48 アケミ その5
「到着!人数確認!積荷を所定の場所へおろせ!」
「「「了解!」」」
2009年12月24日昼下がり。某県某所にある市民ホールに特殊部隊が到着した。
彼らの拠点からはかなり離れた場所にあるので移動で時間を取られたが、2台の輸送車から降りた彼らはテキパキと作業を開始する。
ここは複数のテログループに占拠され、3週間に渡り籠城されている。相手はチカラ持ちが多く、補給もライフラインも途絶えているはずなのに普通に中で生活していた。
市の偉い人達の判断で破壊は控えろとの指示が出ており、タダでさえ不利な戦いが絶望的な戦いを強いられていた。
ここで言う絶望とは、寒空でクリスマスパーティーをすることである。
県警の警官達は超能力者部隊の到着に、期待と好奇の目で彼らを見る。だが降りてきた隊員達をみると軽く失望をする。
(((子供のピクニックじゃねえんだぞ!)))
まだ義務教育も終わってないような連中が大半を占めてれば、そう思っても不思議でないだろう。プロだからか、気力がなくなったからか声には出さなかったが、その空気は漂っていた。
「オレは本部へ行ってくる。各自物資のチェックしておけ!」
「「「了解!」」」
(うへへ、隊長モードのケーイチさんやばいわぁ。)
『アケミさん、公衆の面前でその顔とヨダレは危ないわ。』
(うわわわわわ、トモミさんの声が!!)
ピリピリした男の多い現場でアホな姿を晒しては良くない。
そう思って思わず注意したトモミだった。
慌てて佇まいを通常モードに切り替えると仕事にかかる。
「さーて、今日も頑張りましょう!」
こうして時間は掛かったが警部の要請通り、戦力は整った。
…………
「えええ!?私にテロの片棒をかつげと!?」
「声が大きいです。トーンを落として……」
ショウコは幻想生物変身教の幹部の1人に頼まれ驚きをあらわにする。
彼女は最近のニュースで騒がれている籠城テログループが自分の所属しているサークル主催だと気付いて既に退会申請も出していた。アレだけ連日報道していれば嫌でも気がつくというものだ。
しかし相手も引き下がらない。
「ショウコさん、あなたを巻き込むつもりは無いんだ。ただ会長の輸送だけ”チカラ”で手伝って頂きたいのです。」
「充分巻き込まれてますが……」
ここはショウコの勤務する病院であり、怪しい男が彼女を呼出した事できっと今頃ウワサが広まりだしていることだろう。
「これが終わったら報酬は充分にお支払いします。どうかお願いします。」
「もう、わかったわよ!でもあくまで私は偽装のみ。それ以外は何もしないからね。それと絶対に私の事を漏らさないこと!」
「ありがとうございます。ではアチラでお待ちしておりますので。」
ショウコは先輩たちに一言言って早退する。
もう明日以降に色々言われるのは確定だし、どうせ今年もタダ働きの2日間なのだ。多額の報酬が出るほうが良い。
当然職場からの信用は減るだろうが、彼女は軽く見られている上に、そもそもショウコも職場を信用していない。色々時間の問題だろう。
ステルスで先輩の追手を振り切り、背中で怒号を浴びながら合流地点へ急ぐ。待っていた高級車へ乗ると市民ホールへ向けて発車する。
「ショウコさんこちらをどうぞ。」
「これは、モールス信号の一覧表と例文表?」
「ステルス中では意思疎通が難しいのでこれを参考にして下さい。」
「なるほど。わかったわ。」
「ほっほっほ、今年はナースさんと会場入りか。よろしく頼むよ。」
「は、はぁ。よろしくです。」
突然お爺さんから話しかけられ、驚くショウコ。
(今まで居たっけ?それに呑気な事を言うお爺ちゃんね。)
ついでに言うなら初対面であり、自分が看護師なのも言ってない。まぁ病院から出発したのだからアタリをつけただけだろうが。
訝しげなショウコの様子を見た幹部が耳打ちしてくる。
「会長はテロ事件に気がついていないのだ。」
「あんなに報道されてるのに?ていうか誰も報告しないの?」
「会長は慕われ、守られている。凶悪な暴力や有害な情報からな。」
「あんたらのせいってことね。良いけど報酬、払いなさいよ?」
「絶対に満足することを約束します。」
(この会長、事件に気が付かないなんて、そんなことってある!?)
会長だからこそ大事な情報を集めるべきなのではと、ショウコは納得がいかない。
この情報が溢れている時代。あえて無人島のような隔離場所に居たり、よほど別の事に目を向けてない限りはありえないだろう。
そもそも自分と住む世界が違うといわれればそれまでだ。
(ともかく自分がボロを出すわけにも行かないし、これ見ておくか。)
こうして会場に着くまで、モールス信号と格闘したショウコであった。
…………
「いいか?今回は突入班を3つに分ける。」
同日夕方、作戦会議が終わってケーイチが部下達に指示を出す。
「中央はオレとトモミ、そしてミサキだ。ミサキは人形やライフルでオレたちの援護を頼む。」
攻撃力は高いが防御がイマイチな夫婦を援護する形だ。
「次に右側出入り口、ユウヤとアイカ・エイカで行ってもらう。」
ユウヤの突破力と場を制することができる双子の組み合わせである。
「左側の出入り口はソウイチ、モリト・ヨクミの3名だ。」
ソウイチの硬さとモリトの判断能力、面攻撃のヨクミとバランスは良い。それにヨクミの攻撃の余波を食らっても、この2人は相性がいいのだ。
「メグミは医療班にまわってアケミと救命テントで働いてくれ。」
メグミはこの街に来てから元気がない。正確には別の元気が溢れ出しそうで気分が悪くなっている。
そう、悪意である。この”街”には悪意が満ちており化粧の暗示でも抑えきれていない。
回復役が1人減るのは手痛いが、こればかりは仕方がない。
ユウヤはメグミを気遣い手を握る。
「メグミ、すぐ終わらせるからな。」
「うん。ユウヤも気をつけて。あと、終わったら一緒に……」
「ああ、オレも話がある。」
こそこそと後の逢瀬の約束をしているとケーイチから指示が飛ぶ。
「突入までまだ時間が有る。各自イダーさんから食事を貰って配置につけ。」
「「「了解!!」」」
元気よく返事をして、各々が待場へと走っていった。
…………
「アケミさん!設営お疲れさまです。」
「イダーちゃんも配膳お疲れさまです。どうかしたの?」
救命テントを自分達仕様に変え終わった私達はそろそろ夕飯を頂こうとしていた。
具合の悪いメグミちゃんをテント内に残して食事を確保しようとした所、イダーちゃんがこっちに向かってきたのであった。
「それがですね、ちょっと手違いがありまして。食事が足りません。」
「あら珍しいわね。イダーちゃんがミスするなんて。」
「言い訳になってしまいますが今回は人員の配置や数、連絡のあった必要数の段取りも違ってまして。」
「あちゃー。連絡ミスかー。それは仕方ないわね。」
「それで申し訳ないのですが、アケミさんには外で食べて頂ければと。メグミちゃんのは確保しておいたのですが。」
心底申し訳無さそうにイダーちゃんがお願いしてくる。経費で落とせるみたいだし、こんなの断れるわけないじゃない!
「そういう事なら問題ないわ!ちょうど一段落したとこだから美味しいお店を探してくるわね!」
いい店があったらイダーちゃんにも教えてあげよう。
「ありがとうございます!私からは話を通してありますが、キョウコさんには一応声を掛けてくださいね。」
「はーい。敵前逃亡でジュウサツ!って事にならないようにしなくちゃね!」
「フフッ、アケミさん大げさですよー。それでは私はメグミちゃんにゴハンを渡してきます。」
イダーちゃんと別れると、そばに居た婦警さんに声をかけられる。
「外出するならここに記録をつけてくださいね~。」
「はいはーい。仕事でもゲームでも記録は大事だからね。」
私は看護師姿のまま愛用のバッグを手にして移動を開始する。このバッグには治療道具や私の失敗レーションの在庫が入っている。
え?これを食べろ?御冗談を、人間の食べ物じゃないわ。
本部や救命テントのある駐車場から歩道に出る。
その際駐車場の警備をしている警官から話しかけられる。
「あんた特殊部隊の医療班か。メシが無いんだって?こっちのグダグダに巻き込んで済まないな。」
「いえいえ。その口ぶりだとこういう事はよく有るんですか?」
「おうよ。この街は金にがめつくてなぁ。この駐車場だってキッチリ料金取られてるんだぜ?」
彼の視線を追って看板を見ると1時間あたりの料金が書かれている。駐車場を丸ごと貸し切っているのでかなりの額になるだろう。なにせ約3週間分だ。
「まぁ気をつけてな。これでもオレはあんたらには期待してるんだぜ。」
「はいな!お任せ下さい!」
ビシっと敬礼して別れる。そのままキョウコさんを探して市民ホール前の広場にやってきた。
「クリスマスにテロリスト退治か。元々色っぱい予定なんて無いけど、屋根の下でチキン食いたかったなぁ。」
「それは言えてるね。でも突入前の緊張感がイダーさんのお弁当でほぐれていく感覚も嫌いじゃないよ。優しい味でさ。」
「お前は相棒と一緒だから良いかも知れないが……」
「あれ?ミサキと離れて寂しいのかい?」
「ば、ばかやろう。そんな訳あるか!ただ勝手が違うってだけで。」
「ふっふっふ。今回のチーム分けはいい感じよね。私が全力を出しても問題ないメンツだし。ミサキからも頼まれてるし。」
「頼むから味方には撃ち込まないでくれよ。」
「そういうセリフは魔法の1つも使えるようになってから言ってよね。」
「う、面目ない。」
左側チームの会話を聞きつつ進む。
ソウイチ君の気持ちの行方も気になるけれど、モリト君もよね。あれだけヨクミちゃんと特訓してるのにチカラが使えない。
アドバイスできれば良いのだけど……私はチカラは使えてもその正体がイマイチよくわからないからなぁ。有機物が反応を示すから、「生命力の活性化」かなって思ってるけど。
中央に向かうと愛しのケーイチさんが奥さん達と話してるのが見えてくる。
「ミサキ。オレ達とじゃペースが難しいかも知れないが、頑張って付いてきてくれ。援護だけでもかなり助かるからな。」
「教官達とのチームは安心できるけど、別の意味で緊張するわね。」
「大丈夫よ。戦闘になれば私が制御を手伝うわ。」
「心強いです。トモミさんの戦いは勉強になりますから。」
「そう言ってくれるのは嬉しいわね。ミサキちゃんのチカラを思えば相性は良さそうだもんね。」
「お、アケミさん。突入まで時間があるからメシ食っておいてくれな。」
「はい!それでちょっとキョウコさんを探してて。」
「それならあそこに居るわよ。」
「ありがとうございます!あの、今回の事件って大丈夫ですよね?」
「心配しなくても平気よ。この事件、聞いてた危険度の割にお祭りに近い心の流れを感じるの。」
「へ?お祭り、ですか?」
「勘だけどね。きっと大丈夫よ。」
「テロだろうがお祭りだろうが迷惑には変わりないがな。アケミさん、サポートは任せたぜ。」
「はいい!精一杯やります!」
「トモミさんに消されないのが不思議なくらいの露骨っぷりだわ。」
ミサキちゃんの不穏なセリフを聞かなかったことにして、キョウコさんに会いに行く私。
わかってるもん。自分でも声のトーンが上がってる事くらい。
「少し冷えてきたな。これは雪が降るのかなぁ。」
その途中で物陰に隠れて寄り添う3人を見つける。
「寒い時にチカラを使うと霜焼けになりやすいから気をつけないと。」
「ユウ兄ちゃんは気をつけないとね。」
「遅く固まった冷気の中を走ったら大変だもんね。」
「凍えないようにしっかりメシ食わないとな。」
「ユウ兄ちゃんと一緒に御飯、嬉しいなぁ。」
「今日はユウ兄ちゃんと一緒。いっぱい守ってもらおうかな。」
「でも私達が守ってあげるのもイイかも!」
「ああ!それイイかも!」
「はは、頼りにしてるぜ。オレも頑張るからな。」
「「はーい!」」
微笑ましい光景を通り過ぎる。
メグミちゃんが見たら悔しがりそうね。こう、黒いオーラ出して。
そしてようやくキョウコさんに話しかける。キョウコさーん外行ってきますよー。
「アケミさん。話は聞いてるわ。領収書を忘れないでね。」
「それはもちろん!」
「それと、周辺には報道陣と野次馬がたくさん居るわ。くれぐれも、行動には気をつけてください。私は本部に戻るから、何かあったら連絡お願いね。」
「わっかりました!では、医療班アケミ、いってきまーす!」
寒空の下、元気に出動する私であった!
「特殊部隊の女性陣って美人が多いよなぁ。」
「オレもチカラがあれば一緒に突入できるんだが。」
「やめとけよ。それに子供ばっかりじゃないか。」
「それな。この国はどうなってるんだ。」
「危険だから規制してるのに、たまに乗り込んでくるやつも居るし。」
「命が惜しくないのかねぇ。」
「この時期変なのが湧くのは毎年恒例さ。春とかもな。」
「大事な日に限って任務で帰れないと家族の機嫌がなぁ。」
「平和を守って家庭が不和を起こす。難しいよな。」
警官達の会話を聞きながら繁華街を目指す私。
みんな苦労してるなぁ。お勤めお疲れ様です。
…………
「おい!誰か出てきたぞ!ナース服?」
「ウワサの特殊部隊の人かしら!でもナース服?」
「すみませーん、そこのナースさん!ヒトコトいいですかー?」
警官の包囲網を抜けると、その外側を包囲していた報道陣に囲まれる私。視界一杯にひしめき合っており、とても自力ではすり抜けられそうにない。
「えっと、ちょっとゴハン食べに行くので通してもらっていいですか?」
「いつ突入するんですかー!?」
「呑気に夕飯ですか?こっちもまともに食わずに仕事してるんですよ?」
「そういうのは広報担当の方にお願いします。通してよー!」
ワラワラと囲んでくる皆さん。
目の前のアナウンサーを肩を押して、通り抜けようとしてみる。
「ああっ、暴力ですか?私は屈しませんよ!ペンで戦わせてもらいます!」
「ええ!?ちょっと抜けようとしただけなのに!」
というかあなた達だって私を囲って妨害してるじゃない!
ちょっとイライラし始める私。いけないわ。行動には気をつけなくちゃ。
「こっちはバッチリ撮影してますからね!言い逃れは出来ないぞ!」
「それって脅迫じゃない!」
「暴力の次は言いがかりですか!?これが特殊部隊の総意と思ってよろしいのですね!!」
いけないわ!お互いにお腹が空いて気が立っているのね。
ここは特別訓練学校の一員として、ううん。
特殊部隊の一員として、穏便に済ませる必要があるわ。
私は手をバッグに当てて中身の感触を確かめる。
在庫はまだまだあるし、丁度いい機会かも!
「おい、何か取り出そうとしているぞ!武器か!?」
「善良な一般市民に向かって、銃を取り出そうとしています!」
「これはスクープだ!特殊部隊はテロリストの味方だ!」
「ふう、何を言っても無駄のようね。ならば!!」
深呼吸をして覚悟を決めた私は報道陣を睨みつける。
「私がみなさんの胃袋を ”治療してあげる” わ!!」
私はバッグの中の失敗レーションを解き放った!!
…………
「本当にこんな中を通っていくんですか?」
「大丈夫だ、君はこのロープを持ってチカラを使ってくれればいい。」
件の市民ホールに辿り着いたショウコ。
側に立つは会長や幹部を始めとする幻想生物変身教の面々。
それぞれロープで繋いで主役や荷物持ち達をステルスにしていく。だが例え見えなくても物理接触は避けられない。それほどまでにホールは包囲されていた。主に野次馬と報道陣で。
「ほっほっほ。今年は盛況じゃな。だがプレゼントが皆に回らぬぞ。」
「ご安心下さい会長、既に充分な量を運び込んであります。」
「ほう、良い働きをするな。我々は1人でも多くをリア充にせねばならぬ。」
「その通りでございます。ここは我々におまかせを。」
幹部さんが携帯で何かを連絡すると、別の路地の方で騒ぎが起こる。なんだなんだと目の前の人達が移動をはじめて人幕が薄くなる。
「左舷が薄くなった。今のうちに進もう。」
一同は移動を開始して敷地内に入る。
「さっきの何をしたんですか?」
「仲間を大道芸人に扮して、野次馬の後部に紛れさせておいた。それを使ったのさ。」
「……人材豊富ですね。」
ツッコミを入れようにも緊張感漂う今は、返答も慎重になる。そのまま警官達が見張り、巡回している搬入路を目指す。
モールス信号で合図をしつつ、なるべく音を立てぬように進んでいった。
やがて建物の裏側、搬入口に着くと幹部さんからお礼を言われる。
「さて、搬入口に着いたぞ。凄いな君のステルスは。ありがとう、ここまであっさり侵入できるとは思わなかった。」
「お褒めいただき嬉しいわ。でも――」
「ああ、仕事はここまで。報酬もたんまり、職場への埋め合わせも任せてくれ。本当に助かったよ。」
どうやら多額の報酬だけでなく、職場へのフォローもしてくれるらしい。
「あなた達が捕まらないことを祈るわ。」
「ご心配ありがとう。オレたちはまあ、大丈夫だ。」
「報酬の心配をしただけよ。」
彼らとはここでお別れ。自分以外の全員が建物に入るのを確認して踵を返す。
(あれ?全員?)
そう、今は自分1人なのだ。車の運転手や脱包囲のサポートもなく、今度はあの包囲網を1人で抜けねばならない。
(まったく、迷惑な話よね!!)
ショウコは敷地の境までは簡単に戻ってこれたが、大道芸の集客効果はもう薄れているらしく再度包囲網が完成している。
(このままではマズイわね。いっそ何か騒ぎを起こしてステルスで……)
などと考えていると、辺りが騒がしくなる。
敷地の正面側で怒号が聞こえる。人々の注目もそちらに集まる。
(今だ!)
再度薄くなった包囲網をステルスで突破し、何食わぬ顔で野次馬に混ざる。このまま駅に辿り着ければショウコの勝利である。
その時ーー。
「私がみなさんの胃袋を治療してあげるわ!!」
「ええ!! 今のアケミの声!?」
1年以上連絡が取れない親友の声に反応して思わずそちらへ向かってしまう。驚きの余り、「ステルス」は解除されてしまった。
「特殊部隊がご乱心だとよ。」
「戦うナースだって?」
「おい、あいつら何か食わされてるぞ。」
「「「ギャーーーーーー!!」」」
他の野次馬達の声から情報を掴みつつ、近寄りたい衝動を抑えて見守る。そこにはナース服で缶詰や真空パックを振り回す、悪友の姿があった。
その足元には報道関係者が何人も倒れており、全身スライムまみれだ。口からはスライムが入り込み、空腹を解消させようとしている。
「お……おふくろのメシが食べたい……ぐふ。」
「お粗末様でした!!」
よりによってマスコミを敵に回してノックダウンさせたアケミ。周囲の者達もその光景が信じられず、戸惑いの表情だ。
かといって近づいても、次は自分がスライムまみれになりかねない。
「あはは、相変わらず何をするかわからない女ね。」
「うむ。素晴らしいものを見たな。」
ショウコの独り言に、急に同意の声を掛けられ驚いて声の主を探す。
「驚かせたかな。私はただの記者だ。しかし良いものを見た。まさかこんな所で料理スライムの真相に近づけるとは。」
「なんですって!?」
ショウコは焦った。去年で収束したはずの都市伝説の名が突然湧いたから。料理スライムとは意志を持ったゲル状料理の事である。
「その反応、君もあの都市伝説を知っているのかね。」
「すこし、ネットや雑誌で見たくらいですよ。っていうか貴女は?」
知ってるも何も、犯人はアケミで自分は共犯である。適当に受け流しつつ相手の情報を探る。
「申し遅れたね。私はさくらもちというペンネームの記者だ。」
「ああああ貴女があの雑誌の!?」
「ふむ、読者さんか。しかもさっきの口ぶり、彼女を知っているのか?どうだい、ちょっとそこら辺のラーメン屋で話でも……」
「知りません、話しません!これで失礼します!!」
何故ラーメン屋?と思いつつもこの女に関わるとマズイと感じ、全速力で離れるショウコ。ステルスを発動させて人混みに紛れる。
「まったく、アケミに関わるとやっぱり楽しい事になるわね。」
何とか逃げ切ってくれと願いながら駅まで辿り着いたショウコは、このカオスな戦線から快速に乗って離脱するのであった。
…………
「ステルスのチカラか。普段なら追跡は可能だがこう、人が多いとな。」
ちょっと大人になったサクラさん24歳。
落ち着いて状況判断が出来るようになり、今は追うより待ちを選ぶ。
「視たところさっきの彼女も深く関わってそうだけど、アケミに話を聞いたほうが早いか。」
ふと彼女の方を見ると、仕事を思い出した報道陣に囲まれている。
「また来たわね!喰らいなさい、在庫処分アタック!」
「うわあああ!全身に寒気が!」
「ぎゃあああ!身体が痺れる!」
「きゃあああ!力が入らない!」
「お粗末様でした!」
(まさかチカラ持ち、しかも特殊部隊のメンバーとはね。)
ちょっぴり驚きを引きずりながらも彼女の通るルートに近づいていくサクラ。
「おいこっちだ!私に付いてきなさい!」
「え!? きゃっ何なのーー!?」
アケミの手を取り路地裏へ引っ張っていく。彼女は混乱気味だがこの状況では仕方ないだろう。
「ねえ、ちょっと聞きたいことが有るのだけど。」
「事件に関することは何も答えられませんよ?」
【忘却の彼方。犯人はアルコール。】
(ん?向こうは覚えてないのか。結構アドバイスしたのだが。)
知り合いのよしみで料理スライムを聞こうとしたが、覚えてないならしょうがない。別の質問に切り替える。
「いや、そうじゃないんだ。君はゴハンを食べに出てきたようだが、閉鎖区域内には店は無いと見て良いんだよね。」
「ええもちろん。閉鎖されてますからね?」
実は、この人ゴミと騒ぎで思念が渦巻き混線状態だ。
サクラは本来のお目当てである水星屋を見つけられなかったのだ。なのでまさかと思いつつ、閉鎖された市民ホールの敷地内に店が出てないか聞いてみたのだ。
「そこまで天の邪鬼ではないという事か。邪魔して悪かったな。」
「いえ、私も助けてもらってありがとうございます。」
「そうだ、この辺にラーメン屋が出ているはずなんだ。もし良かったらそちらに来てくれ。私は先に探しに行くよ。」
「は、はぁ。何だったのかしら。でも何処かで会ったような?」
釈然としないアケミだったが、ともかくゴハンが食べられそうな場所を目指して散策を開始するのであった。
…………
「うわーん!どこも入れなーい!」
散策を始めたはいいがコンビニは品切れ、飯屋はメディアが貸し切り。スーパーマーケットはクリスマスセールで入場制限。
これでは時間内に食事を摂って戻れない。
「この!また来たわね!在庫処分アターック!」
寄ってきた報道関係者を倒すと何かが飛んできたので掴む。
誰かの入れ歯だった。しかも呪いのような禍々しさ付き。
「いらんわこんなもの!」
勢いで適当に投げた入れ歯は、ゲームセンター前で
キャッチャーゲームの景品を組み立てていた連中のもとへ飛んでいく。
彼らは何を思ったのか入れ歯を景品に組み込んで大喜びしていた。
1人が景品……ミミックロボットに噛じられてしまったので慌てて向かう。
ミミックロボに在庫のスライムを流し込んで救出する。
ミミックは何処かへ逃げていった。
4人組の彼らは、お礼にと黒いノートを渡してくる。
ゲーセンで遊ぶ前に拾ったとかで、水を生み出すノートらしい。その中身は黒歴史がたくさん書き込まれていた。
「みーたーなー。我が経典を返せ!!」
全身真っ黒タイツの男に追いかけられる。
「さっきからこの街、カオスすぎやしませんか!?」
缶詰を解き放って黒タイツ男を拘束しながら愚痴るアケミ。
しかしそのカオスの一旦は間違いなく彼女自身であろう。
「うう、すみません。もう消えますんでノートだけ返して下さい。」
「はいどーぞ。まぁ誰だって黒歴史ノートは見られたくないわよね。」
そのまま進むと何故か、5人ほどの大道芸人達が芸を披露していた。彼らは幻想生物変身教の依頼で陽動を仕掛けた者たちだ。
だがアケミはそんな事はしらない。
通路を抜けようとするが、邪魔なので声をかける。
「邪魔なんでちょっとどいて下さいー!」
「そうは言ってもいま稼ぎ中なんだ。ちょっと調子乗ってたらお捻りたくさん貰えちゃってさ。しかももうホールに戻れなくなって――」
「ホールに戻れない?あなた達テロリストですか!?」
「しまった!小腹が空いて欲に目がくらんだのがバレてしまう!」
「逃しませんよ、テロリストめ!お腹が空いたなら、私が皆さんの胃袋を治療してあげるわ!」
「くそ、こうなりゃ全力だ!みんな偽装を解け!」
リーダーらしき人物が号令を掛けると全員の身体が割れて、中身が出てくる。まるで蛇の脱皮のようだ。
「これは1年前のアオダイショウ!?」
そう、彼らは去年のハチミツ事件の生き残りであった。
アケミは村の拠点に居て参戦してこそいないが、資料を見たことはある。
山ごと消えた事件ではあったが幾ばくかの生き残りは異界に行かず、野に降りて生活していたのだ。
この事は彼らが所属しているサークルメンバーも知らない事だった。
「山から降りて人間に紛れていたなんて!ならたっぷりレーションをご馳走して山へ帰ってもらいましょう!」
アケミは新たに缶詰を開けて在庫をぶち撒ける。
料理スライム達は見る間に増殖してショウシリーズに襲いかかる。
「ぐああああ、なんだこのスライムは!?」
「触れると体調が悪くなる!無事なやつは突っ込め!」
アケミは距離を詰められ身体中に噛みつかれる。
本来ならこれで決着が着くダメージではあるが、アケミは只者ではない。
「これがアケミ流応急手当ッ!こんなモノ効かないわ!」
チカラの込もった絆創膏で自身を癒やしながら、包帯男や半裸男達にむかって平手打ちを敢行する。
「こんなものが我々に効くとでも――」
「「「ぎゃーーー!!」」」
平手を受けた身体が、内部から変質して身動きが取れなくなるショウシリーズ。アケミのチカラが発動してしまったのだろう。
「くっ、ここまでか!? 山から降りて1年と少し。いい夢みたぜ……」
「トドメのレーションを喰らえーー!!」
「「「ギャーー!悪夢だーー!!」」」
「お粗末さまでした!!」
無情にも回想シーンをナイトメアに変えたアケミは、満足そうに先に進むのであった。
「あ、さっきの人かな。」
目の前にはキョロキョロとあたりを見回す挙動不審な女性が居た。
「この路地にも居ないか。ここいら辺りだと思うんだけどなぁ。思念が混濁していて携帯も繋がらないし……もう少し東を見てみるか。」
そのまま去っていく桃色髪の女性。携帯も使えなくて困っているようだ。
「お店って言ってたし、彼女もお腹空いているのかな?」
それなら先程合流しておけばもっと楽に進めた気がするが、後の祭りである。ともかくゴハン屋さんを探さねば。
先に進むと何故か道の真ん中にロードローラーが置いてある。
「何故唐突にロードローラーがあるんだろう?」
先を行くサクラも同じ疑問を持ってチカラで調べた所、
どうやら道の整備中に事件が起きたせいで動かせなくなったようだ。
それほどまでに周囲は報道陣と野次馬にあふれている。
そんなことは知らないアケミはスルーして先に進む。
それから10分ほど歩いて繁華街の外れに出る。
ここはもう民家ばかりで店の気配はない。しょんぼりしながら歩いていると、見覚えのある屋台が見えた。
「あ、あの店は!?間違いないわ、水星屋ね!都市伝説と言われた店にもう1度出会えるなんてステキ!」
意気揚々と駆け寄り、外観を記念撮影しながら店に入るアケミだった。
…………
「いらっしゃいませ!水星屋へようこそ!」
「良く来たわね!欲深き冒険者よ!この漆黒のキリコ・ジ・アンリミテッド・ギャングスターが今宵のお主を導いてやろうではないか!」
(そうよこれこれ、この口上が逆にイイのよ!)
「まずはそこな横たわる竜のアギトに白銀の供物を捧げるが良い!」
「はーい、まずは券売機で食券ですよね~。」
券売機に向かうアケミは嬉しそうだ。
(やっぱ安いわね。このおすすめのセットとノンアルビールにしましょう。)
お金を入れて食券を買う。すると店員が寄って来て手をのばす。
「深淵への通行手形を手に入れたなら、門番であるこの私に――ってアケミちゃん!?また来てくれたの!?」
「はい、アケミですよ~。キリコちゃんも相変わらずね♪」
「来てくれてありがとー!ウチはリピーターは少ないからね、大歓迎!」
そのまま食券を受け取り、以前と変わらぬマスターにオーダーを発注する。
「テンチョー!オススメセットとノンアルビールでーす!」
「はい、承りました!」
アケミが席につくと同時にすべての料理がカウンターに並ぶ。相変わらず驚きの早さである。
「キリコ、オレのことはマスターとよべ。あと人様のネタをパクってまで厨二接客する必要あるか?数年後、絶対後悔するからなー。」
今日のキリコの名乗りは動画サイトで知り得たものであった。しかも3年ほど”未来”の情報であり、あまり感心できない所業だ。
そんなことはアケミには関係なく、ようやくありつけた夕飯に飛びつく。
「では、いただきまーーっす!くぅぅうう、一汗かいた後のイッパイはたまりませんなぁ。」
「ふふっ、また会ったね。」
その時隣りに座っていた女性に声をかけられるサクラ。
「あ、さっきの!この店を探していたんですね。だったらご一緒すれば良かったわ。」
「ええ、そうよ。というか私のこと覚えてないかしら。2年近く前に1度、池袋で営業中にココで会ってるんだけど。」
その言葉にサクラが固まる。
二年前……池袋……ソロで遊んでキリコちゃんに抱きついて。
テキーラを一緒に飲んだ女性がいて――。
(思い……だした……)
「うわあああ、今思い出しました。あの時はお聞き苦しい話をすみません!」
「いいじゃない?青春を満喫してて。」
(もっちゃん、余裕ぶってるなぁ。)
『そっとしておきなさい。やっとオトナぶれるようになったのだから。』
以前のサクラなら一緒にお馬鹿な話題にシフトする所だが、
今の彼女はオトナの余裕を見せて軽く返す。
その裏では店員達のテレパシーが飛び交っている。
「私はサクラ。さくらもちの名で記者をしてるわ。改めてよろしくね。」
サクラは今は記者を廃業して探偵をやっている。しかし探偵と聞くと大抵の人は身構えるので、普段は記者で通していた。
今も水星屋のまとめサイトは更新しているし、あながち間違いでもない。身構えられるという点では50歩100歩な職の気もがしなくもないけども。
「よろしくおねがいします!私は――」
「アケミちゃんでしょう?政府極秘の特殊部隊所属の。」
「はうぅ。さっき見られてましたもんね。それ、秘密にしてください。」
「秘密の特殊部隊!? なにそれ格好いい!!コードネームとかあるの?」
「こらキリコ、あまりはしゃぐなよ。お客さんが困るだろう。」
格好いい肩書に食いつくキリコだったが、別の意味でマスターも興味を示していた。
もうマナー違反がどうとか言わずに心を読みに掛かっている。
(前回言ってた結婚している格好いい男って、トキタさんじゃん!)
この瞬間自分が何をしたのか理解したマスターは、時間を止めて頭を抱える。
店員属性の付与されているキリコは一緒に動けるので、いきなり悶えるマスターを不審者を見る目で視線を送ってくる。
「テンチョー。なんかあったの?私の胸で泣く?」
「それはいらな……あとでな。」
「やっぱテンチョー変態じゃん!」
「マスターとよべ!」
「そこは変態を否定してよ!」
そんなこんなで落ち着いてから時間を動かす。
「とはいえ医務室勤務だから裏方なんですよ。仕事も雑用も多いですし。」
「それでも大したものじゃないか。部隊は全部揃ってこそ上手く回るものだ。サポートがしっかりしてないと前衛が本領発揮をできないからね。アケミさんは誇りに思っていいと思うよ。」
「ありがとうマスター。なんだか不思議。ケーイチさんみたいな事を言うのね。」
医務室勤務もそうだが、ケーイチの名前を出してしまった。ついつい気が緩んでしまったのだろうか。
キリコとサクラはその名前を聞いて顔を引きつらせている。
2人とも1度遭遇して色々読み取った事があるので動揺がみえる。1人前の店員のフリとか、大人の余裕というカワが半分剥がれていた。
「あぁ、例の彼かい? あれから上手くやっていけてるのかな?」
「お陰様で進展はしないけど、毎日楽しく過ごせてるわ。奥さんにバレたときは生きた心地がしなかったけど。」
(うっそ、あの人にバレて生きてるって何者!?)
(アケミちゃん大物ね。)
(あのトモミが浮気を許す!?どんな状況だよそれ!)
「ヨカッタネ、アケミチャン!」
調整前のシオン達より酷い棒読みでキリコが相槌を打つ。
だがそれが今の精一杯だった。
…………
「もっちゃんは冒険の記録を雷雲の大海原に格納し、それを除く者に畏怖の念を植え付けているのだ!」
※まとめサイトの話である。
「何処に闇と時の門が開かれようとも、探索し挑戦しに来てくれるのだ!この愚かなる人間界の中では屈指の挑戦回数ね!」
※サクラのリピート率の話である。
適度な雑談をはさみながら食事が進む。
今日のおすすめは和食を取り揃えており、〆にラーメンが出る。
やっぱり赤字経営だが、マスターの好物を広める為には仕方がない。
「へー、スカースカの記者さんだったのですね。私も読んでました!」
「読者さんがこんな所に居たか。あの時監査が入らなければなぁ。」
「でも記者さんなら、なんでこの店で活動されてるのですか?政府広報や、今日なら市民ホールに行った方が良い気がしますけど。」
「曰く付きのこの店ならそれっぽい連中も情報も集まるのよ。政府はプロパガンダばかりだけど、ここなら生の情報が手に入るの。」
アケミは店内を見る。ガラガラである。とても苦しい言い訳だ。
「ふ~ん?」
「今日はたまたまよ。近くで事件が起きてるし。」
だからこそ、何でこの店でくつろいでるのかを聞かれているのだが。サクラはあたふたしている。
「それにマスターがキチンと営業告知をすれば、もっと人が来るのに!」
「でも昼間は別の仕事してるし、普段の夜は固定営業だし。」
「んん、どういうことです?」
「ウチは良い所のお屋敷に雇われててね。そっちが休みの時だけこうやって世間様で営業してるってわけさ。」
「都市伝説の裏側を知ってしまった!何かイケナイコトした気分です。」
「ウワサとか都市伝説なんて大体こんなもんよ。私からしたら現実の方が摩訶不思議よ。」
事実は小説より奇なり。チカラが横行している現代では特に顕著だ。
「それに刮目しなさい!この私の漆黒の法衣だってその悪魔の屋敷から賜われた至高の逸品なのよ!」
「確かに気品のあるデザインね。よく似合ってるわよ!」
割と際どいセリフだったが、先の厨二発言連発が功を奏している。キリコはそれを計算して下手な嘘を吐かないようにしてるのだ。
爆弾魔と言われた彼女なりの努力の成果である。
「えへへー、ありがとうございます!」
『今のは上手いな。よくやった。それにしてもかわいい。』
『マスター!急になんですか、もう!』
思わずかわいい発言までテレパシーをしてしまったマスター。赤くなるキリコがかわいいので放っておく。
「都市伝説で思い出したのだが、さっき街中で――」
「それについては黙秘します!!」
アケミは料理スライムについては知られるわけにはいかない。いやもう半分以上バレているが。
どっちにしろあの話題はこの店では禁止令が出されているので、詳しくは出来ない。
そんなこんなで楽しい食事時間を過ごしたアケミ。
また会いたいが、機密の都合で連絡先を交換することは出来ない。
「マスター、ラーメン美味しかったよー!」
「ありがとうございます!」
「さてそろそろ戻らないと。」
一抹の寂しさを感じつつも身支度を整える。
「ええええ、もう行っちゃうのー?もっとお話したかったなぁ。」
「ええ、私もよ。でもこれからお仕事があるからね。」
「またいつかココで、魔王談義と洒落込もうじゃないか。」
「身体に気をつけて下さいね。また見かけたら寄ってくれると嬉しいよ。」
「征くのか、欲深き冒険者よ!何時の旅路の果てに、祝福と安息があらんことを……また来てね、アケミちゃん。」
「はい、皆さんもお元気で!ごちそうさまでしたーー!!」
再会の言葉は控えて元気に退店するアケミ。この後は恐らく突入があり、怪我人の治療に当たるのだろう。
「行っちゃった……」
「いい子だったな。一途だが視野が狭くなっていない。鋭い面もある。」
鋭いと言うかサクラの言い訳がポンコツだっただけだ。
「うーん……今日の営業場所、社長から提案されたんだけどさ。なんとなく意図が見え始めたなぁ。」
「あの年齢不詳の女性か。マスターが本業に口を出させるとは珍しいな。」
「でもでも!おかげでアケミちゃんに会えたのは嬉しかったよ!」
「そうだな。楽しかったしな。」
そのまま雑談に入るいつもの休日出勤メンバー。
嫌な予感がするマスターはサクラを早めに転移させる事を決心していた。
…………
「戻った記録もツケておかないとね。」
ルンルン気分で救命テントに戻ると、書類に記入を始めるアケミ。備考欄に水星屋のラーメンが美味しい!と書くくらいには浮かれていた。
「ああー!アケミさんまた水星屋に遭遇したんですか!?ズルいです!私も行けばよかったーーー!!」
当然メグミの目に止まって問い詰められることになる。
「その話は後よ、怪我人に備えなくちゃ。ほらほらお化粧直して!」
「ううー。後で詳しく聞かせてくださいよ?」
アケミが本部に戻って程なく、占拠された市民ホールへの突入作戦が開始されたのだった。
お読み頂きありがとうございます。
ゲーム版のこの場面、気に入って何度も遊んでました。アケミ、めちゃくちゃなんですもの。