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30 オセワ その1

本日は4話更新予定です。

前3話でお気づきかもしれませんが、しばし魔王サイドの話が多めになります。

初期に比べると、ややデリケートな表現が増えますのでご注意下さい。

 


「君等ね、もう少し協調性を持ってもらいたい。」



 2008年8月4日魔王邸。

 マスターは特級メイドの3人にお説教をしていた。


「オレのサポートは交代制だと言ったはずだ。なぜ全員でオレに付く。妻のお付きは?セツナの世話は?」


「「「申し訳有りません!!」」」


「申し訳有りません旦那様。私の管理が甘かったせいです。」


「クマリはよくやっている。この3人が機能してないのは本人の問題だ。」


 彼女達が来てから1ヶ月。優先順位やルールは覚えさせたのだが、マスターのことになると途端に他がポンコツになる。


「シオン リーア ユズ。君達にはかなりの高待遇を与えている。それで最低限の仕事さえ出来ないのであれば降格もありうるぞ?」


「それだけはご容赦を!」

「う、がんばる……」

「私はあなたの為にっ!」


「とりあえず今日はもういい。妻の所で手伝ってくれ。クマリ、オレのサポート頼む。」


「はい。わかりました。」


 そう言ってサポート室に向かうクマリと、現場に戻るマスター。

 残された3人はしょんぼり気分でマスターの妻の元へ向かうのだった。



 …………



「うわっとと、これも防ぐか。だいぶ強くなったな。」



 XXXX年X月X日。科学が進んだ異世界。

 通信会社と提携している工場に強盗した帰りである。


 工場側も当然そのまま逃がすような真似はせず、田舎者にレーザーのシャワーやダイズガン等を浴びせている。


 しかしそのどれもマスターのバリアは貫けなかった。


「やっぱ社長の攻撃を解析したからかなぁ。」


 先日の社長の一撃は大変参考になった。


 今までのバリアを容易く貫き宇宙まで飛ばされた時はマズイと思ったが、直前で妻に渡したセーブデータを読み込んで助かったのだ。


 自身の全てをコピペして、時間凍結した小型のクリスタル。

 これが彼のセーブデータである。


 それはともかく。その時の攻撃データをいじくり回して社長の攻撃も防げるバリアを作ることに成功したのだ。


 社長の術式は膨大かつキレイな計算の上にある。


 いくら計算の集合体であろう科学の武器でも、改良したバリアを貫く事ができなかった。


『旦那様の進歩は目まぐるしいですね。』


「進歩って言っても手動だけど。」


『だから良いのです。お手製感がたまりません。』


 マスターが結婚前から仕えているクマリは、その過程をよく見てきた。最初は単純な物理と精神攻撃を防ぐ盾だった。


 それを攻撃を食らう度に手作業でバリアを改良していくのだ。その地道な姿がクマリの心のおかしな所を刺激したのだろう。それは両親から受け継がれた血かもしれないが、これについては今は関係ないので置いておく。



「あの3人はどうしてる?」


『カラオケルームで奥様たちに歌ってます。』


「そうか、そっち方面で何かやらせても良いかもな。」


『そうですね。なにか趣味でもあれば違うかもしれません。』



「そろそろ出口だな。お土産にこのダイズガンを頂いていこう。」


 ダイズガン。品種改良した豆を相手に植え付け、

 苗床にしてしまう実験的な武器だ。


 本来は食料確保のための道具だったのだが、

 犯罪者をお手軽に処分するのにも使われるようになった。


 それを引きちぎって倉庫に入れると、工場から脱出するマスターであった。



 …………



「はい、こちらがお求めの高性能3D映像装置です。」



 木造の社長宅に帰還したバイト君は、社長室に戦利品を山積みにする。


「……よくやったわ。報酬は副社長から受け取って。」


「はい。あとこちら、お土産のダイズガンです。食糧危機に役に立つとか何とか。」


「ありがとう。また頼むわね。」


「はい、それでは次がありますので失礼いたします。」


 パタンとドアを閉めて出ていくバイト君。

 次は他勢力のご令嬢と”会う”予定だった。


「なんであの任務を1分で終わらせてくるかしら……」


 3D映像装置の確保を頼んだ理由は簡単だ。

 先月の七夕祭りに影響を受けた各勢力からの要請である。


 それは別にいい。どうせ暫くはロクに使えない。

 だがその確保の為の任務は敢えて難易度を上げていた。


 さらなる性能を求めて科学の発達した異世界に向かわせた。

 そこで普通に購入すれば良いものを、敢えて強盗をさせた。


 出入り口から入って堂々と強盗する。それが社長の指示だった。


 バイト君の訓練の為という言い訳の下に、その性能を測ってみたのだ。


「実際のところはあの世界に移動してから、1分後のここに転移してきただけなんでしょうけど。」


 そんなの教えてないし指示してもいない。


 というか本当は警備システムでピンチになる計算だった。

 それが無傷でお土産付きと来たもんだ。


(いつまで抑えておけるのかしらね。)


 自分の本気の攻撃を食らって無傷で生還、気が付かない内に下着を履かさられたという事実。


 色々察して遠い目をするが、別に問題はない。

 バイト君は余程でない限り牙を向くことはないのだ。


 彼との子供やら何やらで既にそう仕向けてあるのにも関わらず、その心配をするくらいに社長の心をかき乱すバイト君であった。



 …………



「今日の訪問先もえらく積極的だったな。」


「それだけ旦那様に魅力を感じているのでしょう。」



 魔王邸の大浴場で、クマリはいつもの洗い作業をしていた。

 先月の宣言以降、その姿はすっぽんぽんである。


 日によってはキワドイ水着などの衣装を着ることもあり、メリハリを付けているようだ。


 クマリの体格の中では理想的な肉付きのそれは、妻一筋のマスターといえど、テンションが上ってしまう。


「こんにちは~、今日もお元気ですね。」


 ひときわ元気な部分へご挨拶するクマリは、明らかに楽しんでいる。


「うぐっ、オレにと言うよりオレのチカラに、だと思うけどな。」


 頑張って理性を保って会話を続けるマスター。


「旦那様のおチカラは旦那様そのものだと思うのです。あの3人だってそうやって惹かれていたのでしょう?」


「あいつらかー。もう少しルールに沿ってブレーキ踏んでくれると良いんだけどなぁ。」


「私ではあまり言うことを聞いてくれないんですよね。」


「権利あげすぎたかなぁ。少し降格したほうが良いか?」


「それだと何もしてもらえなくなりますよ。家族であることが働いてくれる条件なんですから。」


 話しながらもねっとり丁寧にマスターの身体をしげ……洗うクマリ。


 女のコンセキを除去しつつ、ふと気がついたことを口に出す。


「そういえばあの赤い糸、4本から6本だったと思うのです。」


「え、そんなに出てたの?」


「はい、僅かな間でしたので数え間違えかもしれませんが、

 4本は見えたのです。つまり……」


「最低あと1人はどこかに居るというわけか。もしかしたら4人揃って初めて機能するとかか?」


「どういう人物かはわかりませんが、可能性はあるでしょう。」


「なるほどなぁ。わかった、後で調べてみよう。」


「旦那様のお役に立てて何よりです。ご褒美として私を洗ってくださいませんか?」


 うぐっと黙り込むマスター。

 今そんな事をすれば、絶対洗うだけでは済まない。

 立場が上のものがそういう事をするのは非常に良くない。


「以前キリコちゃんは洗ってあげましたよね?もしオキモチが決壊されましても私は大丈夫ですよ。」


 そういって交際契約書を胸から取り出すクマリ。

 まるでコーモン様の印籠のように掲げている。


『あなた~ 見てるわよぉ。男ならびしっとキメなさい!』


 心の中で妻が、許可と応援と言う名の脅迫をしている。


「わかった。じゃあここに座ってくれ。」


 追い詰められたマスターは覚悟を決めるのだった。


 その日。魔王邸の時間は1日伸び、大浴場とクマリの自室が大変な事になった。


「あわわ、あのクマリさんが足腰立ってないです。」

「とても興味深いニオイ。くんくん。」

「くんくん。いや違ッ、アレなソレはポイよ!」


 事後処理に現れた3人はその光景に夢中になり、役に立たなかったので普通に時間を操って処理した。



 …………



「私は幸せものです。」



 自室でクマリは、寝ながらそう呟いた。


 クマリがマスターと出会ったのは2005年9月。

 とあるお嬢様学校で高校1年の2学期の時だ。


 他の生徒に比べたら家柄と性格が弱い彼女は、陰湿ないじめを受けていた。


 エスカレートしたそれは、彼女が母親になる権利を奪った。


 病室で悲嘆に暮れていた所、マスターが現れてとんこつラーメンを奢ってくれた。それはとても暖かく、力強い味だった。


 経緯を話した所、使用人になるなら現状のすべてから助けてくれると約束してくれた。


 イジメに加担した生徒達は、それ以上一族を増やせなくされた。今も病院かにいるか、一途ではない川を渡っている。

 学校側も、手痛い仕打ちを受けたと聞いている。


 実家には住み込みで働く事を告げ、その給金の高さに驚かれた。


 私は身体をすべてチェックされた。

 もちろん恥ずかしかったけど、完全な健康体になり安全で優しいお仕事と毎日を頂いた。


 なんとか恩返しをしたかった。

 日々の仕事はもちろんのこと、自分の将来も渡したかった。


 しかしマスターは結婚してしまい、この身を捧げることは出来なかった。


 それでも日々努力を続けた結果奥様のはからいで今日、夢の1つがかなったのだった。


「これからもお慕い、いえお仕えさせて頂きます。」


 うへへーと彼女は珍しくふにゃけた寝顔で、

 先程までの体験を夢で見るのであった。



 …………



「バイト君、ちょっとお散歩しない?たまには飼い主としてお世話しないとね。」



 2008年8月5日の朝。呼び出されて社長宅へ来てみれば、

 そんな事を言われるマスターことバイト君。


「オレにそんな性癖無いので勘弁して下さい。」


「別に全裸で首輪だなんて言ってないわ。ちょっとデートコース作ったから実践したくなっただけよ。」


「いつもどおり怪しさしか感じませんね。」


「こちらをどうぞ。昨晩社長がニヤニヤしながら書いたものです。」


 そう言われて副社長から渡された紙を見ると、バイト君とのデートコースと銘打ったそれは紛争地帯巡りフルコースだった。


「オレの火葬方法でも考えてたんですか?」


「ち、違うわよ。あなたのバリアのテストを兼ねて、たまにはデートでもできたらなって。」


 顔を赤くして両手を頬に当てうねうねしている社長。

 普通はその姿を見れば可愛いと思うが、バイト君は疑っていた。


 あの社長が一瞬ドモった。これは絶対ウラが有る。

 それを誤魔化しているんじゃないかと推測するバイト君。


 社長はコソッと副社長に向けて目配せする。


「あー その。私から口を挟むのはなんだが、社長は頑張ってこれを作った。ならばちょっと付き合うくらい良いんじゃないか?」


「……わかりました。ご一緒しましょう。」


 ちょっと考えたが、副社長のフォローで何とか話が纏まる。


「じゃあ決まりね! すぐ行くわよ!」


 ルンルン気分でバイト君の腕を取り、空間に穴を開けて飛び込んだ。


「穏便に済んでくれると良いのだが……」


 副社長の言葉は誰も聞いて無い部屋に響いて消えた。



 …………



「初手から花火とは豪勢なデートですね。」


「そうでしょう? しかも元手はタダよ。」



 紛争地帯の1つ目、挨拶代わりにグレネードランチャーが撃ち込まれる。


 その後はライフルで狙い撃ちされるが全て弾く。もちろん2人は無傷だ。


「うーん、オレを火葬するには足りませんよ?」


「これは布石よ、じゃなくて、あまり危険な所は歩きにくいでしょ?」


「ボロ出すぎだと思うのですが。あと歩きにくいのは現在進行系ですよ。」


 社長はバイト君の腕にくっついていた。デート演出の為である。


「うーん。空でも飛べば壮観な景色が見れそ――それで行きますか。」


 丁度現れたヘリに一瞬で近づくと、パイロットをポイする。

 ポイする瞬間に操縦法を頂いたバイト君はそのままヘリを操作して戦場上空を旋回する。


 助手席には地上に置いてきたはずの社長が乗っている。

 迎えに行く手間が省けたようだ。


「バイト君、器用な真似するのね。」


「いやだな社長。オレが器用なわけないじゃないですか。」


 そう言ってポッキリ折れたヘリの操縦桿を渡す。

 どうやら壊してしまったようだ。


「何でこのタイミングで壊すのよ。」


「降ろそうと思ったら倒す方向間違えました。」



 ドゴフッ グシャーッ!


 3階建ての建物にぶつかって

 回転しながら地面に激突、炎上した。



「さっきより派手な花火になりましたね。」


「でも中に居たアリさん達を起こしちゃったようね。」


 墜落寸前に脱出した2人は呑気だ。

 そしてご近所の兵隊さん達がわらわらと集まってくる。


 彼らはこちらを撃ってくるが、全てカウンタータイプのバリアで防ぐ。


 これはバリアに攻撃が当たった瞬間、そのダメージが仕掛けた相手に戻ってくる。公安事件の時の残機0バージョンである。


「やっぱこの程度じゃ簡単かー。次行くわよ。」


 そういってバイト君を引っ張って次の場所へ転移する。



 …………



「さっきと比べてだいぶ寒い地域のようですね。」


「さっきから兵器をペタペタさわってるけど、もしかしてミリオタ?」


「殺気を読み取ってるんですよ。どこから来たのか解ればご挨拶も出来ます。格好良い物はコピペして倉庫にしまってますが。」


「さっ、今日はデートなんだからさっさと次へ行くわよ。」


 そのまま別の場所へ連行される。こんな事を何度も繰り返した。



 …………



「ずいぶん見て回りましたけど、ここが最後なんです?」


「ええ。最後は海の上で優雅にお茶タイムよ。」



 太平洋上空で紅茶を楽しむ2人。

 ティーセットや椅子とテーブルは社長が出して空中に固定している。


 その状況に特にツッコむこともなく、紛争地帯を何箇所も回って乾いた喉をうるおしていた。


「にしても世界はまだ物騒ですね。クラスター爆弾とか人に撃っていいものじゃないですよ。」


「それで無傷どころか、嬉々として拾ってたバイト君の言うことじゃないわね。」


「勿体ないじゃないですか。時間戻せばまた使えますよ。」


「使う機会はないかもしれないわよ。」


「そうかもしれませんが、有って困るものでも――おや?」


 その時、様々な方角から巨大な座薬に似た物が飛んできた。

 視線を戻すと社長はそこには居ない。


「使う機会がないってそういうことですか。別に座薬使うほど体調悪いわけではないのですけどね。」


 そこには世界各国から放たれた、あとみっくなミサイルが向かっていた。



 時間を極端に遅くして移動する。起爆寸前の物を時間凍結、

 起爆直後でまだ爆風範囲の狭い物を空間凍結して回収していく。


 各国2種類、一通り回収したら残りを食らってみてバリアの性能をチェックする。もちろん妻へセーブクリスタルは投げてある。


 爆風、熱風、電磁パルス、放射能など1通り防げるのを確認してから時間を戻す。

 このままでは海と空気を汚してしまうからだ。


「なるほど、世界からの粋なプレゼントって所ですかね。」


 すべてが終わった後、いつも通り空間に穴を開けて数カ所経由して社長の下へ戻ったバイト君だった。



「おおおおかえりなさい。 プレ、プレゼントは気に入ったカシラ?」


「別に怒ってないから、そんなキョドらなくていいですよ。

 そんなの社長らしくないです。」


「怒ってない? かくへいきとやらの標的にされたのに?」


「だって社長のことですから。どうせ人間達の武器を消耗させたかったんでしょ?」


「「へ?」」


「いやだなぁ、さすがにオレだって解りますよ。オレのバリアのテストと相手の消耗、オレへのボーナスで兵器一式くれたことくらい。ありがとうございます、社長。」


 バイト君は笑顔でそう言ってくるが社長達は唖然としている。


「社長は天才だから、1つの事で幾つも利益を出せるのは素敵ですね。」


 ドヤァと胸を張って続けるバイト君に、気を取り直した社長が答える。


「そ、そうよ。あなたも勉強しているようね。正解は半分くらいだけど、まぁ及第点ってとこかしら。」


 そう言って今回の報酬よと、8億○をケースに入れて床に並べる。


「おや、半分でしたか。まだまだ精進が足りないみたいです。それではオレは失礼しますね。」


 報酬を倉庫へ送って一礼して去っていくバイト君。


「補佐官、一応フォローお願い。」


 そう言われるまでもなく、姿を消していた補佐官はマスターを追いかけていた。


「なんで核ミサイル20発食らって生きてるのよ。みんな回収してボーナスですって?キ○ガイに核兵器与えるとか笑えない冗談だわ。」


 せっかく世界中に根回ししてコトを起こしたのに、このざまだった。この後は情報操作を始めとした事後処理が待っている。


 今回の件は核を持ち出したのに穏便に済んだが故に、政治家達にも穏便に収束させねばならなくなった。それは作戦が成功したパターンより面倒なことだ。


 天才は、バカに弱いのかもしれない。



 …………



「マスター、待ってくれ。」


「おや副社長、なにか用事でも?」



 追いかけてきた副社長はマスターを呼び止める。


「今回の事、迷惑をかけた。社長もあれで思う所があるのだ。どうかご理解をお願いしたい。」


「やだなぁ。それはもう済んだ話じゃないですか。あの方は領主なんです。いろいろ有って当然ですよ。」


「だが今回は度が過ぎていて、その……」


「副社長、今回はどっちに転んでも良いように計算されてました。社長はまだ、オレを完全に切ったわけじゃ無いようです。」


「そ、それはそうだが。」


「そのつもりがなければキチンと仕事はしますんで、社長にもよろしく伝えておいて下さい。」


「わかった。お前、味方だと凄い良いやつだよな。」


「普通のことだと思いますけどね。」


「なぁ、今度私もお前の温泉にお邪魔していいか? なんならお前の好きに扱っても――」


 せめてものお詫びと慰めに、と主の代わりに気を使う補佐官だったが……。


「ウチはオレ以外の男は入れませんよ?」


「私はメスだ!オンナだ!この立派な物が見えないのか!?」


「じょ、冗談です。露天風呂へお越しの際は、お酒付きで歓迎しますよ。」


 慌てて取り繕うバイト君。

 Fカップはありそうな女性に男扱いは無いだろう。


「お酒をお持ちした時に、その立派なものを拝見してしまうかもしれませんが。それはお駄賃て事でご容赦くださいね。」


 そう言って笑いながら消えていくバイト君。


 こちらの不始末に対する詫び入れに対し、敢えて冗談にしつつも身体への興味を伝えて女のプライドを守ってくれた。


 その1連の心遣いに副社長は、初めて人間に感謝した。


 バイト君は人間ではなくなっているけど。



 …………



「さすがに死ぬかと思った……何で生きてるんだオレ。」


「私達のためでしょう?」


「ぱーぱー。らっこ!」


「そうだな。ほ~ら抱っこだ。ずっと一緒だぞー。」



 魔王邸に戻ったマスターは大浴場で汗を落としていた。

 あとみっくなミサイルラッシュはマスターも肝を冷やしたらしい。


「急にクリスタルを渡されたから、何事!?ってヒヤヒヤしたわよ。」


「心配掛けたな、○○○。」


「ぱーぱー!」


「おーセツナも心配だったか? ありがとなぁ。」


 よしよしと撫でていると〇〇○も頭を寄せてくる。

 よしよしと妻も撫でて優しい空気が流れる。


 たっぷりと家族での入浴を楽しみ、心を落ち着かせたのであった。



 その後は風呂から上がり、書斎で調べ物を始めたマスター。

 先月派手にスパークして駄目になったパソコンは、既に時間を操って直してある。


「うーん、特に異常はないんだよなぁ。4人目もネット回線に引っかかってるかと思ったけど。」


 そんな独り言を言いながらカチカチとクリックして情報を探す。するとマスターの前に○○○が現れて腰を下ろす。


「あなた、クリスタルを返しに来たんだけど、調べ物?」


「あぁ。クリスタルは更新してそのまま持っていてくれ。ちょっと何が有るかわからないしな。」


「わかったわ。でもせっかく来たから、少し見せてね。静かにして邪魔はしないから。」


「うん? ああ、頼む。」


 マスターはクリスタルに新しいデータを送ると調べ物を再開する。ついでに携帯でユズリンを呼んでおく。


『あなた、ユズちゃんを呼び出して何するの?』


 テレパシーで聞いてくる○○○。たしかに音はだしてないけども。


「ちょっとネット回線時代の事をねー。」


『ふーん。いいけど……』


 こんこんとノックされてユズリンを招き入れる。


「マスター、お呼びですか?」


「ああ。ちょっと話を聞きたいから、適当に楽にしてくれ。」


 後ろに有った小さいソファーに、ちょこんと座るユズリン。

 マスターはパソコンで調べ物をしながら問いかける。


「ユズちゃんが回線に居た時、赤い糸は3本だったんだよね?」


「はい、その糸に導かれて私達が生まれました。」


「赤い糸は4本有ったらしいが心当たりってないか?一緒じゃなくても、どこかに情報があれば嬉しいんだが。」


「うーん。いえ、私達はあの場から動けませんでしたし。通り過ぎていく情報の中にも怪しいのは特に……」


「そっかー、なら回線を調べるのは意味がないかなぁ。」


『未来に飛んでいった可能性は? 未来予知の実験もしたのでしょう?』


「そっか、実験してみてもいいけど、またえらい事になったら面倒だなぁ。」


「何がです?」


「未来予知の実験だよ。ユズちゃんは何か感じなかった?」


「私の一部は未来の情報ですけど。赤い糸となると、うーん?」


「そっかーまぁ念の為1回だけ試してみるか。今回はプロバイダを通さないでオレのチカラでなんとかしてみよう。」


『じゃあこのまま協力するね。』


 気力を溜めてパソコンにチカラを注ぐ。

 その場にコピペのパソコンを作り、時間を進めてモニターに未来の情報を映し出す。


 半年、1年 2年と続けるが目ぼしいものはない。

 2年半を超えた辺りで限界が近づく。


 だが赤い糸の気配は見つからない。見つからないが――


「うっ、くーーッ。エライものを見つけちゃったな。」


 チカラを解除して脱力するマスター。


『なにか手がかりは有った?』


「手がかりとは違うけど、ちょっと大事な用事ができた。」


「マスター、お疲れのようですが大丈夫ですか?」


「え? いやうん。大丈夫だよ。」



『今です!』


 ばーん!と飛び出した〇〇○が奇妙なポーズを取る。


「え? 奥様? さっきまで居なかったのに。」


「もごもご、ゴクン。ごちそうさまです。さすが旦那の防音ステルス機能は高性能ね!」


「へ? いま何を……?」


「ユズちゃん!貴女にこれだけは言っておくわ!」


「は、はい!」


 そのままユズの耳元に何かを囁く○○○。


「えッ? ええー!?」


「私はセツナのところに行くから、お仕事頑張ってね、あなた。」


 そのまま妻が消えるとユズリンが顔を真っ赤にしている。


「明日にでもアポとって行くしか無いか。顔を出しづらい所だけど、当時はお世話になったしなぁ。」


 マスターは何かに対して嫌そうにしているが、心は決まっているようだ。


「ユズちゃんもありがとうな。お陰で大事な事がわかったよ。」


「は、はい。わらひはこれで……」


「いろいろダメそうだな。」


 ふらふらと出ていこうとするユズリンを抱きかかえて、ホテル内の自室まで運んであげるマスター。


 その間ユズリンはずっとアワアワしていたが、気にすること無く部屋のベッドまで届ける。


「妻のイタズラでそうなったんだろうけど、気にするなよ。」


「悪いのはマスターですよぉ!」


「ええっ!? 何故に?」


「し、知りません!!」


 真っ赤なユズリンに追い出されて、シャワーを浴びてから今日の開店準備に取り掛かるマスターだった。



 …………



「クチがスキとか、ポイよポイ! マスターのばかぁ!」


 奥様に囁かれた事を意識し、1人ベッドの中で悶えるユズリンであった。


お読み頂きありがとうございます。

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