表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/120

64 メバエ その2

 


「おはようございま~す。社長、昨日の物資はどうでした?」


「問題ないわ。金融系は証文の処理が面倒なだけで。」


「ですよねー。手数料が半端じゃないですもんね。」



 朝早くに社長の家を訪れたバイト君は前日の戦果を確認する。借金の証文は余程でない限り面倒だし、闇金ならなおさらだ。


 他にも貴金属類も手数料は高く取られる。販売ルートを通すのに手間がかかるのだ。バイト君なら一見すると空間のコピペで凶悪な利益を挙げられそうな気もする。

 しかし手間と手数料が半端じゃないのでやってない。


「ところで最近はオレ絡みの騙りや子供の回収が減った気がしますが、何かやりました?」


「ちょっと幾つかのルートから噂を流したのよ。各国政府の機関があなたに接触した者を捕まえて実験してるって。」


「あー、なるほど。」


 それなら魔王の宗教は一掃できるし、商売を魔王に邪魔されたと通報しようものなら人生が終わる。


「でもナカ○○はよくそんな中で出てきましたね。」


「彼はちょっと感情をシゲキしてね。大抵の人はそのウワサ、事実を元にした都市伝説を信じてくれて大人しくしてくれてるわ。」


「こわいなぁ。ていうか事実なんですね。」


「うまく嘘を付くにはちょこっと真実を混ぜてあげれば良いの。」


 サイトも警察も、何年も進展なしで世論から批判されている。今は特殊部隊も顔をだして分散しているが、ソレとは別で本当に情報を集めるために疑わしきを確保する方向にあった。


 バイト君のチカラは強力なので残滓が残る部分もある。

 それを少しでも回収して魔王攻略に役立てようという人間側の思惑を利用して騙りの犯罪を防いでいるわけだ。


 実際に残滓が回収できるかと言われれば微妙な話である。昨日の事務所のように新品に戻されたり、跡形もなく消されたりと痕跡は有っても回収できる物では無かったりする。

 だが、仕事をしているアピールは大事なのだろう。


 それは人間にも適応され、愉快犯などが下手に事を起こすと捕まってクスリ漬けにされてしまうのだ。


「相手の行動を利用し、嘘を真実にするか。勉強になります。」


「今日もあのガラの悪いトコにちょっかい出すんでしょ?後ろに居るのは誰だか判ってるわよね?」


「ええ、ヨシダグループですよね?今までも強引なやり方で大きくなった、トップが若手議員の。」


「今回のように雑に事を進めたのにはワケがあるわ。その辺も探ってみると良いかもね。」


「社長は何か知っている感じですね。」


「元々後で振ろうと思っていた仕事だからね。積極的で助かるわ。」


「なら容赦は要らないって事ですね。それでは失礼します。」


 バイト君は退室すると、フウコとミドリの部屋へ移動する……前に時間を停止していろいろと詳しく調査することにした。



 なぜヨシダグループとアライ組はカトウさんの新商品を、カトウ製作所という会社ごと形振り構わず奪ったのか。


 精神干渉で追跡してその商品の現物を実際に手に取ると、すぐに理解できた。


「これ、無機物にチカラを込めてあるな。だからこの情報を独占しようとしたのか。対抗勢力に高く売るために。」


 それは湯たんぽのような見た目で、数カ所蓋付きの穴が空いている。中身はギッシリと石を入れた鉄のカゴが有り、その石にはチカラが込められていた。


 用途としては、温泉に入れて置くと効果を引き上げるらしい。ただそれだけの効果だったが、無機物に長時間有効なチカラを込めたという事実は素晴らしいといえる。


 マスターも武器や料理道具などの身の回りの物に似たような事をしている。最初にかなりの試行錯誤の手間がかかるが、その便利さは一度体験すると手放せない。


 それを民間の製造所で量産したのだから、さすがは技術の国である。これがミキモト教授に渡れば非常に効果の高い兵器を生み出すだろう。


「とはいえ、これを直接潰しに行ったら目立つよなぁ。」


 ネットでよく有ることだが、都合が悪いからと情報を削除すると増殖してしまう法則がある。


 ともかく情報は手に入れた。今はミドリ達の事を進めながら対策を考えることにした。


「あ、でもちょっと面白そうな事を思いついたな。」


 恐らくはロクでもない考えが芽生えたマスターに、ツッコむ者は居なかった。



 …………



「おはようございます。」


「「「おはようございます!!」」」



 2010年3月21日。私と母さんはサクラさんに連れられて、彼女の事務所にやってきた。今年で25歳の彼女が挨拶すると、それよりもずっと年上の男の人達が元気に挨拶を返してくる。


 あの若さで本当に社長なんだね。すっごくやり手のお姉さんって感じ。でも今日は連休の中日、しかも日曜日なのにみんな働いている。田舎っぽい所だけど、探偵ってそんなに忙しいのかな。


「ちゃんと交代で休んでるわよ。田舎でもマスターからの仕事は結構貰ってるしね。」


「あ、はい。え、どうして?」


 何も言ってないハズなのに答えが返ってきたわ。

 考えてる事、口に出てたかしら?


「お姉さんは何でもお見通し、だから探偵やってるのよ。」


 なにそれ格好いい。きっとこんなに優秀だからマスターさんと良い仲になれたのね。昨日話した時はちょっとポンコツとか思ってごめんなさい!


「ポッ!?……コホン。じゃあここに座って下さい。マスターが来るまでに少しお話したいことがあります。」


「はい、なんでしょうか。」


「ミドリちゃんはマスターに任せるとして、フウコさんの事です。直球で伺いますが、この事務所で働く気はないですか?」


「え!?私は探偵なんてよく解りませんし、お役に立てるかどうか。」


「いえいえ、違います。聞き方が悪かったですね。ここで秘書とかやってみませんか?最初はお茶汲みから慣らして、昼間だけの出勤で……要望通りの仕事がこなせれば給料はコレで。」


 サクラさんが提示した金額は、高いかどうかは私には解らなかった。簡単な仕事にしては多い気がするし、父さんは社長だったので良いお金貰ってたし。


 しかしさすがに母さんはその辺の相場が解っていたらしい。


「まぁ、こんなに頂けるのですか?」


「ウチはマスターが1番の顧客ですから、真面目にしてれば結構恩恵はありますよ。それに、そこで様子を伺っているヤロウ共も癒やしが欲しいようですし。」


 その時、ばばっと音が聞こえて気配が去っていくニオイがした。オトコってみんなそういう所あるわよね。やらしい!ってそれはオンナも同じか。コワイくらいの人も多いもん。


 母さんは暴飲暴食とかはしない人だし細身でキレイだから人気があるのかしらね。私?私は無いわ。寄ってきてもニオイで判別して避けちゃうし。


「すみません、ヤロウ共はよく殴っておきますので。ともかく、ミドリちゃんは難しい立ち位置にあるので安定した収入を得られるようにするのは一つの手かと思います。」


「そうですね。私でよろしければ微力を尽くさせて頂きます。」


「「「いやっほぅ!!」」」


「テメェら!この方達に手ェだすんじゃねえぞ!?マスターが連れてきたって言えば判るよな!?」


「「「…………」」」


「「…………」」


 サクラさんのお上品な注意で静まり返る事務所内。母さんもびっくりして口が開きっぱなしになっている。


 私も驚いたけど、同時にちょっと格好いいなって思ってた。あの気合があるからこそ、社長をやってるんだよね。


「お待たせしました、おはようございます。」


「おはようマスター、時間はピッタリよ。」


「「お、おはおはおは……」」


 うわ!今度こそ本当にビックリ。何もない所からマスターさんが生えてきた!神出鬼没の称号は伊達じゃないね。


「フウコさんはここに決めました?」


「はい、是非お願いしますと伝えたところです。」


「それは良かった。では引き続き、これからの話しをしようか。」


「は、はい!よろしくおねがいします!」


 緊張してちょっと上ずっちゃったかな。恥ずかしい!


「とりあえず今日もアライ組にご挨拶するつもりだよ。それで金銭的にはプラスになるだろう。だがその後の君はどうしたいのかなってね。とりあえず2人とも新しい戸籍で生きて貰うつもりだけど。」


 そういって彼は、私と母さんの身分証明の書類を一式渡してくる。いつの間に作ったんだろう。というかどうやって作るのコレ?


 そこに書かれた名前はフジナカ・アオバだった。


「マスターさん。お気持ちは嬉しいのですが、私どもは旧姓に戻って普通に暮らしていきたいと思ってます。」


「うーん、普通ならそれで良いよって言う所だけど辞めたほうが良い。」


「な、なんでですか?」


「ここに来る前に事件の背景について調べてたんだけど、割と大物が関わっててね。このままだと多分危険です。それはカトウさん達だけじゃない、この町全体の話です。」


「マスター、それは聞き捨てならないのだが!?」


「お願い、詳しく教えて。」


「事件の裏に居たのは国会議員の1人です。人脈も権力も財力もある。そんな奴の獲物がこの町に紛れ込めば、当然調査されます。そしてこの町は今や、ワケアリの住人ばかりですよね。」


「そういうことでしたら、この書類は受け取らせていただきます。皆様にご迷惑をおかけするわけにはいきません。」


「わ、私もよ。」


「まぁこれは保険みたいなものですので、必要な時はその名前で通してもらえればいいです。それでミドリさんはどうします?望むならこの町の高校に通うことも可能ですが。」


「少し考えさせて下さい。」


 そうは言ったけど実は半分気持ちは固まり始めていた。

 でもそれは母さんを心配させるだろうし、もしかしたらマスターに止められるかもしれない。だから今はまだ伝えられない。


「ミドリちゃん、きちんと考えてね。」


「……はい。」


「ふむ。なるほど、解りました。では今日の仕事に向かいますか。フウコさん、娘さんをお借りしますよ。」


「娘をどうか、よろしくおねがいします。」

「よろしくおねがいします!」


 私は元気よく返事をしてマスターと外へ出ていく。


 サクラさんとマスターの反応、多分バレてるわね。でもここで公表しなかったのはありがたい。


 私の中に芽生えた黒い心を、母さんに知られずに済んだもの。



 …………



「お兄ちゃん、温かいね。」


「ああ、眺めも良いし来てよかったな。」



 ミズハ一家は千歳川沿いの緑地公園、万葉公園に来ていた。

 その中央付近にある独歩の湯で兄妹はピッタリくっついて寛いでいた。


「なんか足の疲れがみるみる取れていくよ。」


「立て札によると、そこの湯たんぽみたいのが温泉の効果を高めているらしいよ。すごい発明だよね。」


「むぅ、きっと2人で入ってるからだよぉ。」


「おまえなぁ……ああ、そうかもしれないな。」


 ちょっと拗ねながらも強く抱きついてきたシズクを見て同意しておく。妹の機嫌を損ねるほどのことでもないのだ。


「お前達は仲がいいな。どうだ、良い湯か?」


「ああ、いい湯だよ。疲れた飛んでいく気分だ。父さん達はいい写真は取れた?」


「ばっちりだ。ひさしぶりに母さんとデート出来たしな。」


「もう、あなたったら。」


 遅れてきたシゲル達もお湯に足を突っ込んでいく。


「ほう、こりゃいいや。」

「本当ね。疲れた足に染み渡るわ。」


「なぁシラツグ、本当に就職でよかったのか?ある程度の大学ぐらいなら行かせてやれたのに。」


「父さん、その話はもう終わったでしょ。ちょっと変則だけど公務員になれるルートがあるんだって。」


「だけど、警備会社だろ?勤務時間は不規則だし心配なんだよ。」


「きっと出会いも少ないわよ。今まで陸上やってたのに彼女もできなかったじゃない。どうするの?」


「むぅ、お兄ちゃんは他の人に渡さないもん!」


 頬を膨らませて全力で抱きつくシズク。


「シズク、ちょっと力を抑えて。痛いから。彼女はともかく、高卒でもそれなりのお金が貰えて何年かすれば公務員だよ?大学へ行くより家のためになると思うんだ。」


「そんな、私のために!?」


「父さん達もテレビで見ただろう?サイトっていう対テロ用の超能力者の組織。あそこの提携会社からスカウトが来たんだから受けなきゃ損だよ。」


 ブラコンな妹の反応はほとんどスルーして話をすすめる。彼は陸上の大会で目をつけられて、入社を薦められたのだ。


 サイトは世界中に支部を置くほど規模が大きいが、現地の人員や提携会社との連携で人手を補っている。

 元ナイトの構成員である程度賄えるとは言え、世界に網を張るには足りなかったのだ。


 提携会社で優秀な者はサイトに移籍する者も多い為、常に一芸に秀でた人員を求められていた。


 そんな中で白羽の矢が立った者達の1人が、陸上で鍛えた身体を持つシラツグだったのだ。


「でも大規模な会社となると、家を出る必要があるでしょ?」


「お兄ちゃん、遠くへ行っちゃうの!?」


「最初は研修で泊まり込みになるけど、暫くは地元の仕事を優先して回してくれるらしい。休みの日は帰ってこられるさ。」


「むぅ……」


 顔を押し付けて拗ね始める妹の頭を撫でてやるシラツグ。それが気に入ったのか、もっと!とおねだりし始めるシズク。


「「…………」」


 シゲルはハラハラと、妻は微笑ましいものを見る表情で子供達を見守っていた。



 …………



「てめえら、こんな事してタダで済むと思うなよ!」


「それは過去の自分達に向けての言葉ですか?」


「ぎゃーーー!!」



 本日3つ目のアライ組の事務所を襲撃し、最後の1人の身体の内部に激痛を与えてショック死させる。


「マスター、そこの扉の奥とこっちに隠し金庫もあります。」


「了解、無駄にチカラを使わずに済むのはありがたいね。」


 マスターがテンプレさん達を蹴散らしてミドリが戦利品を見つける。この流れは安定して稼ぎを増やす事に成功していた。


 回収したブツを社長に送るとすぐに報酬が送られてきた。今回はアタッシュケースが2つだった。


「これで君の借金も無くなり今後の蓄えも出来るな。お疲れ様ミドリ、これで君はあの町で自由に暮らせるぞ。」


「ありがとう、マスター。でもまだ終わってないわ。アライ組が消えたわけじゃないし、ヨシダって議員も許せない。」


「復讐に生きるつもりかい?今なら普通に学生やって社会に出て結婚することだって可能だよ?」


「私は父さんを殺したヤツらが許せない。絶対によ!マスターは気づいていたでしょ?心が読めるんだから。」


「そりゃね。だが今までのようにオレのチカラ頼りだと、すぐに足元を掬われて死んでしまうぞ。領分はわきまえた方が良い。」


「なら死なないようにして。私の復讐が終わるまで手伝って欲しい。依頼料は同じ様に払うわ。足りなければ……私を好きにしていい。1回だけじゃない、それこそ貴方の気が済むまで。何でも、何回でも。」


 真剣な表情でお互い見つめ合う。だがマスターはミドリの覚悟を見るとかそういう意図はなかった。心の中に妻が声を掛けてきたので対応していただけである。


『あなたってなんでこう……若い子騙しちゃダメよ。』

『そんなつもりはないよ。オレの1番はいつだって君だ。』

『そうだけど、自分より新鮮な方を選ばれるかもって不安に……』

『毎日お互いの全てを確認してるだろ。いくらでも若くできるし。』

『今の、当主様には聞かせられないわね。』


 結婚生活伸ばし放題と言われたら、後釜確定の当主様は卒倒しかねない。



「オレは妻子持ちなんだ。身体を捧げられても報酬にはならない。」


「なら、何なら報酬になるの!?」


「決意は固いみたいだね。うーん……いや、やっぱり身体で払ってもらおうか。」


「うぐっ!?」


 一度は断られたのに要求されて喉が詰まりそうになるミドリ。


『あなた、私は解っているけど言い方ってものがあるでしょ!』


「今日思いついた事があるからそれに付き合ってもらう。そうしたら依頼料は大幅に減額するが、良いかい?」


「ああ、そういう……でも何をさせる気?」


「君が簡単に死なないようにする方法、それを確立させるのさ。」


「んん?つまり普通に安く引き受けてくれるって事?随分優しいのね。」


「ここじゃあなんだから、移動しようか。それと今の話はきちんとフウコさんにも伝えるようにな。」


「イヤよ、絶対反対されるもん!心配掛けたくないし。」


「だからこそだよ。何をするかくらいは伝えておかないと何かあった時に寂しさを倍増させることになるぞ。」


 襲撃した事務所で長話なんてしてられない。とりあえずはミドリをサクラの事務所に送る。


 そしてマスターは別の場所へ飛び立つのであった。



 …………



「こんにちは、ナカなんとかさん。」


「こんにちは、じゃねぇ。どれだけ待たせるんだよ。」


「快適な隠れ家じゃないですか。なにか不満でも?」


「こちとら毎食最後の晩餐の気分だったぜ。」


「あれだけおかわり要求しておいてよく言うの。それで仕事は見つかったのか?」


「ええ、もちろん。彼もきっと大満足なヤツです。」


「言っておくが犯罪は認めんぞ。もしそうならすぐにでも処刑した方がマシじゃ。」


「ご安心下さい、彼の仕事は”正義の味方”です!」


「「はぁ?」」


「ともかく付いてきて下さい。ゲンゾウさん、彼の世話をありがとうございました。」


「う、うむ。マスターよ、犯罪だけはダメだからな!」


 ゲンゾウは念押しするも既にそこには誰も居なかった。



 …………



「ただいまー。」


「プロデューサーさんよ、ここは一体どこだい?」


「知り合いの探偵事務所です。」


「お帰りマスター、あの親子をなんとかしてよ。」



 ナカ○○を連れて探偵事務所に入ると、カトウ親子が口論をしていた。どうやらミドリはフウコに伝えたようだ。


 サクラは自分では止められないと事実を認識して、マスターに早くなんとかせえと振ってくる。


「ダメよ、復讐なんて!今後は静かに暮らしていけば良いじゃない!」


「あいつらが蔓延ってる社会で?そんなのごめんよ。私はヤツらを許すつもりはないわ!父さんが殺されてるのよ!?」


「ミドリまで居なくなったら母さんはどうすればいいの!?」


「マスターに手伝ってもらうから、死ぬことはないわ!」


「はいはい、一旦落ち着きましょうね。」


「マスターさん!この子を止めて下さい!この子だけは普通の人生を歩んでほしいんです!」


「ご心配する気持ちはわかりますが、ミドリさんの怒りが収まらないと普通の生活にはならない気がしますよ。」


「その通りよ!アイツラに償いをさせて初めて、スタートラインに立つことが出来るわ。」


「でも危ない目に遭うかもしれないのよ!?」


「でしょうね。だからこそ助っ人を連れてきました。」


「「助っ人!?」」


「ええ、彼です。……? どうしました?ほら、挨拶して。」


 フウコとミドリは助っ人の男を見る。30代半ばくらいの、ちょっと格好いい男だ。マスターが連れてきたなら訳有りなのだろう。


「ステキだ……」


「「「え?」」」


「お姉さん、ぜひオレと食事をご一緒してくれないか!」


「えええーーー!?」


 ミドリは驚き声を挙げてしまう。フウコは口をぱくぱくさせて呆然としている。マスターは驚きつつも面白そうに見守っている。


「失礼、オレはナカ○○・○○○。ネームサファルではあるが、必要なら改名も辞さない。必ず貴女に相応しい男になってみせる。まずはお姉さんの名前を教えて下さい!」


「おねッ!?カ、カトウ・フウコといいます。でも私は40を過ぎてますし、子供も居ますし。夫を亡くしたばかりなので……」


「それは失礼をした。喪が明けるまでは手を出さないと誓おう。だが歳は関係ない。貴女は充分に魅力的だ!そして娘さんを思いやるその優しさ、オレは感動しました!」


 ガシッと手を握って話さないナカ○○。


「そんな、会って間もないのに。でも食事くらいなら……」


「ちょっと、母さん!?」


「なんと、とても嬉しいですフウコさん!どんな店が好みですか?どんな店でもプロデューサーに予約してもらいますので!」


 ちゃっかり彼の財布を当てにするあたり情けないが、勢いで押し通ろうとする。


「この町に来て日が浅いので詳しくなく……よかったらウチで?」


「手料理を振る舞って頂けると!?ぜひご一緒させて下さい!!」


「な、なんなの?もうやだぁ。」


「ミドリちゃん、彼に悪意は無いわ。悪い事にはならない。」


 頭がおかしくなりそうなミドリをサクラがフォロー?する。だがその情報はミドリも掴んで……嗅いでいた。


 もしかしたらそれが新しい父さんのニオイになるかもしれないと思うと目の前が暗くなる。


「私の鼻もそう判断してるわ。だけど何で急にこんな……」


 いきなり母がナンパされて、しかも上手くいっちゃったシーンを見せられる娘の気持ちにもなってもらいたい。


「ま、悪いのが居るとすれば、彼を連れてきたマスターね。」


「!!」


「そんな熱視線で見つめられると照れてしまいますね。でもほら、口論は終わりましたし万事OKってことで。」


「「貴方が余計カオスにしたんでしょうが!!」」


 サクラとミドリがハモるが、さすがにこれは八つ当たりである。マスターとて、こうなるなんて1mmも思っていなかった。


「なるほどな。自称魔王は年上好みか。」


「「いらん情報をしみじみ確認するなーー!」」


 再び2人がハモるが、マスターはそうは思わなかった。恋愛とは生きる動機そのものに近いからだ。


 むしろこれなら仕事も上手くやれるだろうと安心していた。



 …………



「では、今後の活動について説明しようと思う。」



 軽井沢の空間の歪みの中。森と道とダミーの屋敷だけが有る空間。キリコと初めて出会った場所に、マスターはミドリとナカ○○を連れてきていた。


 屋敷の門の前で2人は緊張した様子でマスターの言葉を待つ。


「まず君達は正義の味方を目指してもらう。2人組の怪盗として悪の組織を打倒する存在だ。もちろん余計な殺しはナシだ。」


「マスター!私は復讐を――」


「それは心の中に仕舞っておきなさい。それ自体を目標にすると痛い目にあうからね。」


 片手で制しながら、口を挟むミドリに黙っていてもらう。


「目標とする敵はアライ組、並びにヨシダグループです。だがこちらは2人、相手は多数。とても生き残れないだろう。そこで君達には、オレのチカラの一部を使えるようになってもらう。」


「「!?」」


「プロデューサー、そんな事が可能なのか!?」


「オレのことはマスターでいいです。オレのチカラを君達の心と身体に封入して使えるようにするつもりだ。ただし、最初は上手くいくかはわからないから、身の危険もある。」


「「嫌な予感がする……」」


「君達に入れるのはステルス・3Dホロ・次元バリアって所かな。あと身体にチカラを通すテクニックもいいな。頑丈になるし。緊急用の時間停止も良いけど、悪用されるとマズイんだよなぁ。」


「色々ついていけてないが、オレ達はマスターに逆らえないんだろ?別に悪用も何もないと思うが。」


「それもそうだな。とりあえず試そう。」


 ヒュン、ぐしゃっ!


「「ぎゃあああああああ!!」」


 マスターが並んだ2人の後ろに回って背中から手を差し込む。彼らの身体の中に精神力のカタマリを押し込んだ。


 が、その部分がひき肉になり倒れて動かなくなる2人。


「これではダメか。とりあえず時間を戻そう。」


「なんてことするんですか!私はハンバーグじゃないんですよ!?」


「マスター、いくら逆らえないとは言えこれは酷いんじゃないか!?」


 身体の時間を遡行させて即座に復活した2人は当然抗議する。


「うーん。直接精神力を入れてもだめだったから、次は……」


「「ガン無視!?」」


 それから何度となくひき肉を量産しつつコツを掴んでいくマスター。モノづくりとは試行錯誤が必要なのだ。完全にサイコパスである。


「よし、今度こそ大丈夫だ。」


「それ、毎回聞いてるんだけど。」


「オレは淡々と作業するマスターの、人間性を疑い始めたよ。」


「変に慌てても仕方がないしな。ていっ!」


「「うわっ!!」」


 白く光る弾丸のようなものを心臓付近に埋め込まれ、さらに頭にチップのようなものを埋め込まれる。

 今度は爆発しない。無事に埋め込むことに成功したようだ。


 実に16回目での成功に、喜びよりも安堵の方が強い被験者2人。


 埋め込んだのは物理的なものではないので人体には影響はない。先程までひき肉を量産していたのは身体に上手く馴染ませられずチカラが爆発してしまっていたからだ。


「これで3Dホログラムとステルスが使えるようになったはずだ。ちょっと試してみてくれ。」


「試せといわれても……あれ?使い方が判るわ!!」


「おおお、こんな事が……さっそく試そう、変身!!」



 2人が光りに包まれて3Dホロのコスチュームを纏って行く。


「おおお、まるで奇術師のようだ。しかも淡く光っていて格好いいじゃないか!さあ、鳩を出してみせよう!」


 ナカ○○はタキシードとシルクハットに白手袋を着ていた。

 顔には黒い仮面を被っており正体はバレにくくなっている。どうやら本人も気に入ったらしく、帽子から映像の鳩を出し始めた。


「私のは魔法少女タイプね。映像だから軽いし動きやすくていい感じかも?でも年齢的に苦しくないかな?」


 ミドリはちょっと照れながらも自分の衣装を確認してくるくるまわってポーズを取っている。

 周囲に星とハートのテクスチャが飛ぶと思わずニッコリしてしまう。彼女の顔にも蝶をイメージさせる仮面が掛けられている。


「うん、上手くいったね。ちなみに自分が着てみたい衣装が装着されるからね。ミドリは魔法少女に憧れてたのかな?」


「ッ!!ちょっと、そういうのやめてよね!」


「似合ってるぞわが娘よ!父さんの衣装はどうだい?」


「誰が娘よ!そもそもあんた何なの!?」


「それは父さんも知りたいな。じっくり話し合おうじゃないか。」


「勝手に父を名乗るな!!」


「はいはい、ケンカしない。そういえば自己紹介もまだだったか。」


 勝手に連れてこられて勝手にひき肉にされた。そんな奇妙な体験をした仲ではあるがお互い名前しか知らないのだ。


「ならオレから説明しよう。自己紹介だと色々誤解も多いだろう。」


「それならマスター自身も頼むぜ。助けてもらって言うのも何だがあんたは普通じゃねぇだろ。」


「うん?解った。オレはラーメン屋を経営している○○○○・○○○だ。ハーン総合業務でアルバイトもしている。おかげで追われる身だ。」


「あ、あんた!アイドルプロデューサーじゃなくて現代の魔――」


「ストップ!ナカさん黙って!その呼び名はダメよ!」


「アイドルについては身内の趣味を手伝っているだけだ。気にしないでくれ。」


「何だよ、そうなら教えておいてくれよ。本物相手に魔王を名乗るとか恥ずかしいじゃねえか!うわあああ思い出しただけで恥ずかしい!」


「気にする所はそこなんだ?てっきり襲いかかってくるかと。」


「そんな気はねえよ!確かにマスターのせいで立場を追われたが、今となってはどうしようもねえしな!」


 ナカ○○・○○○はネームサファルになった時に職場でいじめに遭い、上に訴えたら退職させられた経緯があった。

 その後、連鎖する周囲とのゴタゴタで腐っていた所を金髪女に唆されバレンタイン事件を経て捕まってしまう。


 そんな人生の窮地で助けてくれたのは魔王本人だった。さらに言えば服従の契約を結んでいる以上は反抗心が出ることはない。


「なんか悶えてるけどどうしたの?魔王を名乗る?」


「ミドリ、彼は国際展示場での事件でオレを騙って大暴れしてね。黒歴史を思い出して葛藤してるんだろう。」


「えええ!?あの事件って結局300人は死んだやつじゃん!!ちょっとあなた、そんな人を母さんに近づけるワケにはいかないわ!」


「あ、いや、ちょっとまってくれ!」


「はい、そこまで。君だって綺麗事を言える立場じゃ無いだろう?」


「私は!……そうね。そうだったわ。」


 ミドリもまた、アライ組の事務所を襲って命や金品の強奪に加担していた。それを思い出しておとなしくする。


「素直でよろしい。ナカさん、彼女は父親を殺された挙げ句に会社ごとヨシダグループに奪われてしまってね。」


「なるほど、それで実行犯のアライ組と黒幕のヨシダグループを狙うってわけだな。しかもすでにケンカは始まってるってところか?」


「理解が早くて助かるよ。ともかくまともな人間はここには居ない。だから変に責め立てたりせずに目標に向かって歩いていくって事で良いんじゃないかな?」


「わかったわ。この際前科は置いておく。でもこの人が私の父に成り代わろうとするのは許せないわ。」


「オレは――」


「待った、決めるのはフウコさんだ。彼も喪が明けるまでは手をださないと言ってたし、大人同士の話を邪魔してはいけないよ。君達親子には頼れる人材が必要なのは確かだろう?」


「う、そうだけどさ……。」


 ナカ○○を制してミドリを諭すマスター。こういう時は本人が何を言っても火に油なのだ。


「では続きと行こうか。ステルス機能を試しておこう。これは味方同士には半透明に見えるが周りからは完全に透明だ。使用時は事故に気をつける事。車も避けてくれないからね。」


「わかった、やってみる!ステルスON!……きゃああああああ!!」


 埋め込まれたチカラを発動し、自身の姿を消していく。しかし消えたのは3Dホロと服だけだった。


 右手で胸を、左手で股間を隠しながら屈んで叫び声をあげるミドリ。

 しかしながら慌てているせいだろう。指の間から肌色とは違う色の円と突起が見えていたり、黒い三角形の秘密がチラチラしている。


「ほう……じゃないミドリ、落ち着いてステルスを解除して!本当に裸になったわけじゃないからすぐに戻るよ。」


「娘の成長した姿が見れて、父さん嬉しいよ。」


 すぐにステルスを解除して元に戻るが、ナカ○○さんが余計な一言を放ったために一気に臨戦態勢に入るミドリ。


 バチン!


 強烈な平手を食らったナカ○○さんがその場で横回転する。


「マスター、これは一体どういうことですか!?」


「ああ、うん。設定が残っていたみたいだ。ごめんごめん。」


「なんでこんな設定を……はっ!もしかしてプレイですか!?サクラさんが言ってたのってコレの事かあああ!!」


「サクラめ、余計なことを……」


「サクラさんの所為にしないで下さい。ていうか見ましたよね?」


 再び臨戦態勢にはいるミドリに、マスターは諦めて答える。


「むしろひき肉から戻す時に内側までバッチリ見ました。やはり若いだけあって、とても健康的な色を――」


「さすがにキモイわっ!」


 バチン!!


 先程より強力な平手打ちがマスターを襲ってナカ○○さんの隣に倒れ込んだ。


『その答えだと羞恥心はマシかもしれないけど、必殺技ゲージは満タンになるわ。正直に答えるのも考えものじゃない?』


 マスターが地面に強引に膝枕をして貰うと呆れた声が彼の心に響いた。


「もう、今日はお手入れがイマイチだったのに……」


 一方、顔を赤くしたミドリはブツブツ言いながらモジモジしていた。正直この流れでそうなるのはミドリ自身もよく解らなかった。


「はいはーい、ダンナがごめんね。回収するから練習するなり休憩するなりしててね。すぐ復活させてくるから。」


 虚空に穴が出現し、中からいきなり銀髪の美女が現れてマスターを放り込む。


「!?一体何処から……てかダンナってえええ!?」


「そ、私が○○○の妻の○○○です!ミドリちゃん後でお話しよーね。」


「……」


(あの美人がマスターの奥さん?この世の理不尽を垣間見たわ。)


 ウインクをぱちこんとカマして空間に合いた穴に飛び込む美女。口をパクパクさせながら棒立ちするミドリだった。


 一方、ナカ○○は起きるまでその場に放置されていた。



 …………



「ウチの自慢のお風呂なの。ぜひ堪能していってね。」



 あの後復活したマスターと共に埋め込まれたチカラの練習をした。ナカ○○と共に心身ともに疲れたミドリは、○○○と一緒に魔王邸のホテルにある露天風呂で寛いでいた。


「ああああああ、いきかえるううううう!」


 男の姿もなく開放感の有る浴場でミドリは両手両足を伸ばして幸せな溜息をだだもれにしていた。元社長令嬢の元女子高生、お手入れも済ませたこともあってその身体は眩しいものだった。


 遅れて入ってきた○○○は内心、若いって良いわねとミドリの肢体を眺めつつ隣に座る。だが○○○の方が魅力的だとマスターなら豪語するだろう。



「改めて、旦那がごめんなさい。結構無茶なことさせちゃって。」


「い、いえいえ。こちらから頼んだ事ですので!」


「でもひき肉はやりすぎよね。それに夫婦間の夜を透けさせるのも良くないと思うのよ。」


 実際に透けたのはミドリの服だが、妻目線からすればそうなる。


「あの、私の方こそ気絶するくらい殴っちゃってごめんなさい!」


「いいのよ、旦那はわざと受けたんだもん。正当な仕返しだしね。」


「わざと、ですか?確かにバリアを使ってませんでしたが……」


「あの人、セクハラへの罰はいつもきちんと受けてるのよ。その気になれば爆心地でも無傷なのにね。」


「あの。奥さんが居るならセクハラなんてしなくてもいいんじゃ?」


「昔はともかく、今は彼の周りに女が多いからね。どうしてもそうなる面があるのよ。ま、バランス理論で代償を回避してるのね。」


「どういうことですか?」


「一緒に過ごす男女である以上、性的な思考は多少は生まれるわ。それを完全にシャットアウトすると双方の心に良くないの。でも罰を受けずに女が泣き寝入りしたら、その代償は必ず何処かで返ってきてしまう。」


「つまり、お互い適度に発散させるってことですか。」


「話が早いわね。そう、それでバランスを取るの。」


 これは魔王邸ではマスター以外の男が排除されている、その理由に繋がる話でもある。


 男女複数人が同じ場所に存在すると、必ずトラブルが起きる。その予防なのだ。



「でもそれで奥さんは良いのですか?」


「私以上にガチじゃなければ別に良いわよ。キチンとルールを守って私が彼の1番である限りは、何も問題無いわ。」


「奥さんを見てると大抵の女性は敵いそうにないですよ。」


「あら、ありがとう。お世辞でも嬉しいわ。それで、旦那のチカラは使いこなせそう?」


「そっちはまずまず、ですねー。一応私もチカラ持ちだったけど系統?が違うからイメージが難しいです。」


「そうでしょうね。でも諦めたりしないんでしょう?」


「はい!私は父を殺して何もかも奪ったヤツラを許しません!」


「そう、でも報酬で自分を差し出すのは最後の手段になさい?」


「あう、知ってたので……いや、あれはその……」


「別に怒ってないわ。それで、旦那のことはどう思ってる?」


「へ、変な人だけど、ちょっと格好いいかもです……」


「素直でよろしい。この先何かあったら私に相談してね。もしかしたら役に立てるかもしれないから。」


「はい、ありがとうございます!」


 自分の気持ちを自覚した彼女は少し心が軽くなったのを感じていた。回復したマスターに自宅に帰してもらって玄関を開ける。



「母さんただいまー!マスターさんにお風呂借りてきたよ!」


「おおう、なんという彩り豊かな料理なんだ!フウコさん、貴方は素晴らしい女性だ!どれもこれも、まるで天使の――」


「がっでむ。」


 母の用意した食卓にはナカ○○も同席していた。

 せっかく軽くなった心が重くなり、その日の夕食はナカ○○を終始牽制していたせいで味はよくわからなかった。


 ミドリは自覚していなかったが、父が死んでから初めての本音剥き出しの団らんを過ごすことが出来ていた。



 …………



「これは美味いな。マスター、いい趣味してるぜ。」


「口に合って良かった。それで、聞きたい事というのは?」



 水星屋の営業時間後、カウンターではマスターとナカ○○が酒を飲んでいた。キリコは酒だけ出して先に戻っている。


「なぁマスター、今日のチカラの埋め込み?について詳しく教えてくれないか。何度もハンバーグにされかけたんだ、どういう事なのか教えてくれてもいいだろう?」


「詳しくも何も、そのままですよ。オレのチカラの使い方を回路にしてチップとして頭へ。それを発動させる為の精神力と出力装置を胴体に入れたんだ。そこから身体の末端に向けて精神的な回路を作ってある。これで精神力の電池が切れるまではオレのチカラの一部が使えるって寸法です。」


 マスターのチカラを使う。その行為には幾つか方法がある。


 解りやすいのは彼と心を繋ぐこと。

 常時繋いでいる妻はもちろん、店員属性をつければ水星屋店内では任意に使える。もちろん制限付きではあるが強力だ。


 次に彼のチカラを込めた物を使う方法。


 魔王邸の家具やマスターの拳銃などがこれである。

 直近の女性たちが使っているセクシャルガードの下着もこれに該当する。公安事件のサクラもこれに近い。ほぼ自動で発動するが限定的な使い方しかできない物が多い。


 今回の件は後者に近いが、チカラを付与するのは人間そのものだ。試行錯誤の結果 使い方と電池と出力装置を、精神力で梱包して取り付けたのだ。電池部分はマスターが補給すれば良いし本人の精神力でも効率は悪いが使えなくはない。



「まるで改造人間だな。仮面被ってバイクを乗り回しそうな。」


「ナカさんならあのキックは出来そうですね。」


「ついでに……こっちが本命なんだが何故オレを助けた?あの嬢ちゃんを手助けするならそれこそマスターで良いだろう。」


「理由は幾つか有るけれど……あなたが納得しそうなのはオレ自身と重ねて見たからかな。ネームサファルで一気に周りが敵だらけになり、無茶なことをやって捕まり助けもない。そんなの救いが無いでしょう。」


「同情か。他の理由は?」


「オレのビジネスや家庭の話になるので省かせて貰います。ただ、助ける選択肢を選んで正解だったと思ってますよ。」


「ふーん、そうかい。まだ何もしてないけどな。なぁ、それでフウコさんなんだが。マスターは手を付けてないよな?」


「ええ、元々オレは妻子持ちだし自分から手を出すつもりは無いですよ。」


「それは良かった。昼間の感じだと応援してもらえるのか?」


「今後の働き次第ですね。一生懸命やるならミドリだって心を開いてくれるんじゃないですかね。」


「そっか。いやあガラにもなく一目惚れしちまってな。よっしゃ、これは明日からも頑張るしかないな。よろしくマスター!」


 社長は彼を隠れ蓑に使うつもりだった。ならばその才があるのだ。あとはマスターの使い方次第となる。


 ナカ○○は周囲が敵になり最終的に社会的に地位を奪われた。救出後、初手ナンパをカマしてそこそこ上手くいきそうだ。


 ミドリは家族を奪われ復讐を決意して、その為のチカラを無理矢理にでも身につけようとした。


 両者共にマスターの過去と若干被る面があるので、助かる気があるなら助けたいと思ったのだ。


 そしてそれらは社長の計算通りであり、掌の上であった。

 ナカ○○の感情をシゲキしたのもマスター本人に上手く使って貰う為である。


「その意気やよし、ですね。期待してますよ。」


「おう、任せておけ!憧れの結婚生活が懸かってるんだ。」


 一度はどん底に落ちて結婚どころか明日の命さえ危うかった。再び芽生えた人間らしい感情を糧に、次の日からも奮闘するナカ○○であった。


お読み頂き、ありがとうございます。

このエピソードで60万文字突破致しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ