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07 サイト その1

 


「以上により、サイトの皆様にはご協力をお願いします。」



 2007年9月の半ば。

 埼玉県の久喜市にある喫茶店サイトのスタッフルームで、防衛省のお偉い様からありがたいお言葉を頂いた。


 それを受けるは サイトの代表でありマスターであるサイトウ・ヨシオ。その横にはトキタ・ケーイチ、トモミ 夫妻である。


 ヨシオ爺さんはバーのマスターのような服を着用しており、年季の入った風貌は、有る種の迫力がある。


 ケーイチはお気に入りのロングの革コートを羽織っている。

 これには様々な仕込みがされており、戦闘でのアタッカーを務めるには必須の装備となっている。

 髪はオールバックにしており、威圧感は折り紙付きだ。コートの下は気分やTPOによって変えている。


 トモミはワンピースの上に、布の防具を付けている。

 胸からお腹のガードと手甲、すね当て。さらに腰当てを太ももの前後と横で計6枚。


 まるでゲームの女鎧だが、服のデザインと合うように色や形は工夫されている。軽いし薄いので動きにくさもない。その布鎧はチカラ持ちに作ってもらった為、見た目・材質以上に頑丈だ。


 彼女の黒くて長い髪も相まって、若干ファンタジー的な印象を受ける。たまにコスプレイヤーと間違われるが彼女にそんな趣味は……多分ない。


「そいつを断った場合は?」


「もちろん反逆罪とさせていただく。」


「……わかった、受けよう。」


 サイトのマスターが言葉短に合意するとお偉い様は帰っていった。


「また面倒なことになったな。」


「これならナイトと戦ってた頃と大差ないぜ。」


 サイトのマスターとケーイチが愚痴る。

 今日お偉い様から要求されたことは、来年度から発足する特殊部隊の養成所、特別訓練学校への協力だ。


 学校施設自体は、ミキモトというサイト出身の研究者の研究施設の1つを使うことが決まっている。


 その改装にサイトのマスターであるヨシオ爺さんのチカラ、

「空間を構築する」能力で協力して欲しいそうだ。


 そして生徒を教育するのに、ケーイチに教官を任せたいとの通達を受けた。


 今現在でも、現代の魔王やそれに便乗するナイトの残党への対処で連日駆り出されている状況なのだ。学校が始まればそれこそ休む暇など無いだろう。


 しかしこの喫茶店のスタッフルームは異次元に空間を固定しており、大きいホテルが丸ごと入っているかのような規模の社員寮がある。しかも流れる時間の早さも、部屋単位でサイトウの思うままだ。


 その機能を政府側は知っているから、こんな無茶を通そうとしてるのだろう。


 ちなみに似たようなことを現代の魔王も自宅にしているが、その方法はサイトウさんの手口をパクったものである。


「後続を育てるのは大事だけどよ、オレじゃなくても良い気がするんだよな。生徒は10歳前後の子供なんだろう?オレの出る幕じゃねぇよ。」


「うふふ、予行練習だと思えば良いんじゃない?」


「まぁ そう考えないとやってられねぇか。」


 二人は元々婚約していたが、2005年にサイトがナイトに勝利したことで大手を振って結婚した。しかしそれ以降は多忙を極め、子供を作るどころではなかった。


 理由はもちろんサイトの悪魔、現代の魔王である。


「皮肉な縁だな。あやつが奮戦したからお前たちが結婚できたのに、あやつがいるからまともな結婚生活が送れないとは……」


 サイトウが悲しそうに言う。

 サイトウは1950年当時のサイト発足当時からのメンバーであり、超一流のチカラの使い手だ。


 残念ながら彼はもう戦える身体ではないのだが、それでも空間を弄ること自体は出来る。


「あの野郎はなんて事をしやがるんだ。また会ったらぜってぇぶん殴ってやる。」


「あなた、きっと何か裏があると思うの。難しくはあったけど○○ちゃんは別に悪人では無かったでしょ?」


 会話を聞いての通り、3人には現代の魔王の過去の記憶がある。


 当時の魔王が記憶と名前を消した際、サイトウはこの異次元空間に居たためチカラが届かなかったのだ。

 トキタ夫妻は揃って追跡軍に参加し最前線に居たが、トモミの精神力バリアにより記憶を消されることはなかった。

 ただし名前の方は他の者達同様、発音できなくなっていた。

それは魔王が世界そのものに呼び掛けたせいだろう。


「そもそも2年前の指名手配がおかしいのよ。私達は確かに海外にもたまに行ってたけど、テロと戦うことはしてもその逆はなかったわ。」


「まぁな。 あいつは防御主体だったし……あいつが駄目なら俺なんてギロチン物だぜ。」


「当時、超能力者相手にキナ臭い動きがあったのは事実だ。 ナイトとの勝敗が決したことで、政府関係者が手を回してきていた。」


「んじゃぁ あいつは政治に巻き込まれたってことか?」


「無関係ではないだろう。我々への締め付けがそのまま根拠になっておる。」


「そっか。○○ちゃんに手を出そうとして大失敗したから、私達には身動き取れないようにしてるのね。」


 特別訓練学校の教官とその補佐として選ばれた2人。

 2人はサイトの死神・魔女として恐れられ、ナイトの中枢を破壊したメンバーのうちの二人である。


 ケーイチは闇のような黒い物体を武器に使い、相手を「分解」するチカラを持つ。

 トモミは「精神干渉」のチカラを持ち、広い範囲の探知や幻覚を放つ。


 精神干渉は魔王と同じチカラではあるが、どちらかというと魔王の方が彼女の影響を受けている。

 現代の魔王の精神干渉は後天的なものなのだ。


 ちなみに彼女は現代の魔王と同級生であり、その頃のよしみで”ちゃん付け ”で呼んでいる。


 そんな強力な2人を野放し、あるいは追い詰めすぎて逆上されるのは危険だという判断がくだされたのだろう。最近はほどよく?締め付けられている。


 結局の所、現代の魔王を確保しないとこの生活は終わらない。しかし一向に見つからない。 当然だ。


 時間と精神に干渉出来る以上、まともな手段では見つけることも 見つけたことを認識することも出来ないのだから。


「それでも見つけなくちゃね。政府のやり方だと、お互いに足を引っ張ることにしかなってないし。」


 もしかしたらもう平穏な結婚生活など、どうあがいても送れない予感はしているが言葉には出さない。


 実はどこぞの雑誌記者がすでに見つけて交流を持っているとはツユにも思わない3人であった。



 …………



「え!?、政府の陰謀でテロリスト扱いに?」



 サイトで3人が話し合っていた頃、ちょうど水星屋ではマスターへの取材が行われていた。


「具体的に誰が悪いって話じゃないけどね。ただでさえ時間干渉なんてチカラを持ってたのに、ナイトとの決戦前に精神干渉まで発現したから。」


「それも不思議なんですよね。 チカラは1人1つなのに。」


「その辺は別の日にしましょう。 話を戻すと、そんなチカラがあって戦争も終わったらどうなる?戦後オレはチカラを使い果たして1ヶ月位寝込んでさ。しかも健康診断の結果、余命半年ってわかってね。自分のチカラで予知的な検査しても同じだった。」


「なんですって!? え、でも 今生きてますよね?」


「それはおいおいってことで。」


「テンチョー誤魔化すの多くない?」


「いろいろ有りすぎて取捨選択が大変なんだよ。それで、当時のオレなら楽に制御できると判断したようでさ。世界各国のお偉い様が日本政府に圧力をかけて、オレを取引材料にすると決めたのさ。その後の護衛任務中に外堀を埋める準備してたみたい。」


「世界中って穏やかじゃないですね。それで外堀っていうのは?」


「戸籍やら銀行口座やら、その他様々な資格や権利を凍結されてたよ。もちろん携帯なんて使えない。」


「あ、だから今はあの携帯なんですね。」


「その一斉凍結された日にサイトを辞めることになってね。多分何かを察したサイトのマスターが逃してくれたんだと思う。退職金が現金だったし。」


「優しい方なのですね。でもなんで辞めることに?」


「悪い人ではないかな。んで、九州での任務なんだけど結果的にはマッチポンプでね。護衛任務なのに対象を脅かしていたのがサイトの九州支部だったんだ。」


「あー、そういうの裏業界あるあるよね。 私も大変だったわ。」


「そんで邪神降臨を目指していた九州支部の職員と建物をあ消滅させたらめっちゃ怒られて……」


「もう どこから突っ込んで良いのかわからなくなりました。」


「処刑するみたいな案もあったけど、それは政府側としてはまずいから 普通に退職になったんだ。」


「マスターさん、生きるか死ぬかの分岐点多すぎません?よく生きてましたね。」


「我ながらそう思うよ。その後屋台を発注して、気に入ったラーメン店でノウハウを吸収したところで一ヶ月使ったかな。」


 精神干渉で店員のノウハウを自分へコピーしたのである。それのトレースやら 出来上がった屋台の改造で一ヶ月である。


 その間世間では 国際テロリスト○○○○として報道され、悪印象を与え続けた。誰もがマスターを捕らえるのが正義だと認識していた。


「最初は普通の屋台だったのですね。」


「そこまでは良かったんだけど 営業開始してからは毎日襲撃されてね。日に日に追跡部隊も増えていって、最後の日はサイトのチームメイトもいたよ。」


「悪魔 VS 死神と魔女? どっちが勝ったの?」


 元敵陣営の無敵チーム同士のシバきあいにキリコが食いつく。


「さすがに戦えなかったよ 殺すだけなら楽なんだけど、あの二人には思うところがあるからね。でもそのままだと捕まって、実験動物にされる。死んだら身体ばらばらでさらに実験に使われる。そんなのは御免だったんで、例の苦し紛れの一撃を放ったんだ。」


「名前と記憶を消したやつですね!」


「普通にやったら無理だったけど、 時間干渉のチカラと組み合わせたら出来ちゃってね。その時に、ハーン総合業務の社長が空間に穴を開けて助けに来てくれて。アレは絶対タイミング狙ってたよ。」


「興味深いお話です。 社長さんもマスターと同じようなチカラを?」


「オレより強いよ。でも色々違うかな。悪いけど社長についてはこれ以上話せないな。」


「守秘義務ですね。ではその後はどうなったんですか?」


「屋台ごと、知らない土地の森の中に飛ばされてね。うろついてたら、とある悪魔に出会って……色々有って保護されたよ。」


「悪魔、ですか。 ていうか社長さんはどこに……」


「オレを飛ばしたら社長はもう居なかった。多分そこでの生き方を自分で決めさせてくれたんだ。悪魔についてもノーコメントで。そういうのが居る場所っていうのが解ってれば問題ないよ。」



「テンチョー、いろいろ話ししてくれたのは良いけどさ。どこまで本当なの? なんか追われてる身なのに世界のお偉い様の思惑とか、なんで解ったの?」


「マスターな。別に被害妄想じゃないから安心してくれ。解った理由は簡単、その方法こそがイロミシステムの原型だからさ。」


 ビクッと緊張するキリコと

 クエスチョンマークが頭に浮かんでいるサクラ。


「いろみしすてむ? なんですかそれ。」


「対象をお仲間ごと倒すワザなんだけどね。未完成で後10年は使えないモノだよ。これのキモは相手の心のつながりを追跡できる所で……当時逃げながら追手の人間関係を追跡して、世界中の思惑を知りえたんだ。」


「また とんでもないことをしてますね。」


「テンチョーが人間か疑わしくなってきた。」


「あれは自分の人格が危うくなる可能性が欠点でして。なかなか気軽に使えないんですよ。それとイロミ関係の部分はオフで頼みます。 陰謀論を世間に出しても失笑されるだけ。もう加害者は居ないし、誰も得をしない話です。」


「わかりました、肝に銘じておきます。」


「さて、長々と真面目な話ばかりでしたのでパーッと飲みますか。」



「「賛成ッ!!」」



 満場一致で騒ぎ出す面々。


 さっきまで真面目モードだったキリコは厨二病を解禁し、マスターもセクハラ混じりのジョークを飛ばしだす。


 サクラも様々なお酒を堪能してこの日は解散となった。



 …………



 なお余談ではあるが。

 マスターはサイト時代にやらかして、休職という名の半分追放のような扱いを受けていたことがある。


 その間はある大企業が結成した武装チームに誘われ、世界各国のやばい薬品工場を襲撃していた事実がある。


 正義といえば正義の行いではあるが、やっていることはテロそのものである。


 この事はどの方面にもバレてはいないが、痕跡を全て消せたわけでもない。


 その辺のことが巡り巡ってサイトの中で1人だけ世界から集中砲火を食らったと思えばーー


 まさに因果応報・自業自得である。



 マスターは当時は気がついてなかったが、結婚してから過去を振り返った時にこの辺りを思い出した。


 それでも今は幸せな結婚生活があるので、人生の巡り合わせの妙を感じていた。


お読み頂きありがとうございます。

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