49 セイヤ
『みんな準備は良い?相手はチカラ持ちが多数いるわ。相手に惑わされないで、よく見て確実に戦力を削ぐように!』
『相手を殺す必要はないぞ!だが油断せずに意識を奪え!』
『まだ新技使わないように!安定運用こそ戦いのキモよ!』
『これより作戦を開始する。突入開始!』
「「「了解!!」」」
2009年12月24日夜。占拠された市民ホールを開放する為、ケーイチ率いる特殊部隊が突入を開始した。
右の入り口はユウヤ・アイカ・エイカ。
左の入り口はソウイチ・モリト・ヨクミ。
中央入り口がケーイチ・トモミ・ミサキの編成である。
ちなみにこの特殊部隊の”名前は無い”。
名前を付けないことで、実態を解りにくくさせる為だ。
昔のサイト時代に、散々内通者にやられたのでその対策の1つである。
右の入り口を破って侵入したユウヤ達は、グレネードで先制を取りつつ周囲を見渡す。
「さて、さっさと無力化して教官に合流するぞ!」
「「はい!頑張ろうね!」」
左側に突入したソウイチ達はヨクミのヴァルナーで先制する。
「さぁパーティーの始まりだ!どんどんいくぜ!」
「援護は任せて!」
「もう一発行くよー!”ヴァルナー”!!」
中央は入り口そのモノが分解されて粉になる。弁償は考えない。
「どうやらお出迎えのようだな。悪いがさっさと通させてもらう!」
『前衛は黒いクリスマス教、影を飛び移るから注意して!』
『『『了解!』』』
「人形の防御結界!あとは撹乱しつつ狙撃で援護する!」
全ての入り口の前衛が同じグループだったらしい。
影や擬態で不意打ち先制攻撃が出来るのがその理由だろう。
トモミが相手を見破って仲間に情報をリンクする。
彼女がサイトの魔女と恐れられた原因の1つだ。
特殊部隊の一同は、それぞれの範囲攻撃で敵の逃げ場を塞いでいく。
黒いタイツ男達は経典から水を出して応戦するが、正に焼け石に水。
右はユウヤのショットガンと高速ストレートで各個撃破される。
左はそもそも水耐性が高いメンバーなのでソウイチとモリトが銃で手足を撃ち抜いて無力化する。
中央は他よりバリケードが頑丈であり、念入りに通路を埋められていた。
「はっはっは!どうだこのバリケードは!今のうちに応援要請だ!」
「この程度でオレたちの足を止められるとでも思ったか?」
「微笑ましいわね。」
ケーイチが単身バリケードに突撃していく。
その手には「分解」の剣を持ち、華々しく踊るようにそれを振るう。
「ゲエエエ!?バリが一瞬で小麦粉みてぇになっちまった!」
障害物がなくなり姿を表したのは緑色の服と赤い被り物の集団。
トマトはフルーツ教のメンバー達であった。
「そういうことだ。覚悟してもらおうか。」
「あなた達をピザ生地にして、その上に頭を乗せてあげるわ!」
「「「ヒイイイイ!!」」」
(凶悪な顔してるなぁ。やはり威嚇は大事なようね。)
『被り物をしているトマト集団発見。キグルミは攻防一体!彼らは赤い液体を操作出来るみたい。目潰しと吸血に注意!!』
『『『了解!!』』』
再度トモミから情報が行き渡る突入班一同。
ケチャップによる目潰しや超接近時の吸血が暴露されてしまい、彼らの勝ち目は非常に薄くなる。
ユウヤ達もトマト集団と対峙しており、突然の情報に大変助かっていた。
「ここは通さねーぞ!」
「何?着包み?だけど……」
「「もうこれくらいじゃ驚かないよ!」」
最年少の双子だが、幾多の訓練・実戦により恐怖に耐える心を持っていた。
双子の平行世界アタックにより、相手の死角から狙われた彼らは
次々にきぐるみを破損させていく。正面はユウヤが銃で牽制している。
「何だこの強さは!?マルでこちらガ手玉に取らリタいる!」
「くらいな、高速ストレート!」
ズドン、ズドン!
狼狽する彼らを気絶させて回るユウヤ。単身の彼を狙おうとすると、前後上下左右からの姉妹アタックで転がされる。
「大人しくお縄につきな!」
「「「マルゲリィィィタァァァァアアアア!!」」」
無防備状態で銃を向けられると、悲哀の声が通路にこだまするのであった。
一方ソウイチ達は意外にも手こずっていた。
「ふはははは!我らにとって水や大地は味方なのだ!」
ヨクミの水魔法やソウイチの重力波にも耐性が有ったらしい。
高性能な着包み達である。
それでもちょっと足がガクガクしてるので効いてないわけじゃないらしい。虚勢は大事である。
「ならこいつでどうだ!?」
「フラッシュバンかい?光合成して我らの糧に……ぎゃーー!!」
モリトが使ったのは焼夷弾である。
一気に炎上した彼らは、お互いに赤い液体をかけて消化しつつキグルミを脱いでいく。
すかさず銃を突きつけられて御用となった。
「「「マルゲリィィィタァァァァアアアア!!」」」
悔しさと悲しみの叫びが響く。
「サラミも乗せてほしかったな。」
「私はキノコたっぷりが良いわ。」
「僕はチーズが多めだと嬉しいね。」
トマトを縛り付けると、ピザ談義をしながら先へ進む3人だった。
中央では先制攻撃でキグルミを分解された男達が転がっている。
トマト集団はあと半分残ってはいる。しかしミサキの狙撃で手足を撃ち抜かれた者が居るため、うかつに動けずに立ち止まる。
「しまったわ、チーズは自前で用意しないと。」
「こいつらの圧倒的な強さ、まさかサイトの死神と魔女!?」
「さてどうする?大人しく投降すれば命は助かるぞ?」
「うう、わかった投降する。あんたら相手じゃ勝てるわけない。」
「素直でよろしい。」
(間近で見るとよくわかる。この2人は桁違いの能力者ね。)
本当は続きの思考も有ったが、その情報を頭の中で散らすミサキ。
トモミの前で迂闊なことは思考できない。
(トマト頭どもめ、ご愁傷様!)
代わりに別の思考で頭を埋めておく。ミサキには何か、思う事があるらしい。
「よし、ロビー内の残りを片付けるぞ!」
「ええ、何人か潜んでいるから油断しないでね。」
「了解です!」
突入した3つのチームは奥へ進み、冬はおでん教やリア充殲滅教のメンバーたちとの戦闘に入る。
おでん教は巨大な体躯でこちらの動きを止めて、串形バンカーで身体を撃ち抜いてくる。
殲滅教は小柄な体躯による素早い動きで、装備しているナイフで急所を切りつけてくるようだ。
どちらも一般警察官には驚異となるが、情報を看破しリンクした特殊部隊には刃が立たない。まるで初見とは思えない攻略速度であった。
「我々の情報が漏れていたのか!?」
「いいえ?私が今即興で攻略法を編み出したのよ。」
悔しそうに呻く殲滅教メンバーの言葉にトモミは”くーる”に返す。
「ちっ、これだからリア充は……」
その言葉を最後に気を失う。トモミが意識を刈り取ったのだ。
ロービーの奥の壁には液晶モニターがニュースが流れている。
「以上により、今年はクリスマスが中止となる模様です。」
意味のわからないニュースが流れている。トモミはモニターを注視する。
『あのモニターは擬態!光で情報を操作する敵、光速緊急速報教よ!』
異常を察知したトモミから情報が発信される。
『敏捷性は高く主に音波攻撃、スパークして火も使うみたい。』
『『『了解!!』』』
「我々の呪詛電波にひれ伏すが良い!――――――!」
「それが呪詛ですって?お前らのような豚どもは、たっぷり煮込んでとんこつスープにしてやるわ。もちろん、身の方はチャーシューの予定よ。」
「政府の犬め、なぜ我が呪詛が通じないのだ!」
幼少より呪いの練習をしていたミサキには通じにくいようだ。いや、トモミが精神バリアを張ってくれているだけだ。
ケーイチ達夫婦は光情報を扱う敵とは戦ったことがある。情報を分解し、妨害し、あっさりと打ち取るのであった。
「メニー!クリシミマーーーーッス!!」
「以上により、今年はクリスマスが中止となる模様です。」
一方ユウヤも、奥の控室のテレビモニターと対峙していた。
「「そんな事は許されないよ!プレゼント貰えないのは寂しいもん!」」
「オレ達のクリスマスは半分中止になってるんでな。容赦はしない!」
実は今夜、ちょっとした予定を立てていた彼は怒りを覚えていた。
しかも予定の相手は今、隣に居ないのだ。
ユウヤの目からチカラが発せられ、早さが売りの彼らが急激に遅くなる。
「オレの目から逃れられると思うなよ!」
「「ユウ兄ちゃん、格好いいーー!」」
電波だろうが音波だろうがくぐり抜けて敵にストレートをかますユウヤ。
後ろで援護していた双子は大はしゃぎだ。
静かになった控室。見取り図通りならこの先に進むと中央ホールだ。
「2人とも頼もしくなったよな。さっきの援護も完璧だ。」
「「えへへ、任せて!」」
その頃ソウイチ達はテレビのモニターこそ無かったが、突入した先はシャワールームであった。
そこには日々の疲れを癒やす素っ裸の男達が居た。
「動くな!大人しく投降するんだ!」
「おのれ!シャワー中を狙うとは卑怯な!」
「お前達にサスペンスで最初に死ぬ呪いを掛けてやる!」
「それ以上近づくんじゃないわよ!ていうか前は隠しなさいよ!」
全員素っ裸で対峙しているのでヨクミの目には毒だった。
「ヨクミさんは僕の影から水魔法!ソウイチは重力波を敵足元へ!」
「「了解!」」
モリトは指示を出しながらスタンボールを投げつける。急所が痺れた男達は立っていられない。
そこへ重力波が相手の足を縫い付け、全裸男達は水魔法に晒される。
この師走の時期に、冷たい水流を受け流すことも出来ずにモロに浴びてしまった男達は身動きが取れなくなる。
「さすがモリト、良い指揮してるぜ!」
「我が筋肉はこんな所で滅びたりしなああああい!」
「このまま食われて堪るかー!!」
ムキムキの筋肉男とおでん教の中の人が気力を振り絞り立ち上がる。
他の3人は倒れ込んでいるが、その内の1人が立ち上がろうとしている。
ガタッ!ガタッ!
「な、何の音だ!?」
ガブリ!!
突如現れたミミックロボに、立とうとした男の上半身が丸呑みされてもぐもぐと味合われている。まるでテイスティングされているようだ。
「なんだありゃ……」
「不測の事態に手を止めたら駄目だ!ソウイチは筋肉の相手、ヨクミさんはミミックに水を流し込んで!」
指示を出しながらモリトはおでん教の男にライフルを撃ち込んだ。
「こいつ、子供なのになんて重さだ!」
ソウイチは重力鎧を纏いながら筋肉と力比べをしている。
「そーら、水の恵みよ!!」
「「ガボガボガボガボ」」
ミミックロボの口を水鉄砲で狙撃するヨクミ。
しかしこのままだと食われている人も溺れそうだ。
(どうする!?アレはマトモな生き物じゃない。ならば……)
「ソウイチ、ミミックへ!僕は筋肉、ヨクミさん援護!」
ソウイチはミミックへ向かい、グレイトブロウで箱を壊しに掛かる。
おでん教を倒したモリトは自分で筋肉の相手をする。
モリトはフラッシュバンを投げながら筋肉男に撃ち込んでいく。
それでも根性で近づいてくる筋肉男。
「我が筋肉式戦闘術に敗北はない!」
「知ってる?人間は自然の力の前では無力なの。ヴァルナー!!」
ザバーー!!と的を絞った水流が彼を直撃して流される。
事前に足を撃たれていたせいか、全く抵抗出来ていなかった。
「このっ!何だこいつ……歯の部分が禍々しいな。ならば!」
ゴキゴギゴキッ!
「関節技に高重力を追加する砕骨!これならどうだ!」
ミミックロボは停止してボロボロの姿を晒す。
その傍らには壊れた入れ歯が落ちていた。
「どこに関節技の要素があったんだろう。」
「無理やり引っこ抜いていたわよね。」
「う、うるせえ!あくまでアレの応用だって話をだな!」
「こんな事している場合じゃないな、奥へ行こう!」
「そ、そうだな。さっさと中央ホールへ行かないと!」
「汚い絵面ね。モリト、おんぶして。」
複数の全裸男が倒れているシャワールームを歩きたくないらしい。
ともあれ両サイドの制圧はほとんど完了した。
あとは中央ホールを抑えるだけ。
聖夜の仕事はもうすぐ終わろうとしていた。
…………
「メリークリスマース!ほれ、プレゼントじゃよ。」
「「どうぞー!」」
「ありがとうございます!」
「HO HO HO 君に幸あれ。」
中央ホールに入ったケーイチ達中央突破組は唖然としていた。
ホールの客席には多くの参加者が座っている。
老人と2人美女のサンタがプレゼントを渡して回っている。
そこにはBGMでクリスマスソングが控えめに流れていた。
その光景はテロリストの殺伐としたそれではなく、ただのクリスマスイベントでプレゼントを配布しているだけに見える。
「くっ、何だこれは……いや雰囲気に飲まれてはいけない、行くぞ。」
「楽しそうな雰囲気を邪魔するのは気がひけるけどねぇ。」
「トモミさん、飲まれないで下さいよ。」
中央の広めの通路を通ってサンタ達に近づく3人。
「あんたが親玉か!?大人しく投降するんだ!!」
「HO HO HO 若者よ、一体何を興奮しておるのじゃ。ほれ、せっかくクリスマス会に来たのじゃ。そこに座ってプレゼントが配られるのを待ってなさい。」
「何を言っている!市民ホールを占拠してクリスマス会だと?お前はどこのテログループだ!?」
「さっきから一体何の話じゃ。我々はココは使用許可を申請しておったはずじゃよ?君達こそ参加者じゃないのかね?」
「その通りですわ!一体どういうつもりなの!?」
「邪魔しないで空いてる席に座りなさいな!」
心外だとばかりに抗議するサンタ達。まるでこっちが悪者だ。
「人のイベント返上させておいてパーティーなんて、いい度胸ね。この――」
この豚どもがーっと続けるつもりのミサキだったが、トモミの声に中断せざるを得なくなる。
「あらやだ。この人達ウソは言ってないわ!」
「おいおい、雲行きが怪しくなってきたぞ。」
「ええー。タンカ切る前で良かったけど、いや良くない。」
しーんとした中でクリスマスソングが流れる微妙な空気。
それを打ち破るように幻想生物変身教の幹部が前に出てくる。
「会長、恐れながら申し上げます。実は怪しい集団達には許可出来ないと市からは申請が却下されまして……」
「なんじゃと!」
「他のサークルと合同で抗議に行ったのですが受け入れてもらえず、勢いで暴走して占拠してしまいました。その後、今日まで警察からこの場所を守り抜いた次第であります。」
「HO……HO……あHOかーーーー!!」
全員の気持ちを代弁した会長サンタ。こればかりは敵も味方もない。
世界は相互理解の可能性を見出したのだ。が、特に意味はない。
「どおりでで会場入りする時、ドロボウみたいな真似すると思ったわい!ファンに見られないようにするためとか、適当な事言いおってからに!」
「どーするのよこれ。私達犯罪者じゃないの!!」
「毎年1人のクリスマス、今年は大勢で楽しめると思ったのに!」
「「「…………」」」
サンタ達が嘆き始める。見ているこちらも心が痛い。特にトモミは心が読めてしまうので、頭を抱えるレベルだ。
「「「あんまりだー!!」」」
「それはこっちのセリフだ!呆れて物も言えねえレベルだが、全員逮捕するからついてこい!」
「せめてイベントを成功させねば……プレゼント渡し終えるまでは捕まるわけにはいかんのだーー!!」
幻想生物変身教の会長、変なスイッチが入ってしまう。
細かった身体がムッキムキになり、衣装もピチピチだ。
「さすがです会長!どこまでも付いていきます!」
「「「お前は黙ってろ!!」」」
こうして特殊部隊史上、最もくだらない理由の戦闘が始まった。
「まずは光じゃ!――――!!」
会長サンタは両手をこちらにむけて何語か解らない呪文を放つ!
「みんな、目を――」
直後に光りに包まれたケーイチ達は目をやられるが、トモミの警告が有ったお陰で目くらまし効果は軽微で済んだ。
「――――!!」
女サンタは散開して何かを呟き投げキッスをする。
ヒュゴォォォオオオオオ!!
突如吹雪が発生して左右からの十字砲火が3人を襲う。
ケーイチ達からしたら大したダメージではないが、ミサキはまだ体力も少なく、すぐに動けなくなってしまう。
「私がこんな簡単に……人形たち、行きなさい!」
回復剤を飲みながら人形を操り、防御態勢を取る。
「魂覚醒ッ!みんな意識をしっかり持って!」
3人ともトモミのチカラに包まれ意識がクリアになる。
チカラの伝導効率も上がり、反撃を試みる。
「公務執行妨害に暴行罪!これでも喰らいやがれ!」
チカラで出来たナイフを投げるが避けられる。
「――――!」
「――――!」
再度女サンタ達から呪文が聞こえて横っ飛びで回避しようとするが、
今度は吹雪ではなく、ケーイチ達の身体から赤い霧が発生して流れていく。
「なにこれ、血液の霧?」
『ミサキちゃん、私が幻覚で注意をそらす。彼女たちを止められる!?』
「幻覚の檻!!」
「行け!人形よ!」
「きゃっ、ゾンビに囲まれている!? ってなんなの!手が動かない!」
ミサキの人形が2人のサンタにまとわりついて、その手を糸で絡める。
そのまま彼女たちの腕を後ろ手で拘束することに成功する。
「――――!」
「――――!」
が、またもや吹雪が発生して身体の自由が奪われていく。
「HO HO HO――!!」
ゴバアアアアアアアアア!!
開幕以降出番がなかった会長サンタは凶悪な衝撃波を放つ!
3人は吹き飛ばされてホール入口付近の壁に激突する。
「くそー。あいつら、もしかして声がチカラなのか!?」
『特定の言葉で効果を発揮するみたい。大げさな手振りはフェイクよ。』
「ミサキちゃん、人形で撹乱しつつ――あらら。」
「気絶しちまったか。気つけ薬を使う!おまえは呪文の妨害!」
「解ったわ!幻覚の波、いえ大津波よ!!」
「「「うわあああああああああ!!」」」
フルパワーで幻覚を放って恐怖心を煽る。
彼らの周りには腐敗しきったゾンビがなだれ込んでいることだろう。
お陰で3人のサンタは呪文に集中出来なくなってしまう。動きも相当鈍ってきている。
「ぐぬぬ、何故周りは何もしないのだ!お前達、我々の援護を……」
サンタが客席を見渡すと、他の参加者は別の者と戦っていた。しかも半分以上はすでに気絶してしまっているようだ。
「何い!ここで伏兵とな!?」
「アイカ・エイカ、目の前の敵を攻撃!」
「ソウイチ・ヨクミさん、右に同じだ!」
「ガツンと行くぜ!!」
「ぐぬぬ……お前達、今日はクリスマスなんじゃ。ゾンビなどおらん!さあ叫ぶのだ。サンタの叫びを!プレゼントを渡すのじゃ!」
「「「HO HO HO――!!」」」
「「「HO HO HO――!!」」」
「「「HO HO HO――!!」」」
サンタたちは恐怖を乗り越え衝撃波を放ち続ける。
その衝撃波の嵐を……
ケーイチは戦闘センスで掻い潜りながら近づいていく。
ソウイチは全てを重力の鎧で受けながら進んでいく。
ユウヤは速度を変化させて駆け抜けすり抜けていく。
その3人がそれぞれ近くのサンタに辿り着いて武器を向けた時。
「こ、降参じゃ。」
「「降参しまーす!」」
あっさりと勝負は決したのであった。
戦闘が終わり、手際よく拘束されていくイベント参加者達。
そこにケーイチが近づき声をかける。
「面倒を掛けさせやがって。別に暴れる必要は無かっただろう?」
「そう思うかの?若いの、大事なのは”気持ち”じゃ。」
「へっ、とにかく話を聞かせてもらうぜ、さあ外へ出るぞ。」
「わしはともかく、他の者たちは勘弁してもらえぬか?」
「そこの2人は大した事にはならないだろ。話だけは聞くけどな。」
今回の事件は、最初から最後まで人騒がせなだけで終わった。
籠城していた者たちや責任者はかなりの罪に問われるであろう。
なにせ市民ホールはボロボロであり、警官の怪我人も多数いる。
何も知らずに連れてこられた女サンタの2人は、場合によっては罪の軽減もあるかもしれない。
この3週間、死者がゼロであることが唯一の救いであった。
…………
「ユウヤ!大丈夫?ケガしてない!?」
「ああ、大丈夫だ。」
「良かった!本当によかった!」
戦いは終わり、突入メンバーは救命テントに移動していた。
顔を合わせるなり抱きついてくるメグミ。それを受け止めるユウヤ。
大丈夫だと言ってもしっかりチカラを使うメグミ。
「お、おい。オレは良いからミサキを診てやれよ。あいつ、吹き飛んで壁に衝突して気絶してたぞ。」
「なんですって?ちょっと、ミサキはどこ!?」
「誇張表現はやめてくれない?ちょっとフラっと来ただけよ。」
「「ウソつけ、まだ膝がガクガクじゃねえか。」」
ユウヤとソウイチにツッコミを入れられる。
ミサキはソウイチの肩を借りてここまで来たのだ。
彼のチカラならおんぶどころかお姫様抱っこもいけるが、ミサキが断固拒否した為、この形になった。
「ミサキ!すぐ治すわ!必殺、見様見真似のアケミ流応急手当!」
「不穏な単語が聞こえたけど、効果は有ったみたいね。」
黄色に光る絆創膏を貼り付けられて回復するミサキ。
まだアケミのように劇的な効果も持続性もないが、効果はあった。
「一応ちゃんと光らすわ。」
いつもどおり光を発してミサキどころかその場の全員が回復していく。
「「さすがメグ姉ちゃん!」」
「あのね、メグミちゃん。私の仕事が無くなっちゃったんだけど。」
「ああ!ごめんなさい!!」
治療するのは大変結構なことだが、身体のダメージの記録を取るのもアケミの仕事だ。この記録が、事件の証拠の1つとなるのだ。
「いや……今回はどんどん治療してくれ。記録もその後の物で良い。」
「ケーイチさん、良いんですか!?」
「あなた、いいの?」
「今回はまぁ、良いんじゃないか?これ以上ごたごたしたくねえよ。」
本当にただの人騒がせなだけだった事から、何も知らなかった者への温情をささやかながらにプレゼントするケーイチサンタ。
「それもそうね。私もあなたの意見に1票よ。」
「ではそうしておきますね。メグミちゃんヒーターお願い。」
「私のチカラって暖房じゃないんですけど。」
「でも心が暖かくなるのよね。」
ぴかーっと室内が明るくなり、全員の傷が今度こそ全て消えてなくなる。
「メグミ、ありがとうな。」
「ううん。今日は私、戦えなかったし。」
「メグミちゃんはここで働いてくれたから良いの!助かったわ。」
治療も終わり、ケーイチとトモミは県警本部に挨拶に行く。
警部とその部下には大層感謝されたが……市長がオカンムリだった。
散々説教を貰ってさっさと出て行けと追い出される。
『参ったねこりゃ。減給なんてされないだろうな?』
『ウチはそんなにみみっちくないと思うけど。』
『せいぜい、キョウコさんにはゴマすっとくよ。』
どんなに説教されようとも、ケーイチのチカラは「分解」だ。吹き飛ばした入り口や備品達は元には戻らない。それこそ「時間干渉」でも無い限り。
「お前ら、撤収だ。今日は良くやってくれたから、後はここの連中に任せて帰って良いそうだ。なんとかクリスマスは楽しめそうだぞ。」
「「「やったーーー!!」」」
この喜び様、特殊部隊とは言えまだまだ子供である。アケミも含む。
「ただ、オレらはまだやることが有るから先に帰ってろ。打ち上げしたいなら帰ってからにしろよ。寄り道は許さん。」
「「「了解です!!」」」
『あなた、ウソが上手くなったんじゃない?』
『人聞き悪いぜ、気遣いと言ってくれ。』
「それとだ、来る時の車両は犯人の護送に回すことになった。ちょっと狭いが別の車両で勘弁してくれな。」
元々ここの県警からの借り物だし文句は言えない。
こうしてトキタ夫妻以外のメンバーは学校に帰還することになった。
…………
「なぁ、ミサキ。ちょっと良いか?」
「あらこの豚野郎。夜遅くに女の部屋に何しに来たのかしら。」
日付も変わろうかという時間、ミサキの部屋にソウイチが訪問する。
彼は手提げ袋を手にしており、恐らくはいつもの水ボトルだろうとミサキは推測した。
ミサキは人形の手入れ中だった。本体や糸、服の補修をしていたのだ。
「メグミから部屋に居るって聞いたが……すまねぇ、作業中だったか。」
「良いわ。ちょっと気分も変えたいし。」
人形を隅に置いてソウイチを座布団に座らせる。
ソウイチは珍しくモジモジしながら言葉を掛ける。
「そのな、今日の事なんだが……遅れて済まなかった。」
そのままペコリと頭を下げるソウイチに、意外そうな顔のミサキ。
「あなたに謝られる覚えはないわ。気絶したのは私の不注意だし、そもそも教官と居たのにああなったのよ?」
「それでもオレなら受け止められたはずだった。もっと早く到着してれば可能だったんだ!」
「気持ちはうれ……受け取るけど、タラレバは禁物よ。モリト君達にも聞いたけど、あなたは全力で戦ったのでしょう?」
「だけどよぉ。相棒を危険にさらして助けられないのは嫌なんだよ。」
「調子に乗るんじゃないわ、この豚野郎。そういう事はチカラの制御をマトモに出来るようになってから言いなさい。」
「ごもっともだな。いつも付き合ってくれて感謝してる。」
そう言って手提げ袋から取り出したのは白い箱。
「明らかにその袋より大きい物が出てきたんだけど。」
「そっちは気にするな。オレも理論はわからん。それでな、日頃の感謝というかそういうのでこれを用意してみた。」
箱を開けるとクマのぬいぐるみが1体入っていた。
触れてみるとなかなかの手触りで、綿もたっぷり入っている。
「うん。悪くないわね。」
「そうか!?お前って和製の綺麗な人形ばかりだろ?だからたまにはカワイイのも良いんじゃないかって。」
「キ、気が利くじゃない。これはソウイチが買ってきたの?」
「こういうのが作れる店が有るんだよ。店内でオーダーメイドでな。」
「なるほど、今度紹介しなさい。興味が湧いたわ。」
「お、おう。じゃあ今度の休みにでも行こうな。それと、見てろよー……てい!」
ソウイチはぬいぐるみにチカラを通すとクマが浮き上がる。
そのままチカラで操作をして、空中を右へ左へと漂うクマ。
飛行まではいかないが、一般人からしたら大した手品だろう。
これは重力操作でぬいぐるみに掛かる重力を操っているのだ。向きを変えるのも同様に左右にベクトルを変えている。
「ソウイチ!?あなたいつの間にこんな芸当を!」
「へへ、軽い物なら多少は動かせるようになったんだぜ。制御ミスると爆散するから、訓練は重いほうが良いんだけどな。」
「今すぐ降ろしなさい。せっかくのクマを爆散させないでほしいわ。」
「お?気に入ってもらえたようだな。嬉しいぜ。そんな訳でオレからのクリスマスプレゼントだ。受け取ってくれ。」
「あ、ありがとう。ソウイチもたまにはやるわね。でも悪いけど、私からは何も用意してないわ。」
「気にするな、さっき受け取っただろ。」
「ん?まあ良いわ。それじゃ店の紹介忘れないでね。今年は無理だろうから、来年行くわよ。」
「おう。任せておけ!じゃあおやすみ、相棒!」
「おやすみなさい、ソウイチ。」
そのまま退室するソウイチ。
彼はプレゼントを受け取ってもらえて心底ほっとしていた。
日頃ボロクソに言われていた彼は、いくらメンタルが強いとはいえそれなりに凹んでいた。
ケーイチに相談したらプレゼントでご機嫌を取れと言われたが、そういうのと無縁だった彼はどうしたら良いかサッパリだった。
こっそりアケミに聞いてみたら、池袋に面白い店があると聞く。そこで半日悩んで今日贈ったクマを作ったのだった。
ただ少々大きい梱包だったので悩んでいたら、例の手提げ袋をケーイチが借してくれたのだ。ちなみに作ったのはサイトのマスターであるサイトウ・ヨシオである。
「店を紹介するって、デートってことだよな!?また相談しておかないと……ホント、覚えること多いなぁ。」
そんな呟きをしつつ自室に戻るソウイチだった。
「は、初めて男からプレゼントを貰ってしまった……うわあああぁぁぁ。」
ミサキはクマを抱きしめながら、ベッドで横になり悶えていた。正直とってもフクザツな気持ちをだった。
あれだけキツく当たっていた相手からプレゼントが貰えるなんて。そしてぬいぐるみを貰ってとても嬉しい自分がここに居る。
彼は自分好み・家のシキタリに沿う男にするだけのつもりだった。彼は歩みは遅くとも着実に成果を上げていった。
今日に至っては条件付きとは言え、細かいチカラの制御も出来ていた。
メンタル面でもこんな自分の事をとても案じてくれている。
はっきり相棒だと言ってもらえた。
(あれ!?もしかしてソウイチが”もう貰ったプレゼント”って、店の紹介の約束……それってデートになるんじゃない!?)
今更気が付き足をバタバタさせる。この建物は防音完備なので問題ない。
(メグミが一生懸命な理由が解ったわ。でもこの気持ちは私らしく無い。)
乙女心を理解してしまったミサキは、なんとか冷静になろうとする。
「今は体制を整えて準備する段階よね。双子ちゃんだけじゃなくて彼にもチカラを隠すように言うべき?でも彼には隠し事は無理よね。だったら協力者として矢面にたってもらうくらいかしら。」
チカラの見せ方、それが重要だとミサキは考えていた。
すべてを見せるとそれこそ自由が無くなりかねない。教官のように。
心を決めたミサキは人形の補修を明日に回すことにして、クマのぬいぐるみを抱きしめて乙女心を楽しむのであった。
…………
「ねぇ、覚えてる?」
「ああ、初めて話したのもこのベンチだな。」
ゲーム(訓練)コーナーの休憩所のベンチに座り、2人は話していた。
ユウヤとメグミである。
そのベンチから窓越しに外を見ると雪が降っている。
「ホワイトクリスマスね。ここじゃちょっと殺風景だけど。」
「これは積もるかもな。教官が戻ってこないけど大丈夫かなぁ。」
メグミは少しムッとする。せっかく思い出の場所で2人きりなのに、ホワイトクリスマスなのに雰囲気もなにもないセリフを言われたからだ。
しかしそれも仕方がない。ユウヤだって緊張してるのだ。
それを見て取ったメグミは話を強制的に進めようとする。
「ねえユウヤ。終わったら話が有るって言ってたじゃない?」
「ああ、それなんだけどさ。オ、オレにはメグミが必要だって話だ。」
「!!」
「突入時に改めて思ったぜ。メグミの助けがなければオレは保たない。もちろんアイカ達もよくやってくれたが、やっぱ違うんだよな。メグミには側にいてもらいたいと思っている。仕事だけじゃなくてな。」
「わ、私もさ。今日は離れ離れで、すごく不安だったんだ。戦いが始まってからユウヤの事ばかり考えてた。私にもユウヤが必要なの!」
「じゃ、じゃあさ。お互いが必要って事で、正式に付き合ってくれないか。」
「はうっ!!そのね、嬉しいけどいいの?私、かなり面倒よ?」
「構いやしないさ。人同士が寄り添うってのはそういう面もある。」
今日の現場がいい例だ。敵も味方も、どの陣営もグダグダだった。
「よろしくおねがいしますっ!!」
「よろしく頼むよ、メグミ。」
「う、浮気はダメだからね!何でも頑張るからそれだけはお願い!」
「お、おう。期待してるし、オレも期待を裏切るつもりはないぜ。」
そのままベンチの上の人影が1つになる。それは何度も、長く。
(あらあら、彼らは上手くいったようね。)
その様子を霊体で見ていたフユミは、ニヤニヤしながら飛び立った。
そしてすぐに学校中に知れ渡ることになる。風精霊のウワサは強力だった。
この夜。
いくつもの男女の運命が動いた事を示すかのように、世界は赤い光に包まれた。
…………
「ユウヤ、急いで来てくれ!うわ、メグミ!?」
「どうしたモリト。そんなに慌てて。」
「いや2人とも居るなら丁度いい!早く医務室へ!」
翌12月25日は休日だった。ユウヤとメグミは遅くまで添い寝して微睡んでいるとモリトの発した騒々しさで目が覚める。
寝ぼけ眼でドアを開けるとメグミの存在にモリトが驚く。
少し迂闊だったかも知れない。服は着ていたので助かった。
手早く制服に着替えて医務室へ向かう。
医務室では包帯だらけのケーイチが数人がかりで抑えられている。
「教官?一体どうしたんですか!?」
「ユウヤ!お前ならどうだ、トモミの事を……」
「ちょっとトキタさん、落ち着いて下さい!」
勢い込むケーイチをアケミが必死に抑えようとしている。
「大事な事なんだ!妻の事を覚えているか?」
「教官、冗談言ってないで横になって下さい。」
「良かった、ユウヤは覚えていたか!」
「妻も何も教官は”独身”じゃないですか。」
安堵しかけた表情が一気に険しく、悔しげな物に変わるケーイチ。
「くっ、なぜだ!!アイツは何をしやがったんだ!!」
「てい!」
動きを止めたスキにアケミが鎮静剤の注射を打ち込む。
教官はそれ以上暴れること無く、大人しくベッドに横になる。
「……昨晩、教官に何が有ったんだ?」
ユウヤが当然の疑問を口にする。
その場の全員が同じ疑問を抱いていた。
「と、ともかく。私が何とかするから、メグミちゃんも手を出さないで!この件は口出し無用よ!誰に聞かれても何もわからないと答えなさい!」
アケミが緘口令を出す。
ここはもう彼女に任せたほうが良いだろう。
そう判断した一同は、眠ったケーイチを尻目に医務室を退室するのだった。
お読み頂きありがとうございます。
今回のユウヤ&メグミとソウイチ&ミサキのシーンはゲーム版に入れられなかったのが心残りの1つでした。
結局次のケーイチ達のシーンにスムーズに持っていきたい気持ちが勝ったわけですが、今回こういう形で入れられたのは嬉しいです。