58 ソウタ
「このままここで戦っていても何も変えられない。僕は研究に専念してサイトの全体的な強化に貢献したいんだ。それが平和への道だ。」
2010年2月9日。懐かしい夢を見て目覚めたミキモト・ソウタは己が頬の涙の跡に苦笑しながらベッドから降りる。
「もうあれから57年、キサキの逝去からは59年。昔なら1人か2人、人生が終わっておるな。遠いところまで来たものだ。」
ミキモト教授は朝の支度をしながら人生を振り返る。
ずっとクスリと実験の日々だった。
だがそれが彼の戦いの日々だったのだ。少しずつだが結果も出ている。ナカジョウの秘薬の研究によりサイトのメンバーの多くを助けてきた。そして彼らに救われる一般人の数も劇的に増えた。
そのクスリで新たな超能力者を生み出すことにも成功、長年の宿敵である武装人権保護組織ナイトをも打ち砕いた。
サイトを勝利と平和に導くことに成功はしたが、まさかその立役者が新たな脅威となるとは思っていなかった。
「記憶には無いが、魔王を造った原因の1人はどうやらワシらしい。ならば責任を持って終わらせねばならぬ。」
2003年5月に、ミキモト教授の傑作とされたチカラ持ちの改造人間をあっさり殺された事。
その年の10月には海外の研究所のミスでクスリが漏洩して災害が起きたのをやり過ぎなくらい隠蔽した事。
2004年には教授の息が掛かった工場や研究所が襲われた事。これは証拠はないが状況的にサイトの悪魔しか考えられなかった。
そして2005年の決戦ではこちらの指示を無視してナイトのボスを殺してしまった事。
様々な事が積み重なり、当時のミキモト教授はサイトの悪魔を疎ましく思っていたのだろう。
記録では相当過激な指示を出していた事になっていた。
記憶のない今、冷静になってみればサイトの悪魔の行動は仕方のないモノだと彼は納得していた。
自身の危機に直面して手加減などそうそう出来るものではない。特にナイトのボスに関しては完全に個人的な感情に過ぎない。
ナイトのボスのチカラは今の魔王と同等レベルだった。
フジ樹海の異空間、その更に奥。ボスに別の異空間に閉じ込められた中枢突撃組の7人がそれぞれのチカラで生き残りを賭け、最後は星を砕き割る程の攻撃で撃破したと書類にはある。
それほどの火力が必要な化物を生け捕りとか無理な話だったのだ。だが当時は各国政府の後押しや自身の怒りによって流されてしまった。
もちろん教授だけの責任ではないのだが、大昔に約束した平和とはかけ離れた世界を造った一端としては放っておけない。
「その為のミキモト理論じゃ。今日も未来のために励むとしよう。」
彼は白衣を来て身支度を整えると自室を出ていった。
今日は研究所にアケミが来る日である。きっとチカラの検査結果を心待ちにしているだろう。
…………
「命の創造……ですか?活性化ではなく?」
「ほう、君は活性化だと思っておったか。」
「確かにぱっと見はそうかもしれませんけどね。」
ミキモト教授の研究所、そのNO.3にてアケミは検査結果を伝えられた。この施設はチカラそのものの判別や、より深く使い方を研究している。だが明かされたチカラは「命の創造」。アケミの想像の上を行っていた。
「でも無機物には効果がありませんでしたし、怪我人を治療したら驚くほど元気になりましたよ?」
「心を込めた料理に意思が生まれておったじゃろう。」
「それは、そうですが。」
「アケミさん、想像してみて下さい。料理はいわば動植物の死骸を加工した物です。命が無いものを活性させても、0は0なのです。」
教授の隣にいるサワダが例え話で補足する。
活性化なら料理スライムが意思を持って行動するなど有り得ないと。
「まあ確かにそうですね。目玉焼きがいきなりポン酢じゃなくて醤油を掛けてくれと言い出したら怖いですし。」
「君はポン酢派かね?まあそれはいいとして、その辺を踏まえて命の創造だと我々は判断させてもらった。」
「でもそれだと機械の部品とかにチカラの効果がなかったのは?」
「それはアケミさんの精神力がそこまで至ってないのでしょう。チカラの発動は心で行う。効果を強めるには対象への理解が必要だ。君は医学を学んできたからこそ、治療効果が爆発的に強いのだろう。」
「ほえー。言われてみればなるほど、そうかもしれません!」
サワダの説明で納得したアケミは自身の事が判ってスッキリ顔だ。
「それでじゃ。君にはやってもらいたいことがある。医務室とたいして変わらん仕事だから固くならなくて良いぞ。」
「といいますと、負傷者の治療ですか?」
「その通りです。我々のグループには日々大勢の負傷者が送られます。対テロ戦での負傷者や実験ミスでの負傷者、重要な情報を扱う諜報員。立場はそれぞれ違いますが、無駄にして良い生命ではありませんから。」
ミキモト教授が作り上げた研究所群。
ミキモトグループは政府(サイトを含む)を影で支える組織の1つだ。これまでの実績から政府からの信頼度は高く、発言権も大きい。故に重要な、普通の機関には任せられない仕事はここに集まる。
「うむ、慣れるまではただの治療じゃ。いずれは高度な仕事も手伝ってもらうがの。もちろん安全なやつじゃ。」
「それではアケミさん、移動しますのでついてきて下さい。」
「はーい。」
サワダの運転で研究所のNO.5に移動する。そこは敵の攻撃や実験ミスの検証を目的とした、ほとんど病院と化した研究所である。
高級車の車内で落ち着かない様子のアケミ。
「アケミさん、もっと気楽にしていいんじゃよ。」
「一般人には無理がありますよぉ。」
「では話でもしようかの。トキタ君とは上手く行っとるのか?」
「えへへ、今の所バッチリです!先週は彼から手を握ってきて……」
延々と続く惚気話を、嬉しそうにうんうん頷きながら聞くミキモト教授。
(本当に順調そうでなによりじゃな。この子には早く幸せになってもらわねば。トキタ君にはもっと頑張ってもらわんといかんな。)
やがて見た目も中身も大型の病院にしか見えない研究所に辿り着く。案内された部屋に入るとそこには、たくさんの簡易ベッドの上に横になる患者たちの姿があった。
36名収容できる部屋だったがその2倍は押し込まれている。よく見ると点滴等もされてない、放置気味の者も多く居た。
「こちらがアケミさんにお願いする方々です。チカラの訓練も兼ねてビシバシ治療していきましょう。」
「はい!さーて皆さん、私が治療してあげるわ!!」
普通なら目を背け気分が悪くなる光景ではあるが、アケミは仕事モードに気持ちを切り替えていたので物怖じしない。
意気込んでアケミ流治療術を施していく。
患者たちは重傷者も多く……というより瀕死レベルも居るが、アケミのチカラが込められた消毒液と絆創膏で持ち直していく。
(間近で見ると異様さがよく分かるわい。医者いらずではないか。)
(終わった素材すら回復させるとは……処刑せずに良かったです。)
「治療が終わった方は、たくさん食べて元気になってくださいねー!」
アケミはその都度声をかけながら次から次へと治療する。
「オ、オレは生きてる?たしか――はうッ。」
意識を取り戻したが事情をよく飲み込めない患者が何かを言おうとするが、サワダの手によって鎮静剤が射たれて再び意識を失う。
(ふー、危ない。余計な事は言わないでもらいたいですね。)
1時間程度で”何事もなく”治療は終わり、アケミは満足そうだ。その後ろに居た教授達も満足した表情のウラで、研究者の目をしていた。
…………
「そいつは大活躍だったな。さすがはアケミだ。」
「えへへー。チカラも予想より強力でしたし、私も平和の為に頑張っちゃいますよ!」
特別訓練学校に顔を出したアケミは事務所に急行して報告していた。別に直帰しても良かったのだが、彼氏の顔を見たくなったのだ。
「普段の言動から只者ではないと思ってましたが、アケミさんはエリートなんですねぇ。」
「魔王といい、頭のネジが飛んでた方が強いのでしょうか。」
「キョウコさん酷い!イダーちゃんみたいに褒めてよぉ。」
「……褒めてるわよ?」
キョウコはイダーの発言を端的に言い直しただけなので、実は最初から変人扱いしている2人である。
「チカラ持ちは敵以上に自分との戦いだからな。何かあるとすぐ取り返しがつかなくなってしまう。気をつけてくれよ。」
「はい、勿論です!あっ、キョウコさんもう手遅れって顔をしないで!」
(へぇ、命の創造ね。すごいチカラではあるけど女なら大抵は……まあいいわ。さっそくこの情報をヨクミ達に知らせましょう。)
和気あいあいとした事務所から一陣の風が流れてウワサが流れる。魔王どころか味方にもセキュリティがガバガバな職場であった。
そんな風精霊フユミの存在には気が付かず、彼らの話題は週末のバレン某に移っている。
「というわけで、ケーイチさんは私と参加してくださいね。キョウコさんとイダーちゃんも、ぜひ遊びに来て!」
なにやらお祭り騒ぎの予感である。
…………
「あ、フユミちゃんおかえりー!」
「今バレンタインの予定を話してました。フユミさんも一緒にどう?」
「それを男の前で話さなくてもいいんじゃないか?」
「もう充分、女心という狂気を見せつけられたよ。」
ヨクミの部屋に戻ると、明るい女組と吐きそうな男組が迎えてくれた。性別が違うだけで考え方はだいぶ違う。男組はさぞ居づらいだろう。
でも男達だってヒワイな妄想を垂れ流して女をドン引きさせるんだからお互い様かと考えフユミは結論を出す。どの世界も人間の男女は不器用ね、と。
「私は気になる相手も居ないし……でもあなた達と交換用を用意したいわね。で、買うの?作るの?」
「作るとこいつらが吐きそうだから、今年は買うことにしたわ。ちょうどユウヤ達が行くイベントの隣でチョコ売るみたいだし。」
フユミの問いにヨクミが答える。どうやら大きなイベント会場に足を運ぶようだ。
(きっと碌でもないアイディアを出し合ったんだろうなぁ。)
「そういうワケで、一緒に買いに行こうね、決まり!それでフユミちゃんはどうだった?教官達進展あった?」
「アケミさんのチカラが確定したみたいよ。命の創造だって。」
それを聞いた4人は微妙そうな顔で納得する。
全員が思い浮かべたのは失敗レーションの数々だ。
プリンだけはプリプリのお尻になるので芸術的ではあったが、ここでそんな事を言う男は居ない。男は腕力以外は弱いのだ。
「本人は活性化って予想してたけどツクるとこまでいってたか。」
「でも正直、女なら大抵は持ってるチカラよね。」
「フユミさん、人間は男抜きでは作れないのよ。」
「私はそういう増え方じゃないからねぇ。みんな基本は霊体ですし。」
「でも待って。もしアケミさんが本気で子供を作ろうとしたら、1年で10人くらい生まれたりするのかしら?」
「さすがにそこまでは……メグミ、発言には気をつけるように。」
メグミがキョトンとしてヨクミの視線を追うと男達がモジモジしてる。
「こら、男達。私の師匠で変な想像しないで!」
「メグミ、無茶言うなよ。男ってのは想像力だけは豊かなんだぜ。」
「ユウヤは私のを想像してればいいの!」
「そんなの、いつも考えてるさ。」
そのまま見つめ合って周りが見えなくなっていく。
「君ら、きちんと計画立ててシてね。仕事が落ち着いてからじゃないとものすごく苦労することになるよ。」
「「わかってる(わ)よ!」」
「人間は不便よね。私は卵生だしそこまで苦労は――」
「なっ、ヨクミ!あなたも自重しなさい。」
そんなトコの話をしたらモリト君が大変なことになってしまう。
「ちょっと、うん。もう一度シャワー浴びてくるよ。おやすみ、みんな。」
挙動不審になったモリトが退室する。手遅れのようだった。
「「「想像しちゃったんだな。(のね)」」」
「モリトは人間なんだから、私のモノなんて興味ないでしょ?それに今はコドモの身体なんだしさ。へんなの!」
性別だけでなく種族も違うと価値観が恐ろしく違うようだ。
…………
「これより、ヴェアリアス・チョコラータを開催いたします!」
「「「わああああああああ!!」」」
2010年2月14日。
国際展示場の東1~3ホールにてイベントが開催された。
実は前日13日も開催されていたが、やはり当日の方が盛況である。
「今年もやってきました、バレンタインデー!本日は遠くから来てくれてありがとう!今年も様々な企業様が参加しており――」
特設ステージの上に立つMCのアナウンスを聞きながら参加者達はホールに入っていく。イベントの趣旨からして大抵は恋人同士や夫婦である。
「しまったこっちじゃない、別の会場じゃないか!」
「転身、急げばまだ傷は浅いぞ!」
「走らないでくださーーい!!」
「クスクス、なにあれー。」
この日、東4ホールや西ホールでは即売会や交流会が開催されていた。恐らくは4ホールと間違えて入場しようとした参加者が場違いな空気をだしながら撤退する。
「こちらはナカジマ・ゲンゾウ主催のバレンタインイベントです!間違えて入場した方もよろしければ見ていって下さーい。」
アナウンスで当たり障りのないフォローを入れ始める。MCにも情報がいったのだろう。
このイベントではバレンタインに因んだ様々な作品を、各企業のブースで見たり造ったり買ったり出来る。
主催者曰くリア充になってもソレを継続することが大事じゃ!との事で、老若関係なく男女で楽しめるイベントを目指している。
ウラで幅を効かせている男が主催のせいか、勢いの有る若手だけでなく各業界の老舗や政府関係機関の出店もされている。つまり……
「こちら災害用・対テロ用バレンタイングッズでーす!目の前を行くアベックの皆さん!大事な人を守れるバレンタインのグッズいかがですかー!?」
「アケミ、いくらなんでもアベックは古いだろう。」
「わ、私は古くないわ!ケーイチさんは失礼ね!教授のマニュアルだとこう言えって書いてあるの!」
「教授は青春が戦後の人間だからなぁ。」
「なんか面白そうじゃね?おねーさんコレは何なの?」
「はい!こちら対テロ用チョコレートは、食べて良し・投げて良しのハイスペック・レーション仕様となっております!」
「レーション!? いいね。3つください!」
「もう、ミっ君ったらオタクみたーい。」
どうやら彼氏さんはミリオタが入ってるようだ。
この辺はミキモト教授の作戦勝ちと言ったところか。
「ありがとうございまーっす。良き縁を~。」
このイベントに参加するにあたって教授とその部下が全て段取りを組んでいる。精神は男女セットの方がチカラが増すから、こういうのにも本気で参加したほうが有益らしい。
「でも良かったのか?今日は本来休日で――」
「もう、私の顔をよく見てください!私はケーイチさんと一緒で凄く嬉しいの。そーいうとこ、ちゃんとしないとダメですよ!」
「お、おう。悪いな、精進するよ。」
トモミの時とは比べ物にならないほど素直なケーイチ。
アケミとは以心伝心とは行かない分、意思の疎通を取る機会は増えた。相手のチカラに甘えていたのを自覚し、もっと相手を知ろうとしている。
「おーいトキタ君、男は裏方じゃ。彼女と一緒に居る時間は後で作るから、コッチを手伝ってくれんかの。」
「はい、すみません!今行きます。じゃあアケミ、後でな。」
「はーい、ケーイチさん頑張ってねー!」
アケミに見送られて参加者たちに見えない裏方で梱包などの雑用を始めるケーイチだった。
…………
「休日にすまんの。だがこういう所で得られるものも多いんじゃ。」
向かい側に座った教授が作業をしながら声をかけてくる。
「それは解ります。現に今も1つ学びましたし、会場の熱気からも人の心の機微が見て取れますし。」
「そうかそうか。やはり若い者は吸収も早いの。ワシは独り身じゃし研究漬けだから、こういう機会でもないと人間に触れられんのじゃ。」
「ずっと、平和の為に研究されてるんですよね。とても立派だと思います。」
「ヨシオ達とそう約束したからのう。ナイトは君に倒してもらったがまだまだ平和とは程遠い。何とか生きている内に叶えたいものじゃが。」
「オレだけじゃないですけどね。支えてくれた皆さんと……」
「現代の魔王のおかげ、か。」
偉い人の前で正直言いづらい事だったが教授が代わりに言ってくれる。
「ええ、正直アイツのA・アームに全員のチカラを乗せなきゃ、あの日オレは死んでましたよ。なのに何でこうなっちまったんだか。」
「平和を目前にして欲が出たんじゃろうなぁ。」
「あいつはそんな奴じゃなかったはずなんですがね。」
あの頃の○○○○は自己犠牲の塊みたいな行動ばかりだった。アイツの強さに何度救われ……何度踏みにじったか。
オレが嫉妬に駆られ続けるくらいに、アイツは頼れる男だった。
「いやいや、魔王じゃなくてワシ等がじゃよ。世界中が打倒ナイトのメンバーに注目しておった。」
「あぁ、そういう事ですか。でもしか……過ぎた事です。」
「本当は今の研究が間に合っていれば、こんな事には……のう。」
「どういう事です?」
「研究が完成すれば、あらゆる未来の脅威にも対応できる。それがナイト戦に間に合ってれば、個人が狙われる事もなかったのじゃ。今になってようやくピースが揃い始めたのじゃが……遅すぎよの。」
「いえ、そこまで仰られる研究なら必ず平和を掴めますって。」
「せめて生きている間にそう願いたいものじゃ。」
タイミングが合わなければ有効打には成り得ない。
生きる事の難しさを目の前の老人から感じ取るケーイチだった。
…………
「こちらは口紅型のチョコレートです。ちょっとしたビックリグッズでもありますので、自衛用にもなりますよ。」
「まるでスパイみたいね。こっちは?」
「こちらはアロマ型ですね。甘ーい香りを出しつつも、ここを切り替えると催涙弾と同じ効果が――」
少しクセのある銀髪の美女を相手にアケミは商品説明をしている。
「あの人すごく綺麗じゃない?あ、やっぱり見ちゃダメ!」
「どんなお手入れをしたら、あんな綺麗になれるのかしら。」
「政府の研究ブース?私達も行ってみましょう?」
絶世の美女と言っていい彼女が可愛い仕草でこの場に留まっているおかげで、周囲のカップルもこちらに興味を持ってくれている。
「つかぬことをお伺いしますが、普段どのようなお手入れを?」
「毎晩、旦那と過ごすことかしら。旦那の目を意識するほど、美しい身体にしようとするもの。もちろん旦那にも手伝ってもらってるわ。見えないトコロや手の届かないトコロもね。」
「つまり、2人で協力して美しさを作るということですか。」
「愛する人と一緒になるってそういうものでしょう?」
「「「ひゃーーー!!」」」
周囲のヒソヒソ話が聞こえたアケミが代表して聞いてみると、その答えと仕草に周囲の脳内ピンク率が急上昇していく。
「このお店は面白いものが多いわね。全種くださいな。一通り試させてもらうわ。」
「全ッ!?かしこまりましたー!!」
アケミは驚きながら裏方へ梱包の発注をする。ざわめく周囲。彼女が全部買ったということはアタリなのだろうと判断する。
「お待ちの間、よろしければアンケートにお答えください。」
「ごめんなさい、私はそういうの興味無いの。」
「ありがとうございましたー!!良き縁を~~!」
「「「私にもいろいろ見せて!!」」」
銀髪美女がブースを去ると、経緯を見ていた周囲の人達が殺到する。
(ふむ、魅力的な1人というのは影響が大きい。それは軍事でも色でも同じじゃな。実際に現場を見ると参考になるわい。)
様子を伺っていたミキモト教授は満足そうに頷いた。
こういう情報は頭では判っていても研究所にこもりきりでは
中々掴めない感覚なのだ。
「「アケミさん、何やってんの?」」
「キョウコさん、イダーちゃん!!お願い、手伝ってー!!」
遊びに来た同僚を巻き込んで、アケミは大忙しだ。
…………
「ご苦労じゃったな。弁当を用意したから食べてくれ。」
「「「やったー!」」」
お昼を若干過ぎたあたりで昼休憩の指示が出る。
教授の別の女助手が店先に出てアケミたちは奥へ引っ込む。
「はー、生き返るわ。アケミさんったら巻き込まないで欲しいわ。」
「そーですよぉ。せっかく遊びに来たのに怪しいグッズ販売員をさせるなんて!」
「ごめんなさい!でも怪しくはないわよ。不思議ではあるけど!」
「2人とも救援感謝するぞ。ところで目立つ参加者はおったかの。アンケート用紙も回収したいのじゃが。」
「美人とか可愛い子はそれなりに来ましたけど、みんなアンケートに答えてくれないんですよねー。割引するのに~。」
「昨今は情報の扱いに敏感な傾向にあるようですし。」
「私も美味しいレシピならともかく、家庭の事情はちょっと。」
「でも面白い人の話はできますよ。」
「ほう、例えばどんなじゃ?銀髪さんはワシも物陰で見たが。」
「あの方素敵でしたねー。旦那さんが羨ましいです。で、孤児院のスタッフさんで子供達に渡せるものはないかって言う方がいらっしゃいました。ついでに同僚と雇い主にもって相談受けて。」
「ほうほう、このご時世に孤児院とは立派なことじゃな。」
「でもそれだけならまぁ、普通じゃないかしら?」
「職場に配る方もいらっしゃると思いますわ。アケミさんみたいに。」
「普通じゃないのはここからです。なんと同じ相談を4人から受けたんですよ。しかも1人は超可愛い、上等なメイド服でした!」
「それは同じ職場ということかの?」
「多分。みんながみんなを思い合ってる感じがしてステキだなと。」
これである。その場に居ないとどうステキなのかが上手く想像出来ないところが教授はもどかしい。とはいえ老いた自分が店先にずっといる訳にもいかない。
「1人くらいアンケートに答えてくれても良いのにねぇ。」
「きっとキチンと教育されてるんだと思うわ。子供を育てるってデリケートな事も多いでしょうし。」
「うむ、素晴らしいのう。そういう話を聞くと世の中捨てたもんじゃ無いと思えるわい。」
「メイド服で思い出しましたが、私の所にもメイドさん来ましたよ。」
イダーがふと思い出したことを告げる。
「メイドさんが流行ってるのかしら。もう何年も前からそういうカフェがあるのは知ってるけど。」
「そういうのとは違った、とっても上質な生地と装飾でしたわ。それでご相談内容ですが、雇い主兼ギリギリ恋人未満の男性をオトせるグッズが欲しいとのことでして……」
「ん?やっぱりメイドカフェの店員さん?」
「とんこつラーメンのお店らしいです。なので私の出した本を譲って差し上げましたわ。」
「!?!?」
イダーは料理全般が得意である。そしてそのレシピを世に出す為、父に相談しコネで出版までこぎ着けていた。彼女は結構なお嬢様なのだ。
だがアケミはそれよりもその子の特徴に関心がいった。メイド服でとんこつラーメン店とくればそんな店1つしか知らない。
(え、まさかね?水星屋のキリコちゃんて事は……でもマスターには奥さんが居るし、って事はキリコちゃんが禁断の愛!?キャー!!)
アケミは過去の来店で奥さんが居る事も聞いていた。そして内心では、キリコもサクラもマスターと随分仲が良いなと思っていたのだ。
「のう、キョウコさんや。この子は何をクネクネしておるのじゃ。」
「彼女の良く有る発作ですのでお気になさらないでください。」
すかさずキョウコが適切な返答を行うと教授は深刻な表情で心配する。
「なんと、この若さで持病有りとな!気をつけねばならんぞ。」
「あはは……」
会話の噛み合わなさに苦笑するイダー。
キョウコはスましていたが、彼女は若さ故にスルー出来なかった。別にキョウコが古い人間なわけではない。大人なだけである。
イダーはアケミとはブースの反対側で接客していたので確認は出来ない。だがアケミの頭の中では禁断の愛という仮定を事実として妄想していた。
「私の方にはアイドルっぽい子達が挨拶に来たわ。この後のステージでミニライブやるからお願いしますですって。」
「はて、そんな予定あったかの?誰か聞いておらぬか?」
「何日か前に決まったみたいで、カタログにも載って無いようです。なんでも、主催者と縁がある者が紹介したらしいですよ。」
「ほう、さしずめサプライズというやつじゃな。」
ミキモト教授はチラシを見ながら若者の発想を吸収する。
チラシには幻想電脳アイドル”シーズ”と書かれた3人グループが紹介されていた。
「この子達、少しだけ某歌うソフトのキャラクターに似てますね。」
「知っておるのか?」
「私は使ったことはないですが、音程と歌詞を入力するだけで歌声になるパソコンのソフトです。どことなく似てるな~と。」
キョウコはより良い会計ソフトなどを探していた時に、たまたま見かけて人気が有るのを知ったのだ。
「人気にあやかって少しでも話題をって事でしょうか。」
「わからないけど、この子達なら小細工なしでも人気出そうよ。」
「なんでわかるんですか?もしかしてキョウコさんってアイドルオt」
「んなわけないでしょう。こういうチラシの写真って大抵は
加工されてるのよ。でもホンモノを見た私からすれば、
ホンモノの方が綺麗で魅力的だったわ。」
「今どきそんな子居るんですねぇ。私、見てきてもいいですか?」
「構わんよ。売り物はほとんどハケてしもうたからの。」
「あー、やっと終わった。ん、アイドルのミニライブ?」
「ケーイチさん!良かったら一緒に見に行きませんか?」
「オレはメs……わかった行こうか。ついでに飯屋みていこうぜ。」
自分の都合を言い出しそうになったが、キラキラしたアケミの目を視たケーイチは2人で居ることを選ぶ。
少しずつだが確実に、ケーイチの隣というポジションを認められつつあるアケミであった。
「良きかな、良きかな。こちらは心配いらん、楽しんでくるのじゃぞ。」
腕を組んで遊びに出る2人をミキモト教授は喜んで見送った。
(ワシも何かが違えばキサキとあのように……詮無き戯れ言よな。)
彼の妄想はいつもあの約束絡みだ。それ以外は現実を見据えている。遠い心の拠り所は時に人生に縛りを与えてしまう。
しかし彼はそれで良かったと思っていた。
自分は生きがいを持って生きてきたと言えるのだから。
お読み頂き、ありがとうございます。




