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71 オフロ

 


「「「オーナー、頼む!話を聞いて下さい!」」」


「旦那様は私に会いに来てくださったのですよ?」



 2011年5月13日。セツナや孤児達と院の庭で遊んだ後、院長室でクマリに確保されていたマスター。男の従業員3人が必死に話を聞いてくれと訴えてきた。


「クマリ、セツナを母屋へ連れて行ってくれ。妻には風呂に入れるよう伝えて貰えると助かる。セツナ、パパはお仕事のお話があるから良い子に出来るかな?」


「で、出来るよ!今年でもう5歳だもん!」


 口ではそう言うが名残惜しそうな目と仕草でモロバレである。


「でも後からなるべく早く来てくれたら、パパの事をもっと好きになるよ?」


「そうかそうか。じゃあ頑張らないとな。クマリ、頼むよ。」


「はい、旦那様。私も早く来て頂けると――いえ、失礼します。」


 願望を漏らしながら院長室の奥の扉を抜け、母屋へ向かうクマリ達。


「すまないオーナー、時間を取ってもらって。」

「あれだけ必死なら大事なことなんでしょう?」

「ああ。オレ達全員に関わる問題なんだ。仕事にも関係がある。」

「伺いましょう。それで?」


「「「オレ達、彼女が欲しいです!!」」」


「ああ……うん、確かに大問題だな。」


 この孤児院は魔王邸のバリア内・敷地内にあり、特別区画としてマスター以外の男も入れる仕様になっている場所だ。


 つまり外は異次元宇宙であり閉鎖された空間であった。


 使用人の女性はマスターとの契約者ばかり。資材搬入でワープしてくる業者は男ばかり。同じ職場の女性スタッフは、彼らに見向きもしてくれない。


 住み込みで働く男スタッフ達は、オーナーであるマスターの充実した性生活を指を加えながら見ているだけだった。


 多少の娯楽品は支給されるし給料も良いので貯金も溜まっていく一方だったが、それとは別に男の部分も溜まっていってしまった。


「GWが有っても遊びに行けない、行く相手も居ない。これではオレ達はそのうち禁を破りそうで怖ろしいのです!」


 さすがにクマリ相手にはコトは起こさないだろうが、他の女性スタッフの安全を考慮すれば解決すべき案件だろう。


「なるほど。よく相談してくれたね。」


「「「判って頂けますか!?」」」


「もちろんだ。むしろ良く今まで耐えてきたよね。」

「オーナーがボスですし、命のほうが大事だったので……」

「それもそうか。なら会議をしようじゃないか。」


「「「よろしくおねがいします!!」」」


 勢いよく頭を下げる3人の為に一肌脱ぐマスターであった。



 …………



「みんなお揃いですね。ちょっと私もお邪魔しますよ。」


「院長?珍しいですね。こっちのお風呂を使うなんて。」



 同日。孤児院にある女性用浴場でスタッフ3人が寛いでいると、院長のタカハシ・クマリがタオルを携えて登場した。


「旦那様が殿方達と出かけてしまったので、たまにはね。」


 クマリはちょっと残念そうに歩いてくる。

 既に浴槽に浸かっていた女性スタッフABC……では扱いが酷いか。カリナ・キクヨ・ケイコのカ行トリオが注目する。


 魔王邸の奥様と同じDのそれは、平均Bの3人からは羨望の的だ。普段は美容に効果的と言われる露天風呂に入り、マスターに磨かれ続けた肢体はとても眩しく6つの瞳に映る。

 今年で22歳になるクマリだが、その肌はどう見ても10代の美しさを保っている。


 ここも温泉を引いてはいるが美容と言うよりは体力回復を重視したお湯であり、浴槽には効果を高める”ゆたぽん”が設置されていた。


 屈んでかけ湯をするクマリの肌は無駄な体毛は処理されており、いつでも戦闘配備されている事を伺わせる。


「院長っていくら私達より若いとは言え、お綺麗ですねぇ。」

「ムダ毛も全然なくて、大事な所も控えめですね。」

「その状態が男性の好みなのかしら。参考にしますね。」


「あなた達、同性とはいえ観察が過ぎるのでは?」


 浴槽に入るとすいーっと3人に近寄ってくる院長。近くのカリナの脇腹を優しくくすぐってくる。


「ひゃぁ!もう、なにするんですかー。」


 びっくりしたカリナは飛び上がる。控えめとは言え勢いがついた。平均Bを揺らして今度は浴槽に身体を沈めてクマリを警戒する。


「私を参考にと言いましたが、アテはあるんですか?」


「そりゃーオーナーにいつ呼ばれても良いように。」


 キクヨが自信を持って応えるが、クマリは呆れ顔だ。


「旦那様はそんな事の為に、あなた方を雇ったわけでは有りませんよ。恋愛をしたければ殿方のスタッフ達が居たでしょう?」


 両手の指を組んでぐいーっと伸びをする。強調されたDが思わず3人の目を引き彼女たちは無意識に自分のソレに手を当てる。


「くっ、院長ほど攻撃力はないけど私達だって女だし!」


「ですから、旦那様はあなた達を愛人にするつもりはないと言ってます。女であれば誰でもというわけではないのです。」


「んー?なんで院長にそんな事がわかるんですか?」


 キクヨが悔しがり、ケイコは思ったことを素直に質問する。


「旦那様の奥様や愛人の方々は、”訳有り”で出会いました。それを旦那様と共に乗り越えて信頼関係を築けたからこそ、奥様にも認められて幾ばくかの交流を許されたのです。ただ単に身体を差し出しても旦那様は喜ばれないと思います。」


「むー。私達は院長達からしたらうっすい人生かもしれませんけどね。強いて言うなら、何も解らずここに務める事になったくらいですし。」


 ケイコには反論する材料はなかった。カリナもキクヨも同じでがっかり気味だ。


「そこまで卑下することはないですよ。旦那様はみなさんの事も考慮されてこの環境をお作りになられましたし。」


「それは感謝してるわ!給料も月収50万と聞いてたけど手取り額だったし、食費も雑費も全てオーナー持ちだったし。労働者にも優しい人って良いわよね。」


 カリナは元気を取り戻して拳を握る。おやつだろうが娯楽だろうがマスター持ちなので、気持ちよく仕事に専念できるのだ。


 孤児達はいまや20人を超えている。今はお昼寝の時間なのでこうして3人共お風呂に入れているが、普段はまるで戦場である。


 半分以上が日本人でないがマスターの不思議システムで言葉は通じているのが救いか。衣食住に加えて教育も受けられるので、戦争孤児達が特にスタッフの指示には柔順である。


「そこまで解っているなら、旦那様を狙わず同僚から探してみても良かったのではないでしょうか。」


「彼らもまぁ、悪くはないと思うんだけどねー。ちょっと見る目がいやらしいしなー。最近は特にギラギラしてたし。」


「あの3人の努力は素直に尊敬できるけど……。オーナーってばそれを軽々と超越してくるし。顔はアレだけど私は良いと思うの。」


「私はたっくんも良いと思うわ。で、でもオーナーに比べると決め手がねぇ。財力とかチカラとか見ちゃうとぉ。」


 顔はともかく他は良い。そんな評価のマスターだったがクマリが期待していたものとは違う答えだった。


「そうですか。ならばこれで良かったのかもしれないわね。」


「ん。何のことですか?」


 実は3人はちょっと気になっていた。先程からクマリの言葉に過去形が含まれていることに。


「殿方のスタッフはあなた達とくっつけるために用意されたのです。旦那様がトウカ様に男女半々でとお願いし、トウカ様もそれを汲んでの人選でした。」


 異次元宇宙で暮らすのなら相方が居たほうが長続きする。

 人選はなるべく男女で一対で考えていた。初日に暴走した2人はトウカの敵対派閥のゴリ押しなので関係ない。


「えー!私達の相手が、彼らだと決まってたのですか!?」


「もちろん自由意志は有って然るべきです。なので今日まで

明かさず様子を見ていたのです。」


「でもなんで今日になって?」


「殿方達が、我慢の限界を旦那様に訴えたからですわ。」


「「「え!?」」」


「それってオーナーが受け?」


「無礼な、旦那様はその様な趣味はございません。彼は汚物や苦痛、そして殿方同士の戯れを嫌忌していますわ。」


「あう、ごめんなさい!」


 キクコが邪推して余計な突っ込みを入れるがクマリにビシッと言い返されてしまう。マスターの苦手なプレイ情報が暴露されてしまったが、別にそこは気にするところではない。


「あ、あのですね院長。我慢っていうのはやっぱり……」


「もちろん情欲ですわ。殿方というのは情欲を発散できないと

日に日に心を病んでいく生き物ですから。相手にしてくれる女性が居ないと相談を受けて、今頃は街に繰り出していることでしょう。」


 ここに来る前にマスターは出かけてくると彼女に伝えてきた。だからこそクマリはこっちのお風呂で交流を図ろうとしたのだ。彼女達の気持ちを確かめるために。


「「「!!!」」」


「そんな……たっくん……」


 色々と衝撃の事実を伝えられ、固まる3人。

 中でもケイコは男性スタッフの1人、タクヤの渾名を呼んで涙を流す。


「ケイコ、彼の事本気だったの!?」

「オーナー寄りの発言してたのに!?」

「あなた、彼に肩を触れられて平手打ちをされてましたよね?」


「だって院長がいるから、オーナーを立てないといけない流れなんじゃないかって思って!平手打ちはビックリしてつい……」


「女同士のコイバナくらい素直になりなさいよ。」


 他の全員から突っ込みを受けるケイコ。どうやら複雑な気持ちが彼女の言動をチグハグなものにしてしまっていたようだ。


「それで、今たっくんは何処に!?」


「そこまでは知らないわ。知ってても私の権限じゃ地球に移動は出来ないし……でもまぁ、旦那様への連絡を試すくらいなら。」


「お願いします!早くお願いします!」


 涙目でクマリにすがりつくケイコ。お互いの胸が押され合い、高度な芸術作品が出来上がっている。しかもリアルタイムで芸術を更新し続けている。


(この絵面は旦那様好みかも。)


「わかったわ。”もしもし旦那様?今私とケイコさんの胸が

 くんずほぐれつしてますが、見に来ますか?”」


 虚空から端末を取り出してマスターへ連絡するクマリ。伝える内容がおかしいが、彼を呼び出すなら効果的だろう。


 シュバッ!


「クマリ。よく報告してくれた!おお、素晴らしい絡み合いだ。クマリの大きさに負けじとうごめく、ケイコの健康的な――」


「いやあああああああああ!」


カメラを持った全裸のマスターが突如現れ、実況中継を始めた。

 クマリはドヤ顔でケイコが離れぬように抱きしめる。

 ケイコは身動き取れずに悲鳴をあげている。


「きゃあああ……いや、むしろチャンスなのでは!?」

「オーナー、私達のサンドはどうですか!?」


 カリナとキクヨは逞しくも自分達でサンドを形成して、むしろ売り込みに行く。お胸サンド空間がマスターの目の前で展開されていたが、やがてクマリの腕から抜け出したケイコがマスターを平手打ちして事が収まるのであった。


「呼ばれて来てみれば平手打ちされたのだが。」


 脱衣所で全裸正座しているマスターが不満を漏らす。

 女性陣はタオルを巻いているがクマリはわざと際どい着け方をしており、マスターの視線の誘導に成功していた。


 クマリの姿勢が少し変わるたびにチラチラと下半身の誘惑ゾーンが見える為、男ならマスターでなくとも気になるだろう。


「「オーナー。さすがにアレは無いと思うわ。」」


「君達はノってくれたじゃないか。」


「それよりオーナー、たっくんは今何処に?」


「あいつらなら今頃、プロの巨乳美女に絞り尽くされてるよ。」


「きょッ!?しぼッ!?あううう……」


「「どんまい、ケイコ!」」


 ガクリと床に膝と手をついて凹むケイコ。

 カリナとキクヨは両サイドから肩に手をおいて慰める。


「旦那様、いったいどの様な流れでしょうか。」


 クマリは粗方の事情は知っているが、カリナ達にも聞かせようとマスターに説明を促す。彼もそれを汲んで話し出す。


「ああ。あいつらはこの子達に相手にされなさすぎて、このままじゃ襲いかねないから彼女が欲しいと言ってきた。それで合コンでもセッティングしようと思ったが、情欲がたまり過ぎてて目がヤバイ事になっててな。とある歓楽街の高級なお風呂屋さんで発散させてやろうと思ったわけだ。」


「なるほど、それでプロの巨乳ですか。」


「ああ。まずは肉にまみれて暴走を受け止めてもらえれば色々収まるし男としての自信も取り戻せると思ってね。」


「旦那様も全裸で臨戦態勢ですが、まさか同じ店で?」


「そんなワケ無いだろう。オレにはクマリ達がいるんだから。」


「そうですとも!私達なら旦那様の情熱をお断りする者などおりませんわ。それではなぜ?」


「うん、魔王事件でオレに好意的だった女性が歓楽街の案内人をしててな。思わぬ再会にアレやコレやをしてくれと。」


 2003年当時、コウコウ神社でキサキの世話をしていた巫女さんの事である。魔王事件以後マスターの子供を産み、なぜか神の啓示を受けて案内所兼占い師として活躍中である。


 彼女はスタッフの3人のイキ先占いをお願いされて案内した後、あなたのイキ先は自分ですと便乗してきたのだった。


「わかりました。コトの途中で呼び出してしまい、申し訳ありません。」


「いや、むしろ良かったさ。時間を止めて来てるけど、そろそろ戻らないとな。クマリ、また後でな。」


「はい。行ってらっしゃいませ、旦那様。」


 深々と頭を下げて送り出すクマリ。その言葉が終わると同時に消えるマスター。むしろ良かったという言葉は別にお胸サンドの事ではなく、女性スタッフたちに情報の共有を出来たコトを指している。



「話を聞くに、私達が拒みすぎたせいでしたか。」

「彼らがいい男なのは判っていたけど、いざとなるとねぇ。」

「うう、たっくん……いまごろえろえろ……」


「旦那様は他者の自由意志をなるべく尊重するわ。今日の事はその結果なのだから、あなた達は何も気にせず仕事に戻りなさい。」


 彼らが働きだして2年が経つ。男女が一緒に居たから必ずくっつく、などと単純な物では全くない。だが選択肢は用意されてあり、それが選ばれる事なく制限時間が来たというだけの話である。それで後悔しても、それはいわば自業自得というわけだ。


「でも、でもぉ!」


「ケイコ、行くわよ。端の方で泣いてて良いから!」


「その間は私達がフォローするから、ね?行きましょう。」


 尚も食い下がろうとするケイコだが、カリナとキクヨは移動を促す。クマリは既に仕事に戻るように命じていた。それを破るのは契約上かなりマズイからだ。


「はぁ、ケイコさん?タクヤさんはきっとスッキリして戻って来られるでしょう。その時は多少は巨乳に魅了されてても、以前の彼のハズです。そしてその後の合コンが上手く行かない限りは、彼は誰のものでもない。そうでしょう?」


「!!」


 ケイコは顔をあげてクマリを見る。院長は呆れ気味な顔でケイコを見つめ返している。


「つまりえろえろではあるけど、ぎりぎりフリー?」


「そうよケイコ、回復時間も考えれば合コンは早くても明日の夜!」


「それまでにアピールするのよ!むしろ合コンに参加しちゃえ!」


「……私、やるよ。頑張って勝つよ!!」


「よし、その意気よ!」

「今から作戦会議よ。」


「我ら平均胸囲Bチーム!巨乳に負けるな!」


「「「おおおおおお!」」」


「いや、仕事をしなさいよ。」


 奇妙な盛り上がりを見せる平均胸囲Bチーム。助け舟を出したことを若干後悔するクマリ院長だった。



 …………



「ごくごく、ぷはー。今日の敵もエグかったな。」


「身体のキズは治るけどホラー系だと心に来るぜ。」


「僕は……何が足りないんだ?」



 5月13日夜。訓練が終わってシャワールームに入った男メンバー。

 シャワー中にもペットボトルを持ち込んで水を飲むソウイチ。精神をエグルような敵へ愚痴をこぼすユウヤ。


 ソウイチとユウヤの間でシャワーを浴びるモリトだったが、毎日自分に問いかけている言葉を今日も発していた。


「おいモリト、毎日言ってるけど気にしすぎるなよ。」


「越えるべきは自分自身ってか。オレも気持ちは解るけどな。」


 仕切りで区切られた両サイドから心配する声があがる。

 しかし毎日恒例の瞑想やら儀式みたいなものであり、深くは突っ込まない。結局自分で解決する必要があるからだ。


 モリトは特殊部隊の中で唯一、チカラが使えないメンバーだ。


 連日ヨクミに魔法の特訓を付けてもらい、水魔法のなんたるかを教えてもらっている。

 おかげで理論も水の流れの感じ方も理解し、今も自分が浴びているお湯の流れも手にとるように解るようになっていた。

 距離が離れると精度が落ちることから、恐らくは近距離型のチカラなのだろう。当然、発現出来ればの話だが。


 しかし自身で操ろうと思うと成功率は0%以上にならないのだ。成果が全く無いわけではないが、実質戦闘では役に立たない。


(何が足りないのだろう。このままではお荷物確定じゃないか。)


 訓練でも出撃でも、モリトは”今までは”お荷物ではない。


 体を鍛え前に出ることで仲間を守り、敵を分析して様々な道具を使うことで相手の動きを鈍らせて勝機を掴み取る。


 それは今のチームにおいてとても重要なポジションだった。


(だが、今までは良いとしても敵が現代の魔王だったら?)


 問題はそこであった。モリト達はつまるところ、現代の魔王を倒すための部隊である。だか彼に対抗するためにはチカラが要る。


 警察だろうと自衛隊だろうとサイトだろうと、チカラが有っても彼に対抗するのは難しい。


 とぼけた挑発的な態度で攻撃を誘発し、次元バリアで守る。

 その後トリッキーなカウンターを決めるのが彼の戦術と聞く。


 やり方は自分と似ている部分もあるが、その強さは段違いだ。最低でもなんらかのチカラを手に入れないと、自分は死ぬ。


(いけないな。嫌な考えは心を鈍らせる。)


 弱気な考えを流すかのように熱い湯を浴びるモリト。

 鍛え抜いてきた身体でそれを受け止め、思考を建設的な方向へと持っていこうとする。


(みんなに話を聞いて、自分に何かが足りないということは分かってるんだ。)


 ユウヤとメグミ曰く、自分が強く願った事がチカラになった。

 教官曰く、当時の仕事に役立つ効果がチカラとなった。

 ソウイチ曰く、負けられない相手を倒そうとしてチカラが生まれた。

 アイカやエイカ曰く、楽しい自分たちを想像したらチカラになった。

 ミサキとヨクミさんは種族や家柄による所が大きくなんともいえない。

 アケミさんは無意識の内に使っていた。


 まとめると結局本人が必要とした事象がチカラとして発現するのではないだろうか。ならば自分に必要なものは?


(困っている人を助けて守る。最初は両親の教えからだったけど、実際に戦うようになってからは強くそれを願っている。あとは――)


 異世界から来た青い髪の少女が頭をよぎる。

 少女と言っても自分よりかなり年上で、出来の悪い自分の面倒をずっと見てくれている自由奔放な人魚族の女性。


(できればユウヤ達のように将来を共にする関係になりたい。でも彼女はいつかは帰るだろうし、今の僕ではその資格はないよね。)


「すぅ~はぁ~……くっ……」


 渾身のため息をつくと、無性に涙が出そうになる。

 それをぐっと堪えてシャワーでひたすら洗い流す。


(こんなことでは、何一つ僕は……)


 それでも意中の女性と関係を進められたらどんなに良いか。一緒に街を出歩き、色んな場所で景色や感情を共有して……。


 そんな想像が加速した時、シャワーに異変が起きる。



「「「うわっ、冷たっ!!!」」」



 急にシャワーのお湯が冷水に変わってしまった。

 驚いて飛び退いた3人が仕切りの外へ出てきて顔を見合わせる。


「なんだよ。訓練後の憩いの時間だってのに、故障か?」


「勘弁してくれよなぁ。メンテとかちゃんとしてるのか?」


「老朽化には早いと思うけどね。仕方ない。キョウコさんに報告しておこう。」


「春だからって水浴びは勘弁願いたいぜ。」


 ブツブツ言いながら3人は仕切り沿いに冷水を避けながら進んでシャワーを止める。


(あらぬ妄想でバチでも当たったのかな。気をつけよう、うん。)


 3人は揃って事務室に報告に向かうのであった。


 次の日、修理のために技術部にチェックをしてもらう。

 しかし給湯器には異常はなく、報告を受けたキョウコは首を

 かしげることになった。



 …………



「たっくん、奇遇だね!背中流してあげる!」


「だったらタクヤさん、私が前を洗わせてもらいます!」


「お、お前達?ここは男湯だぞ。なんで来たし!?」



 2011年6月18日。魔王邸孤児院の男湯でタクヤは身体を洗おうと浴槽から出た。洗い場に向かう途中で女が2人も乱入してきて焦る。乱入者はケイコと茶髪Fカップの女、サエコである。


 先月の合コンは大成功であり、タクヤをはじめ3人共良い女性に巡り会えた。マスターが幾つかの街で波長の合う女性を探した結果なので当然といえば当然だ。


 そして女性3人を孤児院で雇い、一緒に生活してもらうことで男達の心の安定を図ったのだ。出会ってから1ヶ月程度でこの状況を作り出すのは普通は無理があるが、対象の6人に精神干渉を交えた話し合いをさせることで可能とした。


 問題はケイコが心穏やかで無いことくらいか。

 鼻息荒く合コンに乱入するも自分より若い女の巨乳の魔力で返り討ちにされ、職場に乗り込まれた彼女は非常に不利である。



「たっくんがいつも頑張ってるからサービスよ!」

「タクヤさんの目の保養にと思いまして。」


「お、お前たちの気持ちはわかった!だが共同風呂なんだからとりあえず出てくれ。他の男に見られることを考えろよ!」


 強い口調で2人を追い返そうとするが、彼女たちは不思議そうな顔で反論する。


「え?他には見当たりませんが。」

「今はたっくんしか居ないじゃない!」


「!?……気を使ってくれたのか。」


 実は先程までマスターとワイ……雑談をしていたのだが、2人が入ってきた時点で姿を消している。


(ふむ、確かに大きいがその分維持は大変そうだな。対してケイコの方は小綺麗にまとめようとしてはいるが……)


 文字通り消えているだけで、居ないわけじゃないのがマスタークオリティである。

 彼は新しく雇ったサエコをガン見しつつ、ケイコと比較して研究を始めていた。


『あなた、イタズラしちゃダメですからね。』

『スタッフの彼女候補に手を出すつもりはないよ。』


 そんな事をしたら余計な争いが起きるのは明白である。なのでこれまでも治療などの理由が無い限りは、誰かの女に触れようとしたりはしていない。


「サエコがそんな破廉恥なものをぶら下げてこなければっ!」

「ケイコさんこそ男湯に特攻なんて破廉恥な発想だと思います。」

「あんただってやってるじゃない!」


「いいから出ていってくれないか。あとで話し合おうな? な!?」


「ん、存分に触っていいですよ。」


 2人を押し出そうとするタクヤの手に、サエコは右胸を差し出し感触を味合わせる。


(くっ、やわらけえ!じゃない、背中を押さないと!)


「こら、何処触ってんのよ!そういうのはもっと――」


「せな……すまん。だがケイコは意味不明な言動はやめてくれ。」


 背中のつもりでケイコの前を押していたタクヤは、察してすぐに矛先を逸らそうと試みる。自分からこの場に来ておいてセクハラに怒る謎な言動にツッコみを入れて、追い出していく。


「孤児院もだいぶ賑やかになったな。活気があるのは良いことだ。」


 知ったふうな顔でうんうんと満足げに頷くマスター。

 彼は話し相手が不在になったので、母屋の風呂に移動するのであった。



 この後、孤児院内ではラブコメな日々が続く事になる。


 心の波長が合い見た目も強力なサエコに対して、不利ながらも仲間との結束が強く猛攻を仕掛けるケイコ。

 今後タクヤがどちらを選ぶのか孤児院内で話題は尽きなかった。



 対して魔王邸母屋では、


「「「両方手に入れれば良いじゃない。」」」


 そう結論する声が圧倒的に多く、あまり注目されてない。


 異次元宇宙では倫理や法律への意識がやや薄くなってきており、彼女達の興味はマスターとのヒトトキばかりに注がれていた。



 …………



「あなたー!お風呂の準備が出来ましたよー。」


「ああ、ありがとうアケミ。一緒に入るか?」


「もちろんよ。洗いっこしましょう、あ・な・た。」



 7月2日夜。結婚記念の写真を受け取って自宅マンションに帰ってきたケーイチとアケミ。彼らは6月26日に婚姻届書を提出して晴れて夫婦になっていた。


 互いの家族への挨拶と事情説明で時間が掛かったが、なんとか許され祝福される結婚を実現するに至った。


 その日は日曜だったが役場の休日開庁日であり、大安なのもあり朝早くに2人で届けを出した。受理されるとその足で予約をしていたフォトスタジオへ向かい、結婚写真を撮影していた。


 洋式の衣装を纏って撮影に臨む彼らは、カメラマンが質問や注文をするまでもないくらいに幸せそうな写真が撮れていた。


 そして今日、直接写真とデータを受け取ってきたのである。


 アケミはケーイチをあなた呼び出来ることが嬉しいらしく、スキあらば呼んでいる。対してケーイチは名前呼びである。


 脱衣所でお互いに脱がせ合い、アケミは色々と見せびらかす様に浴室に入っていく。イチャイチャしながらシャワーで軽く洗い、ゆたぽんの沈んでいる浴槽に2人で浸かる。


「今日のもいい香りと……粘性だな。」


「今日は西の方の温泉が入っているのです!あと私の愛情の出汁が少々漏れてしまったかも……」


 じゃーん!という擬音が聞こえそうな仕草で、今日の湯に入れた温泉の素を紹介するアケミ。

 それとは別にアケミの”チカラが”幸せ漏れをして、お湯が

 若干スライム状になっている。誤解がないように記すが、決して彼女の汁が漏れてるわけではない……と思う。


「大丈夫だ。毎日の事だしな。」


「新婚旅行は残念だったけど、日本中の温泉の素を頂けたのは嬉しいわ。ゆたぽんちゃんのおかげで効果は抜群だしね。」


「ああ、おかげで疲れも飛んでいくしな。でもアイツを捕まえたら絶対行こうな、旅行。」


「そうね、そのためにも頑張らなくっちゃ!」


 いくら特別扱いされている2人とは言え、長期休暇を取るのは

 難しい。新婚旅行は魔王退治後に決めたのだった。


 代わりに教授の一声でミキモトグループが全国から温泉の素をかき集め、送られてきた。

 おかげで毎日ホカホカの身体を維持できている。


「なんかね。今は詳しく言えないみたいだけど、すごい計画があるらしいわ。教授も自信たっぷりでね。」


「ほう、そいつは頼もしいな。」


「だからきっと、すぐに式も旅行も実現できると思うわ。もちろんケーイチさんの前の……話し合いもあるけど。」


「その事は気にしなくていい。アケミは堂々としててくれ。」


 現代の魔王を倒し、トモミを取り戻したら話し合いが待っている。全てはきちんと折り合いをつけてからと決めていた。


 ケーイチは結婚してからはトモミの名を口にしなくなった。プロポーズ以降、精神的な改革を自身に課した成果である。

 今年は災害による緊張状態もあってそれはスムーズに進み、今ではアケミを第一にする事ができている。


「なら今のところはこの温泉で楽しむとしよう。」


 そのままアケミに手を伸ばすケーイチ。アケミは素直にそれを受け入れる。


「んっ!このお湯の中だと凄くイケナイ事してるみたい。」


「何もイケナイ事はないだろう。」


「そうよね。夫婦だしね。ねぇ、あなた。式も旅行も後回しだけど、子供は授かってもいいんですよね?」


「こちらから頼みたいくらいさ。もうオレは間違わない。」


「嬉しい。何人でも良いから、よろしくお願いします!」


 そのまま2人は顔を近づけ口づけし、気持ちを昂ぶらせる。

 ケーイチはトモミの時と違い、今回の結婚生活では子供を作る決意をしていた。

 情勢的には前より悪いが、自分達の環境は良くなっている。

 上からも許可が出ている以上、作らない選択肢はない。


 2人はこの後寝るまでイチャつき、コトが済んだ後は2人の将来を語り合った。



 …………



「つーかーれーたぁぁぁぁああああ!」


「お疲れさまです、サクラ社長。はい、お茶をどうぞ。」



 7月8日夜、某県某町。町長からの依頼を完了したサクラは、事務所の社長椅子で仰向けにぐったりしていた。

 町長からの依頼といえば聞こえは良いが、要は父親から押し付けられた雑用をこなしていたのだった。


 その仕事内容とは数ヶ月前に起きた災害の、避難民の受け入れと彼らの調査報告である。


 マスターに言われて事前に集合住宅を大量に用意し、家を失った人々の受け入れを行うのは良い。しかし町にとって有害な者達も流入する可能性があり、サクラの「事実を認識」するチカラが大活躍だったのだ。


 大半は普通の避難民だったが、中には犯罪者やこの国に住む許可の無い者がここぞとばかりに入り込もうとしてサクラに排除された。


 マスターの結界があればネガティブ感情を読み取りはじけるが、悲痛な思いの避難民達も抵触する為、一時的に緩めていたのだ。


 そして今日、避難民用の住宅が全て埋まることとなってようやくお役御免となったのだった。


 この急激な人口の増加によって市への昇格が一気に目の前に躍り出ていた。廃校案が出ていた小学校も満員近い生徒数になり、名実共に存続の運びとなっていた。


「い、いくらなんでも人使いが荒すぎよぉ~。予定ではもうマスターから新しい命を授かってたはずだったのにー!」


 サクラはとんでもないことを口走る。だが社員達は慣れたもので、机に向かって書類仕事を続けている。


 マスターとサクラは話し合い、避難民の受け入れが終わったら子を成す事を決めていた。それは5月末頃と予想を立てていたが全然そんなことはなく、1ヶ月以上も遅れてしまった。



「社長ったらはしたないですよ。女は言葉ひとつでも自分を

 大事にするべきです。」


(((もっと言ってやってくれ、カザミさん!!)))


 フジナカ・カザミの忠告に、社員たちは心が1つになった。


「お子さんを作られるなら、これからは貴女だけの身体じゃなくなるんですよ?」


「う……スンマセン。」


(((おお、カザミさんがあの社長に勝った!)))


「お疲れでしたら、お風呂でも如何ですか?スーパー銭湯の熱湯(あつゆ)やサウナは疲れにとっても効きますよ。」


「うーん、銭湯かー。この辺に良いのあります?」


「隣町に気軽に温泉旅館の雰囲気を味わえる所がありましたね。テレビでも紹介されてましたし、よろしければ案内しますよ。」


「じゃーお願いー。正直一気に気が抜けてもうダメー。」


 へろへろになったサクラを車に載せて、発進するカザミ。

 国道をまっすぐ北方面に向かって隣町に入る。

 ラーメン屋がひしめくエリアで右折し、広い駐車場に到着する。

 そこには木造のお屋敷風の建物があり、その壁の向こうには湯気が立ち込めていた。


「社長、到着しました。」


「へぇ。聞いてた通り、雰囲気は凄いわね。」


「受付を済ませてきますのでお待ち下さい。」


 カザミは券売機で2人分のチケットを買うと受付に持っていく。


「はい社長、こちらがキーとタオルセットになります。キーは絶対に無くさないでくださいね。」


「ありがとー。」


 物販コーナー・食事処・仮眠所・マッサージコーナーと内部をぐるりとまわって奥へ進むと脱衣所の扉が見えてきた。


「ふむ、今日は釜風呂付きが女湯ですか。」

「なにか違うの?」


「毎日男湯と女湯が入れ替わるのですが、それぞれ設備がちょっと違うのですよ。」


「へぇ。」


 服を脱いでガラス張りの扉を抜けると広い洗い場、内湯・サウナへと続いている。外に出るとヒノキ風呂を始めとした様々な浴槽が目の前に並んでいた。


「あまりこういうところに来る機会はないせいか、ワクワクするわ。」


「お気に召したようで良かったです。ささ、風邪をひかない内にかけ湯をして入りましょう。」


 露天風呂の通常から熱湯、ヒノキ風呂からジェット風呂と2人で巡っていく。時間帯的にアフターファイブとあって徐々にお客さんは増えてきている。ジェット風呂は2槽しかないので2人で確保できたのは幸運だ。


「はぅあああああ、これヤバイですねー。想像より水流が激しくて、腰やら肩やらの疲れが口からダダ漏れするぅ。あああああぁぁぁ。」


「ふふふ、こちら側は当たりなんですよ。今日の男湯側はもう少し出力が低いですから。そうそう、ジェットは大事な所に当てない――」


「ひゅわあああああ!」


 ように気をつけて下さい。と言う前に試してしまったサクラ。まるで前戯から強力な責めを受けたような衝撃に悲鳴が響く。


 周囲からはニヤニヤした視線が突き刺さる。どうやら常連達には周知の事実だったらしい。


「社長って……社長ですよねぇ。」


「どういう意味かし、やっぱ言わなくて良いわ。」


 視線と言葉の意味が事実の言葉としてポップアップウインドウで表示され、ガックリくるサクラ。

 社長となって歳を重ねても、羞恥芸は錆びないようだ。


「世間様がアレな人を見るアレな視線なので、サウナに移動しましょうか。そこの水風呂のかけ湯で、小さいタオルを湿らせておくといいですよ。」


「アレなアレ……はーい。」


 部下に反論したくても事実として認識できるサクラは、大人しく冷水で湿らせたタオル片手にサウナへ向かう。


「ここは他の店より温度が低いので、落ち着いて入っていられますよ。」


「へぇ、テレビも付いてるんだね。お、あのヤバイ部隊長さんだ。」


 濡らしたタオルを頭に乗せて椅子に座る。ニュースでは特殊部隊が報道されていて、ケーイチとアケミの結婚の話題だった。


「以前会った時はヤバイ男ってイメージしか無かったけど、あんな幸せそうな顔も出来たんだねぇ。」


「お知り合いですか?なかなか良い男ではありますが。」


「いいえ、見かけただけよ。詳しくは聞かないでね、彼絡みよ。」


「ん、失礼しました。」


 瞬時に察したカザミはそれ以上聞かない。時々姿勢を変えてサウナの熱を楽しんでいる。


「奥さんも良い笑顔だなぁ。もう、子供とか溺愛しそう。」


「子供が出来ると自然と心の何かが変化します。案外教育に厳しいママになるかもしれませんよ?」


「カザミさんも、アオバちゃんの時に?」


「私がこの子の将来を守るんだー!ってキュンキュンしてたわ。でもダイチさんが亡くなった時はほとんど何も出来なくて、思い知らされちゃったけど。」


「そんなことありません、カザミさんが居たからこそアオバちゃんがまっすぐ育ったのです。誇って良いと思うわ。」


「ふふ、ありがとう。」


「ところで妊娠中とか出産の時とか大変だったりします?」


「サクラさんもお年頃ですね。常に小さな自分を連れているような形ですので、産む前から気を使う事は多いわね。」


「むむむ、やっぱりお仕事どころじゃないかしら。」


「今までみたいに外回り、というわけには行きませんね。彼にはお手当と人員の確保をお願いしてみては?」


「そうします!それで、産む時はどうなんでしょう?」


「それは言っても仕方ないかもしれませんね。なにせ苦しい思いをケロッと忘れるくらいには苦しいですよ。」


「うわ……。うわぁ。」


 当時を思い出しながら語るカザミだったが、その言葉の事実を読み取ってしまったサクラ。彼女はもう少し長くサウナ室に居られそうなほどには青ざめた。


「うふふ、怖気づいちゃったかしら?女としては命がけ、人生の中の壁の1つではあるわね。それでも産んでよかったと私は思っているわよ。子供の成長は素直に喜ばしいもの。」


「そっかぁ、そうですよねー。」


「なんにしてもマタニティブルーには早いわ。サクラさんはまず、彼を獣のように興奮させて受け止める所からです。」


「うん、そうよね。がんばる。まずはお手入れよ!」


 2人は汗だくになった身体を洗いに、洗い場まで戻る。


 一心に髪を丁寧に洗い、身体も磨き上げる。それはサクラだけでなくカザミも同様だ。


「「よし、完璧!」」


 今は金曜の夜。つまりは週末だ。

 2人は来たる夜戦の為に念入りに女を仕上げるのであった。




「こんな良い施設、私の町にも欲しいわね。」

「気に入って頂けて本当によかったですわ。」


「温泉施設なら来年春前にはオープン予定だよ。」


 感想を言いながら退店する2人。だが不意に声を掛けられて驚く。


「お疲れ様、サクラ。いい湯だったかい?」

「カザミさん、迎えに来たよ。」


 スーパー銭湯を出るとマスターとイタチが迎えに来ていた。

 2人とも事務所に寄ったがサクラ達は不在だったので、社員から話を聞いてきたのだろう。


「マスター!もしかしてその、約束の件ですか?」


「そのもしかしてだ。イタチさんは車で戻ってくれ。」


「了解だマスター。カザミさん、帰りはオレが運転しよう。今夜はちょっと寄りたい場所があるが構わないか?」


「ええ、もちろんですとも!」


「マスター、私がんばるからよろしくね!」


 サクラはマスターと共に消え、カザミはイタチと去っていく。



「今夜はお泊りか。母さん美人になっちゃったし、イタチパパも我慢できないのは仕方ないわよね。」


 アオバはバイトから帰ると、イタチからの書き置きを見て察する。書き置きの横には1万○札が置かれていたので出前を頼む。


「普通のバイトを始めてみたはいいけれど、何か物足りないのよね。マスターのトコで働き口は無いかしら。」


 それは楽しいのかもしれないが、普通とはかけ離れた生活に首を突っ込む行為である。しかしそれをツッコむ者は誰も居なかった。



 …………



 事前に完璧に仕上げていたサクラはその夜、時間の止まった自室でマスターと励む。全てをマスターに捧げ奉ることで全身全霊で幸せを感じていた。


 部屋は2度と他人を入れられないレベルのニオイが漂っていた。気にせず励むサクラはマスターを全身を使って奮い立たせ、始まりの場所から波のように全身に広がる感覚に入り浸っていた。


 それから更に2時間。


 行為が全て終わった後、サクラは初めての時以上に身動きがとれなくなっていた。今はマスターが彼女の下腹部に手を当て、チカラを注いで作業をしている。


「あはは。酷い臭気や味のはずなのに、マスターのだと思うととたんに愛おしくなるのが不思議だな。」


「そう言ってもらえると男としては嬉しいね。さて、無事にサクラの中のベッドに落ち着いたようだ。おめでとう。」


「本当!?やった、マスターありがとう!!キャッ!」


「サクラ、もしかしてまだ続ける気か?えっちだなぁ。」


 マスターはチカラで操作して着床を確認した事を告げる。

 喜びのままに抱きつこうとするサクラだが、身体を起こせずマスターの股間あたりに顔を埋めてしまう。


「むう!マスターのこれだって!」


 えっち呼ばわりでムキになったサクラはそのまま彼の絶品を更なる絶品にする。もうしばらくは止まった時間は動かなそうだ。


 なんだかんだ言ってもマスターの情熱を自分の情熱で受け止め、結果新しい命が始まった事を心より嬉しく思うサクラだった。


お読み頂き、ありがとうございます。

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