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43 ライブ

 


「お願い!楽しい未来を――」



 11月24日朝。魔王邸の寝室。

 妻の○○○とお互い全裸で抱き枕にして寝ていたマスターが目覚める。


 セツナもそれに挟まるように寝ていた。

 愛する家族と朝を迎える喜びを噛み締めながら起き上がる。


「あなた、おはようございます。セツナも潜り込んできて可愛いわね。」


 セツナは妻の胸に埋もれていた。息はしているので大丈夫だ。


「おはよう、○○○。なんか夢に当主様が出てきたよ。」


「へえ、もしかしたら夢枕かしら。あの方はなんて?」


「楽しいイベントをお願いされたよ。よっぽどクリスマスライブが見たいんだろうね。」


 違う、そうじゃない。

 当主様の願いは上手く伝わってなかったようだ。



「ぱぱーあさー?」


「おはようセツナ。よく眠れたかい?」


「おはよーどざいます。ぱぱ、まま。」


「おはよう、セツナ。ちゃんと挨拶できて偉いわね―。」


「うにゃー。」


 3人は大浴場へ移動して家族揃ってイチャイチャしながら

 朝風呂を満喫するのであった。



 …………



「「「きみとーーーうみへかーえーろーーー」」」

「「「きみとーーーうみへかーえーろーーー」」」

「「「ーーーきみとーーーかーえーろーーー」」」



 魔王邸のアイドル練習場(元小宴会場)。

 今日もシオン・リーア・ユズリンの歌声が響く。


 あれから1週間でみっちり調整、練習して形にはなってきた。

 リズムや音程をデジタルにして抑揚などはアナログで調整している。


 それはモーションも同じで基本はデジタルで読み込んでいるが、

 ちょっとしたアドリブ・アレンジは可能にしている。

 そうでないと機械くささが残ってしまうのだ。


「思ったより早く出来たね。電脳体のせいか一度決めてしまえばミスもないし。あとは屋外でエフェクトと合わせてどうかだな。」


「マスター!あと、かわいい衣装も必要です。」

「お客さんを確実に魅了するなら、音響も大事。」

「2週間で1曲しか出来てないけどいいの?」


「衣装と音響は明日から外で調整だな。デビュー曲なんだから1曲でいいだろう。トークと一発芸と既存のアニソンあればいける。」


「お客さんとお話できるの!?」

「一発芸ってまさかまた3人で楽団組ませる気?」

「アニソン、可愛いの多いけど大丈夫なの?」


 トークコーナーでは挨拶の他にもプレゼント抽選会を予定している。一発芸はリーアの予想通りである。必ずサングラスを着用してもらおう。


 楽曲使用の申請は出すし利用料も払うが、普通にやっても通らないだろう。

 第一、会場をバラすわけには行かない。その辺は街づくりでやっているのと同じ細工をしておく。


「そんなわけでこのまま行って問題ないと思う。もしもっと良いアイディアが出たら遠慮なく言ってくれ。」


「「「はーい!!」」」


 その頃、異界の各勢力には招待状が届いていた。

 彼らにしてみれば招待状という名の挑戦状だ。


「アイドル?姫さんの所はまた何かやらかすのか。」

「ライブ?よく解らぬがマスターのイベントなら行くしかあるまい。」

「クリスマス?不謹慎な。だが姫さんのところか……面白いのだろうな。」

「俗っぽいイベントだが気晴らしには丁度いいかもしれん。」


その招待状の送り先は、異界だけにとどまらない。


「クリスマスにアイドルライブ。スイカ、何故私にこの様な招待状が?」

「トウカ様。差出人が”彼”でございます。きっと裏があるでしょう。」


「サクラ、ライブとやらは何を着ていけばいいのだ?」

「これ、変な勧誘とかじゃないでしょうね!?」

「サクラの彼氏、アイドルまで手を出してるの!?」


「だからまだ彼氏じゃないし!うう、言ってて悲しく……」


 何故か一部は人間社会にも届いていた。



 …………



「うわーお客さん、一杯来てるよー。」

「大丈夫、この程度の数なら全員浄化できますよ。」

「華々しくデビューを果たしてマスターの株を上げるわよ。」



 12月24日夕方。

 悪魔屋敷の中庭には200人を超えるお客さんが集まっている。さらには今回も敷地外にも多くの人が集まっていた。

 そのステージ裏から中庭を覗いた3人娘は、やる気充分だ。


 この異界で初めてのアイドルユニット誕生の日。

 そしてプロデュースが七夕で活躍したあのマスターだ。

 各勢力の偉い人達が、今日もお忍びでやってきていた。


 前回の教訓から敷地外には有志の皆さんの露店が並んでおり、飲み食い出来るようにもなっている。


 勿論水星屋の販売ブースもあり、キリコ・クマリ・カナが販売員だ。マスターは演出担当なので料理はしていない。○○○はセツナの世話だ。


 代わりに異次元保管庫を使い、出来たての料理を提供している。今日ばかりはこれしか方法がなかった。


 ちなみに保管庫から販売員に届ける補佐役はサクラである。彼女のチカラなら数を間違うこともない。


 その気になれば全員中庭に入れることも可能なのだが、水星屋からの食料の供給量を考えるとこれでも多いくらいだ。



「今回の結界は大丈夫でしょうね?」

「はい、早めの告知だったので万全の体制です。」


「あれがステージ?。割とシンプルよね。」

「会長、彼のすることです。普通なはずがございません。」


「歌姫誕生なんて何百年ぶりじゃろうか。」

「長老、今はあいどると言うらしいです。」


「これほどまでの求心力。我が神社は閑古鳥というのに。」

「何割か分けていただきたいですね。」


「のう、あいどるとはなんぞや。」

「歌って踊る、そして見る者を魅了する存在です。」

「この熱気、病み上がりには心地良いな。」

「へっ、アイツがつくったアイドルなんて。」


「昭和からどう進化したのか見せてもらおう、マスター。」

「おや、私も昭和以来ご無沙汰でしてな。」

「ほう、同志。今宵は楽しもうぞ。」


「アイドルを抱える人って宗教の教祖に近いんじゃ。」

「サクラの彼がどれほどか見せてもらうわ。」


 様々な声が中庭から聞こえてくる。


 領主と補佐官はセキュリティの確認をしている。

 トウカとスイカは子供同伴で会場の隅の方で寛いでいる。

 異界の何処かの老舗勢力は過去を想いながら期待している。

 神社の神と巫女は気晴らしを許され、招待された。

 女王蜂とその従者たちは物珍しそうに見回している。

 トウジは何気ない一言で仲間に出会い意気投合する。

 ちなみにその仲間はサクラの父親である。



「皆さんこんばんはー!今夜は大勢集まって頂き、まことにありがとうございます!」


 17時になりマスターのアナウンスが入る。お客さん達はこれから始まるイベントに期待し、マスターに注目する。


「今日デビューする女の子たちを紹介する前に!会場をそれらしく整えたいと思います!!」


(((来た、3Dホログラムか!?)))


 七夕の例もあり、会場のみんなは期待する。


「A・ディメンション!!そして3Dホログラム!」


 会場とその周辺が宇宙空間に変わり、客席の足場やステージが虹色に輝き電脳世界的な物に作り変えられていく。


 ご丁寧に空間の境目には0と1の羅列の壁が作られている。


 A・ディメンション。毎度おなじみセメントせいやっ!からパクった技の1つである。敵キャラの技であり、食らうと宇宙に放り出される。


 まるでSFの世界に迷い込んだような錯覚、ではなく事実それを作ったのだ。そしてそれを成した時、パリィン!と音が聞こえた気がした。



「「「うおおおおおおおおお!!」」」



「領主様、結界が壊れました。」

「あいつ何やってんの!?」


 またもや始まる前に結界が壊れて、領主達は冷や汗をかく。

 異界の中に別の異界を仮設置したのだ。当然の結果だろう。

 だがそれとは別にお客さんのボルテージは上がっていく。


「なにこれ、宇宙!?」

「さすがは現代の魔王と呼ばれるだけは有りますね。」

「おいねーちゃん、それ禁句だぜ?ここではマスターだ。」

「私は夢でもみているのか?」

「さすがはマスター、勝手に世界を作りやがった!」

「妖精から見ても幻想的よ!」

「当主様も満足げなお顔をしてるわ!かわいい!じゅるり。」



「それではオレは舞台裏に失礼しまして、あとはこの子達に任せようと思います。」


 マスターはアナウンスの後、ステージ裏で演出を弄る準備に入る。


 そして最低限の光を残して会場が暗くなる。

 10秒後にステージにスポットライトが幾重にもあたり、その中心に居るシオン・リーア・ユズリンが映し出された。


 同時にバックステージや会場の周りにも巨大なスクリーンが出現。全方位に新たなアイドルの姿が映し出される。


 直後に聖歌・賛美歌のメドレーが始まる。そのまま歌うと浄化されかねない者もいるので、歌詞は悪魔讃歌に変えてある。


 曲に合わせて会場のエフェクトはどんどん様変わりしていく。紙吹雪やライト、自在に動く虹やオーロラや上昇気流等で盛り上げる。


 メドレーが半分ほど進むと間奏が入る。3人娘はステップの後にポーズを取りながら挨拶をしていく。


「皆さん、今夜は来てくれてありがとう!」

「あなたの心に歌を染み込ませてもらいますわ!」

「楽しい心でどんどん飛び跳ねちゃおう!」


「私はシオン!」

「浄化のリーア!」

「月の兎のユズリンよ!」


「「「電脳メイドアイドル、シーズ!!」」」


 びしっと決めポーズでグループ名を叫ぶと後ろで虹色の爆発が起きる。



「「「うぉぉぉおおおおおおお!!」」」



「シオンちゃんの甘い声が可愛い!」

「リーアちゃんの透明感のある歌声が痺れる!」

「ユズちゃんのうさぎふりふりが可愛い!キリコちゃんみたい!」


「ぐぬぬ、キャラ被り……いや、私は店員だし。むしろ弟子よ、良くやったわ!」


「おい、聞いたか!?ユズちゃんはキリコちゃんの弟子だってよ!」


 お客さん達が大盛り上がりの中、聖歌・賛美歌メドレーの後半に入る。


 会場の心を掴んだシーズの3人は全身を使ったポーズで、最後のフレーズを歌い切る。すると赤と白の風が会場を吹き抜け、空からキラキラした星のような光が降りてくる。


 それは星空がそのまま落ちてくるような演出だった。



「「「メリーー、クリスマーーーーッス!!」」」


「「「わああああああああああ!!」」」



「改めましてこんばんは!電脳メイドアイドル・シーズのシオンと申します!」


「こんばんはー。リーアです。ぶい!」


「グッいぶにーん!ユズリンだよ!ユズちゃん、って呼んでね!」


「今夜は私達のデビューライブに来てくれてありがとう!わを後でプレゼントも有るから期待してね。」


「今日は私達がメインだけど、お腹が空いたり喉が渇いたら水星屋・屋外店でたくさん食べていってくださいね。」


「師匠のキリコちゃんさんの列で頼むと良いことあるかもしれないわ!」



「「「わああああああああああ!!」」」



 曲が終わってオープニングトークに入るとお客さんが一斉に動き出す。まっさきに水星屋の列に並ぶ者、シーズを食い入るように観察する者。


「なんでシーズっていうの? やっぱり種?」


 やがて客席からシーズの由来を質問する声が上がる。

 実はこの質問自体、マスターの仕込みである。


「実は色んな意味があるんだよー!」

「みんなで名前決める時に、候補の頭文字がSとCばっかりだったのよね。」

「そうそう、なので全部まとめてシーズになったの!」



「あ!でも私達の名前から一文字取った感じになってる!」

「”シ”オン、リ”ー”ア、ユ”ズ”リン。たしかにそうね!」

「すっごーい!偶然と言う名の必然ね!私達はなるべくしてあわシーズになったのよ!」


 実はこれは狙ったわけでなく偶然だった。

 リハーサルの時にユズリンが気がついたのだ。


「名前の由来はともかくとして、今日はクリスマスイブ!」

「皆さん今夜のお相手はいらっしゃモガモガ。」

「はいはーい、危険なお口は塞いでおきましょう。私達も人のこと言えないでしょう!?」


「「「わはははははは!!」」」


 会場はチキンやケーキ、そしてワイン片手に大笑いだ。


 この調子で自分の売り込みとお客さんの食事時間を稼いだ3人は、デビュー曲の披露へシフトしていく。


「それじゃあ今度は私達のオリジナル曲!」

「これが私達のデビュー曲ね。」

「みんなのハートにクリティカルしちゃうぞ!」



「「「聴いて下さい、有罪(ギルティ)マーメイド!!」」」



 イントロが始まると会場周囲が全てライトアップされた海の中になる。実際は水族館の巨大水槽から映像をちょろまかして光を当てている。


 この歌は人魚が陸に上がって恋人を故郷に連れて帰るストーリーだ。


 AメロからBメロになると陸での出会いの歌詞になるので、背景も陸の物に変える。化物達の共感を得るために異界の地で撮影してある。


 サビでは女の子の気持ちが全面に出るので水陸折衷の背景に変える。


 間奏では3人がミュージカル風のダンスを交え、ストーリーを補足する。


 シーズやマスターはこれに限らず、客を楽しませる工夫をこらしていた。

 の初視聴の曲はそもそも心に届きにくいからだ。

 しかし観客は大盛り上がりで合いの手を入れてたりする。


 何故かと言えばメインボーカルのリーアの声は、まるで目の前で歌っているかのように心に染み込ませる細工をしてある。

 そしてサブの2人の声は、左右の耳元から聞こえるように細工してある。これはこのライブ会場の壁もだが、お客さん1人1人に施していた。

 もちろん赤ちゃんにはボリュームを下げて提供している。


 この立体的な布陣によって、半強制的に歌に集中出来るようになっているのだ。


 2番も同じように背景をぐるぐる切り替え、ラストのサビではステージを海の中に見立てて3人を浮遊させる。

 さらには人魚風の衣装に変えて立体的なダンスを披露させて終わった。



「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!」」」


 パチパチパチパチパチ!!


 歓声と拍手を観客が送る。全員椅子から立ち上がっての喝采だった。


「みんなー楽しんでくれたかなーー?」

「ありがとー。ありがとー。」

「私のラビットステップ、見てくれたかなー?」


「この曲のCDやグッズは水星屋で販売しているので、

 ぜひ手にとってくださいね!」


「それでは暫くご歓談タイムです。この後も見逃せないアレコレが

 あるから、ゆっくりしていってくださーい。」


「楽しいゲームもあるからねー!私達とあそぶぴょん!!」


 会場全体から発せられる拍手に見送られてステージから去るシーズ。


 それと同時に水星屋の販売列に殺到するお客さん達。

 まずは上々の結果と言えるだろう。


「ふー、なんとかなったな。」

「お疲れ様です。はい、あなた。」

「ありがとう。ケーキ美味いな。さすが○○○の手作りだ。」

「えへへ、ありがとー!」


『テ、テンチョーちょっとこっちヤバイです。タスケテー!』


 テレパシーでSOSを送るキリコ。メシはともかく、CDなどの提供が追いつかないようだ。別勢力の偉い人が大人買いしているらしい。


 慌てて販売ブースに駆け寄り1列追加する。本当はシーズ本人がわ居たほうが良いが、初めてのライブで無理はさせられない。

 代わりにスクリーンにシーズの練習風景映像を流しておく。



「神様、この商売行けるかもしれませんね。」

「うむ、しかし歌と踊りか。私があと1000年も若ければ……」

「え!?神様が踊る気だったの!?」


 どちらにせよメインターゲットの男が入れないので意味はないが。



「人間にはこの様な娯楽があるのだな。大変結構である。」

「マスターって凄かったんだなぁ。」

「心が滾るステージだった。副主任はどうだ?」

「う、うん。まあまあだな。ちょっとCD買ってくる。」


 女王蜂や神の使い、主任達も満足のようだ。



「ああーどうしよう。これ終わったらまた大変なことに……」

「領主様、お酒と料理をお持ちしました。それとCDもこちらに観賞用・保存用・布教用で90枚確保してあります。」


「あんたノせられすぎよ!」


 補佐官は満足したようだが、領主はさらに頭痛に悩まされる。



「やっぱり非常識でしたね。でも素晴らしい演出でしたわ。」

「まるで絵本の中にいるみたい。スイカ、CDを大人買いするのよ。」

「童心に返っても大人の暴力は振るわれるのですね。」


 彼女たちを招待した理由の1つがコレである。

 あくまでインディーズなのでそこまで目立つこともないだろう。


 ちなみにスイカはカナの列に並び、口車に乗せられて箱ごと買っていった。



「これが時代か。長生きはするもの、いや死んでいたか。」

「同志よ、私は感動している。生き死になど関係ない。今ここに在る音楽と心、これが全てだ。」


「そうだな。一緒に酒を酌み交わそうではないか。」


「ちょっとお父さんどうしちゃったの?ユーレイっぽい人と泣きながらお酒飲んでるけど。」


「この求心力、やはり宗教?サクラに釘刺さなくちゃ。ちょっと私はCD買ってくるわね。」


 言葉とは裏腹にグッズを買い始めるサクラ母。

 姉はやれやれと言った感じでチキンをかじる。



「見事だったぞマスター!」

「うわ、当主様。今はお仕事中なので抱きつかないで下さい。」

「元気がいいな、姫さん。マスター、酒と料理とCDを3つずつ頂きたい。」

「はいお待ちっ!閻魔様も来てくれてありがとうございます。」

「素晴らしい催しだ。これなら独り身でも楽しめるであろう。」

「そう言ってもらえれば幸いです。ぜひ最後まで楽しんで下さい!」


 販売ブースが落ち着きはじめ、再度シーズの3人がステージに上る。



「「「みなさーん、食べてますかー?」」」


「「「おおおおおお!!」」」


「えへへー、実はさっきマスターに褒められちゃいました!」

「これも皆さんのご声援のお陰です。」

「CDなら何時でもお耳に声をお届けできますのでよろしくぅ!」


 挨拶の後にアニソンを2曲ほど入れて場を再度盛り上げる。

 ちなみにこれはCDには入っていない。



 その後は宇宙遊泳式プレゼント交換会が開催される。

 参加希望者は宇宙に放り出されたプレゼントの包を自力で泳いで確保する。


 3つ以上確保した者は会場に戻ってこられる。

 5つまで持つことが許され余剰分は他者との交渉・取引が可能である。


 プレゼントの中身はランダムであり、時には男性向け・女性向けと別れている。客席に戻って開封し、観客同士で交換が行われた。


 興奮しすぎた当主様が、


「これが我からのクリスマスプレゼントであるー!」


 と叫びながらステージ上でMCをしていたマスターにキスを迫り、直前で妻の○○○に取って代わられたシーンは哀れみを誘った。


 当主様の口にはバッテンの付いたマスクが着けられ、指定のVIP席に固定されて使用人Bをけしかけられた。


 普段は許容範囲の広い○○○でも、公衆の面前で旦那にちょっかい出されるのはNGである。容赦もなくなろうというものだ。



 デビュー曲の再披露、別のアニソンや吹奏楽曲の一発芸、クリスマスソングなどを次々と歌うシーズ。



 すべてのプログラムが終わり、解散となっても飲めや歌えやの大宴会が続いた。


 こうしてクリスマスライブは大成功で幕を閉じたのであった。



 …………



「クリスマスライブ、お疲れさまでしたー!」


「「「お疲れ様でしたー!!」」」



 ライブ終了後、水星屋に関係者が集まって打ち上げを行う。

 サクラとトウカとスイカも居るが、サクラの家族やトウカ達の娘は先に帰還させている。


 先程までもずっと騒いでいたのに、参加者は元気にはしゃいでいた。

 そんな中でマスターにトウカが話しかける。


「今日はとても楽しいイベントでしたわ。やってることは非常識ですが逆に安心した面もあります。」


「非常識が板についてきたってことですかね。」


「そうではありません。以前の遠征や魔王事件もですが○○○○さんは戦いにチカラを振るうことが多かったでしょう。」


「そりゃまぁ。」


「それがこの店といい先程のイベントと言い、娯楽にチカラを使えるようになっています。これはいい傾向だと思うのです。」


「血みどろだけの生活じゃないのは確かですね。」


「当時はあのカナが拗らせるぐらいには危険な男でしたよ。」


「スイカ!私が変人みたいに言わないで!私はもっと純粋に旦那様のお痴ん、ぐぺっ。」


「お下品ね。○○○○さん、カナはご迷惑をお掛けしてませんか?」


「メイドの中じゃ1番の働き者ですよ。他の者にも良い刺激になってます。」


「ふーん?てっきりその件でお呼ばれしたのかと思ったのだけど。」


 トウカも少々アレなチカラ持ちではあるが、人間である。

 悪魔の宴に呼ばれるということは何かしら話があると思っていたのだ。


「実は近々孤児院を開くので、スタッフを10人程回して欲しいのです。」


「あら、そんな事でいいの?」


「条件は独身で男女バランス良く。住み込みで月50万○(円)出します。」


「なかなかの待遇ね。でも機密的にはどうかしら?」


「そっちは考えがありますので。で、院長は彼女にやってもらいます。」


 マスターはクマリを呼んでトウカに紹介する。


「タカハシ・クマリです。旦那様の孤児院の院長を務める予定です。」


「NTグループのトウカよ。クマリさんはまだ若いのに大した出世ね。わかったわ、人員は手配しておきます。手数料は夜に返してもらうわね。」


「トウカ様だけずるいですよ。○○○○様、私めにもお情けを。」


「それはいいけど、2人ともオレのことはマスターと呼んで欲しい。その名前を出すのは世間体的に良くないでしょう?」


「わかったわ、マスター。代わりに私のことも呼び捨てね。スイカだけ呼び捨てはずるいですわよ。」


「私は旦那様とお呼びし……いえ、何でもございません。」


 どこからか殺気の籠もった視線が送られ黙るスイカ。

 ○○○は殺気を引っ込めると引き続きセツナに構う。


 マスターは悪いことしたなと思いながら、断りをいれて別の席へ向かう。



「サクラ、お疲れ様。身体は大丈夫かい?」

「マスター、絶対コレ筋肉痛になるやつ!グラスが持てない。」

「もっちゃんはもう少し鍛えないと。事実だけじゃ生きていけないよ?」

「そんな事言ったってぇ。私は探偵であってグッズ販売員じゃないし。」

「そうだもっちゃん、お耳かして。」


「ひゅわっ!」


 何やらコソコソと耳打ちされ、サクラは変な声があがる。

 何を企んでいるのかは「精神干渉」でマスターには丸聞こえだ。



「マスター、私を開発して下さい!!」



 ざわ……。ここで予定と違う言葉が来るとは思わなかった。



「もっちゃん違う!お願いするのはマッサージ!」


「サークーラーさーん?」


「ひええええええ!!」


「あー、サクラって記者辞めて良かったんじゃないかな。こじらせすぎて屁理屈言えなくなってるでしょ。」



 ○○○に後ろから肩を捕まれ脅しをかけられるサクラ。


「○○○、その辺にしておいてやってくれ。今夜は新技のオンパレードでいこう。」


「もうあなたったら、皆の前でそんな大胆に!」


 くねくねしはじめサクラから離れる。


「どっちにしろサクラには渡すものが有っただろう。話はその時にすればいい。」


「そ、そうね。じゃあ後で……」



「「「渡すものってなんですか!?」」」



 特に予定のなかった当主様・トウカ・スイカがマスターに迫る。


「海外製の、中々手に入らないシロモノで――」

「アクセサリかしら?イアリング……ペンダントかロケット?」

「手に入らないってお高いのですか?」

「ロケットが近いかな。金額は国によるだろうけど億単位かと。」


「マスター、それ私は要らないって言ったやつじゃん。」

「サクラが拒否した?ならば我もやめておこう。」


 当主様は嫌な予感を覚えて辞退する。サクラも敢えて何かは言わない。



「「ならばぜひ、私に見せてくださらない?」」



「いいの?起動済みの核ミサイルだけど。」


「「なっ……」」


「やっぱりツッコミはサクラのほうが上だな。」


 妙な所で株が上がるサクラだが別に嬉しくない。


「も、もう知りませんわ!マスターのお馬鹿!!」

「トウカ様、お待ち下さい。せめて出処くらいは聞き出しませんと!」


 2人はそのまま入り口から出ていく。

 そのままだと宇宙遊泳してしまうのでコンドウ邸に繋ぐ。


 一応イベントでプレゼントは確保していたから空手で帰すわけではないが……。


「やりすぎたか?」


「いいえ、トウカ様達にはまだ早いですわ。実用性はあっても誰彼かまわず贈るものでもございません。まだ私が優勢でいたいし。」


「心の声漏れてんぞ。だが言いたいことはわかる。あの2人に渡したら絶対分解して自分で売ろうとするだろうし。」


「分解した時点で死んじゃいますしねー。」

「そ、そうなのか!?」

「宇宙で死なない自信があるなら別だけど。」


 サクラが不安に駆られるが得意の現実逃避で酒を煽る。


「シオン・リーア・ユズちゃん、今日は楽しかったか?」


「うん、すっごいドキドキしちゃった!」

「あんなに多くの人達を魅了できたのは心地よかったです!」

「みんな釘付けだったもんねー!」


「私が暗殺者時代のラビットステップを教えたお陰ね!」

「キリコもお疲れ様。今日も輝いてたぞ。列によってオマケを付けるのは良いアイディアだった。」


「ひゅ……これくやー。マスターもオツカレサマ。」


 素直に褒められて数秒バグるが気にしない。


「ほらほら、今がチャンスだよっ!」

「ここを逃すとハードル上がるわよ。」

「わ、わかってるから押さないで!」


 シオンとリーアに押されてユズリンがマスターの前に来る。


「マスター。これ、私からのプレゼンチョよ!」


 そこに突き出されるはほのかに赤い交際契約書。


 ポスッ。


 契約書越しにマスターの唇に触れたユズマウス。

 契約書をそのまま胸に押し込み契約が完了する。


「こここ、これで私はマスターの女だからね!」


 真っ赤になった自称・月の兎は指をコチラに向けて宣言していた。


「わーユズちゃんだいたーん!」

「お酒の力を借りて今、必殺のウォールキッスね!」


「……やるね。」


「なによっ!こういうのはきちんと形としてゴニョゴニョ。でも、ぇっちなのはまだ怖いからちょっとずつゴニョゴニョ。」


「よろしくな、ユズちゃん。」


「はい、マスター!」


 恥ずかしさから小声になるユズリンに優しく交際宣言する。

 弾ける笑顔でそれに応えたユズは謎ステップで喜んだ。


「ユズちゃんも中々やるわね。映画、いえあのマンガの方を参考にしたのかしら。」


「我は拒否したのにメイドは了承するとはなんたる屈辱か……」


「当主様は検閲しないと旦那が捕まるし。」


「仕方なかろう!?不老不死では出るものも出んわ!マスター、この身体はなんとかならんのか?」


「試してみないと解らないですね。ただ今晩は予定もぎっしりですんで明日にでも話しましょう。」


「ぜ、絶対だぞ!?約束だからな!!」



 その後はシーズ(特にユズ)がまた歌い出し、カラオケライブで打ち上げを終えるのであった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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