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83 シコウ

 


「ふー、ふー……今日もその、良かったわよ。」


「すっかり気に入って貰えて、こっちも嬉しいですよ。」



 2012年11月18日。昼間から時間を止めてクロシャータの相手をしていたマスター。あれからもせがまれ、週イチで彼女の寝室に訪れてはその痕跡を彼女の身体と部屋に残していた。


 繋がりを解くと滝のように溢れてくる。それを彼女は嬉しそうに掬って眺めている。


「そなたは際限が無いのか?これでは神と言えど身籠るかもしれないわ。」


「実際はどうなんでしょう?オレはまだこっちのコトに疎くて。」


「むう、そこはもっと嬉しい返答をだな……」


 クロシャータは期待した答えが返って来なくて若干がっかりする。マスターは基本しょうもない男なのだ。だが男女で過ごすという事は、こうして徐々に相手を知っていくコトでもある。


「人間の精をいくら受けても懐妊はないわ。前みたいに改変すれば別でしょうけど、私は暫くはもっと伽を楽しみたいわね。」


「本当にお好きですねぇ。ご依頼の箇所もだいぶ成長が早いですし。」


「ん、んっ。ええ。おかげでやっと女らしくなってきたわ。最近は視線を感じるようになったし感謝してるわよ。」


「それは良かった……と言いたいですが、この契約した方の大事な所をジロジロ見られるのは嬉しくないですね。」


 今度は意図せず望んだ答えが帰ってきて嬉しくなるクロシャータ。


「女神をも独占しようとは欲張りな男ね。あぁよいよい、謝罪は不要よ。むしろ嬉しいの。だからねぇ、もう少し楽しみましょう。」


「分かりました。もうベタベタだし浴室の方で致しましょうか。」


 風呂場でお互いの身体を清めつつ、再度気持ちを盛り上げていく2人。この後用事があるのだが、浴室外の時間は止めているので問題ない。


 2回ほど楽しむとまた身体を清めていく。


「そなたは洗うのも上手いな。よく心得ているわ。」


「どうもです。」


「でも良いのか?私を優先してくれてるのは嬉しいけど、○○○は他の厄介な案件も抱えてるのでしょう?」


 当主様とキサキの事である。彼女は今までの女性の中でダントツで世界について詳しいので、機嫌を損ねない程度に相談していた。


「まだ何かが足りないみたいなんで、それこそ魔王剣が完成してからの話になりそうですよ。」


 相手とシンクロしての改変では当主様は変えられなかった。

 世界のルールという外部からの干渉なので、内部からの改変を試みてもそれを埋められてしまって効果はなかった。


 キサキに関してはナカジョウ家の身体の再現が難しく、一般的な身体で試したら途中で拒否反応を起こして失敗した。

 こちらは魔王剣どころか更に何かが必要と考えている。



「運命に因われた悪魔の令嬢の解放と、人の身を作ろうとする土地神か。私が言うのも何だけど不思議な者に縁があるわね。」


 ついでに言えばあの世の閻魔様にもアプローチを受けている。


「いつか刺されそうな面々だけど、この契約書は良く出来てるわ。悪魔ならではの発想よね。」


「恐れ入ります。」


「まぁせいぜい大事にすることね。私の加護なら多少刺されても死にはしないから安心していいけど。」


「そもそも変な輩は近寄らせませんしね。地球でも大助かりです。」


 クロシャータの加護により、明らかな利用目的で近づく者たちを近づかせないのはマスターのストレスを和らげていた。

 ちなみに社長の黒判定だけは仕事にならないので除外してもらった。


「そうでしょう、そうでしょう。さて、名残惜しいけどお時間かしら。また今度、至高の時間を作りましょうね。愛しているわ、○○○。」


「ありがとう、XXXX。そう言ってくれて嬉しい。」


 迷いなく愛情の言葉をかける女神様。マスターからはそれを言うのはルール違反。代わりに彼女の本名を呼んでお礼を言う。

 好意を向けてくれる人にはなるべく感謝と敬意を返すのだ。



 …………



「こんにちは、ヒートペッパーさん。魔王剣は出来てますか?」


「よく来てくれた!もちろんだマスター。早速庭で試してくれ。」



 鍛冶の神の工房に移動すると、さっそく試作品が渡された。


 柄はロングソードの立派な物だが、付いてる刃は短剣サイズである。そもそも刃は潰されていて武器として間違っている感がある。


 ツバの真ん中にはピンポン玉より一回り大きい水晶玉が嵌められていて、それには精神力を貯められる仕様になっていた。


 マスターはソレにゆっくりとチカラを流し込んでいく。


「おおおおお、ちゃんと貯まってますよ?」


「当然よ。まぁ、このカラクリ事体は私じゃないけど。」


 ヒートペッパーは普通の体型の女性ながら鍛冶の腕は正に神。

 大抵の物は作れてしまう女神である。しかしマスターの注文したアレな剣はパーツ制作だけにとどまっている。


 同じく鍛冶の神のソートルフ。筋肉質な彼の見た目とは裏腹に地球で言う所の回路を使用したギミックが得意である。

 今回はパーツの設計や細工・組み立てを担当した。


「オレの計算通りだな。どれ、マスターよ。せっかくだから技もどんどん試すが良い。その上でビシバシ改良していくぞ!」


「はい、ではまずは基本の抜剣状態から……」


 マスターは短剣を構えて水晶にチカラを貯めつつ、心の中で”抜剣!”と叫ぶ。



 ドゴォオオオオオン!!



 突如剣が爆発し、辺りには爆音と土煙が広がった。


「オホッ、ゲホッ……」


「ちょっとソー君?昨日は完璧って言ってなかった?」


「はっはっは!こういう事も有るわな!なーに、モノ作りは試行錯誤の連続よぉ!」


 失敗も豪快に笑い飛ばすソートルフさん。

 この後、修理と調整を施して基本だけは使えるモノに仕上がった。



 …………



「はい、今日の検査はおしまいです。結果はこの後精査しますけど、どうみても母子共に健康そのものです。」


「ありがとうマキさん。お医者さんが来てくれて良かったわ。」


「私こそマスターさんに拾われて良かったですよ。ここまで奥さんを大事にする優しい方ですしね。」



 同日。魔王邸の診療所でマキの診察を受け、状態は良好との事でほっとする○○○。実はほぼ毎日受けててマキとも良好な関係を築きつつある。


「不思議なんですけど、ご懐妊した割に変化が無いですよねぇ。普通は身体のスイッチが入って、見た目も中身もお母さんになるハズなんですが……」


「そこは旦那との兼ね合いでね。”女”のまま”母”になる必要があるのかなと。今後を考えるとどうしてもねー。」


「羨ましい話です。でもマスターさんのアレを考えれば解る気がします。」


「パートナーとしてあの絶品にハマると抜け出せないわ。マキさんもハマってますものね。契約はしなくていいの?そろそろお注射もしたくなってるのでしょう?」


「恐縮です。ですが私はまだ恋愛というのが良く解りませんで、好きは好きなんですけどまだその時期では無いと思ってます。彼のお痴ん痴んは正に絶品、至高の存在ですけど。」


 情欲はあるが気持ちがついて行ってないマキ。現在はじっくりとオーラル行為に浸りつつ、気持ちを探っている所だった。


「正直ね。旦那も褒めてたわ。マキさんは多分脈有るわよ。彼の赤い糸に導かれたくらいですし。」


「そうだと嬉しいです。向こうじゃ認めてくれる人が居なかったですから。ん、結構他の女性の事とかお話する感じですか!?」


 顔が赤くなりつつマキが尋ねる。今まで意識して無かったが、今の口ぶりだとそうとしか思えなかった。


「もちろん!私が把握して許可しないと、タダの浮気じゃない。良い結婚生活の為とはいえ、スるならスるで管理は必要よ。」


 実際はマスターとは心を繋いでるので、話どころか5感と精神から得られる情報は全てバレている。


「うぇへへ、ちょっと恥ずかしいですね。」


「お互い様よ。マキさんだって毎日私のを見てるでしょ?他の子だって監視役で私の情事を食い入るように見てるし。」


 今は軽いスキンシップ程度だが、妊娠してない時はそれこそ生殺しの拷問かと思われるほどである。


 アブない時は混ぜてあげて、心の均衡を保つ時もあるくらいだ。


「それもそうでした。なんか凄いですね。同じ人を大勢で好きになって、それでも仲良くやっていけるって。」


「仲が良いに越したことはないわ。こんな閉鎖空間でギスギスするよりはね。」


「ふふふ、ここはみんな暖かくて素敵です。来てよかったぁ。」


「気に入ってくれて良かったわ。そろそろ旦那が来るから、今日も彼の”診察”をよろしくね。」


「はい!お任せ下さい。頑張って満足してもらいます!」


 うふふ、その意気よっと言いながら○○○は立ち上がって診察室の出口へ向かう。

 ちょうどその時マスターが入ってきて軽く見つめ合って抱き合う。


「○○○、状態はどうだった?」

「すくすくと育ってますわ、あなた。」


 そのままねっとりとキスを交わしてから自室に戻る○○○。


「今日も妻を診てくれてありがとう。」


「いえいえ。お仕事ですし、お綺麗ですし。」


 言ってから何を言ってるんだとハッとするマキ。慌ててお仕事の方へ移る。


「こ、こちらへどうぞー。相変わらず見せつけてくれますねぇ?って、なんか汚れてますけど爆発でもしました?」


「ああ、ちょっとね。調整したから問題は無い。でも心配だから”念入りに”診てくれないか。」


「ふふふ、相変わらずですねぇ。うりうり。このまま本気で私を毒牙に掛ける気ですかねぇ?では服を脱ぎ脱ぎしましょうねー。」


 服の上から彼の乳首をうりうりしつつ、脱がしに掛かるマキ。


 ○○○からの許可と応援を盾に強気で攻める彼女は、既に自覚も無しに青春・恋愛を満喫しているのかもしれない。



 …………



 ブォン!ブォン!ブォン!ブォン!



「うーむ、基本性能だけだと格好いい剣ってだけだなぁ。」


「お父さん格好いい!私も、私にもやらせて!」


「セツナにはまだ早いんじゃないかなー。爆発するかもだし。」


「ばっ、ばくはつ!?」



 11月23日。魔王邸にある体育館ほどの大きさの訓練場。マスターは試作型魔王剣を振りまわし、その性能を確認している。


 セツナはそんな父親を見て、目を輝かせて飛び跳ねている。

 今日は彼女の誕生日であり女性陣が巨大ケーキを作っている間、マスターが彼女と過ごしているといった形だ。


 何故マスターがケーキ作りに参加しないかと言うと、何時ぞやも書いたが彼はスイーツ系の料理が壊滅的だからだ。


「でもやってみたいなー。ダメ?」


「わかった。お父さんが守ってあげるから一緒にやってみよう。」


 うるんだ瞳と上目遣い攻撃にあっさり陥落したマスター。

 チカラを抜いた魔王剣を手渡し、セツナの後ろでしゃがんで一緒に魔王剣を握って彼女を支える。


「お父さんのお手々、あったかいね。」

「セツナの手も柔らかいし暖かいよ。」


 ニコニコ顔のセツナとデレデレ顔のマスター。誰かが見ていたら親ばかと突っ込まれること請け合いだ。


「これ、どうやって使うの?」

「白いチカラをこの水晶にちょっとずつ貯めていくんだ。」

「こうかな?わわ、まん丸のガラスに吸い込まれていくよ?」


 セツナの小さくて可愛い手から白い光の筋が柄に伝わり、水晶玉へ流れ込んで光が水のように貯まって行く。


「おお、いい調子だぞ。さすがは父さんの娘だ。」

「やったー!えへへ、それで次はどうするの?」

「次は心の中でこの剣がパカって開くイメージをする。」

「左右に分かれるの?」

「いや、この刃の部分から別れるんだ。」

「なるほど、さっきは光っててわからなかったんだ。」

「そのイメージを思い浮かべながら”抜剣”と叫ぶんだ。」


「うん、頑張る!いっくよー、”バッテン”!」


「!!」


 お可愛い間違いの起動ワードに気づき、すぐさま次元バリアを発動させるマスター。だが刀身はキッチリ2つに別れ、その内部から光の剣が形成された。


 だがそのまま光が溢れ出して正面の壁へビームが突き刺さった。



 ドゴォオオオオオン!!



「うきゃーーー!!」



 セツナは叫び声を挙げるがマスターがしっかりと支えている。やがて煙が晴れてあわあわするセツナの姿が見えてくる。


「ななな、何今の!?壁壊れてないかな!?」


「落ち着いてセツナ。ケガは無いか?」


「だ、だいじょうぶ。でもビックリしちゃった。」


「はい、ぎゅー!もう大丈夫だからね。」


「うん……うん。ひっく、うえええ……」


「よしよし。良い子だセツナ。お前は悪くないからな。ちょっと張り切っちゃっただけだ。な?、よしよし。」


 抱きしめて頭を撫で回してあやすマスター。ちらりとビーム砲の跡を見るとそこには既に爆発跡はない。


(ふむ、ワードはともかく抜剣のイメージは完璧だった。セツナはチカラの才能がずば抜けてるということかな。)


 魔王剣の基本システムはチカラを制御して刃に変える。

 これも、とある2つのマンガの武器を参考にしたものだった。


 普段短剣に見えてる部分は”鞘”であり、これを別れさせて水晶からチカラを注いで光の刃を出現させて自由に操るのだ。


 セツナのチカラは純度や密度が高いのだろう。つまりは才能がある。そもそもこの剣はマスターのチカラを基準に作ってあって彼と縁の有る者でないと使えない。


「セツナ、最初からあの威力は凄かったぞ。この剣はもう少し大きくなってからにしようか。その時はちょっとずつチカラを込めればいけるだろう。」


「本当?私にも出来る?」


「むしろ、お父さんより上手く使えるかもしれないぞ?」


「じゃあ、もっと大きくなって頑張るね。」


 その後マスターは一緒に飛び回りながら娘に技を見せてあげる。


 技を披露する度に娘がキャッキャと喜ぶのを見て、マスターもご満悦だった。



 …………



「「「セツナちゃん、お誕生日おめでとおおおお!!」」」


「ありがとー!ふーーーっ!」



 同日、セツナの6歳のお誕生日会が開かれた。

 今年はリビングではなく、高級ホテルの宴会場に巨大ケーキを持ち込んで文字通り飲めや歌え屋の大パーティーである。


 オトナになったと言い張るセツナの為に贅沢に行こうとしたマスター達の親バカ心である。



「なぁ、これはちょっと理不尽ではないか?」



 マスターは黒い鎖を通してキリコに声を掛ける。


 女性陣がセツナを取り囲んで盛り上がる中、マスターは部屋の隅で椅子と一緒に黒い鎖鎌に雁字搦めにされていた。


「理不尽じゃないですぅ。公平な協議の結果ですぅ!」


「今オレは民主主義の闇を見てるな。よもや娘の誕生日すら祝わせてもらえない日がくるとは。」



 普通だったらこの拘束を抜けるのは簡単だ。しかし実行犯の

キリコに抗議だけで済ませてるのは理由がある。

 彼のトモミとの付き合い方に対するオシオキなのだ。


「マスターが側にいるとセツナちゃん独り占めじゃないですか。唯でさえ今年は節操なく手を出してるのにヒドイと思いません?」


「たまたまだろう。その物言いの方がヒドイと思うけどな。ちゃんとルール通りにしてるぞ?回数が不満だったのか?」


「ち、違うし!!テンチョーがあの女にベタベタするからよ!契約もしてないのにあんな、あんな……」


 キリコ達はトモミとのやり取りが気に入らないのである。

 魔王邸の女性陣は彼がトモミを特別視していると思っている。


 最近実際した事と言えばキスを媒介にした情報交換くらいだが、その様子から情熱たっぷりに見えていた。単純に怒る者もいれば悲しむ者も居て、彼女達が結託して現状に至る。


 反発しても火に油なのでとりあえずは縛られてるのだ。


「”特別”ねぇ。だが初恋相手ってのは仕方無くないか?」


「だから問題なんですよ!開き直らないで下さい!」


 マスターは初恋という現象事体について聞いてみるが、キリコはそうは取らなかったようだ。言葉は受け手によって取り方が変わるから仕方がない。


「今のも面倒な勘違いなんだが……このままでは娘の誕生日を祝わない父親のレッテルを貼られかねんな。」


「そう思うなら今後は反省して下さい!」


「うーん、なら少し本音を話そうか。」


「「「!!」」」


 セツナを愛でながらも実はコッソリ聞いていた魔王邸ガールズ。ババッっと振り向き、徐々に全員が近づいてくる。


 そちらをチラっと見ると妻はこくりと頷く。○○○は既に彼の思惑をきちんと理解していた。その上で発言の許可を出す。


「トモミに関しては知っての通り初恋相手という意味では特別なんだろうね。もっと言えば戦友でもあるし、妻の様に心を繋いで戦ったこともあるしな。何を言い訳しても特別扱いに見られても、それは仕方ないと思ってる。」


「「「…………」」」


 心を繋いで戦った。つまりはお互い解り合えてるという事。

 恋心すら共有した相手。これはどうしようもなく特別だろう。


「でもマスターはその気持ちすら利用されて大変な事になったのでしょう?どこまでお人好しな――」


 キリコは若干トーンダウンして静かに聞いてくる。

 が、○○○が彼女を手で制して最後までは言わせない。


 トモミはあのクリスマスに彼の事を”認めて”いる。だからその話は今することではない。今のはただの前提の話だ。



「それでだ。彼女の事でやたら責められているが……。”特別”なのはキミ達全員同じじゃないか?」



「「「!!」」」



「思い出してみてくれ。キリコはオレの無意識のワガママを押し付けられてココに来た。本番は無くとも契約外で度々肌を重ねた。今はコイビトとしてデートも重ね、将来も地球で囲う事になっている。これが”特別”でなくてなんなんだ?」


「あ、あう……その、はい……」


 キリコはシドロモドロになって鎖鎌を解いていく。



「カナもだ。テロ活動の戦友で、初めてオレを求めた女でもある。数々の功績を認めて特権も渡してるし身体は理想を詰めて込んである。この先も一緒に居る事を望むし、折を見て子もなそうかと思ってる。」


「仰る通り、私が初めて旦那様のお痴ん痴んを(お口で)頂きました!ご用命の際には何なりと、いつでも待ってますよ!」


 嬉しそうな顔で、こんな時もぶれないカナである。



「シオン・リーア・ユズちゃんもオレのワガママを聞き届けて生まれてくれた。心を抉られるような仕事もアイドルも良くやってくれている。今後も家族としてずっと一緒に居て欲しい。」


「マスタぁぁぁ、うるうる。」

「わ、私は解ってましたけどね。」

「ま、まぁ当然よね!もう3人ともあげたわけだしっ」



「クマリはあの状況でオレを選び支えてくれた。オレが悪魔になろうが結婚しようが変わらず尽くしてくれたし、孤児院での仕事も指示以上に頑張ってる。オレは正式に家族として迎え、君が懸念していた件も望んで受けようと思うがどうだ?」


「えっと、それは……」


 クマリは○○○を見て迷っている。○○○は気にしないでと言った表情で背中を押しに掛かる。


「私も同意したから平気よ。このままじゃクマリちゃんの人生が勿体ないし。ルールは変わらず母屋以外で、ですけどね。」


「ぜ、ぜぜ是非お願いします!頑張ってうみ、うみみみ!」


 クマリは家族となる特別契約をしていないままだった。

 子供が出来た時の○○○への配慮だったが、それも今解消された。


「後でご両親に挨拶しにいこう。許して貰えるように努力する。」


「はい!」


 明るく返事をするクマリは、トモミの件はすっかり頭から吹き飛んでいた。



「マキについては――」


「待った!待って、マスターさん!今何か言われたら絶対私、どうにかなっちゃうから!私はまだ契約してないし、後でこっそり言って下さい!オープン・リーチはダメですぅ!!」


「遠慮しなくても……」


「ダメです!あ、ちょっと女心が解ってきたかも……とにかくあとでじっくり、ね?ね!?」


 マキは危険を察知して後回しを望む。そう思うくらいには意識していたし、マスターとの付き合い方も覚えてきた。


 それぞれが自分が特別なんだと教えられ、自覚したことでトモミへの忌避感を薄れさせていく。



「それであなた、私とセツナは?せっかくだし聞きたいなぁ?」


 もちろん声に出さなくても解ってはいるがそこは言って欲しい妻心。マスターは正しくそれを汲んで話し出す。


「2人とも紛うことなき特別だよ。一目惚れの初ナンパに始まり、お家騒動や勢力争いなどの様々な事件で命を助け合って――」



 異界の森に屋台ごと飛ばされた日、当主様が察知して接触を図る。ラーメンをご馳走してその御礼に次の日、悪魔屋敷へ招待された。


 そこで案内役の○○○と出会うことになる。その時マスターに電流が走った。


 ちょっと癖のある銀髪で白い肌に上等なメイド服を装備した女性。顔立ちもスタイルも良く、その上品な仕草も心を撃ち抜いてくる。


 彼女はそれまでマスターの女性の好みを打ち砕き、その瓦礫の上に新たな好みの要塞を建築した。価値観の上書きが発生したのだ。


 彼は気がついたら声を掛けていた。



「あ、案内は良いから……オレと夕食をど、どうですか?」


「あ……その、まずはテラスでお茶をいかがでしょう?」



 下手くそな誘いだったが、○○○は初めての男からの誘いに顔を赤くして乗った。


 夕飯には早かったのでお茶を提案した○○○。

 2人でぎこちない会話とお茶を楽しみ、その空気が至高の時間の在り処を証明した。


 待たされ過ぎてご立腹の当主様が乱入してきた事は、今でもよく覚えていた。結局3人でお茶をすることになり、興味を持った他の使用人がわらわらと増えて宴会にまで発展する。


 その後は○○○が攫われたり、他勢力との武力衝突の日々。

 最終的には強力な呪いを投げかけられる。


「あの呪いを○○○が身代わりで受けて、この家に運んで治療を施し……完全には治せなかった事を当主様に責められたな。」


「あれは動揺していたとは言え、当主様も言いすぎでしたわ。」


「屋敷を追い出されて残りの寿命をどう過ごそうかと歩いてたら、後ろから追いかけてきた○○○が抱きついてきて……」


「「「おおー!?」」」


「あの時は必死でしたもの。ここで逃したらダメだ!って。」


「驚いて振り向いたら何も言わずにキスを……もうこの辺でいいか。」



「「「そこを詳しく!」」」



「うふふ、あの時は2人とも本能と欲望むき出しで――」


「○○○、その辺で。」


「はーい。でも良い思い出よ。こうして新しい命を授かったわけだし。」


 ○○○はセツナを抱きしめてスリスリする。それを受けてカナの目が輝き出した。


「つまり、それがセツナちゃんの誕生秘話カナ!?しかもお外でハッスル!?さすが旦那様、私より高度な――」


「カナの特別、撤回していい?」


「ダメです!!すみません、黙ります!!」


 容赦なく踏み込むカナを黙らせるとマスターは続ける。ちなみにその日は攫うように寝室に移動してから行っている。



「そんな流れで○○○は唯一、心から一緒に居たい、結婚したいと思った相手だ。セツナはそんな○○○との、オレの初めての子供だ。2人はとても大事な、特別な存在だと思っている。」


 マスターはそれまでに気になる人が出来ても、「幸せになってくれればいい。」とだけ思って手助けをするだけに留めていた。一緒に暮らそうという発想には至らなかった。


 自身がそう出来る自信が、全く無かった所為である。


 だが○○○だけは……それまでの経緯もあるが、結婚して一緒に暮らそうと決心する。そしてその旨を当主様に伝えて悪魔に昇華する事になったのである。



「つまり、今ここにいる皆は全員オレの”特別”なんだ。だからあまり他の人を悪く言うのはやめて欲しいかな。もちろん変な人に絡まれそうなら注意して欲しいけど。」


「わ、わかったわ。変に嫉妬してごめんなさい。」


「「「ごめんなさい!」」」


 キリコはぺこりと頭を下げて謝罪する。それを追って皆も口を揃えて謝ってくる。


「わかってくれれば良いよ。そういうことでセツナ、誕生日おめでとう。」


 セツナはケーキの皿を持ってマスターに近づいて胸に飛びつく。


「ありがとう、お父さん!詳しいお話はよく解らないけど、みんなが大事なのはわかったよ!」


 笑顔のマスターは娘を左腕に乗せて右手で頭を撫でてあげる。


「良い子だ、セツナ。よしよし、ケーキを食べようか。」


「はい、お待ちー!」


 マスターのモノマネをしながら自分のケーキにフォークをたてて”あーん”をしてくるセツナ。


「ほあっ!?」


 あまりの可愛さにちょっと思考が止まったマスター。


「あーん、もぐもぐ。うん、美味しいよ。」


「えへへ。お父さん大好きー。」


 この後は恒例のセツナの可愛いところ選手権になる。

 今年はセツナもみんなの大好きな所をあげて行き、大いに盛り上がるのであった。


 この日それぞれが”特別”であるという定義をしたことで、翌年のトモミとの協議では若干おおらかな判定を下す事になった。



 …………



 親愛なる級友達へ。この度XX町立X小学校の同志と旧交を温める機会を作ることにしました。

同窓会を開くに当たって開催委員会は趣向を凝らした催しを用意いたしました。

 ぜひ奮ってご参加くださいませ。ご家族の参加も可とします。


 日程は2013年2月14日から16日の3日間。XX県XX市のXXXXホテルにて開催します。


 なお平日開催による参加者の負担を鑑み、旅費・滞在費は全額当委員会が負担します。


 XX町立X小学校6年X組同窓会企画開催委員会。



「こんな凄いホテルで同窓会か。しかも無料だろ?」


 駐車場にて招待状を確認していた男が隣に声を掛ける。


「オレ達の中でこんな成功したヤツって居たか?」


「いや、精々この前選挙に出たヤツか……エリートコースの警官くらいじゃね?あとは音楽家とか。」


「でも、あいつらだって知らないって言ってたぜ?」


「「「うーん……」」」



 2013年2月14日11時過ぎ。

 同窓会に参加すべくホテルの駐車場に辿り着いた今年33歳の男達。崖上のホテルを眺めながら首を傾げていると、続々と参加者達が車で現れる。



「わー!?懐かしい顔ぶれね。みんな元気してた?」


「うわ、お前誰だよ!化粧濃すぎじゃねぇか?」


「開幕失礼ねー、そんなんじゃまだ結婚してないでしょ?」


「うぐぐ。男はともかく女は変わりすぎて解らないんだよ。」


「それよりなんでこんな所で溜まってんの?ホテルはこの先なんでしょ?早く行きましょうよ。」


「ああ、取り敢えず移動しながら話すか。」



 駐車場から山頂のホテルへは、螺旋を描くように敷かれた道路を上っていく。



「うっわー、綺麗ねー。こんな所で皆に会える日が来るなんて企画した委員会の人達には感謝しなくっちゃね。」


「それなんだがよ、誰が委員会を立ち上げたか判らないんだ。」


「有力候補は軒並みハズレだったしね。」


「そっかー。でも飲み会が始まれば嫌でも解るでしょ。」


「飲み会って……お前の育ちが伺えるぜ。」


「ほっといてよ!」


 大きな螺旋を上がると、目の前には庭園が広がっていた。

 その先にお城みたいなホテルがどっしりと構えている。


「「「わああああ、綺麗だわ―!」」」


「「「うへー。凄いなこれは。」」」


 感激しながら進み、入り口の扉を開ける。ぞろぞろとホテル内に入ると受付と思われる女性が声をかけてきた。


「X小学校の同窓会の方ですね?お待ちしておりました。」


「遠路はるばるようこそ!まずはこちらをどうぞー!」


 桃色髪のスーツ姿の女性と黒髪の快活そうな女性が挨拶し、赤い装丁のアルバムが配られる。

 先頭の男が開いてみると、中身は空っぽである。


「こちらは此度の会で使用するアルバムです。催し物で使用しますので、大切にお持ち下さい。」


「チカラの籠もった特製品ですので、邪魔にはなりません。」


 黒髪の女性の方が、意思1つで大小に切り替えて見せる。


「ほおー、世の中便利になったもんだなぁ。」


 わいわいざわざわと感想を言う参加者にアルバムを配ると、

 食堂の方へ案内される。後続は別の女性が担当するようだ。


「「「!?」」」


 スッ……っとなにか違和感を覚えた瞬間には全員が食堂へ

 移動しており、それぞれの席へ座っていた。


 丸テーブルに4人ずつ座ったクラスメート達。目の前には既に紅茶が用意されている。


 当時のクラスメート約30名と、人によっては旦那や子供など家族で来た者もいるらしい。食堂のカーテンは開いており、青い空が見える。


 食堂の端には高くなっている場所がある。そこにはマイクやスピーカーも用意され、開催側が使うステージなのだと思わせる。


 ピンポンパンポーン!


「本日は遠路はるばる当ホテルへお越しいただき、ありがとうございます。」


 きょろきょろ見回していると、懐かしの校内放送を模した放送が始まった。音質もチャイムも当時を再現していた。


「これより同窓会企画開催委員会よりお知らせ致します。どうかそのまま楽にしてお聞き下さい。」


 ざわざわ……ついに謎の開催者が現れると聞いて会場は期待と興味に満ちていく。


 シャァァァア!


 急に全てのカーテンが閉まり、真っ暗になったかと思うと

 ステージがライトアップされて嫌でも注目させられる。


 壇上には2人の仮面の人物が登ってマイクに向かう。


 白いフリフリドレスを着た女性が黒い厨二病衣装の男性に

 お姫様抱っこをされて現れ、マイク前で女性は降りると2人はうやうやしくお辞儀する。


 ピエロ的な仮面は見る者を不安にさせるが、怖いもの見たさもあってより注目される。


「皆さんこんにちは、私達は同窓会を企画した委員会の2人です。」


 すこし間を取ってから白ドレスの女性が挨拶を始める。



「今日は皆さんに、ちょっと殺し合いを……あいたっ!」



 スパァン!と軽快な音とともに仮面の女が男にハリセンでしばかれる。


「ええっとごめんなさい、冗談です。」



「「「…………」」」



「私も今日という日を楽しみにしていました。せっかく皆が集まったので、楽しく推理ゲームをしようと思います。」


「スイリ?ミステリ小説みたいな?」

「もしかして、だからこんな山の上で?」

「おいおい殺人事件はごめんだぜ?」


 ざわつく会場にしてやったりな態度の女性だが、仮面で見えない。


「はい、まずは説明しますね。お題はズバリ、私達がクラスの誰なのかを当てる事!もし2人とも当てられたら、豪華かもしれない景品をプレゼントしちゃうわ!」


「「「おおお~~~!」」」


 プレゼントと聞いて、更に興味を持つ参加者達。


「みんなには空っぽのアルバムをお配りしてると思います。このホテルには各所に私達のヒントが隠されており、それを見つけてアルバムに入れていくと自ずと答えが解るようになってます!もちろんそれはヒントでしかないので、自力で当てても良いわ!」


 仮面の女の解説を注意深く聞く者、暗い中周囲を探ってこの場に居ないものを探そうとしてる者もいる。すでにゲームは始まっていると言っていいだろう。


「いいですかー?期限は明日の夕食時まで!誰か質問はありますか!?」



 その問いに食堂中からズバババっと手が挙がる。



「わーお、真剣に取り組んでくれて先生嬉しいなぁ。みんな

 真面目になったんだねぇ……」



 その反応に食堂中で失笑の嵐である。実は担任の女性教師も来ているが、彼女も苦笑いを隠そうともしない。当時の苦労はそれはもう、大したものだったのだろう。


「それではそこの……誰だっけ、男の子!質問をどうぞ!」


 開催側なのに覚えてないのかよ!と言いたげな顔で立ち上がり、マイクを握る哀れな元男子。



「あのな、トモミ。こんな所で何やってんの?」



「うわあああ、わああああ!なんで当てちゃうの!?名前も覚えてないような子に速攻でバレるなんてえええ!!」



「「「あはははははは!」」」



「ヒドイなおい。普通に考えれば解ることだぞ?連絡取れる連中はみんな知らないと言い、あとは行方不明になったお前くらいしか候補は居ないだろう。」


「がーん!せっかく何日も前からホテル中にヒントを仕掛けて回ったのに!!そんなデリカシーの無い男だから、名前も覚えてもらえないのよ!」


「うぐっ!!それは関係ないだろう!?」


「「「あはははははは!」」」


「言っておくが大体お前に気がついてたぞ?隣の男の方は判らんけど準備も頑張っただろうから、説明中は乗ってあげたじゃないか!でもまぁ無事で良かったよ。話を進めてくれ。」


「はい、そういう訳で開催者の1人はトモミさんでした!」


「ううー、もっとハラハラドキドキなゲームにしたかったのにィ!」


 仮面の男が座り込んだトモミの頭を撫でながら進行を代わる。既に参加者たちは彼が誰なのか、記憶を探り始めていた。


「ところであんたはなんて呼べば良いんだ?」


「普通に仮面君とでも呼んで下さい!」


「はぁ……?」


「後はオレを当てればプレゼントを手に出来ますが、長旅で疲れたでしょう。まずは昼食の方は如何でしょうか。本日は優秀な料理人達をお招きしており、豪華な昼食が既に出来上がっております。存分にお楽しみ下さい。」


 シャァァァア!と再度カーテンが開かれて部屋が明るくなる。それと同時に仮面の男は姿を消している。


「「「わあああああああ!!」」」


 パチパチパチパチ……!


 豪華な昼食と聞いて、拍手喝采大歓迎なクラスメート達である。トモミは気を取り直してマイクを握って進行する。


「それでは配膳の方、よろしくお願いします!。行き渡る間にルールの補足だけ致します。期限は明日の20時、夕食時にそれぞれ答えを紙に書いて渡して下さい。そこに正解があれば私達からのプレゼントをお渡しします。それまでは敷地内でしたら探索は自由、必要な物があればスタッフに伝えて下さい。大抵の物はご用意いたします。」


「あ、いつの間にか男の方が居ないぞ!?」


「しまった、明るくなった時か!?確認しそびれた!」


「うふふふ、彼は難しいですよー?そうだ、探索は自由ですが客室はやめてね。マナーは守って楽しい同窓会にしましょう!」


「「「はーい!」」」


「それでは乾杯の挨拶はセンセーにお願いしましょう!」


「ここでそう来るの!?ハードル高くないですか!?」


「「「あははは!いいぞーセンセー頑張れー!」」」


「はぁ、何時まで経っても手の掛かる子達なのね……」


 懐かしそうに苦笑いしながら壇上へ向かう元担任。


 トモミはマイクをくるくると回して格好良く渡そうと試み、手が滑って最前列の男の頭にHITした。



 …………



「こんな早くバレちゃうなんて……」


「仕方ないよ。バレたなら皆と食ってきたらどうだ?きっとみんなは歓迎してくれるよ。」


 控室にしている物置で、食堂の様子をチカラのスクリーンで映しながら食事を取るマスターとトモミ。狭いのでみかん箱に腰掛けて密着状態である。


「あんな恥ずかしい思いして顔出せないわよっ。良いの、私はこの控室から皆の電波を拾って楽しむから。」


「そんな陰湿な女の子だったら惚れてなかったんだが。」


「ッ!!」


『当時の話だからね?』

『もう、解ってるわよ。』


 ちょっと不安になって妻へ言い訳するマスター。妻からはしょうがないなぁと言った感じの口調で返事が来る。


「もう、私は○○ちゃんと食べたいのよっ。」


「ッ!!」


「へへー、お返しだー!でもここに居るのは意味があるのよ。長年行方不明の私が居たら、話題を独占しかねないじゃない?」


 それはトモミの皆への気遣いだった。もちろん隣の男とこうして一緒にいるというのも理由の1つではある。


 ちなみにこの一帯は結界が張ってあり、トモミやマスターがバレても外へ連絡が出来ないようになっている。敷地内ならいくらでも通信は可能であるのでその点はバレにくくはある。


「ああ、みんなが楽しむっていうコンセプトからは外れてしまうって事だな。尚更オレはバレないようにしなくちゃなぁ。」


「○○ちゃんは有名人になったもんねぇ。私がバレたのは予想外だったけど、おかげで皆楽しく食事が出来てるみたいだし良いか。」



 モニターの向こうでは、会場の景色についてや開催者の話題。そして各自どういう生き方をしてきたのかなどの話題でもちきりだ。元担任の先生もあちこち引っ張りだこになって談笑している。


 マスターに関しては記憶が無いのでそうそうバレはしない。


 中には当時の卒業文集やアルバムを持ち込む女の子も居て、

 その中身をみれば辿り着きそうではある。しかし別にバレても構わないように準備はしてある。


 みんなが揃うのが目的であって、それらは唯のスパイスなのだ。



「この後は各自探険してもらってお風呂を解放して、宴会を開いて……ああ、楽しみだなぁ。」


「そうね、私もよ。あ!覗いちゃダメだからね!結婚してる子が多いみたいだし。」


「覗きなんてしないって。する必要は無くしてくれるんだろ?」


「ッ!!もうっ、もう!」


「冗談だよ。そろそろ今後の予定を伝えに行くか。」


「はーい。家族風呂の予約もしておくからね!」


「ッ!!」


 お互いに気持ちを煽りながら進行する2人。こっちはこっちで2人きりの同窓会を楽しんでいるように見えた。



 …………



「あ!あったよ!こんな所にも当時の写真!」


「わー!運動会ね、みんな若いわねー。懐かしのブルマ姿!」


「こっちは書類か?うわ、0点の答案じゃねーか!」


「これは給食の献立表?なにがなんだかわかんねーよ。」


「これは授業風景の写真?こんなの誰が撮ったの?」


「こっちは合唱コンクールだ。懐かしいな、おい!」



 2月14日午後。庭園や各種施設を探索するクラスメート。

 物陰や連鎖する仕掛けなど、様々な所に当時の写真や資料が隠されていた。中には給食の献立表なども紛れている。


 当時の写真は撮られた覚えのない物も多数存在した。


 理由は簡単、マスターがタイムトラベルで撮ってきたのだ。もちろんステルスモードなので、バレてはいないが完全に不審人物である。タイムトラベルは大変な危険行為ではあるが、撮影程度なら歴史に干渉しないという判断で行われた。


 写真の選別の際、トモミと○○○の監修が入っているので健全な物しか配置していない。別にストレートに不健全な物は無かったのだが、マスターのフェチズムを知る2人は断固として譲らない物も多かった。


『うなじとかプールくらいは別に良くないか?』

『変なフェチの人がハァハァするからダメです。』

『個人的に渡すのも恥ずかしくてダメなレベルよ。』


 実際、撮影方法を見れば法律的にもアウトである。


 そんな会話がありつつ選別されたお宝写真や資料はどんどん彼らのアルバムに収まっていく。


 これも1つのギミックで、誰かがアルバムに収めればそれが全員に共有されていく。多くを見つければ見つけるほど、お土産になる思い出の品が増えるという寸法だ。


 アルバムを埋めていけばマスターのヒントがアルバムの最後の方へ表示される仕掛けにもなっていた。


 ピンポンパンポーン!


「皆さん、4時になりました。大浴場が1時まで使用可能です。ゆっくり疲れをとって下さい。家族風呂をご予約の方々も、楽しんで下さいね。夕食は20時からとなっておりますので、それまでに食堂の方へ移動をお願いします。」


 ピンポンパンポーン!


 ホテルの敷地中をゴソゴソしていた面々は、放送を聞いて引き上げていく。みんな疲れながらも生き生きとした表情だ。



「すごい景色ね。あんな所に遊園地もあるわ。」


「そうでしょー。明日はあそこで遊んでも良いから今日の内に打ち合わせしておいてね!もちろんチケットはタダよ。」


「いいの!?当時気になってた子がちょっと格好良くなってたし、フリーらしいから誘っちゃおうかしら!」


「おおっと?これは私がキューピッドになってしまうかー?」



 大浴場の女湯では庭園を散策していた女性達がいち早く入浴していた。そこにはトモミも混ざっており、ガールズトークに花を咲かせている。


 もちろんそこには謎の光も湯気もなく、いろんなアレやコレがさらけ出されている。……本音トークの話ですよ?


 年齢的にも美しさに差が出てくる頃である。それは良し悪しでの評価ではない。例えば人によっては母の側面を醸し出したり、20代の美しさを努力で保ったりとそれぞれ個性があふれる美しさを持っている。


「ねえ、行方不明で苦労したにしては……お肌若くない?」

「そ、そうかしら?みんなと変わらないわよ?」

「明らかに20代よねぇ。どんな方法よ、教えてよぉ。」

「もしかしてあの男?このトシでお姫様抱っこしてたし!」

「別に良いじゃないそこは!私も恥ずかしかったのにぃ。」


 お肌がだいぶ気になりだした同級生がジロジロと観察してくる。30代でフリフリドレスお姫様抱っこ。速攻で正体もバレていてトモミは顔からファイアブレス状態だった。


「それにしてもどうやってこんな壮大な同窓会を開いたの?もう1人の彼とはどんな関係?そもそもなんで――」


「ちょっと、そんなに一気に答えられないわよ!」

「だってぇ、行方不明って聞いてたからさー。」

「色々あったのよ。人生2つ分くらいね。」

「なによそれー。ね、ね!やっぱり彼とはそういう!?」


「ある意味1番そこがややこしいのよねぇ。キスはたくさんしてるけど……」


「「「そこを詳しく!!」」」


「ちょっやああああああああああ!!」


 ハイエナの巣窟でうっかり失言したトモミは、散々揉みほぐされて自白を迫られる。


「ここは薄いしここは整ってるし……これは黒ね!」

「失礼ね、まだピンクよ!」


『何を言ってんの?』


そこへ空気の読めない男からのテレパシー。


『きゃああああ、聞かないで!!こうなったらチカラで!』

『!?』


 ぶわあああああああ!!


 絡んできた3人のクラスメート達に「精神干渉」の光のモヤを放ち、落ち着かせていく。催眠状態になった彼女達をならべて、お返しとばかりに自分が触られたり見られた所を観察する。


「タダでは触らせないからね。お代は頂くわよ。」


 じっくり自分と比べて同年代の女性のデータを取得してく。


「ふーむ、この子は子供2人産んでたわよね。なるほど、こうなるのか。こっちは……頑張ってるけど大変そうね。少し気を張らせてあげてハリを作ってあげましょう。」


 ぺたぺた触ってたらザーーっと浴場の出入り口のドアを滑らせる音が聞こえた。マズイと思ったときには既に遅く、後続の入浴者は口に手を当てて驚いていた。


「ト、トモミってそっちもアリなの?邪魔したわね!」


「ち、ちがうのよおおおおおおお!!」


 ぶわあああああああ!!


 結局今見たことをチカラで忘れさせて普通に入浴してもらう。



「はぁ、何やってんのよ私は……」



 級友を正気に戻した後は身体のお手入れを念入りに行う。面倒事が続いて思考回路がぐちゃぐちゃになっている。


 ため息つきながらのその姿に何かを察した級友達。


 結局またマスターとの関係を問いただされて、逃げるように退室するトモミだった。



 …………



「みなさんお集まりになりましたね。探索やお風呂は楽しんで頂けたでしょうか。」


「…………」


「今夜は和食を中心に一流料理人が自慢の腕を振るってくれました。また、幾つか催しも用意してますのでお楽しみ頂けたら幸いです。」


「…………」


 料理が運ばれていくが、トモミはずっと黙って俯いたままである。仮面も着けたままで、微動だにせず固まっている。


「あの、トモミ?どうした?調子悪いなら下がっててもいいぞ。」


「違うの……」


『色々恥ずかしくてツライ……でも楽しみたい。』

『んん?ダメそうならオレにくっついてるかい?』

『もっとダメになりそうじゃない。』

『じゃあこのまま行くか?』

『くっつく。』


 ぎゅー。


 ざわざわ……


「はい。ちょっと彼女は楽しみすぎて心が大変らしいので、このまま進行しますね。暖かく見守ってあげて下さい。」


「なあ、仮面君よ。君は彼女とどういう関係なんだ?」


 傍から見れば司会中に急に見つめ合って抱きつかれたマスター。さすがに参加者からもツッコミが入る。


「説明が難しいですが、一言で言えば互助の関係ですね。」


 ざわざわ……


「君は、彼女の行方不明と関係あるのか?」


 ツッコミを入れた男はマスターの仮面を睨みながら問う。

 まあ疑うのも無理はないだろう。


「オレが彼女の世話を始めたのは2年半くらい前からです。彼女が居なくなったのはもっと前でしたよね?」


「その世話っていうのは?」


「生活基盤を用意してあげて、ここ半年くらいは同窓会開催の為に毎月会ってたくらいですよ。これ以上はプライベートのことなので勘弁してあげね。」


 背中に回ってぎゅっとしているトモミをチラ見した彼は、そこに信頼関係があるものと判断した。


「……気になることは多々あるけど、どうやら善意での行動のようだね。わかったよ。邪魔してごめん、続けてほしい。」


 ツッコミを入れた男は深追いはせずに引き下がる。

 食い下がっても自分が悪者になるだけと判断したようだ。


「はい!皆さんオレの事が気になると思いますが、紛れもなく同級生です。トモミとの事も誤解なきようお願いします!」



 一同が同意する雰囲気を出したのを確認して続ける。



「さあさ、皆さんの前には極上の飲み物と料理が並び終わった頃だと思います。そろそろ乾杯したいところですが――最初にお願いします。オトナになったのですから節度だけは守って下さいね?当時の好きな人とラブリーなハプニングがあっても責任は取りませんので!!」



 ざわざわ……

 と、当然だな。チラチラ。


 クスクス……

 やだもー。チラッ、チラッ。



「それでは僭越ながらオレが音頭をとります。X小学校6年X組の皆さんの過去と未来に!乾杯!」


「「「かんぱーーーーい!!」」」


「「「わああああああああ!」」」



 歓声が上がる中、トモミはマスターにくっつきながらも片手でグラスを上げていた。


「はい、ここでシェフに解説をお願いしたいと思います!」


 マイクをNTのグループのシェフに渡して引っ込む2人。すぐさま受付や給仕バイトで雇ったサクラとアオバが囲んでくる。


「マスター、彼女といつの間にそんな仲になったんですか!?」


「堂々と浮気されたみたいで嫌なんですけど!」


 サクラからすればキリコと同じで彼女が異質の者にしか見えてないのだろう。アオバは単純な嫉妬心からの発言である。


「2人とも勘弁してくれよ。今日はトモミが主役なんだぞ?それにこの同窓会はオレにとっても大事なイベントなんだ。」


「「う……ごめんなさい。」」


 いつもよりやや強めの口調に、察した2人は素直に謝る。


「○○ちゃん、いいのよ。お2人も彼の事借りてごめんなさい。」


 トモミはチカラで関係を理解して謝罪しておく。


 関係についてはマスターから聞いていて、サクラはサイトに偵察に来たもう片方だという事も思い出していた。


「この辺のことはきちんと妻とも話し合っている。キミ達の立場に不利益を落とすものでないと認識してくれ。」


「はい、確認しました。申し訳ありません。アオバちゃん、仕事に戻るわよ。」


「はい!マスターさんも程々でお願いしますよ!?」


 発言の事実とニオイを確認してさっさと手を引くサクラ達。ぱたぱたと去っていく2人を見送り、マスター達も次の進行に備える。


「しばらくは料理解説が続くだろ?その後はミニライブで、30分程したら明日の説明をしてオトナの自由時間だ。」


「その自由時間、本当に私が貰っても良いの?」


「さっきのを気にしてるのか?君が凹むとオレが悩む事になるからオレの為にも気にしないでくれ。」


「うふふ、なによそれ。」


 穏やかに流れる時間。ようやく落ち着き出した心。2人はシェフの解説を聞きながら、各テーブルを回って級友達と談笑するのであった。



 …………



「ね、ねぇ?あんまり見ないでよね。」

『もっとじっくり見て欲しいなぁ。』


「常々思うのだけど、女って面倒だよね。」


2重に主張してくる目の前の女にマスターは感想を漏らす。


「そんなしみじみ言わないでよ!」


 初日のプログラムが全て終わり、本当に家族風呂を予約した

 2人は脱衣所の時点でグダグダだった。


「女からしたら男だって面倒よ!○○ちゃん、節操ないし!」


「それは言えてる。お互い様だよな。はやく入ろうよ。」


 適当な落とし所を適当につけて先を促すマスター。お互いにタオルを巻いた状態で浴室へ向かう。


「おー、良い星空だな。夜景も中々だぞ?」


 それは魔王邸の露天風呂から見える宇宙とは、また違った趣のある景色だった。


「本当ね。色々有ったけど無事に開催できてよかったわ。」


 ザバーー……ちゃぷん。


「「…………」」


 かけ湯の後。湯船の中で並んで座ると、しばし沈黙の時が流れる。お互いの息遣いや仕草を感じて楽しんだ後、その沈黙が破られる。


「タオルのままでごめんね。これを取る前に、話がしたくて。」

「ああ。解ってるから気にしなくていいよ。」


「うん。……私、この先どうしたらいいのかな。」

「夢を叶えるんだろう?恐らく手伝えるよ。」


「でもそれは、借りを増やすだけよ。」

「君の夢は世界に抗う物だ。オレも似たような事をしている。」


「でも貢献したことにはならないでしょう?」

「貢献ね。オレが過去、どれだけ助けられたと思ってるんだ?」


「嘘よ。私は流されて貴方を利用しただけ。」

「今日は同窓会だよ?オレは出会った頃を言ってる。」


「普通のクラスメートだったじゃない。」

「普通が救いになる者も居る。今なら解るだろう?」


「ずるいわよ。」

「ずるかったな。」


 今は単純な口説きではなく借りの返却を考えねばならない。


「「…………」」


「貢献だけで行くとオレの家に住み込みになる。」

「う、うん。」


「でもそれでは夢が遠のくかもしれない。」

「……うん。」


「半端に両立すると、君が世界の敵になるかもしれない。」

「ふぇ!?」


「何もかもを手に入れることは出来ないってことだよ。」

「選んで覚悟を決めろと言うことなのね。」


 だからこそ○○○はよく話し合えと言ってきたのだろう。


 トモミはうーん、と色んなパターン考えてみる。しかし出てきた答えはどれも芳しい物ではなかった。


「どれを選んでも、新しい借りが増えていく感じなのよね。なら決めたわ。私は今のまま店を続ける。その上で可能性が見つかったら、○○ちゃんに貢献するわ。」


 じっとマスターを見つめて答えを伝える。


「ずるいかな?」

「ずるいかもな。だけど多分、正解だ。」


(やっぱりねぇ。でも今だと何も出来ないしなぁ。おや?)


 ちらりと視線を落とすと湯を通して歪んだタオルが見える。


(うーん、男の子だもんねぇ。)


 そもそも2人とも望み、期待して今の状況があるのだ。ここは1つ、家族風呂を予約した自分から仕掛けるべきだろう。女からてはハシタないという話は蹴っ飛ばして世界の誰かにパスしておく。


「忘れてたけど、バレンタインデーだったわね。」

「ああ、そうだね。」


 はらり。彼女はタオルを取り払うと湯船の外に畳んで置く。


「ッ!?」


「ふふーん。」


 明らかに動揺しているマスターを見て満足げな表情のトモミ。


「チョコ、用意してないから代わりに、ね。でも今日はお互いの尊厳を守るだけ。今の私達はそれくらいが良いと思うの。」


 最後まですること無く、かと言って何もない訳ではなく。


「そういう事か。なら、そうしよう。」


 それに同意した彼は、はらりとタオルを外して近づく。


「ッ!?」


 明らかに動揺しているトモミを見て満足げな表情のマスター。


「では失礼して、頂きます。」



「「あむっ……」」



 止まった時間の中で重なる2人の影。


 最後まではしないがそれでも満足するまで、何度も何度もお互いを攻略する悪魔と魔女だった。



 結果、全身の昂りが収まらなくなってしまった彼女。

 魔王邸の診療所へ運ばれて診察を受けてる最中も、過敏になった身体は大変そうであった。


「うーん、うーん……もう、だめぇ。なんで、こんなに……」


「マスターさん相手だとこうなりますよねぇ。つんつん。」


「だから下手に手を出すと~って言ったのに。つんつん。」


「うーん。ま、まだ足りないの?うーん……うーん。」


 診察の後、ベッドに寝かされてマキと○○○にほっぺたをつつかれるトモミ。今まで経験したことの無い深い感覚に、彼女は悶え・うなされていた。


 マスターのチカラで治すことも出来るが、コレも勉強だと魔王邸時間で数日間身動きが取れないままにされたトモミだった。



お読み頂き、ありがとうございます。

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