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20 ジケン その1

 


「へっ 楽勝だな。」



 2008年4月21日の午後。関東の某所の銀行で強盗が発生した。

 現在30人ほどの集団が手分けして仕事をしている。

 行員への脅しと監視に周辺の見張りと退路の確保、やることは山程ある。


 彼らは元ナイトのテロリスト集団、シンドバッドだった。

 チカラ持ち、すなわち超能力者も何人か居る。

 その1人でもあるリーダーが放った言葉が現状を表していた。


 行員や一般人で犠牲になった者が、再度起き上がりまだ抵抗をする者たちを押さえつけている。

 通報装置や監視カメラは、過電流で焼き切られている。

 それでもパトカーがやってくるが、銀行に辿り着く前に事故を起こして動けなくなっている。


 それぞれの超能力者がチカラを発揮した結果だ。

 もちろん手に入れたブツを効率よく運ぶのには、足とマンパワーが必要となるので今回の同行者は多い。


 強奪は成功し、今は逃走車両であるワゴンへの積み込みが行われている。


「ようリーダー、順調そうだな。」


「ウデンか、やっぱあんたを引き入れておいて正解だった。セキュリティを全部ショートさせてくれたのが大きい。」


「何てことはない。でも結局パトカーは来ちまってるようだが。」


「近所のおばさんあたりが通報したんだろうよ。そっちも問題はないさ。オレのチカラならな。」


「そいつは良いや。早えとこずらかって酒でも飲もうぜ。おい爺さん、そろそろ車に乗っとけよ。ギリギリまで粘って置いてかれたらつまんねぇぞ!」


 ウデンはそう言って爺さんを促すが、彼は「ゴハンはまだかのう。」などと独り言を漏らしている。

 下から漏れてないだけマシな内容にウデンはため息をつく。


 爺さんの頭にぴりっと電流を流して意識を戻す。


「何じゃ? ウデン、お主何をしおった。コロッケが消えおったぞ?」


「もっと良いもの食えよ。いいから撤収準備しておけって。」


「そうかそうか、もう帰りか。まだ何も食べておらんのだがのう。」


 そう言って犠牲者たちに合図を送ると自分の身体を車へ運ばせる。

 よく見ると点々と跡が残っており、結局下からも漏れたようだった。


「オレらは別の車で行こうぜ。」


「そいつは名案だ。」


 爺さんがワゴン車に乗り込むと犠牲者たちがその場に崩れ落ちる。元の健全な犠牲者に戻ったのだ。


 そうこうしているうちに積み込みも完了。

 数台の逃走車両に全員乗り込み銀行を後にする。


 リーダーとウデンは銀行周辺にチカラをばら撒き警察を牽制する。

 実に順調で快適なお仕事だった。


(まぁ このまま終わったりしないんだけどな。)


 ウデンは心の中だけでそう言うと、頭の中で作戦を確認するのだった。



 …………



「ゾンビに美味しくかじられてるなんて、さすが豚野郎ね。」



 特別訓練学校の訓練棟、訓練施設ロジウラにてミサキの煽りが入る。

 ここはロジウラ4号。蘇った死者と戦うエリアだ。


「くそっ、こいつら痛みとか感じてないのか!?」


 ソウイチは自身のチカラ「重力操作」を開放して高重力のパンチ、グレイトブロウをゾンビに打ち込むが 相手は平気で起き上がってくる。


「1対1で戦わせてあげてるのになんてザマよ。ここはサブマシンガンで一気に倒しなさいな。」


「「ソウ兄ちゃん頑張ってー!」」


 双子の声援が入る。ミサキが言う通り1対1に持ち込むため、他の三人はそれぞれのチカラで周囲のゾンビを足止めしている。


 ミサキは人形を2体使って双子の防御をしているが、

 さらにもう2体使ってゾンビ達を撹乱している。


 ナカジョウ家の秘術を応用した「人形術」が、ミサキの特技であった。


 アイカとエイカは前方左右に別れ、それぞれのチカラで牽制している。


 アイカは指揮棒、タクトをふるって平行世界から妹の攻撃を呼び出す。

 エイカは鏡で相手を映して平行世界から姉の攻撃を呼び出す。


「平行世界と交信」それが双子のチカラであった。強力なチカラだがまだまだ制御も威力も甘く、足止めぐらいにしかならない。


「ゾンビ相手にフルオートとか、負けフラグくさいがしょうがねぇ!」


 ソウイチはサブマシンガンを相手に向けて引き金を引く。

 軽快な連射音と共に、相手が汚いダンスを踊りながら崩れ落ちる。

 ぎこちないリロードをしてこれを繰り返し、ようやく殲滅できた。


「豚野郎さん? これに懲りたら近づかなくていい敵には近づかないことね。」


「悪かったよ。次は気をつける。 痛っぅぅ。」


 ソウイチは肩を噛まれ肉がえぐれ、骨も折れていた。

 心なしかキズの周囲が変色している。


 即座にアイカが合成ワクチンと特製強壮剤を取り出すが、骨折を治療するための簡易外科キットがもう無かった。


「アイカ、ワクチンだけ使っておいて。骨折の方は私がなんとかするわ。」


 アイカは「はーい!」と返事をしながらワクチンを射つ。


「お、おい。大丈夫なのか!?」


「信じられないならここで終わってもいいのよ?ユウヤ達はとっくに先に進んでいるようだけど。」


 厳しい場所だがこれは訓練である。ここまでの怪我ならリザインして回収班を待っても文句は言われない。


「!! 頼む、ここじゃ終われない。」


 対抗心を燃やしたソウイチはミサキに頼む。


 ロジウラは8号エリアまであるが、ユウヤ達は先週末に最後まで突破している。


 今も先のエリアから銃声が聞こえてくる。対してソウイチ達は6号到達がやっとだった。


 あっちは回復持ちだというのは強いが、こちらも攻撃力なら負けていない。

 戦い方さえしっかりしていれば行けるはずなのだ。


 そもそもロジウラの製作者は、回復能力を想定していないらしいし。

 現状自分だけがミスをして怪我をしている。結局自分次第なのだ。


「ふふっ。じゃぁ治療を始めるわ。感謝してブヒブヒ鳴いてなさい。」


 そういってミサキは長い緑色の髪を数本抜き取り、チカラを纏わせて患部に差し込む。


 ソウイチの体内に入った髪の毛は、折れた骨を繋ぎ合わせて固定する。

 追加で作った髪の毛をどんどんソウイチに入れていくと、破れた血管や傷口も 髪が縫って治療する。


「す、すげぇ。あっという間に傷がなくなった……。痛みもだっ。むしろ暖かくて優しい感じがするぜ!」


「ふ、ふん。 これくらい乙女の嗜みよ。」


 優しさを指摘されてちょっと照れる乙女ミサキ。


「ミサ姉ちゃん凄い! こんな事もできたんだね。」


「これが出来るなら何でもっと早く言わなかったんだ?」


「このおバカ! 髪は女の命なのよ!?あんたみたいな考えなしの豚野郎に、毎回使ってたらすぐに丸坊主よ。」


「わ、わりい。ともかく助かったぜ。この借りはきちんと返すからよ。」


「もちろんいつか返してもらうわ。お豚さん?その為にも生き残るスベをさっさと身に着けなさい。」


 バツが悪そうに言うソウイチに、そっぽを向いて答えるミサキ。

 そんな2人をキラキラした目で見守るアイカとエイカ。



 その雰囲気を壊すかのように、教官から「はよ次いけ。」とアナウンスが入るのであった。



 …………



「えっ、 アイスワイバーン!? 何でこんな所に!」



 パトカーの群れをあらぬ方向へ引き離し、そろそろ完全に撒こうかというところで空を飛ぶ怪物が現れた。


 まるでおとぎの国から現れた、今で言うならMMORPGの世界から実体化したような風体に運転手が激しく動揺する。


「おいリーダー、あんたの仕業じゃねえだろうな?」


「んなわけあるか! こっちはパトカーだけで精一杯だ。あんなの出して見せる余裕は無いよっ。」


 ワイバーンが旋回しながら地面にブレスを吐く。

 するとアスファルトの道路が凍ってしまい、急に運転が困難になっていく。


「アイスブレスだ! みんなどこかに掴まってろよ!」


 運転手が叫ぶとみんな素直に掴まり、ウデンたちもそれに倣う。

 とたんに横へ身体が持っていかれそうになる。


「アイスバーンってか。ちょっと揺れますよ!」


(この運転手はなんでスムーズに対応してるんだ?)


「ネトゲではワイバーン30匹倒せなんてクエストやってたんだ。たかが数匹で今更遅れは取らねえよ! 」


 運転手はネトゲーマーだった。

 それもたまたま、この事態を仕掛た者と同じネトゲをプレイしていた。


 現代において超能力は発現しても、ファンタジー世界のモンスターが出たりはしない。

 せいぜい野生の動物がチカラを発現して妙ちくりんな生態になるくらいだ。


 つまりこれは故意に仕掛けられたモノ。


(ははっあの兄ちゃん、ネタ割れしてんぞ!)


 運転手の様子からウデンは気がついていた。

 これは現代の魔王がしかけた何かであり、運転手がそのネタに心当たりがありそうなことに。


 だが事態はその先に進む。


「うわっ 左がなにか乗り上げたか!?」


 ワイバーンの氷で盛り上がった部分を踏んでしまい、車体が左側だけ浮き上がる。片輪走行状態だ。


 これはマズイとブレーキを踏む運転手だったが、逆に加速してしまう。

 訝しんで足元を確認するとアクセルペダルが3つに増えていた。


「なんじゃこりゃ!!」


 思わず声を上げて前方の注意が疎かになる運転手。

 すぐ前は赤信号の交差点。その直前にさらに氷のジャンプ台。


 そのままジャンプ台に突っ込み浮き上がり始める。


 そこで車体後部が左から衝撃を受けて右に、前部分が右から衝撃を受けて左に流される。


 どうやら交差点の青信号側の車にぶつかったらしい。


 そのまま空中で3回転半したあと着地するがそこは道路ではなく、地下ショッピングモールの出入り口の階段だった。


 この様子を録画していた通行人は、動画サイトで100万再生を記録する。

 投稿者コメントは、「デブでもトリプルアクセル出来るんです。」


 続いて他のワゴン車も同じ、もしくは違う出入り口の地下モールへの階段に突っ込んでいく。

 騒然とするモール内と地上の交差点。


「おいみんな生きてるか!? 生きてたらさっさとモールへ移動だ。」


 車はダメだ。元々階段なんて登れないし、トリプルアクセルでお釈迦だ。

 地上に出たらすぐパトカーに囲まれる。ならモールを占拠して時間を稼ぎ、下水道でもなんでも使って逃げ出す方がまだ可能性がある。


「おい急げよ! 混乱している今しかチャンスは無いぞ!!」


 意外と冷静なリーダーに驚きつつ、ウデンはそれに乗っかるのであった。

 元ナイト達は怪我人も多かったが、チカラ持ちが3人もいる。


 それぞれサイトとの戦いを生き延びた彼らは強く、地下モールを1時間程度で占拠してしまう。


「ま、俺らにかかればこんなもんだよな。 お前らこれ持って下水道でもなんでも探しておけよ!」


 そう言ってリーダーが精神力を込めたガラクタを渡す。

 部下たちはそれを持って退路の確保に向かう。


 この人数なら怪我人を見捨てなくてもいいし、爺さんのチカラで銀行から奪った金も持ち出せるはずだ。


(この状況でも諦めない。 あんたは良いリーダーだったのかもな。)


 ウデンはそう評価すると、自身の担当である電気室に向かった。




 警察は出入り口全てにバリケードを張って警戒するが、手を出し難い状態にあった。


 人質が居るので、人道的にも 責任問題的な意味でもあまり突入はしたくない。


 それでも! と正義と血気の盛んな指揮官様が、地下モールの電力カットの準備を進めている。


(うーん さっさとサイトに要請出したほうが、犠牲者は少ないと思うんだけどね。人質だって死体を動かしてるだけだし。)


 警官隊の中に現代の魔王がいた。

 緊張感漂う現場で黒装束・黒マントの男がフラフラしているが、ステルスモードの為、誰も気が付かない。


 彼は今日、地下モールにシンドバッドを追い込んだ犯人である。

 逃走するワゴンに空から追従し、道路を降雪・降雨状態に”戻す”。

 その後南極の風を流し込み、タイヤの前にジャンプ台を設置したのだ。


 ワイバーンの姿は、彼の操作する精神力の塊を某MMORPGの3Dモデルと誤認するようにした。


 いわば幻覚である。


 アクセルペダルが3つになったのは、運転手の足元の空間をコピペして並べただけである。


 車両でトリプルアクセルをかましたのは偶然に近いが、なんか盛り上がってたので良しとする。


 ただ世間様からすれば。ただの大迷惑だ。


(犠牲者か。人のこと言えたもんじゃないか。それより時間は……)


 魔王事件では無謀な説得で大量に犠牲者を出し、今日もそれなりの被害者を出した彼は時間を気にしていた。


 社会を追い出されて人間すら辞めたマスターは、ドライな面があった。

 この辺の心の機微は一緒に住む者達でさえ、2重人格を疑うレベルである。


(そろそろ開店時間だし御暇しますかね。この分だとあと3時間はあの2人も来なそうだし。)


 その時になったら店を抜けて来ればいいだけだ。

 一応ハーン総合業務絡みの仕事だし、悪魔にも許可は得ている。

 キリコは大変かもしれないが……。


 誰にも知られること無くその場に居た悪党は、いくつかの場所を中継して悪魔の中庭に向かうのであった。



 …………



「テンチョー、途中で抜けるってどういう事!?」


「マスターな。仕事だよ仕事。今後のためにね。」



 開店直前に聞かされたキリコはマスターに食って掛かる。

 外では気の早いお客さんが、まだかまだかと待ち構えている。


「私1人で出来るわけないじゃないですか!マスターと違って人間なんですよ!?」


「成分だけならオレも人間だけど。ほら、料理はあらかた作って時間止めて保存してあるからすぐ出せるよ。」


 そういって冷蔵庫の横に設置した、新たな保存庫を指差す。

 中には今日のメニューが全種類入っている。料理は出来たてを時間停止済みだ。


 コピペ機能のついたこの異次元保存庫は、料理を取り出してドアを閉めると込めたチカラが発動して中身が復活する。


「こんなのインチキじゃないですか!マスターの存在自体もそうですが、これはやりすぎだと思います!」


「褒められた行為じゃないけど、品質は問題ないし……。使わないならこれはしまっておくか。あとで賄いにすればいいし。」


「あっ、やっぱり使います! ぜひ使わせて下さい!」


 手のひらをくるっとするキリコ。使わなかった時の大惨事を想像したのだろう。


「でもそうだな。この保存庫はなにか違う気がするんだよな。とりあえず制限営業ってことで。我慢できないお客さんには了承とって使おう。」


 20時くらいからはマスターが抜けます。

 以降の料理は 一部を除いて作り置き(作りたて)となります。

 その旨伝える張り紙を、外の看板と店内の壁に貼り付ける。


 その張り紙をみたお客さんが、作り置きなのに作りたてとはこれいかに?と興味を持ってしまう。


 キリコは結局忙しくなる運命を辿りそうだった。



 …………



「ソウイチチーム、ロジウラ6号クリアおめでとう。今日はこの辺で帰還して下さい。」



 特別訓練学校の事務室でキョウコがロジウラにいるソウイチと連絡をとっている。


『もう終わりですか? もう少し進めたいんですが。』


「その辺にしておけ。お前はともかくメンバーがもたないぞ。お前のために連携・サポートしてくれた仲間のこともちゃんと見てやれ。」


「わかりました! これより回収班を待ちます。」


「よろしい。焦りは禁物だ。戦いは安定して戦える事が重要だからな。」



「これで授業は終わりです。後は私がやっておきますので、トキタさんはお先に上がって下さい。」


 そう言って定時上がりを促してくるキョウコ。

 彼女も忙しい身だが、教官とサイトの仕事を両立させる程ではない。

 なので帰れる時は帰したいのだ。


「ありがとう。助かるよ。お先に失礼します。」


「お疲れさまです。奥さんとの時間も大事にしてくださいね。」


 ケーイチは書類を片付けて事務室を後にすると医務室へ向かう。


「トキタさん、お疲れさまです! なにかご入用ですか?」


 キーを1つか2つ程上げたアケミに出迎えられ、生徒たちの様子を見る。


 双子はよく眠っており、ミサキはベッドに寝ながら人形で腹話術をしている。

 ソウイチは自分の行動に思う所があったらしく、悔しそうにしていた。


「教官、さっきは止めてくれてありがとうございます。チームの、仲間の事が見えてませんでした。これからは気をつけます!」


「おう、期待しているぞ。お大事にな。」



 ソウイチのもとを離れると今度はミサキの横たわっているベッドへ向かう。



「よう、さっきの戦いは見事だったな。」


「まぁ教官さん。お褒め頂きありがとうございますわ。」


 若干猫をかぶった話し方をするミサキ。それは相手の立場が上だからか、何かを警戒しているからか。


「人形を駆使しての防御・撹乱戦法ってのは凄いな。どういう原理なんだ?」


 脳筋スタイルなケーイチからすれば、自由気ままに動く人形というのは気になるところだろう。


「それは一族の秘伝ですの。種を明かしては魔法が解けてしまうでしょう?」


「それもそうか。謎は謎だから魅せつけられるってな。お前も出向組なんだし身体は大事にしてくれよ。お疲れ様。」


「おつかれさまですわ。」


 ミサキは人形術を一族の秘伝といったが人形自体はそうでもない。

 重要なのは糸の方であり、これを操作するのに中条家のチカラを使う。


 出向組というのは言葉通りだ。中条家は大昔から秘術を受け継いでいる一族である。


 この国でそのような妖しげなモノが許されているのは、国の危機に助力をすることを条件にしているからだ。


 ミサキもその立場であり、ここへ出向いたのだった。


 過去の戦争時は大人達が皆、戦死して一族が滅びかけた。


 さらにナイトという組織に対抗することになり、10歳の子を戦地に向かわせた事もある。

 その子も結局帰ってくることはなく、当時はかなり追い込まれていた。


 その辺の経緯を聞かされていたから、ケーイチは少し優しい言葉をミサキに掛けたのだろう。

 なにせ過去に10歳の子が出向いた組織こそ、初期のサイトだったのだから。


 すっと振り返って立ち去ろうとするケーイチだったが、


「おつかれさまだぜー!」


 突如人形が現れて声をかけられる。驚いたケーイチはミサキに振り向き、


「それ、急にやられるとびっくりするから勘弁な……」


 そこにはニヤニヤしているミサキの姿があった。


 遠巻きに見ていたアケミが羨ましそうにしていたが誰も気には止めなかった。



 …………



「おかえりなさい。今日は早くて嬉しいわ。でもマスターから指令が届いているの。今回は2人ともよ。」



 自宅に戻るとトモミに迎えられる。

 しかしマスターから指令ということはサイトの仕事だということだ。


「む、そうなのか。すまないな。いつまでもこんな事に付き合わせてしまって。」


 トモミをサイトに誘ったのはケーイチである。

 あれ以来ずっと戦い尽くしだ。

 安息があったのはせいぜい、ナイトを倒した直後くらいか。


「ううん、平気よ。2人一緒なのは変わりないもの。」


「……すまん。仕事が終わったらマスターの所で休ませてもらおう。」


「ええ。そうすると思ってもう準備してあるわ。」


「さすがだな。それじゃ今回もよろしく頼むよ。」


 お互いにコブシを軽く突き合わせて、指示のあった場所に向かう。


 その姿は訓練学校の教官とその補佐ではなく、サイトの死神と魔女だった。



お読み頂きありがとうございます。

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