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45 オバケ

 


「はーい、政府公認の特殊災害育児施設の受付はコチラでーす!」

(これで実験材料ががっぽり。政府からも資金がっぽり!)


「勝手に人様の子供を回収するな!」


 慈善団体の皮を被った研究者団体が壊滅する。

 子供達は返却し、元凶を排除して残った予算も回収する。



「魔王様は仰れれた!我に贄を捧げよと!さすれば世界は見逃し――」

(宗教で金を吸い上げてやるぞー!)


「言ってないよ。お前が生贄になってくれ。」


 豪華な市民ホールを使用中の宗教団体が壊滅する。集めた資金は回収する。




「魔王の子供を排除せよ!悪魔の子がやがて世界を闇に――」


「お前のほうがよっぽど悪魔だよ。」


 広場で演説していた謎の団体が壊滅する。

 大元も潰して賛同者の資金をごっそり回収する。



「まったく、みんな魔王ネタで金儲け企み過ぎだろう。」



 2009年4月1日。

 仕事を片付けたマスターは、社長に報告を終えると魔王邸に帰宅する。

 今年になってから人間社会は余裕を取り戻しつつあるのか、魔王ネタで1山当てようとする輩が続出していた。


 金儲けだけならまだマシな方だ。子供向けの商品は飛ぶように売れているし、ちょっとした特需であることは認めている。


 しかし魔王の言葉を騙った胡散臭い宗教団体や、政府の息のかかった組織の子供の回収などは認められない。


 魔王事件で生まれた子供を回収するということは、実験材料にして現代の魔王に対抗できる者を作ろうという事だろう。


「絶対イタチごっこだけど、潰さないわけにも行かないしなぁ。」


 認知はしていないが自分の仕事で誕生した命だ。

 政府の都合でモルモットの人生を歩ませるのは忍びない。


「お疲れさまです、あなた。社長さんはなんて?」


「ありがとう。色々仕掛けてるからそのうち収まると聞いてる。だが範囲が世界中っていうのは気が重くなるよ。」


 最近は毎日のように世界中を飛び回って火消し作業をしている。これもまた自業自得であるため仕方がない。



 社長から受け取った報酬を妻に渡して、カナが淹れてくれた

 アイスティーを飲む。


「ふー、やっと一息つけたな。えっと次の予定は……」


「旦那様、次は孤児院のスタッフと顔合わせにございます。」


「ああ、ありがとう。NTからの出向なら期待できるな。」


「あははー、それほどでも~。」


 NTグループから移籍した経緯を持つカナが照れる。実際彼女は有能だ。束の間のティータイムを楽しむと、第3区画の孤児院へ移動する。



「おまたせ、クマリ院長。」


「おかえりなさいませ旦那様。時間ぴったりですわ。」


 広い院長室にある高級ホテルへ直通のドアから入ると、既にクマリとスタッフ達が待機していた。


 スタッフは男5人・女3人の8人だ。最初は子供も少ないし、規模的にこのくらいから始めるのが良いという意見をもらったのだ。


 孤児院は2階建てで1階には教室や食堂、多目的室と浴場がある。2階の端に院長室があり、同フロアにスタッフの個室も用意されている。


 離れには子供達用の宿舎があり、4人部屋が1ダース用意されている。


 外にはサッカーコートが2つは入りそうな庭があり、本館に隣接するように倉庫も各種建てられている。


 そしてこの孤児院エリアだけ、マスター以外の男も入れる。

 引き取った孤児には男の子もいるし、子供を育てる以上は男手は必要だからだ。



「初めまして、孤児院のオーナーの○○○○・○○○と言います。みなさんには今日から住み込みで働いてもらうことになります。まだ子供も少ないので、少しずつ慣れていって下さい。」


 最後に「よろしくおねがいします」としめると、反応を伺う。


「「「うわああああ、会長に騙されたああああ!!」」」


「「「いやあああああ、まだ死にたくない、産みたくない!!」」」


「「マジかよ!こんなモブ顔なのに!」」


 当然のごとく叫び声を挙げてパニックに陥るスタッフ達。

 多少名前が被る程度の者達はそれなりに居るが、同姓同名となるとほぼ疑いようがない。マスターの名前はありふれた物では無いからだ。



「旦那様、全員クビにしましょう。物理的に。」

「それは決断が早すぎるだろう。」


「お母さん!私はもう生きて会えそうに有りません!!」


「きっと会えるから、みなさん落ち着いて下さい。」


未来を諦めた女性スタッフをフォローしようと一歩近づくマスター。


「「「ぎゃああああ、こっちにくるなああああ!!」」」


「「「ドアが開かない!!もうだめだああああ!!」」」


「旦那様、いかがします?」

「丁度いい、アレを試してみよう。」


 右腕に黒いチカラを纏い、怯えるスタッフ達の頭へ照準をセットする。射出する内容をチカラに込めて即座に発射した。


「G・M・拳!」


 バシュン!!


 全員の頭にレーザーのような黒い何かが貫通して脳内に情報を送り届ける。



「「「取り乱して申し訳有りません、オーナー。」」」



 パニックになっていたスタッフ達が正気に戻って立ち上がり、こちらへ頭を下げる。2人ほど頭痛が出たのか頭を抑えている。


 だがその様子には怯えなどなく、まるでクマリ達がマスターを相手にしたかのような態度で接してくる。


「うん、成功かな。よろしく頼むよ。」


「旦那様、ありがとうございます。ですが何をされたのですか?」


「オレの情報を正しく認識してもらっただけだよ。」


「旦那様は洗脳を好まないと聞きましたが。」


「洗脳じゃなくてただの認識。今は別に危険はないよと教えただけさ。元は凶悪な幻覚を見せる、それこそ洗脳っぽい技なんだけどね。」


「なるほどわかりました。重ね重ねありがとうございます。」


 実はクマリはよく解っていなかった。傍目から見たら洗脳と変わらない。だが彼が問題がないと言うなら問題ない、と仕事をすすめる。



「見ての通り、オーナーは世間で知られているより寛大な御方です。とはいえ失礼のないようにお願いしますね。」


「本来ならこれから研修、って言いたいが既に子供は入居している。なので先程のチカラにここでのルールや仕事内容を詰め込んでおいた。それに沿って子供達の事を考えながら仕事に励んで欲しい。」



「「「本当だ、頭の中に仕事が浮かんでくる!!」」」


「「「施設の内容も全部わかるわ!!」」」


「……私の出番はなさそうですね。」

「しょ、書類の確認と判子押しが……ごめんクマリ、やりすぎた。」



 クマリは格好良く案内して回るという威厳あふれる院長のお仕事を取られてしまう。

 思いの外しょんぼりしたクマリに素直に謝るマスター。



 彼が施した技は黒いチカラであることから「精神干渉」である。G・M・拳。本来は彼が言ったように凶悪な幻覚を見せる技だ。元ネタは人気漫画セメントせいやっ!の敵が使うものである。


 だがそのままだと相手が廃人になるだけなので細工をしてある。幻覚を見せるのではなく、情報を纏めた弾を撃ち出したのだ。


 これまでも他人に精神力を通して、バリア等を発生させて

 きたマスター。その内容をお仕事の情報にしただけである。


 ちなみにいつもは技名の頭文字をアルファベット1文字使うが、今回は2文字使う。理由は、Mがマオウの略だからだ。時々厨二的なノリが見えるマスターだが、なるべくその単語は使いたくなかったようである。


「それでは皆さん、早速お仕事に取り掛かって下さい。相手は戦災孤児ですので優しくしてあげてくださいね。この施設内なら全て日本語に変換されるのでご安心下さい。」



「「「解りました!すぐに取り掛かります!!」」」



 6人が元気よく応えて職場に向かい、残る2人も慌てて後に続く。


「ともかくこれで、孤児院のほうは形になるな。」


「はい。ご期待に添えるよう、微力を尽くしますわ。」



 …………



 その夜、2人の男が院長室に入ってきた。スタッフの中の2人だ。机に向かい書類仕事をしていたクマリは、当然要件を尋ねる。


「院長、ちょっとオレたちと付き合ってくれませんかね。」

「男女の交流を深めましょうよ。」


「結構です。私はお付き合いしている方がいらっしゃいますので。」


「あのモブ顔魔王のことか?あんなの噂に尾ひれが付いただけだろう。」

「それによぉ、オレたちが通報したらどうなると思う?だから、な?」


 この施設では地球との連絡は取れないが、スタッフ達のメンタルケアと資材搬入を兼ねて街に出られるようにしてある。


 つまり通報しようと思えばできるのだ。これはトウカも危惧していた。だがマスターのチカラにより、強制力が働き不可能なはずだった。


 ならば何故。


「あなた方はあの方に逆らうのですか?NTを代表して来ているあなた方が問題を起こせばどうなるかは――」


「逆に会長を脅す事も出来るぞ?だが今はオレ達と院長の話だ。」

「状況はもうわかってるんだろ?ならこっちに来いよ。」


 トウカ会長の紹介でここに来たのだ。

 現代の魔王とNTグループが繋がっている証拠である。


 そのネタを盾にクマリの腕を掴んで連れて行こうとする2人。

 当然セクシャルガードの第4層によりバリアが発動、男の手は弾かれる。


「ぐあっ、なんだ!?静電気?」

「てめえ、素直にこっちに来いよ!」


 バシン! と、再度バリアにより弾かれて喧嘩腰になる2人。

 だが何度襲いかかってもバシン!バシン!と弾かれる。


「ちっ、覚えておけよ!ただでは済まさねえからな!」

「お、おい!ドアが開かねえぞ!」


 分が悪いと悟った2人だが逃げようにも廊下側のドアが開かない。


「もしもし、旦那様?スタッフの男2人が――」


「てめえ、何チクってるんだ!!」

「大人しくオレたちに――」



 それが彼らが人権を持っていた頃の最後の言葉となった。


 既にこの場所に2人は居ない。時間を停止して排除されたのだ。悪魔屋敷の地下に繋がれ、尋問の後に悪魔達の食卓に並ぶであろう。


「クマリ、大丈夫だったか?」


「旦那様、私を囮にするならヒトコト言ってほしかったです。」


「囮?そうか、君からはそう見えるのか。悪いがそれは誤解だ。あの者達の暴走は予定外だった。」


「旦那様のチカラを受けてなお、反抗的だった理由が気になりますね。」


「それはこの後調べるとして、セクシャルガードの改良も必要だな。」


「そうですね。バリアは面白いくらいにあの方々を弾いてましたが、できればその時点での自動通報が可能だと助かります。」


「そうしておく。クマリ、面倒をかけて済まなかった。今日は終えてオレの所で休むといい。」


 オレの所、つまりそれは高級ホテルのクマリの自室でなく……。


「そ、それで今日の所は許してあ、あげ……差し上げます!」


「クフッ いつも冷静なクマリが顔真っ赤だな。」

『良い物見れたわね。クマリちゃん、待ってるわー!』


「も、もう旦那様に奥様も!!罰として抱っこも所望します!」


 割と平和な着地点に落とすことが出来てマスターはホッとしていた。



 翌日スタッフが2人も消えてるのに何事もなく仕事をすすめるクマリ。むしろ昨日よりも機嫌がよく、愛想もいい。


 他の6人は改めてこの施設はヤバイと認識し、怪談としてアレンジする。


 その怪談は、子供達に言い聞かせるのに大いに役立つの事になる。


 古今東西、たとえ異次元宇宙の孤児院でもオバケネタは鉄板であった。



 …………



「トウカ様、おはようございます。」


「おはよう、スイカ。今日もいい日差しね。」



 4月2日。朝の日差しを受けながら朝食を摂り、紅茶を美味しく頂くNTグループ会長のコンドウ・トウカ。


「愛しのマスターからお電話が入っておりまして――」


「あら、有能な人材を送ったお礼かしら。もしかしてあのお店で色々サービスしてくれたり!?」


「その妄想は同意しますが違います。送ったスタッフの2名が反逆を企てたというクレームです。」



「フハッ!!」



 朝の日差しが窓から入っており、綺麗な虹が出現した。


「ケホッ コホッ。本当に!? なにかの間違いでしょう!?」


 ポタポタと虹の原料を垂らしながらも、やはり濁点がつくような咳き込み方はしない。さすがは優雅さに定評のある若手会長である。


「タオルをどうぞ。それでなるべく早く取り次いでくれとの事です。」


「ありがとう。……お電話かわりました。トウカです。」


 こうなることを予見して用意されていたタオルで拭きながら電話に出る。マスターの調べによると会長の敵対派閥の差し金であることが解った。


 捕まった不届き者は頭に対マインド制御用の手術を施されてあり、チカラの効きが悪かったのもそのせいらしい。

 今はもう対策済みとのことで、どんな者が来ても対応できると伝えられた。


 今回の事は大きな借りとなるだろう。

 敵対派閥からすればただの情報収集だったのだろう。


 しかしコトが明るみに出ると下手をすればNTは消え、日本経済に大打撃を与える可能性もあった。


 マスターはオオゴトにするつもりは無さそうなのが救いだが、敵対派閥についてはなんとかせねば危ういだろう。

 ただでさえ2年後には災害がくるのだ。


 朝の日差しで現実逃避を数秒すると、

 今日も予定通りに出勤するトウカであった。



 …………



「うわ、またずいぶんと気合の入った変態が出たな。」


「こういう人達って何がこうさせるのかしらね。」



 2009年6月5日夜。仕事を終えて帰宅したケーイチは

 妻のトモミとテレビを見ながら晩酌の最中であった。


 その時ニュース速報で警視庁を襲撃して捕まった、

 モロダシ元公安警察官のニュースが流れたのだ。


「こいつなら変態ランキングで上位を狙えるんじゃないか?」


「トップは○○ちゃんで揺るがないでしょうけどね。」


 上半身は裸ネクタイ、下半身は女性用下着とスケート靴。

 クスリをキメて銃火器で警視庁を襲撃、捕まったらモリっと粗相する。

 中々の逸材だろう。


「まぁオレたちには関係ないが、自分の身を晒してコトを起こしたところだけは評価できるな。」


「○○ちゃんもこれくらい分かりやすければねぇ。」


 さすがのマスターもこの変態ルックは御免被りたい所だろう。こんな格好をして事件を起こしたら味方が居なくなるどころか、娘に泣かれそうで考えただけでも怖ろしい所業だ。


 ケーイチとトモミは他人事で話しているが、コレが1番魔王の真相に迫れるネタであることに気がついていない。


 後日ミキモト教授により化物に変えられ子供達の射撃の的になるが、それでも誰も気が付かない。


 こうして変態ランキングに載った事以外は、人知れず消えていくモロダシ・シズサであった。



 …………



「おやサクラ、こんばんは。今日はどうしたんだ?

 モロダシなら予定通り無事に捕まったと聞いたけど。」


「もっちゃん、こんばんはー!」



 同じ6月5日の夜。

 悪魔屋敷の中庭で水星屋の営業中にサクラから連絡が入った。


 一気に注文の品を提供し、時間を作るキリコとマスター。

 3Dホロで姿を表示すると、店内から歓声が上がる。彼女は割と人気なのだ。


「2人とも仕事中にすまない。あいつの件はこっちでも確認している。だがそっちではなくて、実は街づくりの方で問題が出たんだ。」


「例の仕入れの嫌がらせの件ですか?新ルートも潰されました?」

「物がたりないなら私がラビット便で届けるよ!!」


「いやそうではなくて、全面的に嫌がらせを受けているんだ。」


 4月以降、こちら側の仕入れルートを町の大御所達に潰されていた。マスターの手配によりそれは難を逃れたが、今度は営業妨害らしい。


「思念でデータを送ってくれ。うんうん、わかった。だが何でここまで露骨にやるようになったんだ?」


 定番の生物の死体やゴミでの妨害・クレーマーなら可愛いもので、商品の委託販売の中止や悪評のバラマキ・人間関係でのいじめ等、どの業種でも妨害を受けていた。


「ここまでやるということは元から準備はされていたのだろうが、キッカケは私の甥っ子らしい。学校で権力者の子供とモメたとか。」


「子供のケンカで親が出るだけでなく、町ぐるみで攻撃ですか。」

「その子供達って何でモメたのか分かる?」


「それが……オバケを見た・見ないの言い争いだそうだ。甥っ子は学校で何かを見たらしいが、それを笑い者にした子供と喧嘩になって現状に至ったようです。」



「「「ガタッ!!!」」」



 客席の一同が勢いよく立ち上がり、サクラの映像に注目する。


(あ、これはアカンパターンかもしれない。)

(みんなの心に火種が灯る!これはお祭りの予感!)


「甥っ子は不登校になり、こちらの勢力は削がれる一方。このままではマズイと思い、連絡した次第です。」



 ざわ……。



「わかりました。早急に対策を施します。なーに、先制攻撃をされたならこちらは得意のカウンターですよ。」


「私の暗殺術を見せてあげるわ!大船に乗って待っててね!」


「2人にそう言ってもらえるととても心強いよ。頼りにしてるわ、マスター。それにキリコちゃんも。」


 そのまま通信が途切れる。直前のサクラは心底安心した顔をしており、完全にこちらを信頼しているのだろう。もちろん期待には応える。


 だがその前の心を痛めた表情も見てしまったのだ。

 それによりマスター達より盛り上がっている連中が居た。



「「「良いかお前らー!サクラの姐さんを助けるぞ!!」」」


「「「仲間達にも声を掛けるんだ!徹底的にやるぞ!!」」」


「「「オレ達化物を笑い者にした奴らに制裁を下せ!!」」」



「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!」」」



 ちなみに現在のお客さんの人数は32名である。

 これで仲間に声をかけたらリアル百鬼夜行は確実だろう。


「まぁ、何かあったら手伝うって言ってたし良いか。」


「マスター、私にも出番を作ってくださいね!」


 どうやら町の権力者達は余所者に喧嘩を売ったつもりだが、相手は魑魅魍魎だと気がつくまでにそう時間はかからなそうだ。



 …………



「ふん、毎度毎度苦情だけは1人前だな。」



 6月8日。某県某町の役場で、町長は苦情の書類を仕分けしていた。一枚一枚しっかりと確認し、それがこの町の新勢力のものなら廃棄。

 仲間のものなら大げさに取り上げて対処する。


 廃棄書類は秘書がちまちまとシュレッダーにかけている。


 本来町長がここまで地味な仕事をするかは謎であるが、

 去年からこの町に現れた勢力に対抗するには地道な作業も必要となる。



「だいぶ締め付けたと思ったが、存外しぶといな。やつらのオーナーはそれほどの資産家なのか?」


「正体はわかりませんが、やり手なのは間違いないでしょう。」


 去年の夏、大規模な引っ越しで町民が200人程増えた。

 彼らは多くの土地や建物を纏めて買い上げ、生活や商売に利用している。買収に歯止めをかけようにも、何故か書類が通ってしまうのだ。


 調べてみると彼らの裏には1人のオーナーの男がいることがわかった。正体は謎だが彼らからは慕われているようだ。


 このままでは良くないと考え、元々の町の権力者達と連携して彼らに対抗することになった。反社組織にも借りを作ったが仕方がない。


 仕入れルートを潰しただけでは堪えなかったようだが、

 古来からの定番の営業妨害の連発によって最近は静かになった。


 彼らと仲間の子供が喧嘩をしたせいか、親達も本気で協力してくれている。


 少々気になるのが探偵事務所の連中が町を嗅ぎ回っていることだ。チンピラ等をけしかけて、その都度追い払ってはいるが気分は良くない。社長は美人の女らしいから近々捕まえて愛人にでもしてしまおうか。


「このゴミや死骸を放られたという苦情、これで衛生面に難癖つけて完全に潰すのも有りだな。農業の方も同じく査察でも入れて権利ごと取り上げてしまえ。」


「町長、今日はかなりの職員が出てきておりません。大きい仕事の指示は後日に回したほうが良いかと思われます。」


「む?何か有ったのか?」


「全員、子供達の調子が良くないので病院に付き添うそうです。」


「休んだ者全員が同じ理由?ちょっと調べておけ。」


「かしこまりました。では失礼します。」



 秘書が居なくなったので、もそもそと自分で書類をシュレッダーに掛ける町長であった。



 …………



「よしよし、まずは順調だな。まだ騒ぎにもなってない。」


『マスター、手緩いわ。もっとガッツリ全滅させる勢いで

 行きましょう。』


「全滅させちゃ駄目だろう。」



 同日、役場にステルスモードで潜り込んだマスター。

 サポート室のキリコと一緒に昨晩の成果を確認している。



 昨晩は件の子供達とその仲間たちを夜の学校へ招待した。

 全員寝ている間に校内各所へ配置して目を覚まさせる。


 学校内には友情出演の化物達が息を潜めており、彷徨い出した子供達を”本気で”脅しに掛かった。



 悲鳴を上げ逃げ惑う子供達。逃げようにも窓も出入り口も開かない。マスターの結界により学校が異界化されているのだ。

 外の時間も止めてあるので、ただの子供達ではどうしようもない。これは夢だと思いたいが、泣きながら転んだ時の痛みは本物だ。


 やがて牛や山羊などの化物に捕まり身体が引きちぎられる。怪しい女に臓物を抉り出されて食われる。蝙蝠にタカられ気がつけば吸血鬼が首筋から血を吸い上げている。


 命を終えた者は断末魔の叫びとともに身体が消えていく。


 が、別に本当に死んだりはしていない。そう見えるだけである。そう見えれば近くの者達が更に怯えて逃げ惑うからだ。


 コトが終わって静かになると、時間を巻き戻して初期位置を変更し再び催しを開始する。次は和風ホラーで攻めることにしてある。


 子供達は事ある度に想像させる怖さを味わってもらう。

 よく響く物音、誰も居ないのに影に何か居る可能性の想像。


 さらにカナの着物を着たキリコが演出用のオーラを纏った状態で赤黒い液体の滴る包丁を振りながらゆっくり迫る。


 時折凶悪な悲鳴が聞こえて子供達が昏倒するが、これは以前録音したキリコの悲鳴.wavファイルを耳元で再生した為だ。



 次の回は再び化物パレードだ。

 この百鬼夜行ループは全員が叫ぶ気力もないほど静かになるまで続いた。こうして学校の7不思議どころか108不思議を味わった子供達。


 1人ずつ幻覚で済ませれば楽だったのだが、リアリティに拘った面々のせいでやられた方は堪らない。


 このトラウマがあれば怪談話で相手をバカにすることもないだろう。


 朝には全員自宅に戻して、枕元にオカルトっぽい痕跡を少しだけ残しておく。


 半狂乱・恐慌状態になった子供達は親に付き添われて病院に運ばれた。



「大人達からしたら怖い夢をみたのだろうと片付けるだろうからね。」


『痛みは本物でも外傷は残ってないしね。それで次はどうするの?』


「次は大人達だ。嫌がらせの実行犯から追い詰めて、ゆくゆくは権力者達を全員同じ目に合わせよう。10世帯くらいずつやっていくか。」


『マスターってホントえぐいわよね。子供でも容赦ないし。』


「今回は大人達が悪乗りして叱らなかったからね。その代わりだよ。もちろん大人達もやらかした代償を受けてもらうけど。」


『こっちも悪ノリしてるのが居るけどね。あと悲鳴ファイル消して!』


「あの悲鳴、ガチだらか結構好評なんだけど……」


「他の男に私の本気の声を聞かれるのは嫌なの!」


「わかった、別のものを使うよ。良い悲鳴は今回手に入ったし。」



 それから2週間、連日この町は悪夢を見ることになる。正確には悪夢を演出したガチの百鬼夜行との鬼ごっこであるが、この際置いておく。


 更にマスターのリピート機能を応用して、これまでの被害者達に毎晩本当に悪夢を見せておいた。


 当然権力者やその仲間たちは”仕事”にならず、この後徐々にコジマ家率いる勢力が町の実権を掻っ攫う形になる。


 その資金は当然、マスターが相手から損害賠償と称して頂いた財産だ。


 2009年夏。

 この町は1つの転機を迎え、魔王の軍勢に征服されようとしていた。



 …………



「マスター!いくら何でもやりすぎですよ!!」


「いらっしゃい、サクラ。水星屋へようこそ!」


「もっちゃん、ようこそー!」


 6月20日夜。水星屋に現れたサクラは大喜びで興奮していた。怒っているように見えるが、そういう事にしておく。


「確かに私が頼みましたよ?具体案も無く何とかしてくれと!でも関係者一同、精神病院送りにする必要がありました!?」


「もちろんあるさ。相手のスキを突いて損害賠償で資金を調達し、権力も手に入れやすくなる。アレなら逆らう気も起きないだろう。」


「ええ、そうでしょうとも。そう聞くと良い事づく目でしょうね!でも人間には倫理ってものがあるとおもうんだ!」


「敵に優しいね、今日のサクラは。でもその論法だとオレ悪魔だし。」


「もっちゃん、倫理を捨てたのは向こうが先よ。町のボスが嫌がらせを承認したの。あの町では嫌がらせは合法なの。やり返されて当然。」


「あああー!キリコちゃんがマスター色に染まってるううう。」


 今回、キリコは無駄に満足していた。

 前職では満足に味わえなかった厨二シチュでのやり取りを心置きなく堪能したからだ。しかも相手のノリが良かったのである。



「心配しなくてもサクラのお父さんが当選すれば良くなるでしょう。」


「巨悪は滅んだ!闇に閉ざされし荒廃した里は、再び光に満ち溢れ永遠なる繁栄をその手に掴もうとしている!」


「はぁ、まあその通りなんだけどね。お陰様で私の甥っ子もまた学校に行くようになったし。今回もありがとうございます。」


「甥っ子君、元気になったんだ!?」


「トラウマ解消はもう少し掛かりそうだけど、クラスのほとんどが病院送りで居ないし。残った女の子と仲良くしてるわ。」


「もっちゃん、甥っ子にも負け――負けないように頑張ってね!」


「爆弾を投下しなかった?キリコちゃん悪いものでも食べた?」


「ひどいよ!私だって少しくらいは成長するよ!早く1人前にならないといけないし!」


「そうだな。私も負けてられないな。」


 2人してマスターをチラチラ見る。


「オレを見ても何も始まらないぞ。」


「「マスターを見なくちゃ始まらないじゃない!」」


「うぐっ。」


『今ちょっと嬉しかったでしょぉ、バレバレなんだからね!』


「オレは2人とも認めてはいる。あとは進め方次第だと思うよ。」


「「マスターがデレた!!」」


「いや、デレとかじゃなくて……そうだサクラ。平日にも1度顔をだしてくれ。今回100を超える化物さん達が手伝ってくれたからな。お礼を言っておいたほうがいいだろう。」


「わかったわ。明日にでも迎えに来て下さい。」


「もっちゃん、一緒に寝ようね。マスター攻略情報を話しながら!」


(何かキリコちゃんが積極的になったな。私も負けてられない!)


 とんこつラーメンを啜りつつ気持ちを引き締めるサクラであった。


 …………



「うーん、やはり何か対策が必要かなぁ。」



 6月26日。今日も今日とて魔王ネタで稼ぐ人達から稼ぐ。

 社長の元へ向かいながら考えを巡らす。


 マスターは悩んでいた。相手にナメられていることに。


 もちろん戦闘時にはその方が油断してもらえるし、カウンターも決めやすいのでいくらでもナメてくれてていい。


 だが世界中の様々な組織が彼を侮り、余計な手間が掛かるのは嬉しいことではない。


 現に孤児院の時にはクマリが脅迫されている。バリアがあるとはいえ脅迫の言葉は気持ちのいいものではない。言葉には力があるのだ。



 ならば噂レベルで誰もがブルってしまうような恐怖・畏怖を覚える何か。現代の魔王の象徴のようなモノを持つべきだ。


 本人の威厳はこの際諦める。


 強き者の象徴といえば武器だろう。物語の勇者だってそうだ。ならば現代の魔王が持つべき武器とは……。


 マスターは頭の中を検索してそれっぽい武器の情報を思い出す。


「これだ!!これが完成すれば誰もがビビるだろう!」


 社長の家に入り彼女の机にたどり着くと、前のめりでお願いした。


「社長、曰く付きの鍛冶屋とか紹介してくれません?」


「開口1番ソレ?今度はどんな碌でもないことを思いついたの?」



「オレ専用の、魔王剣とか作りたいのですが!」



「やっぱり碌でもない話だったわね。さっさと仕事の報告をなさい。」


 仕方ないので仕事の報告をするマスターだった。


(いつか必ず作ってみせるぞ!)


 だが魔王剣は諦めていない。彼もオバケの1席を担っている悪魔なのだ。ならば化物らしく凶悪な武器でも持って、家族が安心して暮らせるように世界をビビらせるのだ!


(まったく、既にとんでもないチカラ持ちなのに何考えてるんだか。)


 悪巧みをする子供の様な表情を隠そうともしないバイト君に、ため息をつく社長であった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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