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36 イナカ その3

 


「また、ヘリコプターか?」



 2008年10月10日、朝。群馬県の山奥の村に3機のヘリコプターが到着する。


 そのつぶやきは誰のものか。

 駐在警官かもしれないし余所者の医者かもしれない。そしてあるいは、離れた場所にいる熊八達も同じつぶやきをしていたかもしれない。


 村の中央寄りの広場に着陸すると、搭乗していた者達が物資をおろし始める。そしてその多くは子供であった。


 荷降ろしが終わった彼らは整列し、長らしい人が何か言葉を紡ごうとしたその時。青髪の女の子が大きく息を吸って叫んだ。



「イーヤッフゥウーーー!!山だぁぁあああああああッ! 山菜だぁぁああああああッ!」



 その声は村中に響き渡り、非常に迷惑だった。


「ヨクミ、静かにしてくれ。諸君、ヘリの旅はどうだった?急な話だが今日から林間学校を決行する!」


「「教官、酔った……」」


「あらあら大変、すぐに治してあげるからね。」


 双子のアイカとエイカがグロッキー状態でしゃがみ込むと、アケミが急いで介抱し始める。それを見たソウイチが抗議を始める。


「いくらなんでも急すぎじゃないです?オレらはともかく、女の子たちは大変ですよ!?」


 本来なら世間の連休が終わってから休暇を取る手はずだった。それが急に連休前に出発になり、見知らぬ山の田舎村に降り立ったのだ。


 しかも現在朝7時半。朝4時半に叩き起こされてここまで移動してきたのだ。ヨクミのボルテージの高さが信じられない。


「悪いな。オレも上からこの話を聞いたのが昨日なんだ。その代わり引率として、アケミさんとトモミを連れてきたから必要なものがあるヤツは相談してくれ。」


「ソウイチ君達ははじめましてよね。ケーイチさんの妻でトモミです。よろしくね。」


 ケーイチが知らぬ女の名前を言うと、黒髪ロングで鎧みたいなデザインの服を着た女が挨拶する。


「えぇ!? よ、よろしくです。すっげー!本当に美人だ!教官のストレスが生み出した妄想じゃなかったんだ!!」


 教官に美人の嫁がいると聞いても信じていなかったソウイチチーム。みんな口に手を当ててウソー!?といった顔をしている。


「お前らはオレを何だと思っていやがる。」


 低い声で脅しをかける教官だが、その横で当の本人は噴き出して笑っている。


「今回は周辺の森でサバイバル訓練をしてもらう。具体的に何をするかはこの村で情報収集してもらう。いいか?自分で見つけて、自分たちで解決するんだ。」



「「「えええええ、横暴だーー!!」」」



 温泉に行くと言っておいて、森の中に放り出されようとしている子供たち。その理不尽にかつてないチームワークを発揮する。



「「「せめてバーベキューは!? キャンプファイアは!?」」」



「こういう時だけなんてチームワークの良さなんだ。安心しろ。この課題をクリアしたら、今夜はバーベキューだ。その後は温泉街で3日ほど休暇、いやもっと延ばしても良い。」



「「「うぉぉぉぉおおおお!!やったぁぁぁぁあああ!!」」」



『ふふふ。苦労しているのね、あなた。』


『こいつら元気余り過ぎなんだよ。』


(教官の奥さんと子供たちの引率! ゴクリ、これは愛の試練かしら!)


(あらあら、アケミさんたら旦那のことを? 見る目がある女性ですね。ずいぶん素敵な魂をお持ちの様子。うふふふふ。)


 大人たちの思惑が顔に出たのかメグミが心配そうな顔をする。


(アケミさん、絶対良からぬことを考えているカオだ。大丈夫かなぁ。)


「それでは各自準備して情報収集にあたれ!森に入るときは予定ルートの申告と装備確認を忘れるな!」


「レーションを配るから、お腹が空いたら食べてね。この部署だけの特製品よ。しかもデザート付き。」


 各自アケミさんからレーションを受け取り、バックパックに詰めておく。



「なんか冒険者っぽくてワクワクするな。林間学校ってこんな感じなのか!」


「いくらなんでもフツーはこんなんじゃないと思うよ。」


「ユウヤ、今回もどっちが先にクリアするか勝負しようぜ。」


「望むところだ。今回も勝たせてもらうぜ、ソウイチ。」


「へっ、こっちには田舎者代表のミサキが居るんだ。負けねえよ。」


「黙れ豚野郎、あんたはフラフラしてないでキリキリ働きなさい。」


「「ユウ兄ちゃん、がんばろーねー!」」


 ミサキに引っ張られて連れて行かれるソウイチ。


「とにかく私達も村人達に話を聞きに行きましょう。」


「山菜の多い場所、教えてもらわないとね!」


 ヨクミはもう山菜しか見えてないようだ。



 …………



「はぁ、最近忙しすぎてかなわないな。」


「どうかされたんですか?」


 村の南側の池で黄昏れている医者を見つけたユウヤ達は声をかける。


「あー、君たちは政府のヘリでやってきた子たちだね。まだ若いのに大したもんだよ。」


 タバコを深く吸って息を吐き出す。


「実は最近困ったことになっててね。ここの特産品はハチミツなんだが、そのハチが暴走してね。みんな怪我をして帰ってくるから、ここの唯一の医者のボクはたまったもんじゃないよ。だから休憩してたのさ。」


「その話、詳しくお聞きしてもいいですか?」

「ああ、気分転換にいいかもな。実は――」


 一方その頃、ソウイチ達は村長の家にいた。


「やっぱこういうのは酒場か村長の家って相場が決まってるよな。」


「若いのに森の探索とは勇気があるのう。実はこの村には動物や虫なんかとも心を交わす者が現れる。そやつらにハチミツを作る仕事をさせておるんじゃが、ここの所連絡がとれんのだ。」


「その人達は超能力者なんですか?」


「普通ではないがよくわからぬ。この村では貴重な存在でな。ここより北の製造所におるんじゃが、会いに行くにも森の動物達が暴れおって辿り着けぬのじゃ。」



 この時、村長も医者も敢えて詳細を伝えはしなかった。



 村長からすれば村の恥部を事細やかに言うつもりはないし、医者も後で何をされるかわからない以上は愚痴程度の話しか出来ない。そして相手が子供である以上、さして期待もしていなかったのだ。


 説明を受けた後に無駄にやる気を出すソウイチに、ミサキが呆れるくらいには見ていて不安になる集団だし無理もない。


「さて、そろそろ戻らないと御老体に怒られちまう。森に入るなら気をつけてくれ。」


「ありがとうございました!」


 医者が語り終えて仕事場に戻ると、ユウヤ達も広場へ戻る。


「教官は居ないのか。あれ?あの家の影にいるのはアケミさん?」


「あの人は何をやってるのかしら……」


 こっそり近づくと独り言が聞こえてくる。


「むー、手際いいなぁ。どうやったらあんなに……」


「アケミさん、何やってるんですか?」


「メグミちゃん、これは戦いの前の下準備よ!そに情報収集は戦いの基本なの!」


 どうやらアケミは広場でせっせと荷解きするトモミを観察していたようだ。


「間違っちゃいないけど、今のあなたは間違っている気がしますよ。」


「トモミさんが気になるんですか?なら一緒に作業でもすれば良いんじゃないですか?」


「モリト君。この半年で成長したと思っていたけど、まだまだお子ちゃまのようね!」


(お子ちゃまって……)


 フクザツそうな顔になるモリトの頬をヨクミが指でまからかっているが、気にせずアケミは続ける。


「いーい? 女の友情は時として、友達と書いて決闘士と読むのよ!」


「は、はぁ……」



(実は丸聞こえなのよね。)



 トモミは弾薬などを分別しながらアケミの思いの丈という名のアホ話を聞いていた。


 勿論彼女のチカラ、「精神干渉」を使ってのことだ。

 15mほど離れているが、意識して聞き耳を立てる感じでチカラを使うとこの距離でも普通に聞こえるのだ。


 意識の探知”だけ”に絞れば数百メートルもでもいけるので、どれだけ卑怯臭いチカラか判るだろう。


(こういう時、自分のチカラをあまり良くは思わないものだけど。)


 陰口やあらぬ噂など、聞きたくなくても流れ込んでしまう事も多い。トモミが制御が甘かった時代では胃薬や睡眠薬のお世話になったものだ。


(でもアケミさんは不思議とにくめない、面白い魂をしているのよね。ちょっとこちらからお誘いしてみますか。)


 決心するとトモミは、アケミが隠れている方へ向かって声を荒げる。


「アケミさん、そんな所で何をしているんです?手が空いているならこちらを手伝ってください!!」


「は、はーい。ただいま参ります!」


 ビクッと緊張が走るアケミだったが慌ててトモミの元へ向かう。それを見たユウヤ達は「大人って面倒だな。」と遠い目をしていた。


「トモミさん、武器見せてもらっていいですか?」


「ええ、投げ物と予備弾薬はこれだけあるわ。」


「あれ、焼夷弾はないんですか? 通常のグレネードも。」


「ユウヤ君、ここは山の中なのよ?そんな物使って山火事や落盤、土砂崩れが起きたらどうするの?」


「あ! そうですね。今までの訓練だと結構使ってたのでつい。」


「ユウヤって変な所で迂闊よね。」


「医薬品もたくさん持ってきたから、必要なら私に言ってね。もちろん途中で戻ってきたら私が回復してあげるわ。」


「その時はお願いしますね。ところで教官はどこでしょう?」


「旦那なら村の入口近くの宿屋に行ったわよ。部屋を確保しないと私達全員野宿になるしね。」


「わかりました。そちらに行ってみます。」


 旦那発言にぐぬぬと唸るアケミを放っておいてその場を後にする。宿屋らしき建物の前まで移動すると、ケーイチが見えてきた。


「よう、情報は集まったか?」


「はい、熊八さんを探しにAルートで行こうと思います。」


「わかった。今回は自然相手だ。気をつけて進むようにな。」


 ユウヤ達の様子から、詳細は聞けなかったのだろうとケーイチは推測する。本当にこの地であった事を知れば呑気ではいられない。


「それとここが今晩世話になる宿屋だ。一息つける時はここの部屋を使ってくれ。」


「はい、ありがとうございます!」


 ユウヤ達は部屋で軽くミーティングをした後にAルートの森へ入っていく。ソウイチ達もすぐに準備をしてケーイチにBルートで向かう事を伝える。


(やはりソウイチも詳しくは聞けなかったようだな。それにしてもBルートか。ミサキが居るなら大丈夫か?)


 ケーイチは少し悩む。資料によるとBルートはかなり危険である。本当なら両チームともAルートで行ってほしかったが仕方がない。


(学校に連絡して応援を寄越してもらうか。でも上の体裁も……。いや、あの子の立場なら手伝っても大丈夫だろう。)


 そういって無線機に向かうケーイチは、もう1人の異世界人を思い浮かべるのであった。



 …………



『どうやらまた、この山に侵入者が現れたようだな。』


「はい、しかし今回は10人程度。こちらも消耗しているとは言え、どうとでもなりそうではあります。」



 ハチミツ製造所の北にある洞窟で女王蜂と主任が話し合う。

 副主任は洞窟前で見張りをしている。


 熊八その4は一度こちらに顔を出したが、補給物資を持って再び井戸の中に潜っていった。井戸に落ちた熊八その5が身動き取れないからだ。容態は良くないらしい。


『森は命の循環によりかつての力を取り戻しつつある。しかし新たな生命が芽吹くまでにはやや時間がかかる。危なくなればすぐにここへ逃げ込むのだぞ。』


「はい、女王さんにはお世話になりっぱなしで……」


『よい。我らとて、そなたらの知恵には助けられた。新たな時代に到れるかはわからぬが、やるだけやってみるだけだ。』


「はい。そういえば、何でも屋は現れたのでしょうか。」


『まだ現れぬ。だがあの社長とやらの行動を見るに、気まぐれ・神出鬼没なのであろう。そちらの動向は我らに任せよ。』


「わかりました。お願いします。」


 女王は蜂のネットワークを持っているので情報は逐一入ってくる。山の中なら大抵お見通しなのだ。



 …………



「県道まで3kmて思った以上に田舎に来たな。」


「私の実家なんて隣の家まで1kmとかザラだし、こんなものよ?」



 村の入口の立て看板をみてユウヤがぼやく。メグミは今は亡き自分の村を思い出していた。


 それぞれ武器を構えて森の中へ入っていく。彼らの装備はユウヤがショットガン。モリトはサブマシンガン。メグミはハンドガンでヨクミが通販で買ってもらった水鉄砲だ。


「ここから東に行けば良いみたいだから進みながら話そうよ。」


「山菜が私を待っている!!」


 モリトに促され東に進むと行き止まりになっており、立て看板があった。ここは本来なら通れるはずだった。しかし先の戦いの後の森の回復により、地形が変化してしまっていた。


「この立て看板は新しいな。昨日辺りに立てたばっかりに見える。なになに、私有地につき迂回しろだってさ。」


「行き止まりだし、それしかないか。」


「立てた人はコバヤシさん?集落から離れた場所なのに、何かあるのかしらね。」


「まあ、ちょっとくらい見て回ったほうが山菜が取れるかもよ!」


「ヨクミさんは完全に山菜メインになってるよね。」


 呆れるモリトだが、その能天気さには周りを元気にする力がある。その勢いで南側に迂回して進むと空からピンク色の鳥が襲いかかる。



「うおッこいつら頭を狙ってくるぞ!」


 ダララララッ!


「だめだ、空の敵は当てにくい!」


「ならこれでどうだ!」


 ズドン!!


 ユウヤに迫る鳥はショットガンの一撃で失速、墜落する。


「回復するね! てえい!」


 最初の攻撃で腕をさされた男たちの傷がふさがっていく。

 だがその横から巨大ムカデが現れ、回復中の3人を襲う。


「危ない、ヴァルナー!!」


 突如周りの水分を使って波を引き起こして3人からムカデを引き剥がす。ヨクミの必殺技のひとつ、水魔法のヴァルナーだ。

 ヴァダーと違って範囲型の攻撃で、水流により多段HITする。


「助かったよ、ヨクミさん!」


 男達はショットガンとサブマシンガンでムカデに止めを刺すと、そこに人影が現れる。服を着けてない腐った身体のゾンビだった。


「ゾンビ?ってことは訓練場から持ってきたのか?」


 パン!パン! ズドン!!


 メグミが足を撃って怯んだ所を、ユウヤが頭を撃ち抜き破壊する。


「さんざん戦ってきたし、これくらいならどうってことはないな。」


「こんな所まで人工モンスターを持ってくるなんて相当お金かけてるわね。」


 子供たちはこれが訓練だと思っている。このゾンビも人工物だと思っている。しかし実際は今日までに犠牲になった警官や隊員の成れの果てだった。


 ゾンビを見ても恐怖を感じずにあっさり倒せるというのは、日頃の訓練の成果と言えるだろう。それは教育と言って良いのか洗脳と言うべきなのかの解釈は、各々にお任せする。


「ヒャッホウ、これ知ってる山菜だ!採っておくね!


 ヨクミが適当に山菜を摘んでいる。

 そのまま進むと狭い道になり、立て看板があった。


「ここも迂回しろ?これ以上道はないしここを通るしかないな。」


「今度はオオバヤシさんって人が立てた看板みたいね。」


「仕方ない、このまま進もう。」


「あれ?なんか大きいのが近づいてきてるわよ!」


 10Mほど進んだ所で大型の何かが近づいてくる。



「通り抜け禁止と書いてあるだろうがあああ!!」



 それは巨大なカマキリ……のようで下半身はムカデのようで、顔は人間のドクロのようだった。


 さらに1mほどの大きさのカマキリが取り巻きとして現れる。


「コバヤシ、オオバヤシってカマキリだったのか!!」


 ダラララララ!!


 モリトがフルオートで撃ち始めるがユウヤが止める。


「落ち着け! デカイのはオレが引き付ける。みんなは投げ物か遠距離で援護してくれ!!」


 そういって目を怪しく光らせるユウヤは高速でオオバヤシに近づく。相手はカマを振るうがさくさくと避けてショットガンを叩き込む。


「フラッシュバンいくぞー!」


「ヴァルナー!!」


 怯んだカマキリの群れをヴァルナーで押し流す。


 オオバヤシのカマの横振りにユウヤは見誤って脇腹に一撃もらうが、怯むこと無く懐に入って高速ストレートの2連撃をお見舞いする。


 スドン、ズドン!! ……ボトリ。


 すると巨大カマキリの首が取れて動かなくなる。


「回復の光!!」


 すかさずメグミはユウヤを回復させ、モリトとヨクミが残りのカマキリを退治する。


「ふー、何とかなったな。急に決まったにしちゃぁ随分手の込んだ訓練だぜ。」


「まだ動かないで、傷が開くわ。」


「準備は前もって進めてたのかもしれないね。これだけ大掛かりになると半月は要るだろうし。」


「この世界の国はよくわからないことをするのね。お金の無駄にしか見えないわ。」


 回復が終わると川(村の下流)に掛かる橋を渡る。


「やっぱり山の空気は美味しいわね。」

「ねー。景色もいいし、見えるもの全てが美味しそう!」

「よっぽど山菜が好きなんだね。」

「私は山に住む種族じゃないから、こういう時は楽しめるだけ楽しまなくちゃ!」


「出だしは順調だしこのまま昼までには製造所に着きたいな。」

「それじゃ、油断せずにこのままいくとしよう。みんな、頼むぞ!」


「「「おーッ!」」」


 気合を新たに、次のエリアに向かうユウヤ一行であった。



 …………



「おーかみさん、おーかみさん。お腰につけたキンタロあめー。ぜんぶー私にたーべさせてー。」



 ソウイチ達がBルートの森に入ってすぐ、謎の歌を歌いながら森の奥へ進む女が目の前を通り過ぎていった。


 女は童話の赤ずきんのような姿をしており、上機嫌で進んでいく。


「なんだアレ。」

「いろいろ混ざってたわね。」

「怪しいけど追ってみる?」


「……キンタロ飴を、たべ? はっ!! なんて下劣な。」


「気は進まないが。どうしたミサキ、何かわかったのか?」


「うるさいわね、この豚野郎。サルガキはすっこんでろ!」


「えー、お前見た目だけは可愛いのに、何でそんなに残念なんだよ。」


「ミサ姉ちゃんは格好いいじゃん!」

「(私達には)凄く優しいよ?」


「お前らは頼むからこうならないでくれな?」


 そのまま辺りを警戒しながら進む。


 ソウイチの装備はアサルトライフル。ミサキは普通のライフルだ。どっちもライフル系なのは、狙撃による先制攻撃の為だろう。双子のアイカとエイカはハンドガンを持っている。9歳の2人には重い銃を携行することは不可能だった。


 やがて山道の曲がり角で人影を発見する。


「おい、さっきの赤ずきんだ!」


「もうひとり誰かいるわね。」



「よう、ねーちゃん。何こんな所を彷徨いてるんだ?」

「こ、これから家に帰る所です。どいてください!」

「こんな道を独りでか。ここらは迷いやすいからオレが送ってやるぜ。」

「結構です!独りで帰れますから!」


 そんな事言わずに とか、近寄らないで!などと問答を繰り広げている。


(あの女……?)


「おいおいマジかよ?みんな、あの人を助けるぞ!」


「「うん!」」


「待ちなさい、放っておいて先に進むわよ。」


 何かを察したミサキがソウイチを止める。しかしーー


「あほかっ、何言ってるんだミサキ!」


「そーだよ、ミサ姉ちゃん。見捨てるなんてだめ!」

「私も行きます!」


「はぁ、どうなっても知らないわよ。」



「へっへっへ、もう逃げられないぜ。」


「そこのお前!さっさと離れろ!嫌がってるじゃないか!」


「何だてめえら、邪魔すんじゃねえよ!見世物じゃないぞ!」


「さっさとその人を開放して消えろ!じゃないと――」


「「ゆるさないんだから!」」


「ちょっとあなた達!」


「お姉さんもう大丈夫だ。この男はオレたちが――」


「何勝手なことしてるのよ。せっかく今良い所だったのに!」


「え!?」


「せっかく衣装作って有給とって彼氏との旅行を満喫してたのに、これじゃ台無しじゃない!!」


「え、ちょっと、え!?」


「はぁ、やっぱりね。そんなことだと思ったわ。」


「「お姉ちゃんどういうこと?」」


「わからないから許されるとは思わないことね!少し社会の厳しさを教えてあげるわ!」


「スケさん、カクさん、行け!!」


 アオーン! と遠吠えが聞こえて2匹のオオカミ、のような犬が現れる。


 この2匹の名前は「透ける水着開発希望」と「核兵器禁止条約」だ。頭文字をとってスケさんカクさんと呼ばれている。


「くっ、でけえ犬だな!ここは重力で……」


「アイカ達は下がって、人形で撹乱して……」


「「大きい犬さんだーー!!」」


 突撃してきた犬2匹に何故か向かっていく双子。

 2人はタクトと鏡で並行世界の姉と妹の腕を呼び出して、盛大にモフモフし始める。


「「キャウン、キャウン!!」」


「なんだ、この手は!? スケさんカクさん、離れるんだ!!」


 もふもふもふもふもふもふ……。


 赤ずきんと狼男からしたら、急に無数の腕が現れて飼い犬が取り殺される寸前に見えていた。


「キュ、キュウン。」


 ビクンビクンしながら倒れるスケさんカクさん。


「スケさんカクさん、大丈夫か!?」


「落ち着きなさい、発情したツガイの豚さん?この近辺は現在、政府機関による訓練で使用中です。紛らわしい真似はしないでほしいわね。豚は豚らしく、隔離された小屋を使って発散してくださいな。」


「なんですって!?」


「うぐっ、酷い言われようだが国家権力には逆らえん。迷惑かけて済まなかったな、オレたちはもう行くよ。」


 2人は飼い犬を抱えて帰っていった。本当に紛らわしい連中である。


(まったく、迷惑なことね。あれじゃAKAZUKINじゃなくてA○KANZUKIじゃない。)



「なんか忘れ物があるな。持っておいて後で返そう。」


 あの2人と2匹の忘れ物と思われる小物入れの巾着を手に取る。中身は避妊具などの便利アイテムが入っていた。


「それで、何だったんだよ今のは。」


(プレイ)にはいろんな形があるの。解らないなら自分で勉強なさい。」


「「大人って難しいんだね。」」


「…………」



 ユウヤチームと比べて、しょうもないスタートを切るソウイチチームだった。



 …………



「野生動物に注意!なんとかショウが特に良く出ます。だってさ。」



 本格的に森の中へ入ったユウヤ達は立て看板を読んでいた。

 なにかが出ると書いてあるが、文字がかすれてショウしか読めない。


「アオダイショウかな?蛇の一種だね。」

「うえーあまり遭遇したくはないわね。」

「でもアオダイショウって人の生活圏に居ることが多いって

 聞いたけど、ここは微妙に離れてない?」

「餌になるものが多いとか。ネズミとかね。あとは――」


「私達の知らない斜め上の”なんとかショウ”が出るとか。」


「「「…………」」」


「やめてくれよヨクミさん。いくらオレ等の訓練がアレだからってこんな山奥で、山奥で……」


 先程のゾンビやカマキリを思い出したのか言葉が続かないユウヤ。


「ところでアオダイショウて毒とかあるんだっけ?」


「大丈夫、毒はないから万一噛まれても落ち着いてね。」


「いざとなったら私が押し流してあげるわ。ここは水分が多いから、水魔法を撃つのが楽でいいわね。」


 そろりそろりと森を進むと、通路を塞ぐように巨大な蛇が3匹鎮座していた。


「さっそくアオダイショウのお出ましだぜ!」


「アオダイショウにしては大きいけれど、気をつけてね!」


 蛇はクネクネと身体を左右に振りながら近づいてくる。


 ズドォン!!


 ダラララララ!!


 ユウヤがショットガンで先頭の蛇を怯ませると、後続も巻き込むフルオート連射するモリト。


 バシュン!バジュン!


 ヨクミの水鉄砲から圧縮された水球が2つ飛び出し蛇の頭を直撃させる。


「とどめよ、ヴァルナー!」


 ざばーっと水流が発生して蛇は木に打ち付けられて動かなくなる。


「みんな凄いわね。もう倒しちゃった?」


 1人、回復待機をしていたメグミが感心している。

 初見相手の場合は回復待機も重要なのだ。


「これくらいなら楽勝だな!」


「待って、こいつらの様子がおかしい!」


 よく見ると蛇たちの皮が破けて中から何か出てくる。

 蛇たちは脱皮して本来の姿に変身する。


「何だあの姿は!」

「まるでケンタウロスの上下逆版だね。」


 そこには人間らしき足に馬の首がくっついたような怪しい生き物が生まれていた。


 そのまま走ってこちらに噛み付いてくる。

 男達は避けようとするが、意外と小回りの聞く足さばきで獲物を逃さない。


 ガブリ!!


 2人とも防御し腕を噛まれるが、そうしなければ頭が危なかった。


「グッ、こいつめっ!」


(奇異な姿だが足は人間? ならそこを狙えば。)


「足を狙え! こいつら足はある意味普通だ!」


「普通ってなんだろうね。」


 ダララララ!! パン!パン! ズドン!!


「ヴァルナー!!」


 足を撃ち抜かれて再度水に流される。

 今度こそ動かなくなったそれらの首には、キッカショウというプレートが付いていた。


「ショウしか合ってないじゃない!」


 回復の光をばら撒きながら、ツッコミを入れるメグミ。


「なんとかなったか。冷静になれば足さえ奪えばどうってことはなさそうだ。」


「恐怖に飲まれず冷静に対処。どこに行っても同じだね。」


「あはは、この世界の山ってモンスターもユニークね。気持ち悪さが半端じゃないわー。」


 弛緩した空気が流れる中、回復を終えたユウヤは辺りを見回す。すると近くの木の洞に気を引かれる。


「うん?あそこになにかあるな。」


 ごそごそと木の洞から取り出したのはショットガンだった。


「お!これ今より強いやつじゃん!でも部品がちょっと足りてない?」


「あーここが壊れて欠けているね。でもユウヤの使ってたやつから持ってこれそうだよ。」


「なるほどいいね。やってみよう。」


 どうやら同タイプの新型ショットガンだったようだ。早速バックパックから工具を取り出していじり始める男共。

 メグミとヨクミは仕方なく周りを警戒している。


「こういう時、男子って楽しそうよね。」


「そうねー。私なんか見ててもさっぱりわからないけど。」


「出来た!やったね。」


「これで今までより素早く撃てるようになったぜ!」


 ユウヤとモリトが喜びの声を上げるのを生暖かく見守る女組だった。


 その後も蛇を倒しながら進むユウヤチーム。

 前衛のショットガンの強化のお陰でかなり楽に敵を倒せるようになっていた。


 進む度に山菜を見つけてホクホク顔のヨクミ。

 それによりモチベーションの上がるモリト。

 ユウヤのサポートの名目でくっついて行動するメグミも楽しそうだ。


「お、こんな所に未使用のフラッシュバンが落ちてるぞ。」


「何でここにあるかはしらないけど、ありがたく使わせてもらおう。」


 こんな感じで道中、たまに武器も拾えている。

 長丁場の訓練なので使えるものはどんどん回収していった。


 もちろんこれは先に突入した者達の遺品なのだが、子供たちはそれに気がついていない。訓練だと思い込んでいるからだ。


 更に進むとまた蛇が通路を塞いでいる。


「また蛇が来るよ! 変身するかもしれないから気をつけて!」


 モリトがスモークグレネードを投げて牽制する。


 ズドン!ズドン!!


 ユウヤがショットガンで弾をばら撒き相手の体力を削る。


「「「キシャァァァアア!!」」」


 蛇がスモークを抜けてくるとメグミとヨクミが距離をとって応戦する。やがて動かなくなった蛇は皮を破って中身が飛び出してきた。


「なんだ?ミイラか!?」


 そこには全身包帯巻きの大柄な男?が3人現れた。


「バイショォォオオ!」

「セイイヲミセロォォォ!」

「ベンゴシヲヨベェェェエエ!」


「なんか言ってるが、さっきのフラッシュバンだ!!」


 強烈な閃光とともにミイラ男の目を焼くと、モリトのフルオートとユウヤの頭狙いの2連撃で即死させる。


 相手が何者だろうとスキさえ作ればどうとでもなるのだ。


 倒れたミイラ男を調べるとスタンボールを持っていた。これは2つセットのボールで、相手をスタンさせることが出来る投げ物だ。


 そして首には損害賠償と書かれたネームプレートが付いていた。


「まさか、後で本当に請求されたりしないよね?」


 モリトがちょっと怖くなって聞いてみるが、その問いに応える仲間は居なかった。



 そのまま進むが蛇たちの度重なる攻撃により、支給された武器弾薬も残り僅かとなってきた。


 このままでは製造所まで辿り着くのは難しいだろう。


「みんな、ここで決をとる。このまま進むか先程見つけた斜面を降りて村に戻るかだ。」


 先程少し急な斜面を見つけて、そこを降りればこのエリアの最初に戻れそうなのだ。


「聞くまでもないよ。弾薬が無くちゃ僕はお払い箱だ。一旦戻ったほうが良い。」


「そうね、モリト君の強みを活かすには補給が必要よ。」


「仕方ないわねー。戻りましょ。山菜もたくさん取れたし。」


 こうして満場一致で村に戻るユウヤチームであった。



 …………



「ユウヤより進んでるといいんだが……」


「その競争思考はどうにかならないの?」


 Bルートを進むソウイチはライバル心を奮い立たせていた。

 森は少しずつ険しくなり、気を抜くと方角も見失いそうになる。


「せっかく全員同時に訓練するんだから、どうせなら勝ちたいだろう?」


「ユウ兄ちゃん達は万能チームだからどんどん進んでるかも!」


「私達も負けてられないね。」


「殲滅力ならこっちも負けてないからな。

 道さえ迷わなけりゃ近道な分、こっちが有利さ!」


「そういうのをフラグって言うのよ。」


 そのまま100mほど進むと森の険しさが一段と増す。


「いかにも迷いそうな場所に出たな。」


「早速フラグ回収?情けない豚ね。」


「まだ迷ってねえよ!いいかみんな、足元に気をつけろ。周りに注意を払って、方向感覚を狂わされないようにな!」


「「はーい!」」


「ええ、わかったわ。でも一番突撃しそうなのはあんたよね。」


「ほっといてくれ!」


 陽の光すらまばらにしか降りてこないような森を進む。

 道は曲がりくねり、似たような木々の並びは簡単に間隔を狂わせてくる。


「「ごめんなさい、道わからなくなっちゃった!」」


「おう、オレに任せてついてこい。」


「アンタだって半分迷い気味でしょう?」


 そう言いながらミサキは木に触れて何かを確かめている。


(この感じ、呪いめいた結界が張られている?)


 それは事実だった。主任と呼ばれる熊八は藁人形に呪詛を込めてこのあたりの木に設置している。


 知らず知らずの内に心に気持ち悪さを伝え、目や足をそむけさせて迷わしているのだ。


(余計な事してくれて……ん?誰が、何のために!?)


 ここでミサキが違和感を覚える。そう、これは誰かが設置したものだ。訓練なのだから設置したのは学校側の人間だろう。


 しかし、教官は昨日ここの事を聞いたと言っていた。

 つまり教官レベルでさえ知らない内に準備をされていた。


(まさかとは思うけどこれ……訓練じゃない!?)


 村のことはそういう設定なんだと思っていた。

 自分たちに緊張感を与えるための演出、そう思っていた。


 だがここに来るまでに遭遇した虫、動物、そしてゾンビ。



「ねぇ、みんな。一旦村に帰りましょう。」



 ミサキは気がつけば、そんな言葉を口にしていた。



 …………



『オオバヤシがやられたか。更にはアオダイショウも半壊しておる。』



 北の洞窟で女王蜂が集めた情報を主任達に伝えている。



「なんと、今日来たのは子供でした。あの子達にそんなチカラが!?」


「子供に武器をもたせるなど、なんてやつらだ。」


『お前たち、猶予はもうないかもしれぬ。製造所の仲間を連れて、別の土地に逃げるが良い。』


「逃げたくはありません!が、仲間の安否は気になるので少し様子を見てこようと思います。」


『うむ、それがいいだろう。だが急げよ。あの子供たち、只者ではないぞ。』


「「はい!」」



 …………



「何だよユウヤ、お前も村に戻ってたのか。」


「ソウイチこそ、逃げ帰ってきたのか?」



 村に着くとお互いのライバルに遭遇して挨拶を交わす。

 そんな中でミサキは険しい表情で周囲を見ていた。


(ココの事を詳しく聞きたいけど、村人は駄目ね。舐められてる。)


 それは先の情報収集の状況から明らかだ。

 かといって銃で脅すわけにもいかない。捕まってしまう。


「教官。少々お伺いしたいことがあるのですが。」


「なんだ?ここの情報なら村人から聞いてくれ。オレも詳しくは知らないからな。」


「……いいでしょう。ですがナカジョウを嵌めて無事で済むとは思わないことですわ。」


『あなた、ミサキちゃんに気付かれてるんじゃない?』

『まだ疑念止まりだが時間の問題かもな。だが手は貸せない。』

『悔しいわね。本来なら私達の仕事なのに。』


 大人たちはアテに出来ない。となると自衛するしかない。


「おい豚野郎。競争とかいいから、ユウヤ達と一緒に行動するわよ。」

「何言ってやがる。これは男の勝負なんだ。口挟まないでくれ。」

「私達も付き合うことになるんだけど。後で何されても口答えは許さないからね?」

「けっ、言ってろ。」


(ソウイチも駄目。となればユウヤチームに助言するくらいか。)


「ユウヤ、ちょっと彼女借りるわよ。」


「え!? いやまだそんなんじゃ……」


「え? ミサキちょっと、ええ!? ユウヤ、”まだ”って言った!?」


 ユウヤといちゃつくメグミの腕を掴んで民家の裏手に引き込む。ミサキはメグミの両腕を掴んで顔を近づけて警告する。


「メグミ、ちょっと話があるの。今回の訓練中、気を抜いたら駄目よ。」


「ええ?もちろんその気はないけど。」


「良い?心のギアを1段上げなさい。絶対にユウヤから離れちゃ駄目。見るもの全てから情報を得なさい。今回の訓練はそれが求められているわ。」


「わかった、わかったから離してよぉ。顔が近いって。」


 ほとんどキスする寸前まで顔を近づけてアドバイスを送るミサキ。人形が周りを警戒しているので百合的な見た目はガードされている。


「多分気を抜いたら今日、私達は全員死ぬわ。」


「ッ!!」


 さすがにそこまで言われて冗談とは思わないメグミ。だがミサキが何を知り、そこまで警戒するのかはわからない。


「詳しいことは解らないけど怪しいニオイというかコンセキがあった。メグミなら悪意に敏感だから気をつけておけば大丈夫。それがユウヤを守ることにも繋がるわ。」


「え、ええ。覚えておくわ。」


 腑に落ちない様子のメグミだが、ミサキはさっさと離れてソウイチ達に合流する。


 ソウイチはトモミから受けとった武具をバックパックに詰めていた。


「その分だとルートを変えるつもりは無いようね。」


「当たり前だ!都合よく勝負はフリダシに戻ったからな。一気に駆け抜けてやるぜ!」


「「頑張ろー!!」」



 …………



「「ソウ兄ちゃんひとつ聞いていい?」」



「奇遇だな。オレもお前たちに大事な話がある。残念なことに、道に迷った可能性がある。」


「「やっぱりぃぃぃいいい!」」


「あらあらフラグ回収おめでとう。役立たずの豚野郎はどうしてくれようかしら?」


 再度出立して最初のエリアを駆け抜け、Bルートの帰還前の地点から10分ほど進んだ所で、


 ソウイチチームは迷子になっていた。



お読み頂きありがとうございます。

ここでようやくゲーム版の3話冒頭の場面です。

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