33 ヨツギ
「マスター、死ぬなら予定日を伝えておけと言ったばかりだろう。」
2008年8月31日。裁判所でマスターは開幕面倒臭がられていた。お相手はもちろん閻魔様だ。
「お前のお陰でご近所様にあらぬ噂を立てられた。買い物で近所のオバサンと顔を合わせば、お盛んですねと言われる始末だ。どうしてくれる!」
「例の会員、なります?」
「検討しておこう。それで、今回はどうしたのだ。女に手を出しすぎて、遂に刺されたのか?」
「似たようなものですね。世継ぎ契約の事で相手が不履行起こしまして、保護者さんが逆ギレしてズドンです。手も足も出ませんでした。」
マスターのチカラは強力故に様々な勢力から世継ぎを作るように求められ、ハーン総合業務の仕事としてそれに応じた。
その中の1つに神社を中心にしたグループが有り、今日もそこへご機嫌取りに行ったのだ。
しかしそのグループは犯罪に関して潔癖症だった。
マスターの地球での所業を遅まきながら知った彼らは、マスターに契約解消を求めた。
その際「全てを元通りに」と求められ合意したのだ。
それを実行した所、契約対象の女性が泣き出し保護者の神様がマスターを吹き飛ばしたと言う訳だ。
相手の気持も解らなくはないが、言うことを全て聞いた結果吹き飛ばされるマスターは哀れだろう。
ある意味自業自得ではあるが。
「そうか、世の中私の様に心の広い女ばかりではないからな。感情が入りすぎると理不尽にもなろう。」
「では心の広い閻魔様にお願いします。没収された銃、オレに返してもらえません?」
「それは話が別だ。あれ持つとお前、手がつけられなくなる。無駄に制御が上手くなるからな。」
マスターは魔王事件までは3つの銃を使って戦場を生き延びていた。魔王事件でやり過ぎと判断され、ちょっとした事件をはさみつつ全ての銃を閻魔様に没収されていたのだ。
ちなみに拳銃・サブマシンガン・ショットガンを使用していたが、全て安心安全のエアガンだった。その中身は魔改造されていたとは言え。
「それは理不尽ではないのですかね。あの銃は頑張って細工したので惜しいんですよ。神様相手だと曰く付きの武器が欲しいですし。」
「瞬殺されたのにまた挑むのか?」
「この仕事を出したお偉いさん達のメンツがあるんですよ。神パワーもあらかた解析したので仲直りの喧嘩をしようと思います。」
「仲直りねぇ。どうせお高く吹っ掛けるんだろう?まあいい。それより女達が回復を終えたようだ。さっさと帰れ。簡単に死ぬなよ。」
「はい、お邪魔しました。」
そう言ってマスターは魔王邸に帰っていった。
…………
「おはよう。そして回復ありがとう。」
その言葉とともに起き上がったマスターに、
妻の○○○とカナが抱きつく。
「あなた!良かった!中々起きないから心配したのよ。」
「ありがとう○○○。ちょっと閻魔様に武器返してって頼んでたんだ。断られたけど。」
「旦那様、そういう時は一報ください。今回ばかりは駄目かと思いました。」
「カナもありがとう。お陰で戻ってこれた。」
そう言うと2人を抱きしめる。
○○○はマスターと精神を繋いでいるため、ある程度同じ力が使えるのでピンチの時には駆けつけることが出来る。
更にはその精神力を用いて彼の回復を促すことも可能だ。
カナは「精神制御」が使えるため、意識のないマスターに
呼びかけることが出来る。
今回もこの2人に助けられたということだろう。
「それにしてもあの神社、ちょっと躾がなってないようね。」
「ああ、対策したらすぐに向かうつもりだ。」
「奥様、旦那様。こう言ってはなんですが、再度立ち向かうのは危険なのではないでしょうか。」
「逆だよ。このままの方がオレの立場が悪くなる。理不尽なやり方に屈したことになるからね。しかもこの仕事は領主と悪魔の姫様がそれぞれ指示と許可を出したものなんだ。」
「そっちに不興を買うよりは、やんちゃな1勢力と戦うほうがマシよね。」
「なるほど、解りました。出来ることがあったら言ってくださいね。」
…………
「まずは武器の調達だな。使い慣れているのは銃か。」
魔王邸書斎のパソコンで武器を検索している。
条件は曰く付きの武器で、出来れば銃がいい。
近接武器のほうが曰く付きは多いだろうが、マスターは体術がすこぶる苦手である。
よって近接戦も苦手であり、ワザの精度も遠距離戦に比べて格段に落ちる。
相手が普通の人間なら卑怯くさいチカラでゴリ押しも出来るが、一応神を名乗っている相手では作戦が必要だろう。
「銃で曰く付きねぇ。なかなかピンとこないが……いや発想を変えよう。目標から辿ればいいんだ。」
目標、つまり結果だ。マスターは別に神を殺したいわけじゃない。○○○も言っていたが躾ければいいだけ、つまりビビらせればいいのだ。
「ならこの銃が縁起がいいな。こいつにしよう。」
マスターが決心した時、モニターには一丁のリボルバー拳銃が映っていた。
…………
「ただいまー!お土産買ってきたぞー!」
「おかえりなさい、あなた。」
「パパー、おかえりマさい!」
銃と言ったらココって国で目当ての物を仕入れたマスター。
家族サービスとしてお土産を大量に買ってきていた。
「このハンバーガー、迫力が違うわね。」
「ジュースの色がミステリアスです。」
「パンケーキミックスはおやつに使えそうです。」
「アメ、 きらきら!」
「お菓子がたくさんあるー!!」
どうやら喜んでもらえて満足そうなマスター。
セツナがカラフルな飴の袋でキャッキャしてるのが可愛い。
「俺はちょっとやること有るから、お土産は自由にしてくれ。」
そう言って席を外したマスターは、訓練場に向かう。
訓練場は新しく設置した設備であり、体育館ほどの大きさである。入口には強固な壁の部屋が設置されていて休憩や観戦ができる。
いざとなれば壁のない異界に出来るので、多少暴れても問題が無いように出来ている。
「さて、まずは細工していかないとな。」
取り出したるは8インチのリボルバー拳銃、アナコンダだ。
相手をビビらすという目的から連想したのが、蛇に睨まれた蛙。安直だがこの銃を選んだのはそれが理由だ。
一度部品を分解して、全て自分のチカラを注ぎ込んで固定する。これにより滅多なことでは壊れない武器となるのだ。
組み立てると今度は、ワザの補助に使うチカラの回路を
位相をズラして埋め込んでおく。
過去に使ってきたワザ、新規に登録するワザ、後に登録できるスロット。様々な細工を施していき、ただの拳銃を最狂の兵器へと組み替える。
「思ったより素直に付与が進んだな。リボルバーとは相性がいいのかもしれない。」
続いて弾丸への細工だ。
こちらは本体と違って効果そのものを回路にして埋め込んでいく。例えば着弾したらマグマが吹き出たり、氷山の氷が発生したり。
相手に油断してもらう為に、一見何の効果も無い様で致命的な効果を発揮する物も幾つか入れておく。BB弾と比べて桁違いに大きいので、付与も楽だ。
なぜ1つの弾丸に幾つも付与するのか不思議に思うかもしれないが、マスターの銃は時間遡行による自動リロードが可能である。
なので効果を込めれば込めるだけ攻撃の幅が広がるのだ。
後はこれを撃つ時にどの効果を発揮させるか選ぶだけ。
選ばなければチカラで強化されたマグナム弾が飛ぶだけだ。
銃に弾を込めて更にチカラを込める。するとアナコンダは白く輝き明滅する。その姿は命の脈動に思えた。
「うん、対神パワーも付与できた。これから宜しく頼むよ。」
そういって射撃練習に臨むマスターだった。
…………
「世界の敵、女の敵が性懲りもなく現れおったか。」
「別に誰も敵に回すつもりはないですが、みなさんが勧善懲悪が大好きなだけかと。」
9月1日。異界の神社の境内にて、神を名乗る家主さんとマスターが対峙する。
家主さんは上等な着物をお召になり、閉じた扇子をフリフリしている。これが当主様ならお可愛いのだが、お相手のお肌が戻してない干し椎茸ではなんとも言えない気持ちになる。
「それで今日は何の用だ?こちらはお前など顔も見たくない。さっさと立ち去れい。」
「相手にされないのも困るので、用事がないなら作りましょうか。」
そう言って取り出す1本の座薬、のような何か。
先日社長のツテで手に入れた、巨大な座薬のようなモノだ。
「なんだ、その鉄のカタマリは。神にそのようなもので対抗できるとでも思うたか!」
「うわ、これ見てわからないって ここの神様って原始人?さすが戦前の生まれは違いますね。トシ取ると自分が一番偉いと思ってるから、自分以外に興味ない典型的なご老人って感じです。こういうお方がモールとかでゾンビを引き入れるんですよ。」
ビキッ!
怒りマークが額に浮き出る神様。
意味はわからなくともバカにされた事はわかるらしい。
「よくぞ言うたわ、新米悪魔が!昨日は運良く生き延びたようだが、ここで消し去ってくれる!」
神様がやる気になったのは良いが、遠巻きに様子をうかがっている神職の皆様は顔面真っ青だ。
この座薬が火を吹けば、お尻どころか全身吹き飛ばされて
干し椎茸さんがきのこ雲に進化してしまう。
それでも恐怖からか誰も動かない。
「レンタルとは言え領主の使いに理不尽に牙を向いたこと、悔やむ前に消えないでくださいよ?」
お互いに神パワーと精神力を高めて臨戦態勢になる。
「自惚れるな、新米!」
神の扇から6本の光の矢が飛んでくる。
「水で戻してあげますよ、干し椎茸!」
「「「ズガン!!」」」
アナコンダを全弾撃ち、光の矢4発を迎撃して2発をバリアで受ける。辺りに爆煙が舞い、視界が0になるが問題はない。
「ふん。どうやらた少しは対策したようだが、全ては防げなかったらしいな。」
「いや、防げてるよ。今度はこちらの手番です。」
迎撃に参加しなかった2発の1発が地面に着弾。マグマを発生させ神様の足を焼く。一応神を名乗るだけあって、この程度では足が溶けたりしないようだ。
「ぬあッ。 貴様、小細工を!」
「そうやって見下してばかりいるから対処が遅れるんですよ。」
その時最後の一発が上空で弾けて大量の海水を落とす。
神社が床上浸水まったなしである。
神職の皆さんは敷地の外まで流されていった。
「俺のリロードは保守的でド素人だ!」
マスターはアホなことを言いながらリロードしてみせる。
1度弾をこぼしてしまったので、たしかにド素人だろう。
「がぼがぼがぼ、おのれーー!」
激昂する神様だが、足の溶岩が固まり動きが鈍っている。
「少しはシワが消えたんじゃないですか?塩分とり過ぎのようですが、血圧気をつけてくださいよ。」
「貴様ーーーッ!!」
扇をやたらめったら振り回して光の矢を放つ椎茸さん。
一振りで6発も飛んでくる矢を最低限の迎撃で凌いでいると、
椎茸神がキツネやら蛇やらカエルやらを召喚し始める。
一体、何の神様だよと思うくらいに節操なしなメンツだ。
「ならばこちらも、ヒュドラ召喚だ!」
弾丸を全弾地面に撃つとそこから巨大な蛇の頭が6匹現れる。
3Dホログラムとの合せ技な演出なだけで、別に召喚したわけではない。そもそも現れたのは竜種ではなくデカイ蛇だ。
しかしマスターのチカラで空間を弄り、質量のある化け物であることには変わらない。
お互いの召喚獣が衝突して迫力ある戦いを繰り広げる。
「中々やるではないか、しかし新米、何発撃った?」
椎茸はこちらがリロードしていないことに気が付き、1匹の召喚獣を迂回させてこちらに回す。
ズガン!!
「7発目だと!?」
「別にこの銃、リロード要らないし。」
ズガン!!ズガン!!
召喚獣を撃ち抜きながら椎茸に近寄るマスター。
「お前さっき弾込めしてたじゃないか!」
「リボルバーを使うなら一度はやってみたいでしょ?」
動けない神様の顔にアナコンダを向け、焦らす。
「こんな事をしてタダで――」
「テンプレセリフは休日出勤の時だけで結構です。」
ズガン!! ズガン!!
椎茸神の口の中に容赦なく弾をぶち込む。
「神といっても案外俗っぽいのですね。追い詰められた時のセリフは悪役そのものだ。」
マスターが撃ったのは特殊効果を発動させた弾であり、それ自体には殺傷能力はない。だが――
「うがっ!げも……マズイーーーー!!!」
「あなたは世間知らずの椎茸のようですからね。世界一のアメをプレゼントですよ。」
椎茸神の口の中には大量の猿未悪姫というアメが入っていた。
精神の集中が乱れたせいか、召喚獣達は消えた。
椎茸はアメを吐き出したが、まだ銃を向けられているので
ビビってしまい完全に戦意喪失状態だ。
戻ってきた神職の皆さんが恐る恐るこちらの様子を伺っている。そこへ1人の巫女さんが走ってきて、椎茸の横で土下座する。
「○○○○様どうか、どうかお許しを!お怒りをお鎮め下さい!!」
彼女は世継ぎ契約を結んだ相手だった。
だがマスターの経歴を嫌って元通りにしろと言い出した神職のオッサンを、止めるどころか同意した女だ。
さらに未経験の身体まで戻したら泣き出した女である。
イカしたイカれ具合だ。
「俺が許す許さないの話じゃないんだよね。君は強引な手段で世継ぎ契約をもぎ取ったじゃない?でもその結果、領主の使いであるオレを理不尽に攻撃した。この異界に対する反逆だよ。」
「はい、仰るとおりです。私達はココでは新興の徒であるため強気で事を起こしたのが原因です。」
「自覚してるなら話は早い。ならどうする?あそこの座薬を受け取るか、この世界から退去するか。」
「なにとぞ、なにとぞご容赦を!」
「イカれてる君達を見逃すと、もっと酷いことになるしなぁ。」
「はいはい、そこまでよ!」
新たな声がしてマスターの横に年齢不詳の女が現れる。
「おっと社長自らお出ましですか。」
「バイト君、あなた脅すにしても追い詰めすぎよ。ある程度脅したところで一気に致命傷を与えるの。」
「あー、それは解る気がします。何するかわからないですもんね。」
「領主様、どうか御慈悲を!!」
「OKOK。あなた達はここに住んでていいし、下手なことしなければ神とその眷属の活動も認めるわ。」
「ありがとうございます!! ありがとうございます!!」
「領主殿、かたじけない。」
必死に礼を言う巫女さんと、のんびりな神様。
「ただ、ちょっとした罰を受けてもらうけどねしかここここかそんな不安そうな顔しないの。結界を1枚張ってここを守るだけよ。」
ガクブルしている神と巫女。元気づけようと明るい調子で語りかける領主。
「バイト君、君の自宅のセキュリティってかなり強いよね。」
「えぇ、環境が環境だし、立場も立場なもので。」
「おんなじのここに使ってみて。」
「うっ……わかりました。ちょっと敷地一周してきます。」
一瞬声を詰まらせるマスターだが、別に社長に不満を覚えた訳ではない。
思わず、うっわーまじかよこの外道!と言いそうになって堪えたのだ。今は冗談ではなく真剣な場面なのだ。
空に飛び上がって神社の敷地の境界線に弾丸を打ち込んでいく。これは結界の発動・維持の為の触媒とする。今はまだ効果は発動させない。
「戻りました。いつでも発動できますよ。」
「そう? じゃあ巫女ちゃん、何か皆に言う事ある?」
領主様に促されて巫女さんは立ち上がり、神様や神職の皆さんに語りかける。
「私は、自身の身勝手でこのような結果を引き起こしました。これからは正々堂々と生きていくつもりです。どうか神様のためにも、皆さんのお力をお貸し下さい。」
巫女さんが話し終わると様子を見ていた神職の皆が拍手をする。
「皆さん。ありがとうございます!!」
「我も皆に迷惑をかけた。不甲斐ない神だが力を貸してくれ。」
だいぶ場が暖まった頃合いで、社長がマスターに合図する。
「NO男頓セキュリティ起動。」
少しだけ地面が光ったような気がして、周囲を見回す巫女さんと神様。
そこにはマスター以外の男が、誰も居なかった。消えていた。魂すら。
「じゃあ約束通り、ここに住んでていいわ。もうオイタしちゃダメよ?」
「「…………」」
生活に必要な男手を、信仰心の高い神職を、反抗する気力も奪う。別勢力への見せしめと、バイト君へのちょっとした教育も施す。1つで幾つもの成果を出した社長は満足そうに帰っていった。
「生まれた子を消滅させた代償ってところですかね。同情はしませんが、何かあったらこれで連絡下さい。」
マスター以外の男が入れなくなった神社。
簡易版携帯を渡して、連絡手段だけ確保しておくマスターだった。
ちなみに座薬は回収した。ヤケになって使われても困るので。
…………
「ええー!? マスターの子供じゃなかったの!?」
魔王邸に帰るとメイドの棒倒し水着バージョンを食らったマスター。シオン・リーア・ユズが気を使って慰めようと飛びついたのだが、○○○からネタばらしされて驚きの声を上げる。
もう少し感触を楽しみたいマスターが渋々解説を始める。
「あの神社は異界での歴史はオレと大差ないんだ。世継ぎ契約にも最初は無関心だったしね。」
マスターを圧倒できる神パワーがあったのだから、マスターの血は不要だっただろう。
「だがあの巫女さんが宮司さんの子供をお腹に宿してね。体裁取るために慌てて世継ぎ契約に手を出したのさ。」
「監視役で見てて、ちょっと可愛そうとか思った私がバカだったわ。」
「マスターを隠れ蓑にしたのね。許せない。」
「人間ってだんだんわかってきたわ。悪い方に。」
AI組が人間不信になりつつある。
マスターの側に仕えてればそうなるのも不思議ではない。
「もちろん初回の交渉で気がついて手は出さなかったけど、やっぱり体裁の為に2人きりの部屋に押し込められたね。」
「それじゃあ契約を解消されたのって……」
「契約続けてたらもう1人、今度はオレの子を産む事になるからね。オレの経歴が丁度いい言い訳になったのだろう。」
生まれたのはマスターの子ではない。なので契約を続けると、好きでも無い男の子供まで産まなくてはならなくなるのだ。それは巫女さん的にNGだった。
「あとは皆も見た通りだ。全て元に戻せと言われて子供が消滅。最終的には巫女さんの愛する?宮司さんも消えた。」
実際に元に戻せと最初に言ったのは事情を深く知らないオジサンだ。だが彼女を含め、事情を知っている者も交渉で優位に立てるならと理由を話すこと無く同意してしまった。
マスターの事をナメていたからだ。でなければ絶対に止めている。
「まさに自業自得というか。しょうもない嘘をついて全てをダイナシにするパターンだね。」
沈黙が訪れようとしたが、シオンが疑問を口にしたことで回避する。
「世継ぎ契約の子供ってマスターのチカラは使えるの?」
「セツナ様は使えるみたいだけど。」
「でも魔王事件の子供がみんな使えたら大変なことになるんじゃ。」
「きっと、オレのチカラは誰も使えないだろう。」
「セツナは旦那の遺伝子もそれなりに入ってるけど他の子はね。」
主夫婦から驚きのカミングアウト。3人組はええー?と声を上げる。
「世継ぎ契約はあくまで相手のチカラを継承させるようにオレの遺伝子は殆ど入ってないよ。魔王事件も似たようなもんだね。」
「それに旦那のチカラがもし使えても、1回使ったら死ぬわよ。燃費悪すぎて大人でも昏倒するレベルなんだから。」
「その点、セツナは凄いよな。才能も環境も相性良いんだろうけど。」
マスターが人間だった頃の唯一の子供のセツナ。
常に時間がおかしいこの家で過ごすことで馴染んでいるのだろう。
「その話が本当なら他の勢力の皆さんはお怒りになられるのでは。」
「元々オレのチカラについては運次第ってことになってるし、相手のチカラをそのまま引き継ぐから才能があるのは間違いないし。」
「相手に損はない話よね。旦那をレンタルしている身としてはいちいち文句言うなって感じだし。」
それを聞いた3人娘は何も言えなくなる。
ユズはまだだが、シオンとリーアは借りる側なのだ。
とはいえ進展具合は2人とも小学生レベルのソレではあるが。
「世継ぎはチカラだけで決めるものでもないでしょ。絶対に仕事を継がなくちゃいけないわけでもなし。」
「じゃああなたはセツナにどう育ってほしい?」
「やりたいことを見つけて好きに生きれば良いと思うよ。セツナだけじゃなくて、今後作る子供たちもね。でも、結婚相手だけは厳しく見定めさせてもらうけど。」
そういって○○○を抱き寄せると彼女は嬉しそうにキスをした。
…………
「…………」
神社は活気が無くなっていた。
男たちが消え、神と僅かな巫女のみがそこに残った。
男衆を確保しようにも領主の使いの結界のせいで、敷地内に入った瞬間消えてしまうだろう。
先程連絡をとった所、1年はこの状態を保つらしい。ついでに近所の水場の1角を慰謝料として支払った。
子供とのふれあいキャンプ地として使うようだ。
そういう意図があるかわからないが当て付けのように感じる。
「おのれあの小僧。この屈辱忘れんぞ!」
「そう?じゃああと1年追加ね。反省しないと増える一方よ?」
神が愚痴ったその後ろには領主が居た。結界の効果を倍に伸ばされた神社はもう、大人しくするしか無かった。
彼女らが世継ぎを残すには、まだ時間がかかりそうだった。
お読み頂きありがとうございます。