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56 サイト そのムカシ

 


「本日もお勤めご苦労であった!各自明日に備えて休んでくれ。解散!」


「「「了解!!」」」



 1951年2月。対テロ組織サイトの夕礼が終わり解散宣言がなされる。台の上からサイトの司令、サイトウ・タダシが降りると整列していたメンバーは一斉に散っていく。


 寮の自室に戻る者、仲間と食事の相談をする者、夜の街に消える者。皆それぞれの夜を迎えようとしていた。


 第08分隊の面々も例外ではなく、軽く目配せしただけでいつもの店へ向かい始めた。彼らはお気に入りのたまり場があるのだ。


 サイトは超能力者と戦う都合上、その多くが元軍人である。

 各分隊は10人程で構成されていて役割を分担して運用される。


 しかしこの分隊は10人全員が未成年で構成されていた。彼らも敵と同じく殆どが超能力者であり、戦後の激動の時代にチカラに目覚めた者達だった。


 その為生粋の軍人達とは折り合いも良くなく、切り離されて運用された。同じ境遇の分隊は他にも有ったが、1番目立っていたのはこの隊であろう。



 お目当ての”ヒノデ食堂”に入るといつもの席につく。週末はいつもここで食べるのが慣例となっていた。


 理由は簡単、単純に品揃えがいい事・拠点から近い事、そして夜が明け日が昇るという店名にゲンを担いだのだ。対ナイトの組織としてはこれ以上無いだろうという考えだ。


 武装人権保護組織ナイトはこの国の驚異となっている。

 国家転覆を狙う悪党であり、一刻も早く潰さねばならない。


 サイトではそう教育しているが、ナイトが生まれた経緯や理念は捻じ曲げられて伝えていた。だが教育とはそういう面も有るのは仕方ない。



「今週も1人も欠けること無くこの卓に着けたのは喜ばしい限りだ。」


 分隊長のヨシオは「空間構築」のチカラを持ち、障害物を設置するなどある程度自由に戦場を作る事ができた。彼はサイトの司令の息子でもあり、16歳でありながら将来有望である。


「相変わらず堅いぜヨシオ。司令みたいに厳しくなってくれるなよ。」


 ヨシオの親友のトウジは「伸縮」のチカラで敵陣に切り込み、変幻自在の近接戦が得意だった。戦闘方法はトリッキーだが鍛えられたその身体から生まれるダメージは敵からすれば深刻だ。


「そういや一昨日の戦闘でよ、もっと早くドカンと出来ねえのか?」


「君はピアノという楽器を知っているか?ただ音を重ねても良い効果は生まれない。ただ闇雲に放てばいい訳じゃないんだ。」


 トウジに応える男はソウタだ。彼のチカラは自称「融合」。海外の化学薬品会社に務める父の下で勉強していたが、サイト結成に当たって親子共々帰国した16歳である。


 様々な薬品を用いて戦う姿は超能力者というより、西洋の魔法使いを思わせる。ただし、黒いローブでなく白衣を好んで着用している。


「その通りよ。相手の動きを見て的確にチカラを加えてあげるの。そうでなければ唯のゲスな殺戮になるわ。」


 ソウタに同意した女の子はキサキ。チカラは「念動」と称した秘術だ。精神力の不可視の糸を相手に突き刺し、主に内部より操る。


 凶悪なチカラではあるが、傍から見れば地味に便利な念動に見える。説明も面倒なので本人もそれで通している。


 この分隊どころかサイトの最年少で10歳の少女である。


 本来なら日夜激戦に明け暮れるサイトに配属などされるわけもない。


 しかし彼女はこの国に許可を受けて秘術を伝える一族の人間であり、有事の際には政府にチカラを貸す契約を大昔から結んでいた。先の戦争で一族の大半を失い、母と妹を故郷に残して出向したのだ。


「キサキはちっこいのにヤケに大人びてるよな。」


「戦争被害で身体が小さいのは仕方ないだろ。ほら、肉食え。」


 年の割に発育が遅れているキサキにソウタが肉炒めの皿を渡す。最近はいくらか回復傾向にあるとは言え、物がない時代に肉料理を出せる食堂は貴重である。


 それを惜しげもなく渡すソウタはヒョロい割になかなか男前だ。支払いはヨシオ持ちなのを考慮してもだ。


「いつも悪いわね。ありがたく頂きます。」


「そうそう、しっかり食べろよ。」


「体力付けねえとこの前拾っていた雑誌みたいな事できねぇぞ。」


「なっ、何故それを知っているの!?」


 トウジのいきなりの暴露に貴重な肉を噴出しそうになるキサキ。


「何故も何も、神社裏とか橋の下ってのは男なら定番だぜ?しかしお前さんがヒワイ本を漁ると犯罪臭がすごかったな。」


「くう、不覚。自分だけの秘密の場所だと思っていたのに!」


「その辺にしてやれトウジ。誰しもブフッ興味くらいあるだろ。」


「年頃だし興味を持つのは悪くはない。だが部屋でこっそりスるように。」


 ヨシオにまで注意されて顔が真っ赤になってしまう。それを見た他のメンバーが指でつんつんナデナデして可愛がる。時折聞こえる「色幼女」なる言葉が渾名になる日も近いだろう。


 それを見て気の毒になったヨシオは話題を切り替える。


「諸君。サイト並びに我々08分隊が結成してから1年近くになるが、何か夢は有るか?今後のメンバーの結束のためにも聞かせてほしい。」


「ならオレからだ!オレは道場を開いて師範って奴をやってみたい。門下生を集めて強い身体の男達を増やすんだ。心も身体も鍛えればナイトみたいなテロ組織にも負けねぇ!」


 切り込み隊長のトウジが親友の話題提供にも切り込んでいく。彼もヨシオと同い年ながら夢はしっかり持っているようだ。


「ならば僕は世界を救うクスリを作る事ですね。研究所を幾つも造って平和になるクスリを生み出してみせます。」


 ソウタはトウジに負けじと大きい夢を語りだす。

 彼はチラリとキサキを見てナカジョウにも負けませんよと伝える。ナカジョウ家は代々伝わる秘薬でチカラを身につける家系なのだ。


「私には家の再興という使命があるのよね。その為にも強い男が必要よ。でも私自身ももっと強くなって、威厳を身に着けなくてはならないわ。」


「その為のヒワイ本か?」


「あれはあれで必要なのよ!悪い!?」


 ナカジョウの秘術は人体に精通してなければ効果は薄い。

 性に関する物は命の創造力そのものであり、知っておいて損はない。だからこそ彼女は多くを取り入れ、秘術に生かして戦闘でも活躍が出来ている。が、傍から見れば色幼女なのが悲しい所だ。


 その後も残りのメンバーが夢を語り、大いに笑いあった。


「で、肝心の分隊長殿はどんな夢があるんです?」


「オレか?そうだな、この流れで隠すのも無粋か。」


 ヨシオは水を飲んで喉をうるおしてから答える。


「オレは喫茶店を構えたいと思っている。」


「喫茶店?なんだそれ。」


「珈琲やお茶を出す店だね。この食堂のように食べ物も出したりする。」


 海外育ちのソウタが解説を入れる。日本では戦前に流行った事もあるが、この場の若者達は知らない者が多かった。


「つまりメシ屋か?別に食堂でもいいじゃねえか。」


「落ち着いた内装に香りの良い珈琲、そして気軽に集まって休める空間。そういった物を自分の手で構築したいと思っているのさ。」


「へぇ。都会人らしい……いえ、分隊長らしい素敵な夢ですね。」


「キサキはそういうのが良いのか?」


「分隊長のチカラ的にも凄く似合ってると思うわ。」


「ヨシオの夢だってんなら応援するけどよ、お前はてっきり司令の後を継ぐもんだと思ってたぜ。」


「その頃にはナイトだって倒しているはずだ。若いオレ達が夢を叶える余地くらい有るだろう?」


「むしろ僕達全員の夢が叶えば分隊長の夢だって自動的に叶う気がする。」


「「「それもそうだな!」」」


 なんだかんだと他の者たちも形は違えど世界平和の夢が多い。


「もし分隊長が司令になるなら基地を喫茶店にしてしまえばいいのよ。」


「喫茶店サイトってか!?オレ達は珈琲でナイトと戦うわけだ。」


「そうならないためにも皆で生き残らねばならないな。ならばどうだろう。皆の夢が集まった今日、誓いを立ててみるか?」


「ほう?分隊長殿は意外とロマンティストのようだ。」


「皆で夢を叶えて平和にするぞってか?面白い、それで行こう。」


「私も賛成。”約束”はチカラを産むもの。そうでしょ?」


「キサキの言う通りだ。強い結びつきはチカラとなる。」


 最初は茶化したソウタもキサキの言葉に賛同するソウタ、それにつられて他のメンバーも同意していく。


 次々とメンバーが賛同すると満足したようにヨシオが頷く。


「それでは我ら08分隊は各人の夢としてこの世界の平和を成すことをここに誓う!これは夢の誓いとして各々を奮い立たせる結束の約束だ!」



「「「我ら08分隊、ここに夢の誓いを約束する!!」」」



 全員で誓いを立てて盛り上がる第08分隊。

 彼らは強く結束し、この先もナイトを駆逐すべく奮戦していく事になる。


 彼らはその先の個人個人の夢を叶えた、世界平和の未来を見つめていた。



 …………



「くはっ!な、なにが!?からだが、あつ……い。」


「「「キサキ!」」」



 1951年3月。誓いを立てた翌月の夜。

 第08分隊は倉庫街に潜むナイトの部隊を討伐する任務に宛てられていた。


 彼らの拠点の1つと見られる倉庫を襲撃したが、逆に待ち伏せされて不意打ちを受けてしまった。


 突然のことにヨシオの「空間構築」による遮蔽物が一瞬間に合わず、四方八方からの銃撃とチカラによる攻撃にキサキが餌食になった。


 彼女は身体中から血を吐き出して倒れてしまう。致命傷だった。


 彼女だけでなく何人かは攻撃を受けて、急造の遮蔽物の陰で傷口を抑えながら息を荒くしている。


「くそっ、このままでは全滅だ!なにか無いかっ。」


 トウジは近接型であり、いくら切り込み隊長でも大量の銃口やチカラが向けられているこの状況では手がない。せめて初動を狙われないスキが必要になる。


「ぐうっ……分隊長!奥の手の許可を!」


「許可する!合図とともに放て!!」


「3、2、1、今だ!地獄へ落ちろ!!」


 ソウタは自身の持つ薬液のボトルを6個全て空中に放り投げる。それらはフタを外してあり、倉庫内にクスリがバラ撒かれる。



「膨張、そして混合!!」



 ズガアアアアアアアン!!



 ヨシオはチカラを解き放ちクスリまみれのの空間を膨張させ、混ぜ合わせる。すると化学反応による爆発で倉庫ソノモノが消し飛んだ。


 仲間は空間の固定による盾でドームを造って守ったので無事だった。


「動けるものは索敵!負傷者はクスリを使え!」


 ヨシオがすぐに指示を飛ばす。ソウタの父が作り出したクスリは回復効果が高く、多少の傷なら命を繋ぐ事ができた。しかし――


「キサキ!おい、死ぬなッ。こんな所で死んで良いはずがない!」


 ソウタはキサキの身体を起こそうとするが彼女の返事はない。すでに息は止まっており、出血により体温が急速に失われていく。


 そしてソウタは死者を回復させるようなクスリは持っていなかった。


 そもそも彼のチカラの「融合」も自称であって超能力者ではない。薬品を上手く使うだけの彼には、彼女を救う手立てはなかった。


「分隊長、キサキが!!何とか出来ないか!?」


「わかってるがッ……」


 ヨシオは焦りながらも、死なせたくないという感情で理屈をコネた。


(そうだ、オレのチカラならアレを捉えられるか!?)


 そして彼の思考は1つの可能性を生み出す。それは賭けとも言えないほどバカらしい理論のバクチだった。


「ソウタ下がれ!!コレが終わったらお前が指揮を取って撤退しろ!!」


「分隊長!?」


 ヨシオから白い光が漏れ出してキサキの死体に流れ込む。正確には死体とその周囲の空間を埋め尽くす。


 光が徐々に消えていき、そこにはサッカーボールのような形のクリスタルが残されていた。



「空間凍結による遺体と魂の保存、成功していれば良いが……」



 その言葉を最後に意識を失い倒れるヨシオ。ソウタが慌てて駆け寄るが彼の仕事は先程言い渡されている。


「索敵班は報告!」


「敵影見当たりません!」


「敵の遺体も荷物も木っ端微塵だ!」


 索敵から戻ってきたメンバーと、状況調査をしていたトウジが報告してくる。


「ならば撤退だ!予定のルートは破棄してこのルートを使え!怪我人は見捨てるな、全力で生かせ!」



「「「了解!!」」」



 今回の任務はこちらの動きが読まれていた。ならば撤退時も危険が付きまとうだろう。なので地図を取り出し即興でルートを作る。


 気絶したヨシオをトウジに預けて、クリスタルを拾うソウタ。冷静に指示を出してはいるが、その顔は悔し涙に濡れていた。



 後日判明した話だが、元軍人の分隊の中にナイトの内通者が居た。08分隊の作戦を漏らすと同時にメンバーの特徴も漏れていた。


 特にヨシオとキサキは強力無比なチカラと血筋の重要性に目をつけられ、今回は狙い撃ちされた形になる。


 ヨシオは他の分隊員が盾になったのでその間に遮蔽物を出して助かったが、キサキは直撃してしまった。



 あと数日もすれば11歳の誕生日を迎え、その先には春の暖かさを出迎えるはずだった。



 …………



「うーん、ここは……あの世なのかな?」


「目が覚めたかキサキ。」

「どうやら上手くいったみたいだな。」

「僕には何も見えないが、そこにキサキがいるのか?」


 目を覚ましたキサキは辺りを見渡す。そこは決して広いとは言えない木造の部屋だった。


「ヨシオ分隊長にトウジにソウタ?あなた達も死んでしまったのね。」


「バカを言うな。ここはあの世ではない。神社の社の中だ。」


「超能力者じゃないと見えない……のか?」


 見るとヨシオ達の後ろには巫女さんが座って頭を下げている。ソウタには見えないようだが彼女達には見えているらしい。


 自身を見ると身体が淡く光っており、やや透明度が高い。まるで怪談の幽霊のような見た目をしている。


「一体どういう状況?」


「お前はナイトの罠で死んでしまったが、運良く魂を凍結できた。だからこの神社の土着神として蘇ることが出来たのだ。」


「は?神様?」


「そうだぜ、しかも唯の神様じゃねぇ。歓楽街の守り神様だ。」


「はあああ!?何でそんな事になってるのよ!」


「ここの神様が先月引退してな。君ならここで復活出来ると踏んだのだ。ちなみに工夫の工と口淫の口で工口コウコウという神だ。」


「エロ神って事!?私実践シたことないのにヒワイの神様やるの!?」


「詳しくはここの巫女さんに聞けばいい。君のことは重要機密扱いにするから今後は静かに過ごせるだろう。」


「そういう問題じゃ!いえ、ごめんなさい。死ぬよりは良いかもね。」


「たまには会いに来るからよ、せめて安らかに……ぐすっ」


「トウジ泣くなッ、ここに来る前にそう決めただろう!」


「でもよ、こんなちっこい子が死んで良い訳ねえじゃねえか。」


「泣いてくれてありがとう、トウジ。あれからどうなったの?」


「ソウタのクスリで全部吹き飛ばした。あいつら内通者の情報で罠を仕掛けていたらしい。それももう処分したから安心してくれ。」


「へぇ、ソウタ凄いじゃない!片付いたなら良かったわ。私以外はどうなったのかしら。まさか半壊とかじゃないわよね?」


「ああ、君以外は怪我人だけで済んだ。」


「僕には君を救えなかった。そして今も姿も見えないし声も聞こえない。でも必ず誓いの約束は果たす。だから見守っててほしい。」


「ソウタ……うん。皆ならきっと平和に出来るわ。」


「ソウタ、お前の言葉は伝わってるぞ。オレ達なら平和に出来るとさ。」


「うううキサキ、すまなかった。必ず平和になるクスリを作るから!」


 キサキの目の前で泣き崩れるソウタ。その頭を抱きしめて万感の気持ちを込めて「ありがとう」を伝えるキサキ。


「今。キサキの声が聞こえ、た?」


 直接、神パワーらしきモノで気持ちが伝わったのかソウタが顔を上げる。彼はグシャグシャの顔を袖で拭ってゆっくりと立ち上がる。


「約束は守る。それがチカラを産む、だったね。」


「ああ、必ずナイトを倒して夢を実現させるぞ。」


「当然だ、オレ達は絶対に負けない。」



 頷き合う3人。見守るキサキ。



「キサキ、オレ達はそろそろ行くことにする。今度来る時になにか欲しい物は有るか?」



「ヒワイ本をたくさん。」



「「「だいなしだ、この色幼女!!」」」


 よほど心がこもっていたのか再度ソウタにも声が聞こえた。おかげで生存組の心が1つになれた。


 美談にするには無理のある結束で、第08分隊はこれからもナイトとの戦いに身を投じるのであった。


お読み頂き、ありがとうございます。

唐突な過去編です。ゲーム版ではあまり触れられなかった部分なので、この先の展開が来る前に出しておこうと思います。

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