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40 ミライ



「お前ら結局オレの肉を全部食いやがって……」


「「隊長殿、ごちそうさまです!」」



2008年10月10日夜。

楽しいバーベキューも終わって全員で手分けして片付け中だ。

ケーイチ・トモミ・ソウイチ・ユウヤが広場でゴミを纏めていた。


「あ!そういえば報告忘れてた!今日の昼なんですけど製造所で変な人に会ったんです。」


「変な人?井戸の化物ならオレたちも遭遇したぜ。」


(呪いのビデオのアレかしら。)


トモミはよくわからない話にホラー映画を思い出すが関係はない。


「お前も会ってたのかよ!ってそっちじゃなくて、その人真っ黒な衣装でウロウロしてて、急に消えちゃったんですよ。なんかこう、なにもない所に穴みたいのを開けて……」


「何だと!?」


「次元転移の穴を開けての空間移動!?そんな事ができる人なんて……」


周辺の森は今日、と言うよりここ暫くは民間人の立ち入りを禁止している。

赤ずきんのように何故か紛れ込む民間人も居るには居たが、それはあくまで民間人。空間を自由に移動できる者などそうは居ない。



「現代の魔王がこの山に居たって事か?」


「色々有りすぎてあまり気にしてなかったけど、今思えば変だなーと。」


「……」


トモミはなにか難しい顔をして考えている。というかソウイチを睨んでいる。


「あいつがここに居たってことは今回の事件と関わりがあるのか!?」


「いやーそれはないんじゃないですかね。」


ケーイチの疑問をソウイチは一蹴する。当然新たな疑問が湧いてくる。


「何でそんな事がわかるんだよ。」


「だってあの人がウロウロしてた理由が従業員、つまりは熊八さんを探してたんですよ。なんでも奥さんがハチミツを料理に使うとかで……」


「「は?」」


「あっはっは。そりゃ絶対別人だな。あいつが結婚できるわけがない。あいつの嫁になる女なんて、人類史上見ても1人も居ないと思うぞ!」


そう。現代の魔王、この場合はサイトの悪魔と言ったほうが正しいか。

彼の事を知っている人間からすれば、恋愛どころかまともな人間関係を築けるわけもなくタチの悪いジョークでしか無い。


こればっかりは本人が聞いても渋々ながら同意するだろう。


もちろん実際は違うのだが、この2人からすればキモオタモブ顔ゾンビモドキな彼が家庭を持つなどありえない。


想像して2人はクスクス笑うが、一応友人であったトモミはフォローを入れる。


「あなた、それはちょっと言いすぎじゃない?」


「お前も笑ってるじゃねえか。」


窘めの言葉もクスクス笑いながらではフォローも何も有ったものではない。


((判断材料が酷い。))


「でもまぁ念の為残留思念を調べようか。すごいチカラ持ちなのは間違いないだろうからな。」


「実はもう、ソウイチ君の頭の中は調べたのだけど。」


「え!?」


「上手く辿れなかったわ。いつもは手にとるように解るけどあなた達は色々有りすぎて心の整理がついてないのかもね。」


「ならこの件は明日にしよう。」


「今のが一番驚いたかも……」


ソウイチは美人に心の中を覗かれるという事実にドキドキだった。



そこから北の物陰で、メグミとアケミが話をしていた。

どうやら昼間の出来事をアケミに相談しているようだ。


「というわけなんです。アケミさん。」


「なるほどねー。抑えきれない悪意か。」


「普段は平和的に過ごせてると思うのです。でも今日みたいに悪意に満ちた場所に居たり、直接悪意をぶつけられると私の中のタガが外れてしまうんです。」


(うーん。魔王事件のトラウマが尾を引いてるのかしらね。となると、今の自分と区別すればいいわけだから……)


「わかったわ!お姉さんに任せなさい!」


「何かいい方法があるんですか!?」


「うんうん。ちょうど今日、トモミさんに良いもの貰ったしバッチリ綺麗にキめてあげるからねー!」


トモミに貰ったものとは肌荒れ対策のクリームと虫除けである。

それだけでは何にもならないが、アケミには秘策があるようだ。


「あの、一体何を?ちょっとアケミさん!?」


「いーから、いーから。早速部屋に戻りましょう。」


ずるずると引きずられていくメグミ。

彼女のいーからいーから、はダメなフラグなので気が気でない。


(うふふ、メグミちゃんは元がいいからね。綺麗にお化粧してあげるわ!)


(なんか笑ってる!どうしちゃったのアケミさん?まさか教官に相手にされなさすぎて私を!?はじめてがオトナの女性だなんて!私にはユウヤが!!)


人類はもう少し言葉できちんと伝える習慣があれば、世の中は平和だったのかもしれない。



…………



「あっらいものー!あっらいものー!」


「ここは夜風もステキね。故郷を思い出すわ。」



川辺ではモリト・ヨクミ・フユミが使った道具の洗い物をしていた。

謎音程のヨクミと風を受けてうっとりなフユミ。

彼女たちを見てモリトは不思議に思っていたことを口にする。


「2人はどうやって知り合ったの?お互いに海と山ではなかなか接点なんてなさそうだけど。」


「べ、べつにそんなのどうでもいいじゃない!モリトは知らなくて良いことだから、手を動かしなさいよね!」


激しく動揺して教える気のないヨクミだったが、フユミが近づいてきて優しい声を掛ける。


「じゃあ私が教えてあげるわね。」


「フ、フユミちゃん!?」


「あれは晴れた風の強い日だったわ。あまりに気持ちがいいからお弁当を持って海までとんでみたのよ。そしたら海に大渦が発生していてね。珍しい光景ねーって見てたら、この子が渦の中で叫び声をあげてて。」


「あの日は海の民にも近代化をって試作型水力発電所ができて、勝手に潜り込んで探検してたら巻き込まれて……」


「それで助けてあげてお弁当を一緒に食べたの。」


「へーーヨクミさんらしい出会いだね!山菜にハマったのもその時からなんだ?」


「それだけなら良かったのだけどねぇ。」


はぁ、とため息をつきながらフユミさんが遠い目をしている。


「キューシニイッショーを得た私は水の偉大さを伝えるべく、海岸に来る旅人に水魔法を掛けて回ったわ!」


「ハタ迷惑な事をしてたんだね。」


「海岸線の怪談として、山でも噂になるくらいだったわよ。」


「でもでも!水魔法に耐えたうえに魔法を覚えちゃった人も居たよ!」


「へーそんな人もいるんだ!」


「アレでしょ?サタナー島で流行っていた魔王信仰の宗教をツブした彼。」


「そうそう、後でお礼言いに来たわよ。彼は見どころがあったわね。」


「!!」


その相手が男で、見どころがあると言われる程度には認められている。

その事実に衝撃を受けるモリトだった。


「ぼ、僕も水魔法って覚えられないかな?」

「無理じゃないかな!」


わりと食い気味にいい笑顔で否定されてぐうの音も出ないモリト。

さすがにフユミが焦って口を出す。


「ちょっとヨクミ!少しはアドバイスとかしてあげなさいよ!」


「だってモリトって水の特性を受け付けないのよね。浮かないし。その分、水攻撃されてもダメージは少ないみたいだけど。」


特別訓練学校では水に関する訓練も多い。

だがモリトは浮かないし泳げない。

余程水に嫌われているか、親和性が高すぎるのか。


「それにこの世界の人じゃ魔法は無理よ。モリトだって魔力の流れとか見えてないでしょう?」


「流れっていうのは円を描くようなうねりみたいなやつ?」


「へ!? 見えてるの?」


「ふーん、いい感性してるんじゃない?」


モリトはチカラが無い分、観察眼を鍛えていた。

それと日々の訓練+αで魔力も見えるようになりつつあったのだ。


「見えるなら見えるって早く言いなさいよね!次からはちゃんと講義してあげるわ!」


「本当に?ありがとう!!」


「あ、う……そんなことより洗い物よ!さっさと手を動かす!」


純粋な瞳にアテられてテレてしまう。それを隠すために洗い物に集中するヨクミだった。


(これは面白いことになりそうね。)


一人フユミは大人の微笑みを浮かべていた。



…………



「調査?そんな物はいいからさっさと出ていってくれ!ウチの産業をツブしたお前らの顔など見たくもないわい!」



10月11日朝。

子供達をアケミに任せてケーイチとトモミは森へ入ろうとしていた。

しかし村長以下、村人の猛反発を受けてしまう。


女王蜂を倒し、熊八を倒してしまったので村のハチミツ産業は諦めて廃業にするしかないのだ。


命が助かっただけ儲けものだと思うが、人間は欲張りなのだ。



「くそっ、何かしらの手がかりが有ると思うんだが……」


「仕方ないわ。何故か上からも撤退命令が出ているし。」


そう、例の政治家からも撤退命令が出ていた。

何か自分たちの理解の及ばぬ所で、事態が進行しているようで気持ちが悪い。


結局一同はそのまま草津温泉に向かい、休暇に入る。


生徒たちは大はしゃぎし、モヤモヤを抱えた大人たちも湯畑でお好み焼きを食べはじめたら気を取り直した。



「うふふ、足湯でケーイチさんに生足を見せるチャンス。」


「ちょっとアケミさん!心の声が出てますよ!?」


「メグミちゃんが冷たい。昨晩はあんなに盛り上がったのに!」


「「「その話詳しく。」」」


「違うわよ!お化粧を教えてもらっただけ!そこ、変な想像するな!」


まるで男の妄想が見えているかのように手をブンブン振るメグミ。

その必死な表情には薄っすらと化粧がされており、

ユウヤは終始ドキドキしっぱなしである。


「アケミさん、貴女やるわね。あのお化粧、彼女の未来のためでしょ?」


トモミが気付いて功労者をほめてくる。


「はい、少しでも力になれたらなって。」


アケミが教えた化粧はごくごく普通のものだった。

しかしメグミにはアケミ式特製化粧術とか適当なことを言ってある。


それは暗示を掛けるためだった。

魔王事件のトラウマは、悪意という形でメグミを蝕んでいる。


化粧で過去とは違う自分を演出し、暗示をかけることで悪意を受け流す練習をしようという算段だ。


さらに化粧を続けることでユウヤに対しても前向きになり、今後はより良い生活を送れるようになるだろうという考えもある。


その効果はテキメンであり、メグミはさらにアケミを尊敬するのであった。


だが疑問も残る。肌荒れ対策と虫除けはどこに使ったのか。謎である。



「ふふ、この後一緒にまわりません?もっとタクサンお話したいわ。」


楽しそうにトモミはアケミを誘う。どうやら相当気に入られたらしい。


「生足計画が、いえなんでもないです!ご一緒させて下さい!」


「そちらについてもたっぷりと、ね。」


「ひ……何のことだかわかりませんが、お背中流しますしマッサージもしますよ!」


「あらそう?最近は肩がこってるからありがたいわ。楽しみね。」


ギリギリで悲鳴を飲み込み媚を売り始める。

勿論トモミはアケミの気持ちを解っていてやっているが、単純に嫌がらせをしているわけではない。


今後どうするにしてもまずはコミュニケーションが大事なのだ。

だからこそ、現代の魔王とも友人でいられたのだから。



…………



「おまえ、身体中がおかしくなったって聞いたがあまり無茶するんじゃないぞ。プロになったからには長く続けていく必要があるんだ。身体が壊れちゃ生活できん。」



10月11日夜。

旅館の浴場で男連中が温泉を堪能していた。

ケーイチは今回のユウヤの無茶に苦言を呈していた。


「自分でもこれはマズイなと思ったんですけどね。あの場で全員生き残るにはそれしかなかったんですよ。」


「それも解るがな……オレは魔王と同じチームで、あいつの無茶をずっと見てきた。例え勝っても事ある度に寝込んで命を削っていった。オレはお前にそんな風になってほしくないんだよ。」


当時のサイトの悪魔は、ケーイチとトモミの安全を重視していた。

それはチームの役割としてだけではなく、2人を結婚させる為であった。


だが無茶を続けてた結果、碌でもない現状が有る。


「オレはそうなるつもりはないですよ。昔より発達したクスリもあるし、オレにはメグミ達だっています。」


「そうだな。今の環境はとても良い。昔もこうならアイツもなぁ。」


当時は好転しつつあるといっても厳しい戦いが続いていた為、メンバーのストレスが半端ではなかった。

そしてコミュ力の低いサイトの悪魔が捌け口にされることも多く、彼はサイト内のコミュニティで孤立していくことになった。


ケーイチもどちらかと言えば加害者側であり、トモミの少ないフォローでなんとか持たせていた状態だった。ケーイチ以外が彼に手を出そうものなら何倍にもなって返ってきたがそれが更に彼を孤立させる悪循環になった。


「魔王を倒す!とまでは言えませんが絶対見つける気でいますんで、これからもご指導よろしくおねがいします!」


「おう、オレもそのつもりだ。頑張れよ。」



「オレだって負けねーからな!今回はオレが仕留めたんだ。これからユウヤの出番は回ってこないかもしれねえぞ?」


「でもソウイチが勝てたのって僕らのお膳立てがあったからじゃない?」


「ぐっ、つまりだ!チームとして一丸となってやっていこうって言いたいんだよ、オレは!」


「競争志向の強いお前がめずらしいな。悪いものでも食べたか?」


「教官までそんな事言わないでくださいよ。こうなったら絶対教官たちより先に魔王を見つけてやる!」


実はもう会ったことが有るのだが、それはそれ。


「ユウヤ、休暇が終わったら組み手しような。オレの連勝で引き分け地獄から抜け出してやるから!」


「お前の攻撃当たらないじゃん。」


「お前の攻撃だってダメージ無いじゃん。」


片方は早く、片方は堅い。まさに引き分け地獄なのだ。


「それよりお前ら、コッチの方はどうなってんだ?お前らが来てもう半年だ。そろそろ進展もあった頃だろう?」


ケーイチが小指を立てて聞いてくる。

しばしの無言タイムが発生するが、モリトがいち早く発言する。


「僕の見立てだとユウヤとメグミは時間の問題かと。」


「モリト!オレを生贄にしやがったな!」


「メグミはべったりだもんなぁ。間違いが起きないようにアケミさんにアレ貰っておけよ。」


ヘイトをユウヤに向けるモリトと、それにノッてからかうソウイチ。


「お前だってオレが気絶中にアレ持ってたって聞いたぞ。ミサキはドSだがあーいうのが良いのか?風呂場で全部見ちまった責任もあるしなー?」


「んなわけあるか!オレはもっとこう、オレを認めて支えてくれるような健気な女がいいんだよ!」


「性格はアレだけど、それ以外はピッタリ当てはまってると思うよ。」


「そうだなぁ。ミサキはなんだかんだでソウイチの事を考えて動いている気はするな。あの性格は感情の裏返しかもしれんぞ?」


モリトとケーイチの分析にぐぬぬと黙るソウイチ。


「「「で、お前はどうなんだ、モリト?」」」


「うわ、回避できたと思ったのに!」


「初日から面白エピソードかましたお前の話を聞かないわけ無いだろう。しかも相手は異世界人で異種族ときた。」


「毎日のように訓練と称して水遊びしてるんだろ?」


水の耐性が高いモリトはよく連れ出されて遊ばれていた。


「あれは本当に溺れ掛けてるんで勘弁してほしいんですけどね。でも今度魔法を教えてくれることになったんで、楽しみですよ。」


「「「何だと!?魔法とか羨ましいな、おい。」」」



「ところで教官はどうなんですか?トモミさんとはラブラブなのは解りますけど。」


「何が言いたい。」


「何がってみんな噂してますよ。浮気するんじゃないかって。」


アケミは隠しているつもりのようで全く隠せてない。

今日の昼食時の様子を見ても明らかだ。


「バカを言うな。そんなオバチャンレベルの噂に踊らされんな。」


「キョウコさんとイダーさんに言っておきますね。」


「待て!それは待て!オレの給料とオカズが一品減ってしまう!」


慌てて止めるケーイチに大笑いする生徒たちであった。


その後は男達によくあるおっぱい談義で、モリトにロリコン疑惑がかかる以外は平和だった。


モリト曰く、彼女は未来で目に毒なくらいの巨乳持ちになるから、今はこれでいいんだ! らしい。



…………



「きっと今頃男達は、バカな話をしていると思うわ。」


「きっと私達の胸の大きさで盛り上がってる頃でしょうね。」



一方その頃、女湯では全て見透かされていた。

ミサキとメグミは男湯の予想を立てながら、腕に白い温泉を塗り込む。


アイカとエイカは最初は浴槽で泳ごうとしていたが、

温度が高めなので諦めて出たり入ったりを繰り返している。


そんな子供らしいツルツルを羨ましそうにチラ見するアケミとトモミ。

ツルツルなのはお肌の事で他意は無い。


ついでにアケミは隣のトモミといろいろ見比べていた。

年齢的には勝っているが、その体型は際どい所だ。


(なんとか引き分けにならないかしら。)


などと思うほどにはアケミは圧されていた。

トモミはとても5歳上とは思えない戦闘力である。


(ふふ、私もまだ負けてないわね。)


トモミも同じくアケミをチェックしていたようだ。


ちなみにヨクミとフユミは種族的な問題で部屋風呂を用意されて

いてここにはいない。



「男の人ってなんでおっぱい好きなの?」

「あとオマタもね。ヘンよね絶対!」


「人は自分に無いものを手元に置きたくなるものよ。同じように見えないモノは見たくなるの。」


「「ミサ姉ちゃんはオトナだねー。」」


「メグミはもう見せたの?」


「まだよ。そんなチャンスないもん。たまに押し付けるぐらい。」


「たまにというか、毎日押し付けてるように見えるけどね。もう部屋に夜襲を仕掛けたほうが良いんじゃない?」


「あう……」


「あら駄目よ。夜襲の前には私の所に来なさい。言ってくれれば避妊具をあげるから。」


「「夜襲ってなーに?」」


「う……」


「アケミさん、そこで詰まっちゃだめでしょう。まるでイケない話をしているみたいに見えるわよ。」


トモミのツッコミにさらに呻くアケミ。

ミサキは双子の様子を見てもしやと思って聞いてみる。


「アイカ、エイカ。もしかして子供の作り方とか教わってない?」


「「キスして一緒に寝たららできるんじゃないの?」」


「「「「なんて純粋な子達なの!!」」」」


ミサキは夜襲とか言い出した少し前の自分を殴りたくなる。

メグミは純粋に2人を抱きしめたくなった。いや抱きしめていた。

そしてツルツルを堪能している。


だがそれも無理もない話だ。性教育は以前よりかなり早い段階で

行うようになっているが、そもそも2人は学校に殆ど行っていない。


なにかそれっぽい行為が存在する事はテレビなどで知ってはいても、実際どういう理屈でどうなるのかは知る機会がなかった。


「あらあら、これはちゃんとした教育が必要ね。アケミさん、お任せしても宜しいですか?」


「はい、それも医務室務めの仕事ですもんね。でもなんか自分の汚れっぷりが浮き彫りにされたと言うか。」


アケミもそれなりにダメージを受けていた。


「ともかく、アイカちゃんエイカちゃん。戻ったら詳しく教えるわ。だから男の人の前でみだりに話しちゃ駄目よ。上も下もきちんと口を閉じておくの。それが自分を大切にすることに繋がるわ。」


「「はーい。」」


「間違ってはいないけど上下の概念は余計よ。アケミさん。」


トモミにガシっと肩を掴まれひえっと声をだすアケミ。

治療技術の優れたアケミでも、自分の中の毒は抜けないようだ。



…………



「この街は落ち着くわね。応援要請が有ってよかったわ。」



フユミは部屋風呂を堪能した後、霊体となって草津の上空を飛行していた。


「独特の香りに独特の文化。異世界を見るのも悪くはないわ。」


そのまま高速で周囲を飛び回り、明日からの観光名所をチェックする。

じっくり見るのは明日からだ。上空からとはまた違う景色が見れるだろう。



「今頃ヨクミは上手くやってるかしら。」



天然温泉はある意味魔法的な効果が高く、せっかくだからモリトに講義をすると言って部屋に連れ込んできたのだ。


ヨクミは相手が子供だからとテレもせずに混浴しながら魔法について教えていた。一応エチケットとしてバスタオルは巻いていたが。



「きっとモリト君は勉強どころじゃないと思うけど。」



ヨクミは訓練中に元の自分の姿を分身として作っていた事がある。

ロジウラでモリトはそれを見ており、大層心惹かれていたようだ。


きっとちびっ子のヨクミからあらぬ想像を膨らませていることだろう。

ヨクミはあの年頃の男の子の妄想力を侮っているのだ。


「それはそれで面白いかもしれないけど、その間私がお風呂に入れないのはいただけないわね。」


明日からは秘湯巡りでもしようかしら。と呑気に考えるフユミだった。



その夜モリトはノボセてヨクミの部屋に泊まることになる。

現在美少女で後のセクシー美女に介抱されて幸せではあるが、それは体調が万全ならの話である。


そして次の日の朝、引率者達にこってりと怒られる2人がいた。

しかしユウヤとソウイチは尊敬の眼差しで朝帰り君を見ていた。


チカラがないからこそ彼は認められる存在なのかもしれない。



余談だが、この休暇以降はヨクミ達はコスプレ広場に現れなくなった。

正式隊員となった為、多忙な日々を送る事になるからだ。


広場の参加者・関係者達は大きく落胆したが、彼女達を伝説と崇めて規範と設定することで自分達の手で盛り上がりを維持し続けていく。


有る種の宗教に近い形になったが、彼女達が残した功績はこの後何年も語り継がれていくことになった。



…………



「どういうことじゃこれは……」



10月12日午前。

ヘリコプターで山奥の村に辿り着いたミキモト教授は唖然としていた。

正確には村があるはずの場所に、だ。


彼は村人が調査を拒んでいると言うので自ら乗り出してきたのだが、村人が1人もいなかった。それどころか村の形跡すら無かった。


周囲の森も報告とは違い、奇妙な生態系の動物など見当たらない。

空から見た限りではハチミツ製造所の跡地も消えていた。


本当に誰もいないし何もない、ただの山と森だった。


「キツネにでも化かされおったか?せっかく貴重なサンプルが手に入ると思ったのにのう。」


しかし無いものは仕方がない。

これ以上無駄な時間を過ごすわけにも行かない。


「撤退じゃ!B班は残って周辺の調査をして報告するように!」




2時間後に研究室に戻ったミキモト教授は自分の机でため息をつく。

上等な椅子に座りネギ入り昆布茶で一息入れながら写真立てを手に取る。


そこにはかつての仲間たちの集合写真と、一人の少女の写真があった。


「共に平和な世界を作ると約束して50余年か。ナイトは倒したがそれ以降も酷いもんじゃ。」


その間多くの仲間が死んだり再起不能の身になった。

それでもミキモト教授は研究を続けて戦っている。


新しい兵器。新しいクスリ。新しい兵隊。そして新しい理論。


何時になっても争いは絶えず、敵に対して後手を取る。

それでもなんとか対応するがまた次の敵が現れる。


新しい理論、ミキモト理論はどんな敵に対しても有効なモノだ。

だがあくまで理論であり、その実証には金も時間も材料もまだまだ足りなかった。


「なんとかわしが生きている内に完成させねばならぬ。人でなくなったお前も見守っていてくれ、キサキ。」


かつて齢10歳にして共に戦場を駆けた少女、ナカジョウ・キサキ。


彼女との過去の約束を守るため、未来に向けて今日も研究に打ち込むミキモトだった。



…………



「うんうん。きちんと移植は出来ているようね。」


「結構疲れますねこれ。取り込みよりも後始末の方が、ですが。」



同じく10月12日。

異界の地に群馬の山ごと取り込んだバイト君は疲弊していた。

元の山の位置には村ができる以前の山を過去からコピペしてある。


村人達は蘇生の代償として生贄済みである。

彼らは渡し賃がそこそこ高かったので閻魔さんもお喜びであった。


そして一連の作業が終了したので、現在社長に確認してもらっていた。


「だいぶ腕も上がったようね。これならまた別の仕事も頼めるわ。」


「……社長が元気になって良かったですよ。」


「ホント貴方の扱いづらさには困ったものだわ。でも今回の事でまた色々見えてきたから、期待しているわよ。」


一時はバイト君の非常識ぶりに狼狽えた社長だったが、今は計算も進んで御することが可能と出ている。



「はいはい。それで今回の報酬はどんな感じで?」


「山の恵みの優先購入権でどう?もちろんハチミツも有りよ。」


「うちの店がまたパンケーキ屋になりそうで怖いんですが。」


「山菜おろし蕎麦や葉わさびとろろ蕎麦も捗るじゃない。」


「うちはとんこつラーメンのはずなんだけどなぁ。」


「それは今更な気がするわ。報酬は優先権と現金で渡す。ついでに里に降りた者達の経費もね。」


「ありがとうございます。それは助かります。」


「いいのよ。医者は必要でしょ?それじゃ、お疲れ様。」


「お疲れさまです。」


社長は満足して帰っていった。これからは食事事情も改善されるのが嬉しいのだろう。


「あの主任と副主任はコッチなら上手くやれるのかな……」


なるようになるかと魔王邸に戻る。


ここまで来たら、後は自分達で未来を掴み取ってもらうだけだ。




…………



「急にアパートの住人が増えたからなにかと思ったけど、そういうことだったのね。医者はとてもありがたいわ。」


「こうしてあの街はどんどん侵食されていくのね。」



10月12日夜。水星屋でマスターは、サクラに事情の説明をしていた。

この日は悪魔屋敷での営業の為、周りは当然化物だらけである。

だが早い内に説明したほうが良いかと思いサクラを呼び寄せたのだ。


人間社会での騒動に興味を持った連中がこちらに聞き耳を立てているが、それも娯楽の1つになるかとそのままにしている。


「マスター、あの山でハチミツ取れるんでしょ?パンケーキが美味しくなるの!?」


話が途切れた所を見計らって妖精族のお客さんが声をかけてくる。


「限定数は変わらないけど、そのハチミツを使う予定ですよ。」


「やったー!!」


「なあなあマスターって町おこしもしてるんだよな。面白そうだからオレたちも何か手伝える事はないか?」


「今はまだ攻めるよりも準備中って感じですからね。有事の際はお願いすることもあるかもしれません。その時はサービスしますよ。」


「「「おう、任せてくれな!」」」


ノリの良い化物さんたちである。

もしホラー要素が必要になったら声をかけようと決めるマスター。

そんな物が必要になるかは別として。



「もっちゃん、マスターとはどうなの?キスまで行けた?」



さすが元暗殺者の爆弾魔、唐突にキリコが切り込んできた。

急なコイバナに周囲のお客さん達もじっとコッチの様子を伺っている。


「こここ、こんな所で言えるわけ無いだろう!?」


「この様子だとまだみたいだね。」


「健全コース、ビギナー向けだしね。慣れるまでは時間掛かるよ。」


「シオンちゃんとリーアちゃんも同じくらいだよね。正直みんな、もっとがっついていくのかと思ってた。」


「わたたたた……」


「人にはそれぞれペースってモノががあるからな。ユズちゃんなんて凄いぞ。本当にオレを監視してるんじゃないかって思うくらい、じっくりこちらを観察してるもの。」


「彼女は私が育てた!」


「お前の入れ知恵か。時々エモノを見る目してたぞ、おい。」


契約をしていない彼女は急に襲いかかることは出来ないが、ギラついた目つきはたまに怖い。


「それだけマスターに対して真剣なんだろう。モテ期到来してるんじゃない?」


「結婚してから言われてもなんとも言えないが。」


「理解ある奥さんでよかったわね。私にも言えるけど。」



「羨ましい話だなマスター。ウチのかみさんなんてちょっと別の女見ただけで不機嫌になってたまんねえや。」


「それが普通でしょうしね。ウチは仕事柄特殊ですから。」


「それだけお相手いるんじゃ口説き文句考えるのも大変じゃないか?」


「いえ、それはそうでもないです。愛情関連の言葉は妻と娘にしか言えませんし。」


そういう夫婦ルールである。旦那の身体は貸すこともあるが、言葉は力を持つので愛情の言葉は他人に使うのは却下されている。


「かー!罪な男だねぇ。それじゃあ女は堪ったもんじゃねえだろ。」


「それを了承してもらったうえでのコトですから。」


「サクラさん、思い直したほうが良いんじゃないか?」


「問題ない、彼でないと私は前に進めないからね。」


「おう……世の中理不尽だな。」


「それはオレも同意するよ。いやマジで。」


話に付き合ってくれた化物さんにさりげなく日本酒をだしながら同意する。



やがてサクラは転移で帰宅し、代わりに当主様が来店する。



「マスター、席は空いているか?」


「いらっしゃいませ当主様、席は何時でも空いておりますよ。」


「うむ。では2席頼む。この者が外で彷徨いておったので引き込んでやったわ。」


見ると巨乳の蜂ルックな女性が引きずられていた。



「いらっしゃいませ女王さん、遠慮しないで座って座って。」


「よく来たな、故郷と共に悪魔の瘴気漂う地に囚われし哀愁の姫よ!今宵は漆黒のキリ――」


「むむ、でかい!」



声の主は化物さんである。マスターは声をあげたりしない。

ただただ視界に入れておくだけだ。ガン見すると妻にバレるのだ。


『ふーん。やっぱり目は行っちゃうわよね。私も見るけど。』


いや実はバレているが寛大な処置を受けている。その分夜にお返しすることになる。


「女王蜂よ、この店なら僅かな金でいくらでも食事ができる。お主も長なら堂々とと食すがよい。」


この異界に水星屋のような飲食店は少ない。

大体自炊で済むし、各勢力のお偉いさんは料理人を囲っていたりする。

お祭りのときに出店が立つくらいがせいぜいだろう。


なので一般人(化物)でも入れる店というのは貴重である。


「う、うむ。ではありがたく。」


「女王さん緊張しなくていいですよ。新参も古参もルールさえ守ればお客さんですので。ゆっくりしていって下さい。」


彼女はこの世界では新参である。しかも周りは化物揃いだ。

山では幅を利かせていたが井の中の蛙状態なのを思い知ったのだろう。


「では私はいつもので。女王蜂はどうする?」

「まだメニューがよく解らないので、おすすめで頼みます。」


「はい、お待ちっ!」


特製ハンバーグセットを当主様に、湯豆腐セットあんかけ付きを女王蜂さんに提供する。


「あまり辛いのは苦手かと思ってこちらにしてみました。」


「うむ、ご配慮感謝する。では頂くとしよう。」


2人揃っていただきますと挨拶するとパクパクと捕食していく。



「今日は主任さん達は来られないのですか?」


「あの者達は山の仕事に追われておる。それに……」


「副主任さんですか。彼は人一倍、人が苦手のようですしね。」


「助けてもらったのに済まないと思っている。」


「気にしないで下さい。仕事をして報酬も貰いました。何も問題はないです。」


「うむ、今日はここに来てよかった。しかし当主様は体躯の割に強靭であるな。先程は手も足も出ずに引きづられてしまったが……」


「腹をすかせた蜂の一匹くらい、なんてことあるものか。」


「あはは、そりゃオレより強いですからね。」


「ほんとに!?テンチョーだって1人で人外魔境してるのに!」


「オレのA・アームを片手で弾かれたらぐうの音も出ません。」


A・アームはとあるマンガからパクったマスターの必殺技の1つである。

ナイトのボスを吹き飛ばし、後に悪魔の国を消滅させた。

何でも屋の研修時には射撃とバックファイアで国を2つ潰している。

文字通りの必殺技であり、マスターが信頼を置いている技だった。


「えええ!?当主様ってただのお姫様なだけじゃなかったの!?」


「お、おい。あまり我の力が強いとか言わないでくれ。当主的には良いのかもしれぬが乙女的にはその……それにそう、出力だ!あの時1%ほどだっただろう?」


「まあ模擬戦でしたしね。でもあれは衝撃でしたよ。」


ついでに言えば属性も何も乗せてない。ただ1%の出力で精神力を放っただけだ。それでも本来は街が吹き飛ぶレベルなのだ。


「あの時思ったものだ。やはりマスターを引き込んで正解だったとな。」


「それは光栄ですね。さて、大体こんな感じなので、女王蜂さんも気張らず生きていってもらえればいいですよ。」


「私はそこまで強くないのだが……」


「なに、我も国を追放された身よ。仲良く行こうではないか。」


「よろしく、頼む。」


こうして女王蜂も友として受け入れた当主様。

もちろん後にハチミツを多く貰うための布石でもある。


だがそれ抜きにしても仲良くしたい思惑が在った。


「ところで女王蜂よ。いかにしてそこまでの胸を手に入れたのか教えてはくれまいか。」


「えっとその……ハチミツとか?」


「マスター。」


「今日の分のパンケーキは終わっております。」


「世は無常なり。」



当主様の予知は視えないものも多い。”成長”した彼女自身の未来はまだ誰も知らなかった。



…………



「あなた、今夜もサービス期間は続行よ。」


「ごくり。まるで夢のような光景だ。」



魔王邸の寝室でマスターの前には扇状的な姿の妻が”2人”いた。

2人の妻は左右からマスターに迫り、その気にさせていく。


「あなたのリピート機能を発展させた分身。気に入って貰えて嬉しいわ。」


「こんなの嬉しくないわけがないよ。」


妻の○○○は制限付きでマスターと同じチカラが使える。

それはマスターと心を繋ぎ、精神力を一部共有しているからだ。


そして彼女なりに考えて旦那が悦びそうな技を開発していた。

その1つが分身である。増えた身体は思いのままに動かせる。


分身体は意識を通してもいいし通さなくてもいい。

消耗は当然早いが、分身体の出し入れは自由なので困るほどではない。


この技を使いだしてからは誰が監視役を務めても口呼吸になるくらいにはこの夫婦は楽しんでいた。


「ねえ。セツナの妹、いつにする?」


「今はまだ、だね。オレも欲しいけどちゃんと計画通りに。」


「ふふ、そうね。でもすっかりその気にはなってるわ。」


「予行練習も大事だしな。将来の為にも付き合ってくれ。」


「「もちろんよ。愛してるわ、あなた。」」


左右の耳から囁かれたマスターは身体がビクつく。


「「「「オレも、愛してるよ○○○。」」」」


お返しに2人の両耳に次元の穴を開いて囁くように言葉を掛ける。


「「ひうっ!!」」


そのままイチャイチャ合戦に突入し、魔王邸の夜は更けていく。



こうして1つの騒動が終わり、それぞれが道を歩き出す。


それぞれが望んだ未来の為に。


お読み頂きありがとうございます。

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