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59 アント

 


「あーッ!アケミじゃない!こんな所で何を……オトコ連れ!?」


「ええーー!ショウコ!?」



 2010年2月14日の13時。国際展示場のバレンタインイベントでアケミとショウコは再会した。アケミは彼氏と腕を組んでいたがショウコは1人だった。


「アケミ、彼女は?」


「紹介しますね、彼女はショウコ。医大の時の親友です。」


「何その猫撫で声……ショウコです。看護師やってます!」


「それでこちらは……言って良いのかしら?」


「良いよ、もう隠すもんじゃねぇ。」


「こちらはトキタ・ケーイチさん。彼氏です!」


「ぐあー、先越されたっ!街中で料理スライムバラ撒く女に!!」


「ちょっとやめてよぉ。何で知ってるのよぉ。」


「それでトキタさん、お仕事は何やってるんです!?親友を任せる以上、変な仕事だったら許しませんからね!」


「ショウコ、何言ってるのよ。前も言ったけど機密が……」


「いや、君の友人ならある程度は知っておくべきだろう。オレは国の対テロ用の機関に所属している。簡単に言えば魔王退治の専門家だ。」


「ぎゃーー、聞かなきゃ良かった!!ちょっと彼氏さん、なんでそんな大事な事をお漏らししちゃうんですか!!」


「お漏ッ!?」


「ケーイチさん、ごめんなさい。ちょっと混乱してるみたい。」


「いや、無理もないさ。アケミの親友だけあって面白い子だな。」


「ていうかなんでここにいるのよ、おひとり様で。」


「おひ……アケミに言われるとハラ立つわね。主催者に招待されたのよ。院長からはキチンと顔を繋いどけって言われて強制的に参加ってワケ。」


「ショウコのコネも謎だらけね。上司から凄い人だって聞いてるけど。」


 このイベントに参加するにあたってミキモト教授から主催者の謎の資産家っぷりは聞かされている。アケミからしたらそんな人と縁があるショウコも恐ろしい程に謎だ。


「ともかく2人共、今夜は飲みに出るわよ!一晩かけて色々聞き出してあげるんだから!」


「明日は仕事だしそんなに遅くまでは……」


「かー!オトコが出来た途端これですよ。友情なんて孤独死した幽霊よりペラッペラですわー。」


 ショウコは掌をひらひらさせながら煽ってくる。ちなみに彼女は次の日は有給でお休みなので余裕がある。


「ははは、面白そうじゃないか。とりあえずオレ達と見て回らないか?話は歩きながらしようぜ。」


「ぶー!ケーイチさん、私の時よりデレるの早い!」

「アケミは邪念ダダ漏れだったじゃねぇか。結構怖いんだぞ。」

「失礼ですね、今もだだ漏れです!」

「おま、いい加減に栓をしておけよ。」

「なら、いい加減に栓をしてくださいよ。スエゼンですよ?」


「うーん。お似合いの2人、なのかなぁ?」


 ショウコは疑問形ながらも2人の仲を認めるのであった。



 …………



「もうすぐ時間だが準備はいいか?」


『工作班・封印班準備完了。』

『実働班準備完了。』


「よし、合図とともに予定通り実行だ。甘味に群がる蟻の恐ろしさをリア充共に見せつけてやれ。」



 13時50分、国際展示場の東1~3ホールで蠢く怪しげな集団が居た。

 彼らは小型の無線機で連絡を取り合い、今日のバレンタインイベントで良からぬことを企んでいるようだ。


 その予定時刻は14時丁度。

 それは人々が昼食後に油断している時間であり、無名のアイドルが仮設ステージでミニライブを開始する時間でもあった。


 そのライブ会場のステージ裏ではホールを覗き見しているシーズの3人の姿があった。


「コッチの初ライブもお客さん大勢いるね!」

「恋人たちの欲望を浄化してあげるわ。」

「そこは浄化しちゃ駄目のような、ポイすべきのような。」


「初の地球ライブだが緊張はしてないようだな。シーズの歌とダンスで参加者たちの度肝を抜かせてやろう。」


「おねーちゃん達、がんばってね!」


 3人の後ろからマスターが声を掛け、彼に抱っこされているセツナが笑顔で応援している。


「でも本当に良いの?マスターの演出って……」


「過剰だと思うか?それくらいのほうが喜んでもらえるさ。」


「私はマスターに賛成。依頼人もそれを望んでるわ。」


「でもでも、怖い人達にバレたりしたら!」


「その辺は心配しなくて大丈夫。ちゃんとオレのチカラで守るから。」


「「「マスター!」」」


「ぐえっ、首絞まってるから緩めて!」


 抱きついて喜ぶ3人のおかげで呼吸が止まるマスター。そこに1人のお爺さんが声をかける。


「今の契約奴隷はモテモテだな。オレの時は血生臭くて、よく女に逃げられたものじゃが。」


「ゲンゾウ先輩、オレの事はマスターかバイト君でお願いします。それと結婚するまでモテた試しは無かったですよ。」


『私には気付いてすらいませんでしたしね。』


 テレパシーでカナがサポート室からツッコむが気にしない。


「そうじゃったな。風変わりなコトをするが、流石はあの性悪女のお気に入りじゃ。」


「社長は何か言ってました?」


「お主は頭のネジが全部トんでる、くらいかの。」


「そっちじゃなくて、今日のシナリオです。」


「すまんすまん、オレも詳しくは知らぬ。だが伝言は受けた。難しいことは良いから好きにしろとのことじゃ。」


「ははーん。あの社長、細かい指示出しを諦めたな。」


「まぁ、お主相手ではのう。」


 現代の魔王とイベントの主催者のナカジマ・ゲンゾウは、先月とある料亭で顔を合わせていた。


 社長がまた何か企んだらしく2人を会わせたのだ。

 その会合は時間を止めて行われたが、マスターが5日・ゲンゾウが3日程社長こと領主の悪口で盛り上がってしまった。


「ほう、あの消える魔乳を打ち返しおるとはやるじゃないか!」

「しばらく3振続きでしたからね。強制的に悦ばす勉強をしました。」

「お主も難儀よの。妻子ある身であの性悪と子を成すなど。」

「センパイの時は違ったんですか?」

「オレは戯れ半分で済んだが……すまん、思い出しとうない。」

「察しますよ。思わぬ所で出来た”兄弟”なわけですし。」


「わっはっは!そうじゃな兄弟!あの性悪から聞いた時はどんなやつかと思ったが、お主は面白いやつじゃな。」


 この調子でゲンゾウと仲良くなったマスター。酒とシモネタは仲良くなるための鉄板である。


※極度に個人差があります。


 ちなみに社長は顔合わせ後すぐに退室した。得意の計算能力を使わずともそうなるのが目に見えていたからだ。


 結局は何を言われたのか全て把握していが、男の交流とはそういう物だと長い化物人生で知っていたので咎めたりしない。

 本当に必要なのは労働力なのだから。


 その後、社長からこのイベントでシーズを出演させる話がされた。マスターとしては地球側に派手にシーズを広める気はなかったが、社長相手に逆らえない面もある。今なら純粋なチカラの強さではいい勝負が出来るかもしれないが、契約や立場を考えれば無理は通せない。


 むしろ考えあっての指示なので、素直に従う方がお得まである。一応シーズ本人達に確認してみたら、ノリ気だったので依頼を受け現在に至った。



「まあなんだ、バイト君の手腕を見せて貰うとするかの。」


「マスター、私頑張るから見ててね。」

「女性たちが嫉妬するくらい魅了してみせるわ。」

「マスターも演出頑張ってね!」


「シオン・リーア・ユズちゃん。期待しているよ。」


「「「はい!」」」


 いよいよステージ開始時刻となり、3人がステージに立とうとする。


 しかし――。



 ダガーン!ダガーン!ダガーン!


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴ……



「「「きゃああああああああ!!」」」

「「「うわああああああああ!!」」」


 その時、ホール中から爆音と悲鳴が挙がった。

 何事かと確認しに行くと既にステージには黒い衣装の男たちが上がっており、MCの女の子からマイクを奪ってしまう。



「このイベントは我々が頂いた!!リア充どもはその場に腰を抜かして震え上がれ!」



 MCのマイクを使ってイベントの強奪を宣言する黒尽くめの男。その周りには彼を護衛するかのようにマスクをした男たちが銃や長物を構えて周囲を威嚇・警戒している。


「我々はリア充イベントを絶望に導く者である!!我らの名は”ワルイ・アント・バネット”通称アントである!!」


 どうやらアントというテログループのようだ。

 テロと言うには精魂詰める方向性が可怪しく思えるが、迷惑な集団という意味では間違ってない。



「我らが名を讃えよ!甘味は全て回収させて頂く!!」



 ダガーン!ダガーン!ダガーン!


「「「きゃああああああああ!!」」」


 自己紹介が終わると再び爆音と悲鳴が挙がる。爆音の正体は空中に投げられた花火のような玉だった。


 音量の割に少ない火薬で破裂しているが、中身の妙な粉末をバラ撒くだけで目に見えた被害はない。


 通路側の出入り口近くの参加者達は、男が女性を庇いながら逃げようとする。


 しかし通路への出入り口は固く閉じられており、何をしても開かない。外への出入り口も同様に固く閉じられているようだ。


 アントメンバーに追いつかれた者から身ぐるみ剥がされていく。


「すでに籠の中といったところか。」

「パパー、あの人達わるいひと?」


 セツナを怖がらせないように頭を撫でながら抱きしめる。


「あの爆発は音だけじゃな。施設内の火災報知機もスプリンクラーも作動してないぞ。」


「ゲンゾウさん、悪いけど身内を先に逃させてもらうよ。」


『○○○、キリコ、クマリ、無事か?これから時間を止めて

 回収する。』


『『『了解!』』』



「あなた、セツナ!」

「ママー!すっごい音だったよぉ。」


「もう大丈夫だぞ、魔王邸に送る!」


 心配そうな表情の妻と涙目のセツナを空間に穴を開けて帰す。


「マスター、私は残って女の怒りを教えてやります。」


「無茶言うな。キリコは戻ってケーキの用意だ。」


 キリコはこの後チョコケーキを作る予定だったのだ。問答無用で穴へポイする。


「オーナー、これってテロですかっ。」

「こら、私の旦那様に抱きつかないでください。」

「クマリ院長のものでもないでしょう?」

「オーナー、早く逃げましょう!?」


「それだけ元気なら大丈夫そうだな。ていっ!」


 かしましい孤児院組もさっさと孤児院へ帰しておく。


 そしてステージ裏のゲンゾウの所へ戻ると時間を再始動する。


「それは構わ……もう逃したのか。って、シーズのお嬢ちゃん達は逃さなくて良いのか?」


「シオン・リーア・ユズちゃん、こっちへ戻ってこい。……ライブは行います。あいつらを排除した後にね。」


「だが、ここには特殊部隊の関係者も来ておるぞ。迂闊なことをすればすぐにバレてしまうでな……」


「むう、社長の伝言ってこの事に掛かってるのか?」


 それなら気兼ねなく制圧できるが、どんな保険があるのかわからないままでは動きようもない。


「マスター!あの人達ひどいよぉ。」

「私達のマイク……奪い返しましょう!」

「ウサギキックの刑よ!許さないんだから!」


 ステージを奪われた彼女達が戻ってくる。

 実はこの間にアントの仲間がこちらを制圧しようとして、一瞬で意識を奪われてその辺に転がっている。


 そしてそうとも知らないアントの男が声を張る。


「おやおや、元気の良い奴らが何人か居るようだなぁ。彼女に良いところを見せようっていうのかい?」


 ホール内では既に100人以上のアントメンバーが跋扈してカップルを

 襲っていた。そして金目の物や今日の戦利品を奪っている。


 が、中には抵抗する者や果敢に攻める者も居た。


 ケーイチもその中のひとりである。


「あいにく、テロ退治の専門家なんでな!」


「チョコが貰えないならレーションを食べれば良いじゃない。」


「「「ぎゃああああ!!」」」


「うわー、この2人最高にサイコだわー。」


 彼らは「ステルス」で撹乱しながら失敗レーションで敵の動きを止め、敵の武器防具はケーイチが「分解」していく。


 本来なら一般人のショウコや医療班のアケミは下げるべきだがこの会場に下がるべき後方など何処にもない。


 ミキモト教授達に救援要請を出して貰うように頼んで、急造パーティーを組んでテロリストを無力化していく。


 ショウコの「ステルス」は触れてないと効果がない。

 彼女は2人にチカラを掛けつつ移動し、敵を見つけたらケーイチだけ離れ、倒したら戻ってきて再度ステルスの恩恵を受けていた。



「あいつらプロか?ならばダンナ!出番だぜーー!!」


「ふん、活きの良いのが居るようだがそれもここまでだ。」


 ダンナと呼ばれた黒ずくめの男が突如空中に現れ、大げさな身振りでステージ上に降臨する。



「我が名は現代の魔王なり!大人しくすれば命だけは助けてやろう。」



「「はあ!?」」



 離れた場所から異口同音の驚きの声がする。それは呆れ声に近かったが。


『工作班、今だ!』

『了解!』

『封印班、外側出口だけ開け!』

『退路確保はそれを死守、急げ!』


 壇上のマイク持ちは時折、通信端末で指示を出している。おそらく彼がリーダーなのだろう。


 その指示を受けて会場に紛れている工作班の1人が、チカラを発動して呪詛付きの悲鳴を挙げる。



「「「魔王が出たぞーーー!!」」」



「う?急に寒気が……魔王だと?」


「嫌だ、死にたくない死にたくなーーーい!!」


「「「うわあああああああああああああ!!!」」」



 呪詛。一種の精神攻撃を混ぜた悲鳴が山彦のように反響し、それを浴びた参加者が恐慌状態に陥ってしまう。


 何故1人の声が3つのホールをぶち抜いて使っている今日、ここまで効果があったかと言うと最初の爆音に原因が有る。


 あれは花火のような火薬玉でもなければ、ただの爆竹めいた音爆弾でもない。


 あの中には工作班が夜なべして造った、反響用の特殊な粉塵が込められていた。少ない火薬で爆音を響かせたのもそのせいだ。


 その粉塵により呪詛の悲鳴が拡散・反響して広められたのだ。


「「「あああああああああ!!」」」


 参加者たちは恐怖によりパニックになり、暴れたり失神するものが続出してしまう。


「あれ? なんか予定していた効果より強くね?」

「そんなにホンモn、コホン。オレの影響が凄いってことか?」


 ステージ上でアントリーダーと自称魔王が訝しがる。

 護衛役の者たちも若干不安そうにキョロキョロしている。


 本来はきゃーきゃーいいつつも、足がすくんで動けなくなるだけのはずだった。


「おい、工作班!やりすぎだ。もういいぞ!」


『うっわあああああ、魔王があああああ!!』


「バカかっ!自分で自分の呪いに掛かってるんじゃねぇよ!」


 残念な仲間に暴言1つプレゼントして乱暴にスイッチを切る。


「面白術士め、そんなんだからクリスマスで不覚をーーっと!」


 通信後の独り言中に殺気を感じて飛び退るリーダー。


 ブオン!ズシャッ!


「クリスマスがなんだって?お前ら去年の残党か?」


 そこには「分解」の剣を地面に突き刺すケーイチが居た。串刺しにされた無線機が徐々に分解されていく。


「はっぴー・すらいむたいむ!」


 そして虚空よりスライムが現れてリーダー並びに護衛の身動きを封じてしまう。だが自称魔王だけは逃れたようだ。


 彼らも呪詛の影響を受けなかったわけではないが、アケミの持つ精神安定剤で正気を保っていた。

 そもそも魔王と聞いて怯えるケーイチではない。


「くっ、なんだこのスライムは!貴様は何者だ!何故動ける!」


「あんたヤるじゃないか。だが魔王に叶うと思うなよ。」


 彼は剣を作り直して、最後の黒ずくめの人物に問いかける。


「で、偽物のアンタはどんな手品を使うんだ?」


「我は真の魔王なり。これを疑う愚か者には制裁を――」


「あんたが本物ならオレを知らないわけねえだろうが!!」


「「何っ!?」」


 ケーイチは姿を消すと自称魔王に向かう。

 見えないアケミとショウコもそれにくっついて行く。


 ブワッ!!


「うぉ!?なんだこりゃ!」


「「きゃああああああ!」」


 しかし自称魔王の周囲の床から強力な上昇気流が発生し2mほど浮きあげられて後方へ、ステージ外へ吹き飛ばされる


「ふん、どうだ。時間の流れを操ればこのような事も出来るのだぞ。」


 自称魔王は周囲の物を浮かべてこちらへ投擲してくる。


「ただの風使いじゃねえか!見え見えのウソをツきやがって!」


「きゅー。」


「ちょっとショウコ、大丈夫!?今クスリを……」


 ケーイチは何とか着地できたが女2人はそうは行かない。

 アケミはスライムでクッションを造って無事だったがショウコは気絶してしまっていた。すかさず絆創膏と気つけ薬を親友に投与する。


 ヒュン!ヒュン!ヒュン!


 この間も椅子やら機材やら、色とりどりのチョコやらが飛んでくる。その全てをチカラで砂にして後ろの2人を守っているケーイチ。

 心情的には今すぐ距離を詰めたいが、今はそうも行かないだろう。


「女を守りながらでは戦えまい。それよりお前、面白いことを言ってたな。魔王と知り合いなのか?」


「偽物のお前には関係ない!」


「お前の知っている方が偽物なんじゃないか?」


「ケーイチさん、何も言っちゃ駄目です!」


「解ってる。敵に情報は渡さないさ。」


「まぁいい、この事をマスコミに漏らせば面白い事になりそうだな。名前も解ってることだし、お前達はさぞ楽しい日々になるぞ。」


 自称魔王は動けないアントリーダー達に風を送って粘着を引き剥がす。それだけでなく、会場中に風を送り込んで撤退の合図を送る。


「貴様ッ逃げる気か!?」


「知ってるだろう?魔王は神出鬼没なんだ。」


 うそぶく自称魔王は更にチカラの出力を上げる。


 今やイベント会場は台風の暴風域のごとく風が吹き荒れている。

 アントメンバーだけはその中で外に向かって移動をしており、どうやら風のチカラで逃げ切る気なのだろう。


(空間は制圧されている。ならばオレのチカラでの狙撃が有効だが後ろの2人が無防備になってしまう。今はスキを待つしか無い!)


 ケーイチの「分解」は気味の悪い”光”で攻撃する。故に風は関係なく、この距離なら狙撃にも向いていた。


 身動きの取れなくなったケーイチは冷静であろうと務めていた。


 ただ敵を倒せば良いとしていた昔とは違う、弱きを守る背中をアケミに見せながら。



 …………



「オレは魔王を名乗ったりしてないんだけど、あいつらその辺の検証がザツじゃないか?」


「そんな事言っとらんで、参加者を助けねば!」



 自称魔王が自己紹介した直後、仲間以外を時間停止をした

 マスターは憤りを深めていた。


 ただでさえ自身のプロデュースしたアイドルのライブが邪魔されて、家族も危険に晒されたのだ。これは怒って良いだろう。


 しかし現実の問題には対処せねばならない。それが大人だ。


「派手に元凶を叩くのは両手に花のトキタさんに任せるとして、オレは参加者の恐慌状態を何とかしておくか。」


「ワシに出来ることは有るか?」


「ゲンゾウ先輩は終わった後の事を考えててください。オレが何かすると大抵ロクな事にならないらしいですから。」


「うむ。委細承知した。ワシの声が必要になったら言うが良い。」


 ゲンゾウは声を媒体にして秘術を使う。


 これはナカジョウの分家として派生したナカジマ家の、新たな技術として幾人かには伝授してたりする。


 しかしあくまで技術。彼本来のチカラは「情報の保存」である。物質や現象などの”情報”を圧縮して保存する。その後、特定の声によって解凍して使用する。

 あくまで情報としての保存なので現物ではない。


 彼の戦闘を傍から見れば、数多くの魔法の呪文を操る魔術師のように見えるだろう。


 これは戦闘だけでなく現代の情報戦にも応用できる。

 なにせ好きなだけ情報を溜め込めるのだ。実際これを使って莫大な資金を得ていた。


 クリスマス事件についてはお粗末な把握漏れをしていたが、

 これは彼の仕事の都合と部下の”余計な配慮”が不幸な化学反応を起こした結果である。


 それはさておき。


 マスターは自身をステルスモードにしたうえで更に、スーツのサラリーマン風に見えるように「精神干渉」で細工する。


 姿だけでなく声も認識を変更させるので、これならステルスを解いて特殊部隊の関係者に会ってもバレることはない。


 彼は空中に浮き上がり、中央に移動して呪詛の出処を探る。


「感情が伝播しすぎて何が何やらわからんね。まるで弾幕STGの発狂した裏ボスみたいにエグイ波紋になってるじゃん。恐怖心の広がり方を巻き戻して確認しよう。」


 時間と精神を同時に干渉すると消費が激しくなるが仕方がない。自分の中から急激に何かが抜けていく感覚に襲われながら、発信源を特定する。


「ははははは、大成功だ。奪え奪え!」


「こんにちは、ごきげんですね。」


 策が上手く行き、笑いながら周囲の仲間に指示を出していた男。突如誰かに彼の肩を掴まれ挨拶される。その手には黒いモヤが溢れていた。


「何!?お前は何故動ける。」


「貴方がさっき言ったじゃないですか。”魔王が出た”って。」


「んあ!?ま、まさか……本物の!?」


 呪詛をバラ撒いた彼は身体を動かせなかった。その場でガクガク震えて崩れ落ちることも出来ない。


「嘘から出た真という言葉があるよね。そして呪いというものは効かなかった場合は術者に返るモノだったか。」


「ひいいいいいいい!」


 呪術が跳ね返るとしても、まさか魔王本人が訪ねてくるだなんて誰も思わない。思いたくもない。


「指示されただけなんだ、助けてくれええええ!!」


 必死の悲鳴が響いてしまい、その強力なナマの恐怖心は例の粉末による反響でまたたく間に会場に広がり参加者達の心を抉る。


 次々と暴れだしたり気絶していく参加者たち。


(あ、これマズいかな……)


 などと思い始めた矢先に彼の通信機からリーダーの声が聞こえてくる。


『おい、工作班!やりすぎだ。もういいぞ!』


 ここで時間停止。


(ならばこの路線で相手の身動きを封じてみるか。)


 どうやら彼らにとってもやりすぎらしいと知ったマスターは、ステージ近くで暴れているケーイチへの援護をしようと試みる。


 時間停止を解いて呪術士の彼に黒モヤで幻覚を見せてあげる。


「うっわあああああ、魔王があああああ!!」


『バカかっ!自分で自分の呪いに掛かってるんじゃねぇよ!』


 ごもっともなツッコミの後に通信が終わる。

 マスターは周囲の情報を探知すると、計画を知っているはずのアントメンバーにすら効果があったようでガタガタ震えて身動きが出来なくなっていた。


 当然、一般人はそれどころではない惨状だ。


「まったく、嫉妬心とチョコ欲しさに無差別テロとか酷い話だ。魔王と言われたオレもこれにはビックリだよ。」


『あはは、旦那様には敵いませんよー。』

『パパ、すごーい!格好いい!』

『うーん、セツナの教育上見せないほうがいいかしら。』


 テロリストや一般人関係なく死屍累々としている会場をまわってマズそうな人達に精神力を補給してまわるマスター。


(教育か。異界にも学校ってあったっけ?地球だといじめっ子とか心配だしなぁ。絶対一族ごと滅ぶハメになるだろうし。)


 彼は心の中でツッコミを受けて娘の教育について考えていた。



 その時会場中に風が吹き荒れ、少し離れたアントメンバーがヨロヨロと外へと向かって歩き始める。立てない者には肩を貸すあたり、仲間意識は強いようだ。


 風で壁を作り通路となって外へ導いているようだった。


「どうやら撤退するみたいだね。この風はチカラか?よくまぁこんな出力を出せたものだ。さてトキタさんは……と。」


 あの自称魔王は本当に精神力が強かったらしい。

 精神干渉で索敵をかけると、どうやらケーイチは女を守って身動きが取れないようだ。



「なら、少しだけお手伝いしようか。」



 …………



「策の効果が強すぎて、甘味はあまり回収出来てないようだな。」


「ダンナ、命有っての物種だ!それにリア充達にはダメージ入ったぜ!」


「お前ら、そう簡単に逃がすかよ!」


「ふん。少し静かにしていな。」


 自称魔王が風を操作してケーイチに人間大の物を吹き飛ばしてくる。いやそれはまさしく人間、気絶した参加者達であった。


「なんて事をしやがるっ!!」


 さすがに分解するわけにも行かず、かといって避けてアケミ達を危険に晒すわけにも行かない。


 適度に殴って弾き飛ばすのが精一杯の抵抗だった。それでもそれなりの速度で飛んでくる人間の重さは凄まじい。膝をついて悪態をついてしまう。


「くそっ、卑怯なっ。」


「卑怯上等だよ、魔王なんだからな。」


 そのまま彼らは外に向かって歩いていく。


(違う、アイツならこんな真似はしない!ワケもなく他人の恋愛事情を踏みにじるような奴じゃなかった!)


 むしろ自分の気持ちすら犠牲にして――


「らぶりー・れーしょん!!」


 ドクン!


 その時、心臓が跳ね上がるような高ぶりを見せた。


 飛んできた参加者達をスライムが包んで墜落させる。

 分厚い粘液がクッションになって彼らにはダメージはなさそうだ。


 スルスルッと背中まで腕が巻かれて、アケミと正面から向き合い見つめ合う。


「ケーイチさん行って下さい。飛んできた人は私が受け止めます。」


「アケミ。おまえは……?」


「私なんだか凄くドキドキしてて、今なら何でも出来そうです!」


 顔を赤らめ見つめ合いながらロマンスしてる2人。


 アケミは目をうるませて腕に力を込めてくる。互いの胸が重なりその激しい鼓動がさらに激しくシンクロしていく。


「奇遇だな。オレもそうらしい。後ろは任せた!オレはアイツをノしてくる!」


「はい!!」


 またもや飛んできた参加者をアケミがスライムで梱包する。

 ケーイチはそれらを掻い潜って自称魔王とアントリーダーを追いかけていく。


「お熱いねぇ、あなた達。」

「うんうん、けどいくつになっても青春とは良い物だね。」


それを緊張感のない感想で見届ける2人。


「……ところであなたは誰です?」

「通りすがりのアイドルプロデューサーです。」


 目覚めたショウコを抱き抱え、庇いながらしみじみと知ったふうな事を口にするするマスター。


 飛来物がバリアに当たってガインガインと弾け飛ぶ。


「なんか貴方を中心にバリアが張られているみたいだけど。」

「私は観客の心を動かすのが仕事だ。チカラとは心、故に!このチカラの風も防げるのだ。」


 嘘を吐かない程度に適当にでっち上げてはぐらかす。


「このシチュエーション、美味しいはずなのにイマイチ燃えない。なんで貴方はそんなにモブ顔なんですか。」


「あっはっは。だからアイドルプロデューサーが務まるのさ!」


「はぁ、変な人だなぁ。私のトキメキは何処にあるんだろう。」


 マスターは認識を弄っても別のモブ顔だった。


 彼はこの場に駆けつけた後、3人にチカラを注ぎ込んだ。神経が研ぎ澄まされ、やる気に満ちた状態に持ち込んだのだ。


 それはトモミの魂覚醒と同様のものである。


 あの2人なら、この窮地に熱い愛の心でヤるきになったとステキな勘違いもさせられるだろう。


 これならマスターは目立たずに彼らを支援し、事件解決に向かわせることが出来ると踏んだのだ。


「ん?あれ、貴方は?」


「どうした?オレのモブ顔に何かついてるか?」


「いえ、なんでも無いわ。少し良いかもなんて思ってないし!」


 一応援護のつもりで「ステルス」を発動させてみたら自分を抱えるモブ顔プロデューサーが、少し違う顔に見えた。


 とはいえ結局モブ顔だったので深く言及する事は避けたが、その真剣な顔つきに心臓が少しだけモールス信号を放った気がした。


 でもやっぱりモブ顔だったので気付かないフリをして状況を見守る。マスターの偽装をステルスしてしまったショウコ。もしかしたらこの事件で、少しチカラが強化されたのかもしれない。



 ステージに登ったケーイチは敵の姿を探す。彼らは既に外への出口に向かっており、護衛達が前後を守っている。


 自称魔王はチカラをフルに使っているせいか、その歩みは遅い。


「ならば狙撃のチャンスだな。」


 指先に精神力を溜めていき、拳銃の引き金を引くように狙い撃つ。


 バシュン!バシュン!バシュン!


 それらは護衛達の身体を撃ち抜いて部分的に分解するが、自称魔王には届かない。撃ち抜かれた護衛メンバーは苦悶の声を上げてのたうち回る。


 手足ならともかく、背中に当たった者は命が危ないだろう。


「若いの、そんな使い方じゃ無駄に死人を増やすだけぞ。」


「何!?アンタはあの時のサンタ!なんでここに!!」


「HO、HO、HO。また会ったの。それよりあの時も言ったじゃろう。大切なのは”気持ち”じゃよ。ほれ、これを使が良い。」


 ケーイチに手渡される通信機。それはステージ裏での襲撃者が持っていた物だった。


「これで、何を?」

「今必要な何かを叫ぶが良い。きっと誰かの耳に届くぞ。」

「じいさん、今はそんな場合じゃ……」


 そんな話をしている間にもう敵は外へ出ようとしている。

 外にはいつの間にか車が1ダース以上並べられており、あれで逃亡を図るつもりなのだろう。


「お主は自分で何でも背負すぎで無鉄砲なのじゃ。ここぞという時こそ、仲間を思い出すが良い。クリスマスの時はそれでワシらを破ったのじゃろう?」


「!!」


 たしかにあの時はユウヤやソウイチ達が来てくれたから、少ない被害で穏便に済ませられた。


 今日も既に救援要請は出している。そして思い出す。


 数日前に外出許可を求めてきた部下兼教え子たち。


 その教え子達は今日この日、何処に行くと言っていた?



「東1から3ホール外側出入り口、なんとしても足止めしろ!!」


『『『了解です!!』』』



 通信機に思い切り叫んだケーイチは、即座に返ってきた返事にニヤリと笑みを浮かべる。


 ゲンゾウもその様子を満足気に見ていた。実は既に周波数を変更しておいたのだ。


 彼はクリスマスの時は把握漏れをしていたが、本来情報収集は大の得意分野なのだ。



 …………



「皆さん、落ち着いて避難してくださーい!」


「走らないでくださーい!」


「犯人はリア充にしか興味がない、非モテだそうです!」


「我々の同類ですので決して近づかないで外から見守りましょう!」


 国際展示場の通路は突然のテロから避難する人たちで溢れていた。スタッフがあちこちで声をかけて外へ誘導している。


 時々掛け声がオカシイが誘導自体は真面目に行っている。


 そんな中で何とか現場に入ろうとする者たちが居た。


「ユウヤ、ミキモト教授から救援要請が来てるって!」

「私達が1番近くに居るから突入したい所だけど……」

「扉が完全に固定されちゃってるのよね。水も弾いちゃう。」

「このままヒーローに成り損ねたら大目玉だよ?」

「風の流れが閉じられてるわ。チカラで封印されてるみたい。」


「なら外にまわりこもうぜ。」

「んー、でも外からって余計入りにくいんじゃない?」

「中からじゃ入れないんだ、可能性は探さないとな。」

「それもそうよね。でもこの人ゴミじゃ――」

「なら私があなた達を浮かせましょう。ヨクミ、身体借りるわ。」

「カモン、フユミちゃん!」


 霊体となったフユミがヨクミに取り憑いてダブルの精神力で

ユウヤ達を風で浮かせる。地図を見ていたモリトのナビで、空を飛んで建物を回り込む。


 ユウヤとモリトはチカラの使い方を勉強するために、同人誌即売会に来ていた。オタクになるのが効率の良いチカラの使い方を学べると、以前”教官に”聞かされたからだ。


 その間女性陣は別行動で、ヴェアリアス・チョコラータで買い物やグッズ制作を堪能していた。その時にライブのチラシをシーズ本人から受け取っている。


 お昼にみんなで女性陣の手作り弁当を頂いた後、のんびりと散策デートを楽しんだ。


 帰る前にライブを見ておこうと東ホール1~3に向かいだしたらテロ事件が発生したのだ。


 丁度外側に回り込むと車がズラッと並んでおり、ホールの出入り口が開いているのが見て取れる。


 その時モリトの通信機から教官の声が聞こえる。


『東1から3ホール外側出入り口、なんとしても足止めしろ!!』


「「「了解です!!」」」


 後少しホールに入るのが早ければ、彼らは内部でヒーローになれた。しかし彼らは遅れた事で本物のヒーローに成れる可能性が生まれた。


 4人(5人)で空を飛びながら目標を捕捉する。



「相手は風使い!?ならば負けるわけには行きませんね!」



 ビュオオオオオオオオ!!



 フユミはまるでサメも一緒に飛ばしそうな突風を発生させて、黒い衣装の男たちを釘付けにする。


「じゃあじゃあ、私はみんなの足元を押し込み強盗ね。」


 友人に触発されたヨクミがやる気を出して魔力を練る。



「ヴァルナー!!」



 ザヴァーーーーーーン!!



 ふらついてお留守になった犯人達の足元に水流が発生して、

 軒並み転倒させていく。


「まだ動いてるのが居るな。あいつらはオレが貰うぜ!」


 ユウヤはヨクミの風から抜け出すと地面に降りながら魔眼で見回す。急激に時間が遅くなり、ユウヤが着地したと同時に彼らは流星を見た。


「ミチオール・クゥラーク!!」


 ズダダダダダダダダダダダダダ!!!


「「「ぎゃああああああああああ!!」」」


「1秒間に60発ってところか、まだまだだな。」


 2年前よりは格段に速度が上がったが、本人は納得してないようだ。だがこの技を使用しても昏倒しないあたり、彼の成長が見られる。



「我々は政府直轄の対テロ特殊部隊です!テロリスト達は大人しく投降しなさい!我々は全員チカラ持ちである!繰り返す――」



 モリトがフユミの風に声を乗せてアナウンスをしていく。意識の有る一般人は喜び、アントメンバーは絶望的な表情だ。


「くう、いくらなんでも対応が早すぎだ。」

「ダンナ、なんとか回り込めないか?」

「相手も風使い、そしてあの速度のパンチ……難しいだろう。」

「こうなったらまた精神攻撃で怯ませて――」

「あの特殊部隊さえ来なければっ。何故こんな事に!」


「決まってるだろ、オレがその部隊の隊長だからだよ!」


「「ゴフゥ!!」」


 ケーイチの不意打ちが彼らの後頭部に決まって倒れ込む。


「これで逮捕だ。観念しな。」


「こいつめ!」


 パスン!パスン!


 取り押さえようと近づくケーイチにアントリーダーが小型の銃を突きつけ発射する。


「悪いな、このコートは特別製でね。」


 コートに塗られた、血液を加工した特殊な液体にチカラを通して命中した弾丸を「分解」する。


「今みたいな最後っ屁を防げるように加工してあるのさ。最後まで油断しない、男の嗜みだな。」


 隠し銃を取り上げ一部を分解して使用不能にする。


「チクショウ!増援さえ来なければ……」

「ここまでか。」


 今度こそ、うつ伏せで抑えつけられたリーダーと自称魔王。

 会場の風も止んだようだ。


「戦いにタラレバは禁物だぜ。それで、アンタがリーダーだろ?名前は何ていうんだ?」


「テメエなんかに、アイタッ!!アンドウだ。アンドウ・カズヒロ。」


「なんで組織の名前ってトップの本名と被せるんだろうな。んで、こっちの自称魔王は何ていうんだ?」


 ケーイチは割とこっちが気になる本命だった。顔や声からして歳は30代半ば程度だろうか。


「フン、ナカ○○・○○○だ。」


「あぁ?もしかしてお前、ネームサファルか!?」


「そうだよ。だったらなんだ?お前も世間と同じようにオレを魔王扱いするか?さんざん偽物だって言っておきながらよ。」


 ネームサファル。2005年10月に国際テロリスト○○○○・○○○が軍や警察から逃れるために自身の記憶と名前を世界から消した。


 その時彼と同姓・同名・漢字の並びが被っていた場合に無関係な者達の名前も消失したのだ。


 おかげで学校や職場・ご近所でのいじめ・虐待が横行して社会問題になった。その被害者がネームサファルと呼ばれている。


 政府は改名や人名の表記をカタカナ主体にする事を推進して被害を減らそうと試みたが、無くなりはしなかった。


「いや、すまん。その名を馬鹿にしたりはしない。むしろ良い名だ。誤解される事は多くとも頼れる男のな。」


「ふん、そうかい。あんた思ったより話がわかるのな。」


 そう言って大人しくなった彼はもう逆らう素振りは見せない。ケーイチが少し素直に本心を出した事で、それが彼にも伝わったのだろう。


 少々嫉妬深く熱くなりやすい脳筋ではあるが、ケーイチも悪い人間ではないのだ。


「教官、ご無事ですか?」

「おう、おかげで助かったぜ。みんなありがとうな。」

「あーもう、美味しい所を持っていかれたわ。」

「まぁまぁ、私達は遅れて来たんだし。」

「彼らはこっちで捕縛しますんで、教官はメグミから治療を。」


「それには及ばねえよ。その役は彼女がしてくれる。」


「ケーイチさあああん、お疲れ様でええええす!」


 親指で後ろを示すと、アケミが万歳しながらケーイチにダイブした。


お読み頂きありがとうございます。

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