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26 サクラ その6

 


「この度は助けて頂き、誠にありがとうございます!!」



 そういって深く頭を下げるサクラ。

 しかしマスターはいいよいいよと軽いノリだ。


「今回はお互い様だしね。オレの「運命干渉」を喋らなければそれでいいよ。」


「元々それを伝えるつもりはないですよ。あんな危険なものを報道したら、超能力者狩りが始まります。」


「いくらチカラが成長して強くなるといっても、皆がテンチョーのようになるとは限らないんでしょ?」


「それはそうだね。でも大元は世界のルールだから、最終的には似たようなものになるんじゃない?そこまで辿り着ければ、だけどさ。」



 そう。サクラがマーキングをやらかしたのはここである。

 チカラが成長する事実よりも、その到達点の危うさに恐怖したからだ。


 到達自体が難しいが、人類はクスリでも拷問でも何でも実験するだろう。そして到達したら確実に人間兵器とされる。


 現に目の前に居る者が世界に及ぼした影響は大きい。



「個人的にはロックが解除されていくと思ってるけどね。大元のチカラをいきなり使うと頭がイカれてしまう。だから多機能ナイフの使い方を1つずつ覚えるみたいな。全部合わせて「運命干渉」、1つのチカラになると。」



 つまり「時間干渉」も「精神干渉」も、大元である「運命干渉」の一部であるということだろう。



「オレの時は大きい事件とかあると強く成れた気がするな。」


「それじゃあ私も今回のでなにか強化されたり……」


「かもね。サクラは元々世界を視て識るチカラだから、オレみたいに鍛えれば色々出来るかもよ。」


「おおぅ、もっちゃんが千里眼もっちゃんに!?」


「さすがにマスターほど修羅場をくぐる自信はないな。」


「結構似合ってましたけどね、罵倒モードとか。」

 

「や、やめてよぉ! すっごい恥ずかしかったんだから!」


「そんな訳でこのことがバレると、超能力者が人体実験の材料に早変わりしちゃうんだよね。」


「世界に干渉する人間兵器か。字面だけは格好いいけど……」


 そのチカラはマスターですら、人間を辞めて当主様のサポートが有って今回なんとかまともに運用できたレベルなのだ。


 それでもしばらくは昏倒してしまった。普通の超能力者では1度すら耐えられるかどうか。


「それにチカラは千差万別。キリコが言ったように誰もが「運命干渉」に当たるとは限らない。それでもオレという前例がある以上、みんな試すだろうね。」


「結局扱う人次第なんですよね。おかげで今回はたすかりましたが。」


「でも、問題はここからなんだよねー。余計な詮索は受けないだろうけど、風評被害は出るから。」



 そうなのである。改変したのはあくまで、コジマ通信社がガサ入れされて拷問を受けた後からなのだ。


 つまり反社会的報道でお上に睨まれた事実は変わらない。


「うーん、このまま無理に会社を運営するのは下策でしょうか。」


「少なくともオカルト部門は廃止したほうがいいでしょうね。」


「もっちゃんが廃業しちゃう!?メイドさんとして一緒に住む? 人手が足りないから大歓迎、年俸1億○だよ!」


「1億○!?」


「またキリコは、こちらの事情をバラさないでくれ。」


 今度は怯えさせないように後ろからホールドして注意する。

 真っ赤になってプルプルし始めるキリコ。


「私は店員。私は店員。私は……」


 無限ループに入ったキリコをセクハラしつつ、マスターは考える。


「サクラはメイド向きじゃないと思うんだよね。だからさ、街作って探偵やらない?」



「「ええ―っ!?」」



「今回の事でコジマ通信社は、最低でも縮小せざるをえない。だったら別の場所でひっそりと街づくりでもしようよ。」


「マスター、なぜに街?」


「だって人余るでしょ。この先も似たような事が起きると思う。ならそういう者達を受け入れる街があったほうが、便利だと思うんだ。」


「理由はわかりましたが、結構大変ですよ。お金は勿論、書類やらなにやら。」


「それは問題ないですね。オレがなんとかします。」


 死無視ティーのリアル版だ!っと張り切るマスター。


 死無視ティーとはキャラが死なないので、色々無視してお茶づくりから始める街運営ゲームだ。



「ただし、オレが手を出すのは最初と緊急時だけです。市長をすげ替えた後の街の運営はそちらでやってもらいますよ。」


 金は出しますからと軽くいうマスター。


「そ それはもう……はい。」


「マスターのことがまた一つ解った。やる気になると手がつけられない。」


「とは言え最初は目立たないように、アパートと事務所買って細々とやる感じですけどね。」


 逆に言えば水面下では色々やるのだろう。マスターのチカラ的にもその方が似合う。


「それで、私の探偵というのは?」


「事務所借りて普通の営業と、オレからの依頼を片付けて下さい。最初は普通の営業なんて閑古鳥でしょうしね。」


「あの、お店には行ってもいいんでしょうか。」


「勿論ですよ。あぁ職が変わるから、後で契約内容更新しますかね。」


 次々と新しいことが決まってしまう。


 今までの色々悩んでいた人生が、バカみたいだと思うサクラであった。



 …………



「この度は誠にありがとう!これで社員一同、路頭に迷うこと無く生きていける!」



 2008年6月28日 某県某”町”。

 丸ごと買い取った新築アパートの前でコジマ元社長がマスターに頭を下げた。


 今日は用意した建物の受け渡しの日なのだ。

 元社員達も別のアパートに住むことになっている。


 さらに男手は全員仕事も用意してある。

 農業や工場、飲食店に新聞屋。果ては葬儀場なんてのもある。

 本当は医者も欲しいところだが、今回は見送りだ。


 膨大な資金を使って土地や建物、その他権利を勝ち取っている。

 書類はマスターが「精神干渉」を使って通せるだけ通した。

 コネがない分、しがらみをチカラで押し通したのだ。


「宗教家じゃなくて安心したわ。娘をよろしくね。」


 サクラ母が言うが、異世界では崇められていたのでこの判定は微妙である。


「サクラ、あんたすごいオトコ引っ掛けたじゃないの。」


 サクラ姉はダンナと子供と一緒に引っ越す予定だ。


 コジマ通信社の関係者と結婚していたダンナは事件以降、社内での風当たりが厳しくなったらしい。なので新規一転、街づくりに励むようだ。


「ちょっと母さん、姉さん。マスターとはそういうのじゃないし!」


 恥ずかしがるサクラがオロオロしている。


「お互いに利があることですから。コジマさんには近い内に市長になってもらいますし。」


 ここは町である。元社長を市長にするということは、

 それだけ発展させるという意味だ。


「うむ。これだけ多くの物件と仕事をポンと用意して、デカイことをポンと言う男に期待されてるんだ。ここで期待に応えねば男が廃るってものだ。」


 サクラ父からのマスターの印象はいいらしい。


「マスターさん、ここは絶対いい街にしてみせる。だからあんたも負けないでくれよ!」


「ええ。よろしくおねがいします。」



 こうして支配を好まないと豪語していた、現代の魔王の町内征服の第一歩が始まった。



 …………



「では、この内容で問題なければ契約をお願いします。」



 同日、サクラの探偵事務所にて契約更新が行われていた。

 事務所の窓には、【サクラ探偵事務所】と書かれた看板が

 取り付けられている。


「ずいぶんと簡単なお仕事な気がしますが、これで毎月この金額を貰って良いのですか?」


 水星屋のまとめサイトの更新と、街のパトロールによる情報収集、そして定期的な連絡。


 後は臨時でマスターからの依頼をこなせば多額の報酬が得られる。記者として走り回っていた頃に比べれば格段に楽だろう。


「月々の方は、見た目ほど多い金額でもないですよ。色々引かれるでしょうしね。」


「なるほど。あとこの携帯についてですが、直接マスターの携帯にコール出来るって……」


 サクラに限らず、引っ越し組は全員新しい携帯を渡されていた。その中でもサクラのだけは、特別製だった。


「サクラはある意味、市長よりも大事なポジションです。オレとは連絡取れたほうが良いでしょう?でも0時から5時半までは使わないでくださいね。」


「ははははい! それはもう!」


 お泊りしたサクラは知っている。それは家族で過ごす時間帯なのだ。特にマスターと妻の○○○が、積極的に愛情を確認する時間帯でもある。


 GW中に知らずに突撃してしまい、監視役のメイドさんに追い出された恥ずかしい思い出がある。


 だがそれも無理もないことだ。

 マスターの1日の始まりを5時半とするならば、

 0時からは6日~8日目辺りに相当する。時間の感覚がオカシイのだ。


(あれ? 私、恥ずかしい思い出しか無いんじゃ!?)


 そんな気持ちを横へずらして契約の方に頭を切り替える。


「それではこの内容で契約します。これからもよろしくおねがいします。」


 そう言って胸に大事そうに契約書を押し当てる。

 まるで想い人を抱きしめているかのようだ。


「よろしくおねがいします。 ……今のちょっとえっちな感じでしたね。」


「ホント!? 手を出したくなった!?」


「出しませんよ。せっかく新しい土地なのです。こちらで新しい出会いなど探してみてはいかがですか?」


「マスターがいい。」


 この10ヶ月程度で随分と積極的になったものである。

 元から思い切りだけは良かったが。


「今はこの町を発展させないと、でしょう?」


「じゃあ市になったら!っていうかそれ以上は私がお古になっちゃう!」


「あなたの必死さは伝わりましたが、他の従業員の前でその発言はどうかと思いますよ。」


 見ると事務所の入口には、元編集長を始めとしたオカルト部門の面々が気まずそうにしていた。


 そう。サクラが探偵事務所の社長であり、前の職場の同僚達が従業員として一緒に働くのだ。とは言え一緒なのは古株のみであり、週刊になってからのメンバーは別の職場を任せている。


「ぎゃああああああ!!」


「どうしても気になると言うなら、ちょっとくらい若返らせる事もできますので。」


「だったらすぐに抱いてくださ……ぎゃあああああ!!」


 思わず本音ダダ漏れにしてしまい、更にモジモジする従業員一同。


「あの、サクラ社長?」


 元編集長がおずおずと声をかけるが、



「てめえ等! この事についてなにか言ったら、てめえ等の黒歴史を町にばら撒くからな!!」



 罵倒モードになったサクラが吠える。



「「「は、はぃぃいい!!」」」



 社長としての威厳が身につき始めたサクラを見て、

 満足したマスターはうんうん頷きながら事務所を出ていった。



 …………



「随分と手の込んだことをしているみたいじゃない?」



 6月28日の夜。水星屋に社長が来店して町のことを話題に出す。その手には赤ん坊が抱かれていた。


「今後のことを考えたら受け皿は必要かなと思いまして。」


「それくらい相談してくれればこちらで用意するのに。」


「社長に任せたら全員生贄になりません?」


「5分5分ってところね。ミルクお願い。」


「はいどうぞ。」


 哺乳瓶を渡すマスター。

 キリコは気を使ってこちらには近づいてこない。


「あの娘があの時拾った子よね。戦力になっている様でよかったわ。」


「ええ。物覚えは良いほうですよ。」


「使用人の方は増えたの?」


「いえ、当主様曰くもうすぐ増えるとのことですが。」


「そう、あの子が言うならそうなのかもね。余裕ができたら連絡頂戴。幾つか仕事を振るわ。」


「わかりました。そうさせて頂きます。」


「それと今回の町の件は良いわね。今後も仕事を見つけたら積極的に行動すると良いわ。資金とかは敵対相手から持ってくれば良いのだし。」


「さすが社長。子供の前でそれを言っちゃうゲスさはシビれますね。」


「あら、憧れてくれてもいいのよ。」


「もう少し腹が白ければなぁ。」


「失礼ね。真っ白だったでしょ?」


「禿山に緑のペンキぶち撒けるのといい勝負じゃないですかね。」


「なら、また白いのを取り入れさせてくれない?」


「とんこつラーメンお待ちっ!」


「いけずね。あぁでもこの俗っぽい味はたまらないわ。」



 そんな会話を続けながら、きっちり替え玉2つ完食してから社長は帰っていった。



「テンチョー。よくあの社長にあんな口聞けるわね。」


「マスターな。あの人なりの訓練なんだよアレ。」


「ひじょ、次元の違う人達の会話はよくわからないわ。」


「そこで非常識人っていい切れれば社長と仲良く出来るよ。」


 多分キリコは素質が有ると思う。暗殺者のフリした爆弾魔だし。


「私はごめんですね。あの人より当主様の方がいい。」


「正直だね。でも後ろ見てから言おうか。」


 ポンっとキリコの肩に手をおいて社長が笑顔で声をかける。


「お土産に天ぷらを頂くのを忘れていたわ。」



「きゃあああああああああああああ!!」



 ガチ悲鳴である。


 店内のお客さんが全員耳を抑えて突っ伏した。

 犬耳のお客さんが痙攣している。かわいい。

 社長はバリアで子供と一緒に防いでいる。


 一方マスターはWAVで保存した。


「はい、天盛り持ち帰りお待ちっ!大根おろしは多めにしてあります。」


「あらありがとう。これお代ね。それじゃおやすみなさい。」


「毎度ありッ! 副社長にもよろしくお伝えください。」


「し、しぬかと……あんな怖い笑顔初めてだよぉ……」


 涙目になってマスターにすがりつくキリコ。かわいい。


 その後涙目のキリコの姿を3Dホログラムで○○○に見せたら、大歓喜してウサギパジャマで震えるキリコをモフっていた。




 …………



「生憎の雨だけど、そんなの吹き飛ぶ熱気ね。」


「物理的に風と雨が凄い事になっているな。」


 6月29日昼前。マスター夫婦は以前調査した街に来ていた。

 土日はコスプレ広場となっている市民ホール外の広場を見学している。



「みんなーー!雨は好きかーーー!」


「「「おおおおーーーー!」」」


「みなさーん!嵐は好きですかー!」


「「「おおおーーーーー!」」」



 広場の水場では少女と女が水と風を操り幻想的な風景を作っている。


「あの子が異世界の子よね。すっかり馴染んちゃってるわ。」


「大人の方も人間じゃないね。仲良しなのを見るに一緒に飛ばされたのか。」


「でも綺麗ね。悪天候でも一丸となって熱狂できるのを見ると、人間もまだまだ救いが有るということかしら。」


「根っからの悪人なんてそうは居ないさ。少なくとも今は減っている。」


 魔王事件で悪人が減っているのは事実であり、今日も経済は回っている。


 それぞれ事情により異界に捨てられた○○○とマスター。

 本来なら敵地と言えなくもないこの街でデートを楽しむなど狂気の沙汰だ。


「ほら、あなた。あんなことまでしている。綺麗ねぇ。」


「ふむ、これはいつか使えるかも知れないな。」


 だがそれを可能にする2人は異世界人のパフォーマンスに拍手していた。



 彼女達は最初の休日で盛大なパフォーマンスを披露して以降、毎週ここに来てコスプレ広場を盛り上げていた。


 元々市長が変わってからは人気の場所だったが、2人のおかげで毎週参加者が増えている。


 例え今日のような悪天候でも、みんなが2人を楽しみにしていた。人が増え、商店街を始め街の経済もうるおい彼女たちは伝説となった。



「さて、そろそろ例の喫茶店に行こうか。」


「はい。最後まで見てたら食べそこねちゃうもんね。」


 伝説の事は脇においておいて、マスター夫婦は喫茶店に移動する。以前の調査の時にサクラが見つけた特大パフェの店だ。


 カランカラン。


「わー、オシャレなお店ね。」

「うん、悪くないな。おや?」


 店員に導かれて席に移動していると、他にもパフェのお客さんが居た。中学生くらいの女の子が、同じくらいの男の子とパフェを食べている。


 その大きさは50cmはあるだろうサイズで、1人では攻略が難しそうだ。


「あの子達のアレが例のパフェ?大っきいわねー!」

「2人で1つでいいかも知れないな。」

「そうね。一緒に食べましょう。」



「あの人達、夫婦かな。こっちを見てたけど。」

「仲良さそうねー。私達もあんなふうに見えたり……いまのナシ!」

「ナシと言われても、そう見えたからあの2人も注文決めたみたいだぞ。」

「わっふ……これでも喰らいなさい!」

「急にアイス突っ込むなって!」



「仲良いわねぇ。私達も負けてられないわよ?」

「誰にも負けないさ。オレ達はな。」

「そうこなくっちゃ!」


(あの男の子、例の学校で見たな。ユウヤだったか?時間干渉持ちで女がいるとか勝ち組確定じゃないか。)


『あの子達が例の勇者の卵? うふふ、凄いわね。このお店に魔王夫婦と勇者カップルが居るなんて。』


『そうだな。よし、前哨戦だ。見せ付けてやろう。』

『ノッたわ!』


 一言も話さず、視線だけで会話しているように見せる。

 近くに寄り添いイチャイチャしながらパフェを食べさせ合う。たまに口移しなども交えて挑発する魔王夫婦。


「うぐっ、あの2人絶対挑発してるだろう。」

「私達だってあれくらい出来るわ!ユウヤ!」


「ばばばばかやろう!モノには順序ってものが!」


「んーー!」


(オレはどうする!? ここで進むのは無責任だし、かといって引いたら根性なし決定だ!)


 孤立無援となったユウヤを内心にやにやしながら見守る店員。


 震える手でスプーンを持ち、パフェをすくうとメグミの前にゆっくり持っていく。さすがに口移しは出来ないようだ。


「遅いわよ!」


 業を煮やしたメグミが目を開けてユウヤに飛びつく。パフェだのアイスだの関係なく、ストレートにキスをしに行く。


 ゴンッ!


 鈍い音とともに頭同士がぶつかって弾かれ悶絶する。店員さんが慌てて近寄ってくるが内心はにやにやしている。


(この子達カワイイ!)


 慣れないことはするもんじゃないなと悔いるメグミだった。


 やがて彼らはパフェを食べ終わり、会計に進む。


「お客様。あちらのご夫婦からお代は頂いておりますので、そのまま帰って大丈夫ですよ。また来週も来てくださいね!」


 見るとこちらを挑発していた夫婦は既に外に出るところであり、イチャイチャしながら男の方に後ろ手でサムズアップされる。


「くっそ、完敗じゃないか!」

「これは良いようにやられてしまったわね。」


 その光景を微笑ましく眺める店員だった。


 その後、彼らは何度か出くわすことになる。

 しかしその度に違う女性とパフェを食べる姿を目撃することになる。


 男としてユウヤは格の違いを見せ付けられた気になり、女としてメグミは憤慨することになる。


 だからといって何かあるわけでもないが、勇者と魔王の前哨戦(?)は圧倒的な差をもって終わった。



 …………



「なんだか国道から離れたら、山形みたいな風景になるわね。」



 2008年6月30日。

 侵略開始した町をパトロールしていたサクラが呟く。だがそれは侮りの発言ではなく、発展する余地があることの確認だった。


「なんだか凄いことになっちゃったけど、楽しい一歩を踏み出せている実感はあるか。」


 これも現代の魔王と呼ばれたマスターのおかげ。



 長年苦しんだチカラの制御を出来るようにしてもらった。

 たくさんの情報提供でやる気を取り戻させてもらった。

 一緒にバカ話する友達もできた。

 ちょっと怖いけどドキドキする冒険もできた。

 ピンチを跳ね除けて新たな生活基盤も貰った。



 これだけの恩に報いるにはどうしたらいいか。

 あの人の役に立つのが1番だろう。


 だけどもう一つ、あの人の遺伝子を残す手伝いをしたい。

 でもこれは自分のワガママも入っている。


 彼の子供を宿すなら母子家庭を覚悟しなくてはならない。

 それでも欲しがるのは動物としての本能か。


「でも全然相手にしてくれないんだよなぁ。桜尻徒花キャノンが尾を引きすぎか……ん?」


 その時、通行人が目に入った。

 何の変哲もない、買い物にでもいく女性だろう。


【34歳】【主婦】【ピアノが得意】【所持金15284円】

【口内炎】【視力0.9】【握力28】【2子出産済】


 思わず二度見して集中すると、今度は服が透けて見え始める。



「なんですと!?」



 前よりも多くのポップアップウインドウが出現。

 さらには透視能力まで追加されている。


(これは、私も成長したってことかな?)


 思わず自分を見て確認してみる。


【事実認識LV2】【羞恥芸担当】【23歳】【S若社長】

【誘惑のDカップ】【スリムなお腹】【胃恋瘍】

【デーモンメイデン】


 色々とツッコミ所の多い情報がポップアップする。



(誰の股間が悪魔級だって!? コンチクショーーッ!!)



 どうやら悪魔の研修で成果が出たので、評価が上がってしまったようだ。


 マスターには、絶対に責任を取ってもらおうと心に誓ったサクラだった。


ここまで約19万文字、お読み頂きありがとうございます。

物語的には第一章の終わりといった感じでしょうか。

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