウイチチームの誰かと合流できるかもしれない。
「……わかったわ。気をつけてね!?」
後ろ髪を引かれながらもメグミは走り出して夜の路地へ消えていく。
「ふうん。女の子を庇って格好いいわね。もしかして彼女だったりするのかしら?」
「そっちこそ、待ってて良かったのか?それとも実はダメージがあって回復に時間を使っていたのか?」
「ふふふ、くふふふふ。あの子は一度倒してるからね。私について来れるあなたと遊ぶために待っていたのよ。それより私をなんとかするとか、聞き捨てならない事を言っていたわね。」
「言葉通りさ!お前の動きでヒントを得られたんでね!」
ユウヤは確信を持っていた。目の前の女はまともに戦ってはダメだ。
目を光らせてこの場の時間の速度を変えていくユウヤ。素早く駆け出しメリーさんの後ろを取る。彼女は反応出来ていない。
「ふぅぅぅ。」
「ひゃっ!耳に息なんか掛けないでよ!!」
驚いて飛び退くメリーさんは左耳に手を当てて抗議する。
「やっぱり後ろを取られることに慣れていないみたいだな。」
「やってくれたわね!このメリーをコケにしてくれたお返しよ!」
メリーさんは自身のチカラでユウヤのすぐ後ろに転移すると、同じく左耳に吐息を吹き掛けた。
「ふぅぅぅ。」
「うっひゃぁ!」
背筋がゾクゾクして変な声をだすユウヤ。意外と上手くてびっくりする。
ゾクゾクするのはホラー的なソレだったのだがシチュエーション的にちょっと良いかもと思ってしまう男心にスケベ心。
「くふふふふ、可愛い声だしちゃって。何々、彼女を逃したのは私とオトナの遊びをするつもりだったからなの?」
メグミがこの場に居たら赤黒い津波が起きていただろう。別にそれを危惧して逃したわけではないのだが、そう指摘されてもおかしくない状況ではあった。
「この……調子に乗るなよ!」
ユウヤは再度後ろをとってメリーさんの身体を鷲掴みにする。
「きゃあああ、そんなトコ触んないでよ!」
「小さくて硬い……なんて残念な……」
「失礼ね!元は人形なんだから仕方ないでしょ!」
ノってきた2人は交互に後ろを取りに行ってお互いの身体にイタズラを掛ける。そう、下手に攻撃するからダメなのだ。相手のフィールドで相手の得意な技で上回り、プライドを折って打ち負かす。それが彼の立てた作戦だった。
ガブリッ!
「どう?意表を突いて右耳攻撃よ!」
「痛ってぇ、アマガミは優しく出来ないとカレシ逃げんぞ!?」
「う、うっさいわね!初めてなんだから仕方ないでしょ!」
「スキあり!!」
シュバン!後ろへ回って首筋を撫でる。
「ひやっ、こっちのセリフよ!」
シュバン!後ろへ回って背中をなぞる。
「ふぉっ、やるじゃねえか!でもここからが本番だぜ!」
もはや何の勝負なのか解らなくなってきたが、互いに後ろを取り合い相手を煽りながらY字路の右側を進んでいく。ユウヤもメリーさんも全力でチカラを使っての真剣勝負のつもりなのだが、傍から見れば素早くイチャついている人間と人外のカップルにしか見えない。
実際ゾンビ達の目を引いては居るが、なんだこいつらといった表情で見送られる。どちらにせよ普通のゾンビ達では彼らについていけない。
(この動き、この角度……相手の死角を突くのにもってこいなんじゃないか!?これは使えるな!)
ユウヤはメリーさんとの死闘?で不意打ちの理論を学び、速度と心理による「バックスタブ」を習得していた。
今や街中でシリアスなサバイバルが行われてる中、彼らだけは異質の空気を醸し出していた。
現代の魔王といいユウヤといい、時間干渉の持ち主は真剣に何かをすればする程冗談みたいになってしまうようだ。
それは類友と切り捨ててしまうことも出来るが、そもそも他と次元が違うチカラではあるが故に普通の人間からしたら異質にしか見えないというのが本当の所なのだろう。……タブン。
…………
「よしよし、感度良好っと。人形達に小型カメラを付けたのは正解だったわね。元はお風呂場の見張り用だったけど、役に立ってるわ。」
20時10分。ミサキは南下を続けて1軒の廃屋に身を寄せていた。下手に路地を通らずに民家の敷地伝いに進めば安全に移動できた。その代わり時間は掛かったが、女1人での行動ならば安全重視で正解だろう。
このエリアの南に大きな公園があり、東には歓楽街がある高級住宅地で”厳つい家”が目立つ。
それらを緩和するかのように、教会や昔ながらの信頼の厚い商店なども並んでいるエリアだ。
ミサキは人形を飛ばして周囲を警戒しながら状況整理と休憩中だった。
「アイカ達はこのままなら無事に西に抜けられそうね。フユミさんもその近くに居るっぽいかな。」
左手で人形の糸を操り右手でノートパソコンを操作する。器用さだけなら彼女が部隊イチであろう。人形をなるべく高く飛ばして周囲を一望させているが、本当にアイカ達が見えているわけではない。
アイカ達に渡したお守りにミサキの毛髪が入っており、その反応をアンテナ代わりの人形で受信しているのだ。カメラ付きなので実際の位置もだいたい解るのでとても便利である。
フユミに関しては少し前に西方面で派手な水竜巻が確認できたのでそう推測していた。
「あらやだ、ソウイチったら意外と近所に居るじゃない。ここから東、歓楽街の方ね。おブタさんには刺激が強い場所ね……」
ミサキはソウイチにはお守りを渡していないが位置を特定している。既に彼の体内にはいつぞやの治療の際に髪を埋め込んであるからだ。
更にその前には血液をナカジョウ色に染める術を施してあるので、特定は非常に簡単だった。
「南や南西は少し騒がしい。戦闘かしら?ユウヤ達が戻って来てると見て間違い無さそうかな。さて、状況も大体解ったことだし、私も公園を目指して移動しますか。」
ミサキは人形を戻してノートパソコンを閉じて背負う。
壁にかけていたスナイパーライフルを拾いあげて準備は万端だ。
「気になるのはなんでこの家に弾薬が落ちてたかだけど……やっぱりソッチ系の人達の住処だったってことかしら。」
何故かライフルの弾が棚に置いてあったのを既に回収していたミサキ。おかげで多少は生存率が上がったので深くは気にしない。
入り口のKEEP OUTの看板の前に出ると、その向こう側から呻き声が聞こえてきた。
「廃屋のおかげで一息つけたし、感謝しなくちゃね。ていッ!!」
ミサキは自身の身体にチカラを通して筋力を増強させ、目の前の看板を思い切り蹴り飛ばす。
「ぐあああぁぁぁ……」
ゴッ!っという鈍い音がして看板の石の重り部分がゾンビの頭に直撃、なすすべもなく倒れ込んだ。
「大当たりッ!……うわ、神父さんがゾンビになるとか世も末ね。」
ミサキは一応死体を確認するとそれは神父だった。恐らく近所の教会の者だったのだろう。
ミサキはそれ以上言及することもなく、4体の人形達を侍らせながら高級住宅街を歩み始めた。
お読み頂き、ありがとうございます。
ショウコはゲーム版ではコインランドリーで初めて出てくるチョイ役でしたが、小説版を書くにあたってかなり初期から登場しました。
それは今回の病院シーンを追加したかった為ですが、クリスマス事件の裏側も明かせたので正解だったと満足しております。
またメリーさんについてもゲーム版では唐突かつ説明もありませんでしたが、今回で経緯を明かせたのは喜ばしいです。
RPGだとあまり長々と説明出来ませんし、ガッツリカットせざるを得ませんでしたので……。