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21 ジケン その2

 


「うわあぁぁぁ、退却、退却しろぉぉっ!」



 2008年4月21日。16:30に関東の某所の地下モールが完全に占拠された。

 犯人は元ナイトのテログループ、シンドバッドだ。

 銀行強盗帰りに何故かこんな事になっている。


 18:00に電力を切って催涙弾を放った後に警察の特殊部隊が突入する。

 しかしまるで刃が立たずに退却の悲鳴があがる。

 だが警官隊は責められるべきではない。相手が悪かったのだ。


「おい、大丈夫か!? 何が有ったんだ!」


 這々の体で戻ってきた隊員に警部が駆け寄り問いかける。


「地下は、電力が通って、ます。敵の姿は見えず、どこからか一方的に……」


「何だと!? おい、人質は? 人質はどうなった!?」


「全員、手遅れ……です。」


「なんということだ!!」


 突入班はほぼ全滅で人質も手遅れ。その情報だけ残して気絶する隊員。

 どうやって全滅したのかもわからない。カットしたはずの電力も回復している。

 つまりはチカラ持ちだ。


 このままでは地下のどこかを通って逃げられてしまうかもしれない。

 絶望的なまでに劣勢に立つ姿は、かつてのサイトを想起させる。


「サイトに緊急連絡を入れろ!」


 ならばそれを打ち破ったサイトに頼るしかないだろう。チカラ持ち相手では彼らのほうが慣れている。

 そう判断した警部はサイトのマスターに連絡。強力な援軍の約束を取り付ける。


「強盗の時点でサイトに頼るべきだったか?しかしそれでは我々警察官の仕事が無くなってしまう。」


 警部はやるせない思いを胸にしながらも封鎖の維持を優先する指示を出す。


 警部が抱いた気持ちは、かつて1940年代に世間が超能力者に抱いた気持ちと同じである。

 その心が行き過ぎて、結果としてナイトが生み出されたのだ。


 時代が代わっても変わらないのは人の業だけ、とは思いたくない警部だった。



 …………



「トキタさん、こっちです!」



 4月21日 20時頃。ケーイチとトモミが地下モールへ到着する。

 出迎える警官は何度か現場で会ったことのある人物だった。


「お疲れさまです。急な呼び出し申し訳ありません!」


「お疲れさまです。状況は?」


「はい! テロリスト達は我々に追い込まれ、現在地下モールに籠城中です。」


 しれっと地下に追い込んだのを警察の手柄にする。

 しかしこれも必要なことだ。責任を被るという組織の意思の表れでもある。


「電力カットにて空調を止め、催涙弾を使いましたが効果なし。特殊部隊が突入したものの、ほぼ全滅です。」


「そいつは美味くねぇな。」


「電力も勝手に回復しますし、敵の姿が見えないまま攻撃を受けるという報告が上がってます。」


 そのまま推定人数と敵の装備に顔をしかめたくなるケーイチ。

 だが何とかこらえて余裕ぶりをアピールする。


「わかったわ。後は私達に任せてちょうだい。」


 ケーイチの代わりにトモミが応えて地下へ進む。


「はっ! よろしくおねがいします。」


 敬礼する警官を通り過ぎると、ケーイチは頭をかく。


「何でこんなになるまで放っておいたんだ……」


「仕方ないでしょ。それが決められたお仕事なんだもの。」



 地下へ降りきるとバリケードが見える。これは警官隊の方で設置したバリケードだ。


「まずはコソコソと嗅ぎ回りながら有効策を練るとするか。」


「そうね。それと敵が見えないらしいから光学迷彩か幻覚の類かしら。私の方で索敵して、あなたの意識に情報をリンクさせるわね。」


「精神干渉」を使って周囲の魂の情報を把握して仲間と共有する。

 これなら敵の姿が丸見えになり、先手が取りやすくなるのだ。


「リンク完了。さぁ、先に進みましょう。」


 その言葉と同時にケーイチの知覚が高まるのを感じる。

 周辺に敵は居ないようだが、遠くの方でかすかに反応が見て取れる。


「おまえのサポートはホント、すげえな。」


「ふふ~ん。もっと褒めてもいいのよ?」


 得意そうな顔になるトモミだが油断はしない。



 見張りの警官にバリケードを一部開けてもらって侵入する2人。

 ご武運をという言葉とともにバリケードが再度閉じられる。


 案内板を見ると、地図的には北西の階段から侵入した形になる。


 中央を南北に大きい通路があり、北側は主に商店が並ぶ。

 西側に電気室や倉庫などがあり、東側は塾やオフィス・診療所なども入っているようだ。

 南側には憩いの場として商店と広場が展開されていた。


 妙なことに近場に特殊部隊の死体がない。やつらが持ち去ったのだろうか。何のために?


 答えが出ないまま壁際を進み周囲を見渡すと、コンビニがあるが中身は荒らされている。店員さんは不在のようだ。


 店内を確認していると人間の反応を検知した。が、あえて気が付かないふりをする2人。

 トモミがこっそり、その方向へ精神力の腕を延ばす。


『新手の敵か!? しかもあいつは……サイトの死神じゃねぇか!』


 敵の思考がこちらに伝わってくる。

 向こうからはまだトモミは見えていないようだ。


『しかしこっちはステルスだ。上手くやれば勝機はある!』


 こそこそと近づくテロリスト。横合いから銃を構えてケーイチに狙いを定める。


「悪いが見えてるぞ。」


「な、なんだと!?」


 言葉が終わる頃には、彼の身体の中央部分が粉々にされて塵になっていた。

 ケーイチのチカラ、「分解」である。


「くそ、魔女も居たのか。運がねえな……」


 テロリストが絶命したのを確認すると、2人はその身体を調べる。


「オレたちのことを知ってるってことは元ナイトで間違いなさそうだ。」


「これで何件目だろうな。統合時に離反したやつらって相当居たらしいけど。」


「仕方ないわ。元々敵同士の組織だったわけだし。あっコレね。」


 そう言って死体から取り出すのは大きめの電池? いや小型のバッテリーと言ったほうが正しいか。


「それがどうかしたのか?」


「これに精神力が込められている。多分これで迷彩を施していたんだわ。」


「なるほどな。光かなにかのチカラなのかね。」


「たぶんね。でも私にかかればお見通しなわけだけど。」



 コンビニの探索を終えて次々と店舗を探索していく。

 エアガンショップや雑貨店、紅茶専門店などを確認する。


 トイレの個室に反応がありケーイチが向かう。中からは独り言が漏れてきていた。


「久々にキたと思って駆け込んだけど、臭いがきついなー。 芳香剤撒いたけどこれかよ。」


 どうやら便秘に悩むテロリストのようだ。

 ケーイチはノックして声をかけてみる。


「ハロー、テロリストの掃除に参りました。」


「な、なんで!? ステルスは完璧だったのに!」


「独り言がだだ漏れだぜ。垂れるのは下の口だけにしておけよ。」


 それでも音は聞こえそうだが。


「くそー! こんな間抜けな追い詰められ方をするとは!」


 ケーイチは精神力を溜めると剣の形を作り、ドア越しにそれを放つ。

 分解されたドアの向こうでは、下半身が丸ごと無くなった死体が残った血を流していた。


「便秘の解消おめでとう。 ちーとばっかし脱水症状みたいだがな。」


 そういって手を洗ってトイレから出ると、


「あなた、ちょっと臭うわよ。」


 鼻に手をおき数歩離れるトモミ。慌てて雑貨屋で消臭剤を探すケーイチだった。


 花屋や電化製品の店には特に異常はない。携帯ショップも同じだった。

 店員さんが不在だがそれはどこも一緒だ。

 次にATMの設置場所に行くと4人のテロリストが金を盗ろうとしていた。

 しかし見張りすら立てずに夢中でガサゴソ作業していたのであっさりと撃破。


「こいつら強盗したのに更に金を欲しがるか。浅ましいな。」


「この状況でタガが外れているのかもね。」


 その先のゲームセンターでは誰も見つからなかった。

 ここには格闘やSTGやパズルのビデオゲームの他にも、音ゲーや体感ゲームなどがならんでいる。


「このホッケーのゲームは楽しいのよね。心理戦と反射神経が試されて熱いゲームだわ。」


「オレは旅館の卓球のほうがいいなぁ風情があって……」


「ちょっと、子供作る前に老け込まないで!」


「あはは、冗談だよ。」


 大した敵が出ないので緊張感が少し薄れる2人であった。


 中央の南北に続く通路へ戻ってくる。ここまで下っ端しか戦っていない。

 本隊は南側を中心に陣取っているのだろう。


 南に向かうとシャッターが降りていて通れない。

 分解でシャッターを壊そうとするがトモミに止められる。


「うーんここはやめておいた方がいいかも。多数の警戒心がこちら側へ向けられてるわ。」


 シャッターに手を置き、精神力を延ばして索敵をしている。


「相手の注意をそらすか、不意をつかない限りは正面からの突破は無理かな。」


「わかった。ならば他のルートを探そう。」


(こういう時にあいつが居ればなぁ。)


 現状のもどかしさについ、今はいない仲間を思い起こす。


「あなた、ダメですよ。」


 それを察知したトモミが注意する。


「あ、あぁ、悪い悪い。つい昔を思い出してな。」


「あなたも○○ちゃんに頼りたくなることが有るのね。いつもは私が口にして怒られているのに。」


 トモミは思う所があるようで、よく魔王について言及する。

 それをしょっちゅう諌めるのがケーイチであった。


 無い物ねだりをしても仕方がないという正論の裏には、ケーイチの嫉妬も入っている。それほどの男ではあった。


「オレだってあいつの全てを否定しているわけじゃ……あいつはうまく噛み合えば誰よりも頼りになる。」


「そうよね。」


「だけどちょっと考えにズレがあり、それが許容出来ないことが多いだけだ。」


「そうよね。ちょっと難しいのよね。」



 そのまま何も言わずシャッターから離れる。

 ちょっと気まずい空気の中で北側に進むと警備員の詰め所があった。

 そこに一人のテロリストが寝ている。だいぶ顔色が悪い。


「おい起きろ!」


 精神力のナイフを突きつけながら寝ているヤツを起こす。


「ん、もう交代か?ってお前らは! ゴホッゴホッ」


「お前らに対する専門家だよ。お前、仮にも戦場で寝てるとかどういう神経だ。」


「ゴホッゴホッ 仕方ないだろ。病人なのに引っ張り出されたんだ。殺したければ殺せ。どうせ動けん……」


「嘘はいってないわね。南側に行く通路とかどこかにない?」


「サイトの死神と魔女か、ゴホッ。」


 辛そうにする病テロさんは自分たちがここまでだと察すると、素直に情報を出す。どちらにしろトモミ相手に隠し事は難しい。


 どうやら雑貨店のスタッフルームから電気室前まで繋がっているようだ。

 鍵は自分で取ってくることになったが、大きな収穫だろう。



 そのまま紅茶専門店に行くと、多数のお茶の葉が小分けして売られている。

 その角に限定復刻品、事後の紅茶のペットボトルが売られていた。


「これは、気になりますね。」


 ごくりと喉を鳴らして手に取るトモミ。500mlで220○は少々高い。

 去年の夏にヒットした限定品だったが、トモミはお目にかかること無く販売終了しまっていた。


「なんだこの製品名。狙いすぎだろ。と、あったぜ。」


 その商品棚の死角にカギがかけられていた。

 ゲームセンターの事務所のカギだ。先程聞き出した情報通りである。

 これを持ってさっさと移動しようとするケーイチだったが、


「ねぇ、あなた。この紅茶少し持っていってもいいかしら?」


「別にいいけど、あまり限定品って言葉に惑わされるなよ。」


「やったー!」


 喜ぶトモミは一応お金をレジに置いて数本確保する。

 その姿にナニか催促されているのではとフカヨミするケーイチだった。



 ゲームセンター事務所で景品リストを見ると、みかん箱の在庫と保存場所が見つかった。

 その場所に目的の鍵が隠されているのだ。


 よく思い出してみると、今までの店にもみかん箱がおいてあった。

 きっとそちらはダミーでなにか恐ろしい仕掛けでもされているのだろう。


 景品置き場でみかん箱を見つけるとトモミがスキャンする。

 特に問題はないとのことで開けようとすると――



 みかん箱の下にヒトガタの手足が生えた物体が現れた。



 それは異様な光景だ。 みかん箱が頭で、胴体と手足がある。

 腰の部分は大きなみかんになっており、

 皮が下から剥かれてスカートのように広がっている。


 ただし、全身緑色なうえにネームプレートにはメロンと書かれていた。


「残念だったな、我々はメロンだ!」


「いや意味がわかんねーよ!」


 とっさに殴りつけるケーイチだったが意外と堅い。


「食らいなさいッ!」


 トモミが「精神干渉」の技、幻覚の檻を発動させる。

 相手を幻覚で取り囲み、ゲーム的に言うなら状態異常を引き起こすのだ。


 しかし、くねくね動き出して余計怪しくなるだけだった。



「もう面倒くせぇ。 くらいな、華払いだ!」



 ケーイチは剣を生み出して相手に突撃、華々しく舞うように斬りつける。

 かなりの範囲を斬りつけて分解する。自称メロンも瀕死の重傷だ。


「ぐふっ 我々が倒れても第2第3のリンゴやレモンが……」


「メロンだけじゃないのかよ!」


 とどめを刺して奥の箱を調べる。すると目的のみかん箱から鍵を手に入れる。


「あなた、これどうしましょうか。」


 そういうトモミは付近に散らばった果物の箱を示す。

 イラッと来てやりすぎたようだ。


「う……弁償かなぁ。サイトの方で経費でおりないか?」


「なんとかマスターを説得してみましょう。」


 今夜のお土産が決まった瞬間であった。



 気を取り直して雑貨店の奥、スタッフルームに鍵を使って侵入する。

 整然とされた室内には特に気になる所は無く、通路へのドアが見える。

 そこを抜ければ電気室は目の前だ。


 そのままドアに向かおうとすると、トモミが何かを察知して旦那に警告する。


『いけない! 隠れて!!』


 そのテレパシーは瞬時にケーイチの頭に溶け込み、2人は棚の後ろに身を潜める。


 そこに1人の男が電気室側のドアから入ってきた。


「ふー 休憩休憩っと。一度充電するとしばらく持つのは良いが、腹減って仕方がねぇや。」


 ザッ!


 そこへ微かに物音を立ててしまうトモミ。相手を読み取ろうと姿勢を変えたためだ。


「なんだぁ? 誰か居るのか?」


 その言葉と共にズガァン!!という音が2人の近くに発せられる。

 どうやら電撃を放たれたようだ。


「「……」」


「フン、なんにも無いか。腹減ってるからな。」


 気の所為だったと部屋を出ていく男。向かう先は雑貨店側だ。


「行ったようだな。」


「びっくりしたわー。」


 ドアが閉まるとため息をつきながら2人が棚の裏から出てくる。


「お前が察知してくれたおかげで助かったぜ。ありがとうな。」


「ふふ~ん。」


「さっきのやつが戻る前にあたりを探索しよう。」


 2人は通路へ向かって歩き出すのであった。



 …………



「やべ、さっきので本気で腹減っちまった。」



 このままコンビニに向かおうかと思案しているところへ、黒装束の男が現れる。

 もちろん時間は停止済みだ。


「先程は見事な牽制でした。 これ、差し入れですよ。」


「おおっ 兄ちゃん気が利くな。」


 現代の魔王は自分の店のハンバーグセットをウデンに振る舞う。

 ちなみに飲物は事後の紅茶だ。すぐそこでパクったものを冷やした物だ。


「おまえら化物チームとか言われてっけど、意外とスキが多いよな。なんだいさっきのザマは。あんなん部屋ごと攻撃したら終わっちまうぞ?」


 ばくばく食べながらケーイチ達のダメ出しをするウデン。

 そう、実は彼は2人に気がついていた。腹が減ってたので見逃しただけである。

 現代の魔王との契約は、満腹でなければこなせない。


「攻撃特化と搦手特化ですからね。無理もないですよ。」


「やっぱ兄ちゃんが居てこそだったんだなぁ。」


「オレはオレで彼らが居ないと運用がむずかしかったのです。だからこそのチームだったと思いますよ。」


 今ではかなりの無茶が効きますけどね。っと付け加える。


「ままならないもんだな。まるで人生そのものだ。おっとおかわり貰えるか? 出来ればステーキがいいんだが。」


「はい、お待ちッ!」


 ついつい店での掛け声をしてしまう現代の魔王。

 ウデンの前には高級肉のステーキとワインが置かれていた。

 とても店で500○では出せない代物だ。もちろん出してない。


「早っ、おめえさん食いもん屋やってるってのは本当みたいだな。そうだ、兄ちゃんも飲もうぜ。オレの最期の晩餐だ。」


「なら、いただきます。あの2人はまだ電気室には向かってないようですし。」


「うわっ これ美味すぎだろ、どんだけ奮発したんだよ。」


「貴方に奢るなら、それくらい安いものです。」


「おう、そうかいそうかい。ありがたく味わうぜ。」


 そして2人でワインを傾けつつ何も話さない。そこには不思議な信頼があった。


「よっし、腹も満ちたことだしお仕事の時間だ!」


「わかりました。時間を再始動します。」


 周囲の色の流れが戻ってくる。ウデンは肩を鳴らしながら電気室へ向かった。



 …………



「こ、こいつは!?」


「えぇ、体内に電力を蓄えられてて放電しているわ。」



 ケーイチとトモミは地下モールの電気室にて、バッテリーと化したテロリストの遺体を発見した。


 最初は中央の広場へ向かおうと思ったが、それはシャッター前で感じた集団が待ち構えている場所である。不意打ちのために先に電気室を片付けることにしたのだった。


 が、いざ電気室に来てみると、無情な光景が目の前にある。


「こんな方法で電力を賄っていたのね。」


「酷いもんだ。自分らの仲間だろうに。こいつを開放してさっきのカミナリ野郎を迎え撃つか。」



「その必要はねぇぜ!! もう戻ってるからな!」



 大きな声が響き、慌ててそちらを向く2人。



「お前ら随分、好き勝手やってたみたいだな。だぁがぁ、それもここまでだぜ!」


「それはこっちのセリフだ!」


「大人しく投降なさい。さもなくば、魂を削り取ります!!」


 臨戦態勢に入る2人におどけた様子でカミナリ男、ウデンが答える。



「おうおう、怖いねぇ。死神と魔女さんよぉ。だが状況をよく見てから言うんだな。」



 すると先程の死体から電撃が放たれる。


 ズガァン!!


 後ろからの攻撃に2人は痺れ、衝撃で呼吸が乱れる。

 それでも装備のおかげで火傷のたぐいは負ってない。


「さっきの威勢はどーしたよ。 たぁだの強がりだったのかい?」


「くそっ、こいつ強いぞ……」


「くっくっく。お前達はそれなりにやるようだがぁ、弱点があるよなぁ? 防御が甘すぎんだよぉ。」



 そして再度電撃を放つウデン。今度は正面からだ。

 高速で飛来する電撃を、二人は避けきれない。一度目のダメージも

 響いているようだ。そして更にダメージが重なる。



「ははっ、どうだい。以前は鉄壁の防御能力者が居たからこそ、お前達は最強と言われてたんじゃないか? 」



 チカラ持ちの戦いは不意打ちも多い。

 相手の攻撃を凌いでチカラを見極めてからが本当の戦いである。

 だが防御や回避に優れてないと、初撃であっさりやられかねない。



「それに聞いてるぞぉ。 お前らは政府に尻尾振って、そいつを裏切ったんだってな? 挙げ句魔王にしちまったってわけだぁ。まさに自業自得ってやつだぁな。 今どんな気持ちだぁ? 」


「そんなこと! 私は彼を助けようとッ!」


「戯言に耳を貸すなトモミ!」



 ウデンが長話をしている間に少し回復するケーイチ達。


「そろそろ動けそうか? ならこれはどうだぁ!!」


 そういうとウデンは電気室全体に電撃を放ち、安全地帯を潰していく。


「この速度の電撃、きっと獅子座生まれの人ね。」


「大当たりだ。なんだオレのこと知ってたのか?」


 トモミの、苦し紛れのただの軽口である。

 ここからでも通常なら精神力をとばせるが、今の負傷だと集中できない。


『トモミ、なんとか掻い潜って近づくしかない。行くぞ!』


『わかったわ。恐怖や痛みは私が和らげる!!』


 トモミは一部の神経を鈍くさせ、気力を大幅に高めるとケーイチのあとに続く。


(獅子座の人まで遠くはないけど、この電撃ダメージはきついわね。)


 痛みは軽減しても衝撃は来るのだ。少しずつ近づいているが被弾は避けられない。


 だがついにはケーイチが肉薄する。


「よし、そこまでだ獅子座の人!」


「変な名前で呼ぶな。 だがそんな身体でオレを倒せるかな?この距離ならオレもつえーぞ?」



 腕につけたカタールを振るって電の斬撃を繰り出してくる。

 その速度は速く、瞬時に3回攻撃される。



「へっその程度なら負けてやれねぇな。」



 そういうケーイチはチカラで剣を作ってカタールを受け止める。

 ウデンのカタールが分解されるが電撃が放射状にばらまかれてしまう。


 避けきれずまともに浴びるケーイチだが分解である程度軽減する。



「くっそ、マジで強いな。」


「くらいなさい!!」



 そこへトモミが追いつきチカラで精神力の波を発生させる。

 まともに狙いがつけられないので範囲の大きい技を使ったのだ。

 その分、精神力の消費は大きい。当社比2.5倍だ。


「しまっ!くそ、電撃が出ない!?」


 まともに浴びたウデンの精神は、チカラの制御部分に異常が出る。

 そこへケーイチがチカラのナイフを投げて腹に直撃する。

 すぐ傷口が分解して動きが鈍るウデン。勝負ありだ。


「良い所をついていたが、よく言うだろ? 攻撃は最大の防御だってな!」


 膝をついたウデンに勝ち誇るケーイチ。だがダメージはかなり大きい。


「一つ聞く。この事件にあいつは、現代の魔王は絡んでいるのか?」


「あ? 知らねぇな。 オレはナイトとして戦ってただけだ。」


 トモミがウデンに手を当てて「精神干渉」で読み取ってくる。


「嘘は言ってないみたいね。 でもあなた、過去に彼にあっているようね。」


「へっ、そんなことまで解るのか。お前らと戦争してた頃に少し縁があっただけさ。」


「なんだと?」


「あの兄ちゃんに会った時にわかったぜ。お前らサイトには向いてねぇってな。いつか決別することになるだろうと。実際そうなってるよなぁ。」


「余計なことは喋るな。次は仲間のことを話してもらうぞ。」



「政府の犬に渡すものなど、なにもなぁい!」



 ズガァン!!



 電撃を自分で浴びたウデンは既に息を引き取っていた。

 あっという間の出来事で止められなかった2人は唖然としている。


「仕方ないけど、こういうのってやるせないわね。」


 周囲は電力も切れて真っ暗になっている。



 2人は特製強壮薬剤を飲むと、すぐさまキズが回復していく。


「やっぱこのクスリやばいな。とんでもない効果だ。」


「あの学校のための新型らしいけど、便利ね。」


 回復を終えた2人は電気室を後にし、広場へ向かうのだった。



 …………



「どうやら行ったようだな。」


「ふー、リーディングされた時はヒヤッとしたぜぇ。」



 誰も居なくなった電気室で、現代の魔王と透明度が高いウデンが会話していた。


「おめえさん、あの魔女を欺くとか凄えやつになったな。」


「オレも驚いてます。この1年の記憶を深層フォルダに移して隠しファイルにしておいたのが功を奏したのかもしれません。」


「人の頭をパソコンみてーに……で、これで良かったのか?言われたとおりに煽ってみたが、死神の方は聞く耳もってなかったぜ。」


「上出来です。あの人はあれでオレのことに敏感ですからね。地道に言葉を埋め込んでいって、早く決心してもらわないと。」


「ん、 何がだ?」


 訝しがるウデンだが、魔王はそれに答えるつもりはないようだ。


「それより恩あるあなたを駒のように使ってしまって申し訳ありません。」


「何年前だったか、お前をアパートに匿った件か。別にあんなの大したことじゃねぇよ。気にすんな。」


「あの時は心身ともに参ってましてね。本当に助かったんですよ。」


「別にいいっていうのに。オレだって去年、一時的にお前の処刑リストから外してもらったんだしよ。」


 ウデンは魔王事件で説得に応じて一時的に生き延びていた。

 それが今日、回収されたということである。


「あの時は助かったぜ。大事な用事があって、あそこでは死ねなかった。こんな仕事だし、いつ死んでも仕方ないんだけどよ。」


「お互い様って事ですね。 恩の感じ方が違うのが面白いところですが。でも処刑リストはやめてください。あれ、上司が作ったんですよ。話を聞いてくれた人はなるべく助けましたし。」


「そんな奇特なやつはオレ以外にどれくらい居たんだ?」


「100人程度です。」


「おおう、もういいや。お前の話を聞いてると世の中に絶望しそうだ。せっかく戦って死ねたのに余韻が吹き飛んじまう。」


 10億人中100人しか生き残らなかった、

 それしか話し合いにならなかったと聞いて目眩を覚えるウデン。


「それではオレが送りますよ。あなたにここで迷われても迷惑でしょうし。」


「おめえさん、言うようになったじゃねぇか。1つよろしく頼むぜ。」


「でも三途の川までですよ。そこで担当スタッフの指示に従って下さい。知り合いの閻魔さんにメールしておくので、温情があったらいいですね。」


 そういって不思議なケータイでメールを打つ現代の魔王。



「閻魔とメル友かよ! もうなんでもありだな!」



 空間に穴を開けた魔王は、ウデンとともに三途の川へ向かうのだった。



 …………



「これはっ!?」


「トモミ、どうした?」



 広場への通路を進むトモミが何か電波をキャッチした。

 正確には精神波である。



「大丈夫、一瞬死者の声が聞こえただけよ。こういうところでは、たまにあるのよ。」


「確かに結構な数のホトケさんが出てるからな。早く終わらせて休もう。」


(かすかに聞き取れたのは 閻魔にメル友? 意味がわかりませんね。)


 ある意味重大なヒントをスルーするトモミ。


 そんなことよりこの先に居るテロリスト達の排除のほうが問題だ。


「15人はいて全員銃持ち……想定より数が多いわね。」


「トモミ、あれをやるぜ!」


「えぇ、よくってよ! こほん、行きます。ステルスモード!」


 誰かの悪い影響か、思わずアニメのセリフを言って照れるトモミ。


 ステルスモードと銘打ったそれは、こちらを認識することを相手に拒ませる。

 相手の精神に、自分たちを見なかったことにするように呼びかけるのだ。

 もちろん相手が生き物でないと通じない。


 魔王のステルスとはだいぶ違うが、一時的に認識されなくなるのはとても強い。

 ただし燃費は非常に悪く、普通の戦闘では使えない。


 2人は一気に広場まで駆け抜け、ケーイチが敵を全て華払いで片付ける。

 銃も手足もバターのように切り取られ、その切断面は粉々に分解されている。

 欠損した身体がそこら中に散らばっており、ちょっとしたパニックホラーだ。


「ステルス、おふ。」


 トモミが精神力の放出を解除すると



「な、何者じゃ! ワシの兵隊が一瞬でここまでやられるじゃと?」



 そこには慌てふためくお爺さんが腰を抜かしていた。




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