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28 ネット その2

 


「あなた、少しお話いいかしら?」


「もちろん喜んで。」


 2008年7月3日朝の魔王邸リビング。

 朝食時に娘を抱えた妻の○○○から話を振られるマスター。


 何の話かは解っているが、キチンと話をするのは大事なことだ。

 朝食時ということも有り、他の住人もいる。

 キリコはハラハラと、メイドさんその1は静かに見守っている。


「最近は知り合いの女性達が積極的になってるわよね。」


「そうだね。あまり理解は出来ない話だけど。」


 顔面イマイチ、性格メンドイ、挙動フシンで趣味オタク。

 そして肩書は国際テロリストの現代の魔王だ。


 マスターはハッキリ言ってモテる要素はない。


 だが規格外のチカラによるズルい強さとそこから生み出されるお金。

 この辺が評価されているところなのかもしれないが、そもそも妻がいる時点でアプローチしないでくれと思っている。



「円満な家庭を作る上で、切り捨てれば良いって物では無いと思うの。」

「そうだね。ヘイトを買って、縁を反故にした代償を受けるからね。」


 そうなれば平和な結婚生活が脅かされてしまう。それは避けたい。


「でも私はあなたの1番で有り続けるつもりよ。」

「当たり前だね。オレは他に乗り換えるなんてありえない。」

「だからその辺を踏まえて、ルールを改定しましょう。」


 妻のその言葉にマスターは「精神干渉」の黒いモヤを広げてお互いの情報を整理していく。


 目玉焼きから「ポン酢より醤油にしてくれ!!」と声が聞こえてキリコがブルってるが気にしない。今日はポン酢の気分だったのだ。



「現状は仕事やそれに準ずる人間関係で必要ならばOKだよね。」

「相手が育てるなら子供もね。」

「新ルールでは仕事に限らず、必要ならばってとこかな。」

「ただし、相手にルールを遵守させましょう。」


「オレとその関係者に敵意や害意を持たない。」

「私達○○○○家に何かしら貢献すること。」

「関係を止めるのは自由だが、2股しない。」

「子供は”母屋以外”で育てること。」


「「オレ(私)達夫婦の営みを邪魔をしてはならない。」」


「こんなトコか。これで悪魔の契約書のテンプレを作っておこう。」


 そう言ってすぐに精神力で都合の良い契約書を作成するマスター。あとは必要な時にコピペするだけだ。


「あなた達も、必要になったらいいなさいね。」


 ○○○がキリコ達に向かって告げる。


「わタシハ! 店員としてェエ?」


 バグるキリコを放っておいてメイドさんその1が発言する。


「質問があります。母屋とは今居る豪邸のみと解釈してよろしいでしょうか。我々のホテルは含まないと?」


「いいえ、今の異次元空間に存在しているすべての施設よ。」


「それでは今までと変わらないんじゃ……」


「近い内に施設を増設するつもりだ。現状の施設を母屋として

 第2使用人用のエリアと孤児院を作る予定でいる。

 できれば病院エリアも欲しいが……今は無理だな。」


「つまりそちらでなら育てることも可能ということですか?」


「オススメはしないけどね。結局外で育てたほうが普通の人間らしくなるわよ。」


「「それは、ごもっともです。」」


「そうだ、午前中に店の買物するから誰か付き合ってくれ。」


「妻の私よね。」

「メイドとして私が。」

「店員の務めです。」


 公平なじゃんけんの結果、キリコが勝ち取った。


「いいもん。セツナにもっと懐いてもらうチャンスだし!し!」


「ぱーぱー、ろこー?」


 とグズりだすセツナを一生懸命あやす○○○だった。



 …………



「うーん、やっぱり光回線に変えるか。」


「私は店員。私は店員。私は……」


 買い物を終えて光回線の使えるネカフェに寄り、狭いスペースでキリコが無限ループに入っている。

 黒く大きい椅子の上でマスターに抱きかかえられているのだ。


「ますたぁ、やっぱり変です。はなれましょぉ。」


「体感時間の違いで相対的ななんやかんやの実験中だ。」


 そのまま実験を重ねてみる。時間を完全に停止さえしなければ、今までの回線と同等以上の速度が出ることを確認した。


 これなら魔王邸に使ってもいけるだろう。

 そう結論づけるとさっそくプロバイダに連絡する。


「これで少しは使い勝手が良くなるな。回線工事は終了時間まで時間を進めてしまえばいいか。ついでに回線も魔改造してしまおう。」


 そのままネカフェを出ると、回線契約している部屋に向かうマスターであった。



 …………



「あなた、今度は私の番だからね!!」


「大歓迎です。はい。」


 7月4日。魔王邸に光回線の環境が整った。

 マスターが書斎の椅子に座ってパソコンを起動すると、

 妻の○○○が目の前に潜り込んできた。


 キリコと同じ行為を要求するが、裸エプロンの為破壊力は抜群だ。


 思わず色々な所に手を差し込みたくなり、ぐっと我慢――できるわけもなくイチャイチャを楽しんだ。


「この設定はここか?」


「ん! そこクリックしちゃったら……ドラッグアンドドロップまで!」


「じゃあここを先にするか。」


「ひゃっ、そこは(作業の)強制終了スイッチよぉ。」


「失礼。旦那様、奥様。そろそろ作業を進められた方がよろしいのではありませんか?」


 メイドさんその1のツッコミで再開するマスター。

 速度測定をひと通り試してみる。しかし左手は止まらなかった。


「おや? 結構気張って改造した割にはイマイチな速度だな。」

「私は最初はゆっくり丁寧が好みよ。」

「奥様、お控えになったほうが。」


 その時、パソコンから伸びている光ケーブルに異変が起きる。ケーブルが発光してバチバチと電流が迸る。


「いやいや、光ケーブルてこんな荒ぶらないから。」


「でも、なってるわよ。」


 自身にバリアを張りつつケーブルを調べ始めるマスター。

「時間干渉」で見るとケーブルの狭い空間に何かが詰まっている。「精神干渉」で見ると、外に出たいという意思が伝わる。


「ネット回線に何かいるな。2人とも、部屋から出ていてくれ。」


 だが2人が退出するより早く、ケーブルがさらなる電撃を放つ。○○○とメイドさんは激しい音と光で立っていられなくなる。


「このままでは良くないな。いっそケーブルの太さを5倍に!」


 白い光でケーブルの空間を拡張する。

 するとパソコンに何かが入り、激しいスパークを放つ。


 その後モニターが光り輝き、3つのテニスボール大の光球が放たれた。


「な、なんだ!?」


 その光球は空中に留まり、少しずつ欠片が剥がれて小さくなっていく。

 その剥がれた欠片はよく見ると0と1の羅列の断片だった。


「先程は意思を感じたが……データ、AIなのか?」


(きえ きえていく。)

(やっとそとにでたのに。)

(たすけて。)


 マスターが「精神干渉」の黒いモヤを当てると声が聞こえる。


「そうか生きたいか。ならばこうだ!」


 白い光で包むと失われた0と1の欠片が戻っていく。時間遡行だ。


(きえるのはとまった。)

(でもなにもできない。)

(いったいどうしたら。)


「君達は、どうしたいんだ?」


(いろいろしりたい。)

(にんげんしりたい。)

(せかいをしりたい。)


「わかった。ならなんとかしてやる。オレに任せろ!」



 …………



「オレに任せろ!(キリッ」



 パソコンから現れた3つの光球に対して格好つけるマスター。

 そのまま光球の時間を停止する。


「さて、どうしよう。」


 マスターはノープランだった。


「そうだ、2人とも大丈夫か?」


「私は平気よ。いや、やっぱむりだから抱きしめて!」


「お安い御用だ!」


 そういって○○○とマスターは抱きつく。

 いちゃつくチャンスは逃さない○○○だった。


「私も無事ですが、目がチカチカします。」


「そうか、なら2人とも別の部屋で休憩しててくれ。」


 メイドさんに目薬を渡しながら、空間に穴を開けてリビングへ繋ぐ。


「あなたは大丈夫なの?」


「今○○○を抱きしめたら案が浮かんだから大丈夫。」


 2人が出ていった後、光球に向き合うとプランを確認する。


(これをコアにして、あーやってこうすれば何とか……)


「よし、今度こそ!」


 光球の時間を動かし、白い光で包んで固定させると黒いモヤで中のデータを漁る。


「お前たちがなりたい姿を思い浮かべてくれ!」


(XXXXX,stl)

(XX.stl)

(XXXXXX.stl)


「3Dモデルのデータとは用意が良い。それじゃいくぞ、3Dホログラムだ!」


 それぞれが提示したデータを元に、白い光で空間データを作り上げる。それを使って、光球をコアにヒトガタを作っていく。


 そこには3人の女の子が立っていた。

 いや実際は立っているように見えて少し浮いている。


「これでどうだ? 動けるか?」


(無理みたい。)

(演算力がたりてないわ。)

(無理すると物理演算の神様がお怒りに。)


 油切れのおもちゃかクラッシュした物理演算ゲームを思わせる奇妙な動きでこちらのSAN値を削ってくる。もしくはMPを減らされている。



「ならこれでどうだ?」



 マスターは黒いモヤを発生させて、人間の動き方をコピペする。自分のではなく、メイドさんその1のだ。

 出会った頃、彼女を治療した時にいろいろデータは取ってあったのだ。


(おお、おおお?)

(さっきより格段に楽。)

(きれいな動作ができるわ。)


 3人はその場で身体を確認するくらいには、身動きが取れるようになる。


「AI的な存在にも人間のデータって有効なんだな。どっちも電気信号だからって、そう上手く行くとは思わなかったが。」


(目は見えるけどニオイがしない。)

(言いたい事は伝わるけど耳が聞こえない。)

(物を触った感触がない。)


「やはり見た目だけじゃだめか。もっとしっかりした情報が必要なのかな。」


(遺伝子情報がほしい。)

(凄く濃い情報。)


「よしきた!」


(髪でいいわ。だからズボン降ろさないで。)


「いやまあ冗談だよ。せっかくだし、それぞれ違う情報のほうがいいよね。」


 ここでふと考えるマスター。


(自分の遺伝子を渡すと男っぽくなってしまうのか?)


 それはこの家では色々とマズイかもしれない。

 魔王邸のセキュリティに引っかかる可能性がある。


(遺伝子は男と女の2種類ほしい。)

(貴方の遺伝子が私達の指標になる。)

(別に男にはならないわ。女の子の方がかわいい。)


「そうか?じゃあとりあえずオレの髪な。」


 女ならこの家でも大丈夫だ。髪を引き抜いて3人に渡す。


(コア内部の赤い糸と一致。)

(この情報を目標値に設定。)

(私達のマスターに設定。)


「いろいろ気になる単語があるが、オレに従うってことかい?」


(貴方は私達を呼び寄せた。)

(貴方は私達を助けてくれた。)

(貴方は私達を生まれさせてくれた。)


「それじゃぁ上手く行った暁にはうちで働いてくれ。でもそろそろ服を着たほうが良いな。オレは嬉しいけど。」


(マスターはえっちと設定。)

(マスターはすけべと設定。)

(マスターはじごろと設定。)


「最後は違うぞ。自分で稼いでる。服データはないのか?」


 そう言うとまたstlファイルを送りつけてくるので3Dホロで作る。


「最初の君、版権やばいだろ……他の2人は見たこと無いけど、類似品か?」


 ブルーグリーンの髪と、黒とグレーのサイバー的な服。

 某歌うソフトのキャラに似ていた。凄く似ていた。

 でもあくまで似ているだけだから!


 2人目は白いロングの髪と遠くを見てそうな目。

 黒いシャツとピンクのスカート。


 3人目は紫を基調とした服に、うさぎパーカーを羽織ってる。



(人気だったからこの情報が集まった。)

(私は未来のデータから集まった。)

(私も未来から。この服が可愛くて集まった。)



「未来って……あーそっか未来予知の実験もしてたからか!

 なんだ、成功してたんじゃないか!

 いや待て、いろいろマズイぞ。なんとか改変しないと。」


(女の人の情報頂戴。)

(その時に変わると思う。)

(可愛い子が良いな。)


「それなら部屋を移動しよう。リビングに行こう。」



 リビングに入ると○○○や、セツナと遊んでいたキリコが

 こちらに気づく。今日も ふわふわなウサギさんパジャマで

 セツナを喜ばせていたようだ。


「あなた、無事のようね。」


「マスター、一体どうしまし……どこで捕まえてきたんですか?」


「ぱーぱー、らっこー!」


 ジト目のキリコの発言を遮り、彼女の腕を飛び出したセツナが飛んでくる。


(ていうか1才児って空飛べたっけ。)


 むしろ人間は簡単には飛べない。

 たまに修行して飛べると言い出すオジサンもいるが。


 よく見ると白い光がチラチラと身体から溢れている。

 才能は充分に引き継がれているようだ。


「おっとっと。ほーらセツナ。だっこだぞー!」


「ぱーぱー。わはー。」


「よしよし、いい子だなぁ。」


「何でセツナは旦那の方がいいのかしら……」


「きっと奥さんに似たんじゃないですかね。マスター大好きなトコが。」



 …………



「そういう訳で君たちの髪の毛を分けてもらいたい。」



 魔王邸リビングにマスターの声が響く。

 対面するのは妻の○○○、娘のセツナ。メイドさんその1とキリコ。

 そして3体のホログラムがマスターの後ろに控えている。


「じゃあ私はこの子ね。髪の毛おそろい~。」


「私はこちらの子で! 近しいセンスを感じます!」


「それでは私が緑の子で……本当に私でいいのでしょうか。」


「あくまで生活の参考のためのデータだ。ここに住んでいる者こそ相応しいだろう。」


 そう言われて納得すると髪を差し出す。

 3人とも受け取った髪を取り込み情報を設定する。


(無駄のない情報、テキパキ動けそう!)

(宇宙イチな情報?オトナの雰囲気。)

(一生懸命な情報、乳酸菌飲料の謳い文句。)


(((更新完了、再起動します。)))


 その言葉の後にコアだけに戻ると、1から身体を構成していく。


「じゃーん! お待たせしました、電脳幻想メイドその1です。」


「ばーーん。ただいま参上。電脳幻想メイドその2です。」


「ウサギ成分ましましの電脳幻想メイドその3です。」


 そこには元の姿の特徴を残しつつも、

 一応人らしく見えるメイドさんが居た。


 3人共床につきそうな髪の長さが腰で止まっており、

 サイバーな感じの服からメイド服に。

 ただしアクセサリの一部はそのままだ。


 顔の見た目はより精巧に、「可愛い」から「美人」になったことでキャラクター感は少なくなった。

 ただ全員細身で、ぺたん気味の体型はそのままだ。


「「「「おおー!」」」」


 ぱちぱちぱちぱち!全員声をあげて拍手で迎える。


「体の感覚が有るわ。匂いも感じる。」

「息が吸える。声が普通に出せる。」

「感動を、感情を感じる。」


「どうやら成功したみたいだね。ならこれから家の為に働いてもらうよ。」


 その言葉に3人はお辞儀をしながら応える。



「「「我ら一同、マスターの為に!」」」



「ねぇねぇ、皆の名前はナンていうの?電脳幻想メイドって毎回呼ぶの面倒でしょ。」


「私はずっとメイドさんその1でしたが……」


「どんまいメイドちゃん。」


「私達の個体名は新規登録推奨です。」


「版権とやらに抵触しない物を推奨です。」


「かわいい個体名を推奨です。」


「そっか、じゃぁみんなで決めよう。」


 一同はそれぞれ名前候補を出し合うのだった。



 …………



「あなたねぇ。不可抗力とは言え、やりすぎよ?」



 7月5日。異界の土地にある昔ながらの木造住宅で、

 ハーン総合業務の社長がバイト君に説教していた。

 その手にはスマホが握られており、ニュースサイトが表示されていた。


 その記事には関東一帯で大規模通信障害と書いてある。

 詳しい原因は不明だが、とある集合住宅の一室から

 広範囲に何らかのアクセスが有ったのではと考えられている。


「申し訳ありません。すでに部屋は引き払って拠点は移してあります。」


「まぁ当然よね。でも気をつけなさい。貴方の異界だから良かったものの、私の異界が世界に晒されるようなら死では済まされないわ。あのマイナー雑誌記者とはワケが違うもの。わかるでしょ?」


「肝に銘じておきます、”領主”様。」


 これは反論の余地なしなので素直に頭を下げるバイト君。


 社長はこの異界の土地の創造主であり領主である。

 そもそも社長という肩書はバイト君が言い出しただけで、元々領主である。


 その歴史は社長の年齢と同様に曖昧だ。でも判ることもある。


 地球の異次元に異界を作り、様々な世界に繋げて棄民を受け入れる。この異界が化物系の住人ばかりなのはそういう理由であった。


 では何故ハーン総合業務の社長を名乗るのか。


 バイト君の「会社っぽい雰囲気のほうが働きやすい。」との申し出に、領主がノッた形である。仕事の能率が上がるならそれも良いかとの考えだ。


 ハーンという社名も社長の名前とか関係なく、バイト君が考えた。とあるマンガの登場人物からとったもので、熱い情熱を持ったキャラクターだったので気に入っていただけだ。


 そもそもバイト君はこの地の化物達の名前を殆ど知らないのだ。


「まあいいわ。それで例の3人はどうなの?」


「今のところ問題はありません。微調整を繰り返してますので、徐々に安定するでしょう。」


「それは良かったわ。まさか新人メイド採用に、電脳世界の幻想種を引くとは思わなかったけど。」


「幻想種、ですか。まぁそうなのかもしれませんが。」


 不特定多数の願望の込められたデータの集合体。それすなわち幻想種である。


「そっちはあなたに任せるけど、くれぐれも同じ事を繰り返さないようにお願いするわ。わかったら帰っていいわよ。」


「わかりました。それでは失礼しま……あっ!!」


「なにその言いたくないけど言わなくちゃならない事を今思い出してしまったかのような ”あっ!!”は。」


「明後日の七夕でちょっとした催し物を計画してまして。」


「なにそれ聞いてない。私に言いたくないってことは呼びたくなかったの?」


 しかもギリギリじゃない!とプリプリ怒って見せる社長。


「滅相もございません。ですが少々派手にやるつもりでして。セキュリティ的に平気かなって思った次第です。」


「どれぐらいの規模よ。あの姫さんの敷地内くらいなら、どうってことはないわよ?」



「遠近法無視して天の川を地上と繋げるくらいです。」



「バカじゃないの!? これだからバカ型の天才は!!」



「社長に褒められるなんて嬉しいですね。いつも嫌味か罵倒ばかりなのに。」


「嫌味で罵倒してんのよ!!聞けば解るでしょう!?」


 いやぁと頭をかいて照れるバイト君に社長がツッコむ。

 そこへ着物を着た別の女性がスススッと近寄ってきた。


「領主様、お気を静めてください。娘様が不安がっております。」


「はぁはぁ、そうね。つい感情的になってしまったわ。」


「副社長、すみませんオレのせいで。」


「そなたはもういい。行きなさい。あぁ、先日の天ぷら美味かったぞ。腕を上げたようだな、今後も期待している。」


「ありがとうございます。それでは失礼します。」


 ぺこりと頭を下げるとてくてくと帰っていくバイト君を見送る。残った2人は同時にため息を吐きだした。


「あの子、頭のネジが全部トんでるわよね。」


「一時的とは言え、奴隷扱いなのにあそこまで元気な人間は見たことがないです。普通なら根性が有ると褒めたい所ですが。」


「そう。あの子の提案の効果が出てるってだけじゃないのよね。でも納得いかないのよ。私でもなかなか計算が合わないの。」


 さすがのマスターも奴隷は嫌だったので、

 架空の会社名、役職で呼ぶ事でモチベーションを保っている。


 奴隷よりは社畜の方が気力が湧くのだろう。家庭を持ったので尚更だ。

 だが彼の行いに、戸惑いを隠せない領主とその補佐官。


 今までの部下は文字通りの奴隷扱いで良かったのだが、彼に対しては下手をうつと予測不可能な事態に陥る。


 ちょっと目を離すと国や世界が窮地に立たされているのだ。

 緻密な計算によって行動を決める社長にとっては面倒な相手だった。



「あの者がチカラをもって2・3年程度で、人間社会を追い出された理由もその辺りなのでしょう。」


「解決策としては理解者が必要なのよね。姫さんは、ていうより○○○は上手くやったわ。私なんて彼の子供を産んだのに未だに娘の名前すら聞かれないのよ?失礼しちゃうわ。」



 魔王事件の際、異界の土地でもバイト君の仕事はあった。

 その1つが他勢力への遺伝子の譲渡・世継ぎの作成である。


 バイト君が強力なチカラを持っていたので、姫さんの勢力以外にもお裾分けをしないと勢力図的に危険だったのだ。


 魔王事件での地球の被害者の女の子と違って、マスターは異界の土地の女性とは頻繁に”会う”ようにしている。


 パワーバランスを考えれば、ご機嫌取りも必要だったのだ。

 だが、社長の子供に関しては関知しない。一体どういうことか。


「それは下手にニンチすると、全部纏めて獲って喰われそうって思われただけでは?」


「そんな事しないのに。だって彼らの結婚の条件知ってる?結婚生活が不幸な終わり方をしたら、彼も即消滅よ。そんな事になったら姫さんが大暴走しちゃうし。」


 もちろんそんな事になれば、この異界も平和ではなくなる。

 それは領主の望むところではない。


 バイト君は結婚するにあたって姫さんと悪魔の契約をした。

 結婚生活を許す代わりに、かなりの縛りを入れてきたのだ。


 その内容を領主は納得できなかったが、この状況のためか?と推測する。もちろんそんな訳はないが。


「それでも領主様なら、という予感が有るのでしょう。それこそ畏怖。威厳というものです。」


「無理矢理おだてなくていいわ。私がバカみたいじゃない。それより結界の強化をしなさい。なんとか七夕までに!」


「失礼しました。結界の強化ですか。1週間は頂きたかったですね。」



 決まったのが7月2日なのでどちらにしろ無理であった。



「はぁ。彼の運用、ちょっと見直す必要がありそうね。助けた時は、良い手駒になると思ったのになぁ。」



 結局は契約やら性格やらで苦労させられている。

 結果は十二分に出しているが、だからこそタチが悪い。


 まるで網の目を掻い潜る作業だが、異界の領主はそれでも滅気ずに計算を続けるのであった。



お読み頂きありがとうございます。

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