16 ヨクミ その1
「マスター、今日は中華風セットとビールをお願い。それとキリコちゃんのお通しも!」
2008年 4月4日 水星屋のマスターに注文の声とともに食券が渡される。
「「はいお待ち!」」
同時に料理が届いてウキウキしながらいただきます!と挨拶するサクラ。
「うんうん、程よい辛さで旨味もちゃんとある。これはイケますね。」
麻婆豆腐を食べながらうなずくと、キリコの雪うさぎサラダを口に運ぶ。
そのサラダはレタスの上にウサギを模したポテトサラダが乗っており、ミニトマトを半分にしたものを目に見立てている。
茹でた人参を包丁型に切ってポテトサラダに刺さしてあり、その直ぐ側に梅干しがおいてあるのはご愛嬌だ。
「シンプルなサラダなのに、ちょっと工夫するだけでキリコちゃんらしくなってる。」
「テンチョーと考えたのよ。結構自信あるの。」
そう言ってドヤ顔かますが、マスターとよべ!とツッコミをもらうキリコ。いつも通りのやり取りに、おかしくなって笑ってしまう。
(やっぱりいいな。この店は。)
…………
「うーん、この辺を記事にするのかー。」
記事の原稿をみながらマスターは唸る。
ハーン総合業務についてちらっと書かれた記事だ。
「やっぱりマズイですかね?」
「うちらは別に問題はないけど、サクラの方でリスクが高いかなと。」
仮にも現代の魔王だ。こんなので捕まるほどヤワではない。
「その辺のことを書いておかないと、事実を何も書けないと思うのですが。」
「そりゃそうだね。 でもオレの事で他と変わった記事を書くってのは政府に目をつけられる可能性があるよ。事実ならなおさら。」
人は事実を指摘されると激怒する。それが組織なら余計にだ。
「その時は守って頂けます?」
いたずらっぽく言ってみる。
「覚悟を決めてるんならいいけどね。 緊急信号が出せるようにしてあげよう。何かあれば駆け込むと良いよ。」
「じゃーこのまま行きます。確認ありがとうございました。」
…………
「さぁ、ニンゲンどもよー。今日も水の怖さを教えてやるぞ―!!」
サタナー島の砂浜でそう叫ぶは人魚族の女性。
ニンゲンで言うなら20代中盤くらいか。青く長い髪を持ち、素晴らしいスタイルの持ち主はブンブンと腕を回していた。
人魚族なので足を変形させる魔術を使って砂浜に立ち、旅のニンゲンが通るのを待っている。
先日もここで若者に水の魔法をブチあてて、水の恐怖を教え込んだ。
そしたらその魔法を覚えて、魔王信仰の神官を叩きのめしたと言うじゃないか。
これは私の功績と言っても過言ではない!
とドヤ顔で次の獲物を待っている。
「今日は空振りかなぁ。誰も来ないや。」
今日はお昼から友達の風の精霊と、お弁当を食べる約束をしている。そろそろ待ち合わせの場所に移動しなければ。
「へっぷしゅん!」
その時クシャミの声がどこからか聞こえ、目の前の空間が歪んで穴が開く。
「ええ!? なにこれちょっとやだ! すいこまれ……」
あっさりと穴の中に吸い込まれた女性は次元の穴の中で形容し難い波にもまれ、全身に痛みが走る。
その痛みと恐怖に気を失ってしまう。
こうして人魚族の女性は、この世界ウプラジュを旅立った。
…………
「そう言えばこの前の異世界、どうでした?」
「それは私も知りたい。まってポップコーン作る……作ったよ。」
そそくさとサクラの横に座るキリコ。デジャブを感じる。
「あれね。なんかオレが降り立った島がサタナー島とかよばれて、信仰の対象になってた。」
「うわぁ、あれだけのことをして信仰の対象になるってその世界の方々は大丈夫なんですか?」
主に頭がっと付け加える。マスターもそれには同意する。
「人口がどえらい減ったからね。何か拠り所が必要だったんだろう。」
「そういえば文化もほとんど消し飛ばしたんだっけ。」
「昔ながらの剣と魔法のファンタジーになってたよ。モンスターもだいぶ増えていた。」
「そんな世界の神かー。テンチョー今回は問題なかったの?」
「マスターな。 別に何もないよ。せいぜい魔王信仰やりすぎて、ぶっ飛ばされてた商売人の偽神官がいたくらい。」
「充分問題ありだと思います。可哀想に、またあの世界は色々失ったんですね。」
「ぶっ飛ばしたのはオレじゃなくて現地の若者だ。でも自浄作用が働いているのは世界にとって喜ばしいことだよ。」
「へぇ そんな正義の味方がいるんですねー。マスターは大丈夫だったの?」
「ちょっと挨拶したら帰っていったよ。」
「土にですか?」
「家にだよ。オレを何だと思ってるんだ。あーでもちょっと……」
ほらやっぱりなんかあるんじゃないか。と2人に視線を向けられる。
「酒場で黒胡椒を振る舞ってな。ほら、向こうじゃ貴重品だからさ。大喜びされたんだ。その香りが残ってたせいかクシャミが出始めてしまってね。帰還する時もクシャミしたら、そこら中に次元の穴が空いちゃって。」
「それは、どうなんだろうマスター。」
「巻き込まれた人とかいるんじゃない?」
「一応人の居ないところでやってたし、慌てて閉じたけれども。」
断言はできないなと締めくくる。
「……ここで気を揉んでても仕方がないし、飲みましょうかマスター。」
「それがいいな。オレはウメサワーでいくか。」
考えても答えのでない事を、3人は忘れることにした。
…………
「ここはどこだろう。どこかの建物みたいだけど。 これは祭壇?」
特別訓練学校の2階。
その中央にある転送装置の部屋に10歳くらいの女の子の姿があった。
部屋には誰も居なく、大きい祭壇のような物があるのと壁に扉が一つあるだけだ。
「この祭壇、ニンゲンの使うキカイみたいな雰囲気を持ってるわね。ここに居ても仕方がないし、移動してみましょう。」
そう言って部屋を出ると、とりあえず廊下を右に進む。
程なくして階段が見え降りてみるとニンゲンがいた。 背丈はかなり大きい。
「あれ? お嬢ちゃん、もう入学式が始まっちゃうよ。迷っちゃったのかな? こっちこっち。」
(お嬢ちゃん? 入学式?)
よくわからないまま手を引かれて大きい部屋に通される。
そこには沢山の机と椅子が並べられ、10人ほどの子供たちが座っていた。その一番後ろに腰を下ろすと大人たちが入ってくる。
(あれ? なんかこの手、小さい?)
その時初めて自分の身体を確認した女の子は自分が大人の女性でなく、小さい女の子になっていることに気がつく。
背丈だけでなく、友達に目の毒と言われた胸までペタンコだ。服はなぜか、子供の頃の服を着ているので平気だ。足も変形させる魔法は使えている。
身体を確認していると、入ってきた大人たちのうち、1人が話し出す。
「はい、みんなこちらに注目だ!」
その声に子供たちがそちらを注視する。
スタッフの制服の上に革のコートを羽織っている。
髪はオールバックの男だ。
「みなさん、おはよーございます! ここは今年から出来た特別訓練学校だ。 君たちにはここで特別で高度な教育を受けてもらう。」
ここはどうやらニンゲンの学校らしい。
トクベツっていうくらいだから貴族とかの学校かしら。
「オレは教育係になったトキタ・ケーイチだ。教官と呼んでくれ。よろしく頼むぞ。」
教官がケーイチ。疑問だらけだが少しずつ状況を把握しないと!
「去年の事件から君たちは大変な思いをしてきたと思う。だがこれからは違う。衣食住はこちらで用意してやる。そして生きるための技術と知識を教えてやる。」
なんだかすっごく良い所っぽいわ。ニンゲンはこんなに過保護なのか。
そう思う女の子だったが、次の教官の言葉に絶望を覚えることになる。
「その気になれば、魔王を倒せるぐらいのな!!」
(えええっ 魔王ってあの魔王!? 児童虐待よ! )
周りの生徒達もザワザワと騒ぎ出している。当然だろう。
「みんな落ち着け! ここはただの学校じゃない。才能を持った者たちが集まる場所だ。魔王事件の後から、自分自身に変わったことが起きていないか? 」
その言葉に何人かの子供が心当たりがありそうな素振りを出す。私と言えば、今まさに変わったことが起きてます状態だ。
「オレは魔王とやりあって生きている人間だ。惜しくも逃したがな。そのオレが鍛えてやるという訳だ。よろしく頼むぞ。それとこれからみんなが世話になる人たちを紹介しておこう。」
そう言ってお医者さんや料理人などを紹介していくキョーカンのトキタ。みんなで一斉によろしくおねがいしますと頭を下げて挨拶する。
その後は自己紹介の時間のようだ。
1人ずつ挨拶していくが、正直覚えきれない。
「はじめまして、モリトです。魔王事件で1人になってしまいましたが、両親の教えに従い 誰かを守れる人間になりたいと思います。」
この子は誠実そうな雰囲気を持っているわね。
「どうも、ユウヤです。去年の事件以来いろいろあったけど、何とかまともに生活できそうな所に来れてよかったです。お世話になる以上はがんばりますので、よろしくおねがいします。」
この子は苦労がにじみ出てるわね。 ちょっとぶっきらぼうな感じ。
「はじめまして。メグミといいます。去年の事件からお医者さんを目指そうと思いました。ここでなら勉強ができて将来のために良いと言われて来ました。」
よろしくおねがいしますと他の子と同じ様にしめるメグミ。
この子は――なんか危うい感じね。可愛いけど心が病んでるような。
(次はわたしか! なんとか乗り切らないと。)
「はじめまして、私はヨクミといいます。わからないことだらけですがよろしくおねがいします。」
本当にわからないことしか無いから困る。
でもこれでとりあえずは乗り切った。
と思ったらモリトがちらっとこっちを盗み見ていた。
む! なんか怪しまれるような事を言ったかしら。
生徒たちには部屋の鍵が配られている。
私もこっそりと受け取ろうとして――
「あっとー……一番うしろのヨクミと言ったか? 君は残ってくれ。」
ビクン!と体が強ばる。
何故か資料がないんだよ。っと言われ、大人しく御用となった。
…………
「つまりあれか。 異世界から来たと。」
事務室で話を聞いたケーイチは頭を抱える。
資料がない子がいたので聞いてみたらファンタジー生物だった。
「とりあえずキョウコさん、転送装置のメンテ依頼出しておいて。それとこの子の部屋も確保しておこう。風呂付きの職員用の部屋を頼む。」
事務のキョウコに手配を頼む。人魚族との事で部屋は風呂付きだ。
「わかりました。ヨクミちゃんの手続きはどうしましょうか。」
「生徒扱いにするしかないだろうな。オレが連れてきたことにしてくれ。」
この場所自体が機密なのだ。下手に外に出すわけにも行かない。
「わかりました。それではそのように。」
「そういうわけで、ここで生活してくれて構わないが、生徒としての扱いになる。つらい訓練とかも有るが我慢してくれるとありがたい。」
「助かるわ。正直何がどうなっているのか、さっぱりだもの。生きられるなら文句はないわね。あとは自分の世界に戻る方法だけど。」
「あの転送装置は近所にしか飛ばせないはずなんだ。これから調べてみるがあまり期待はしないほうが良い。」
「そっか、まぁなんとかやってみる。しばらくよろしくおねがいします。」
そういって頭を下げるヨクミであった。
…………
「魔王はとても同じ人間とは思えない奴だな。」
特別訓練学校の厚生棟の2階、ユウヤは自室で先ほど受けた説明を思い出していた。
時間と人心を操る。そんなやつに勝つための教育を施す学校。とてもじゃないが相手になるとは思えない。
だが塞ぎ込んでいても仕方がない。ここはこの施設を探索して男心を満たすとしよう。そう思って部屋を出る。
この階の一角にはゲームコーナーがあり、戦闘シミュレーションが出来るようになっている。
その横には休憩室があって自販機もおいてあるが、その横のベンチで沈んでいる女の子を発見。
「さっき隣だったメグミさんか。 どうしたんだ、考え事か?」
「ユウヤ君だっけ。この施設なんだけど、医療を学べると言うより戦闘のことのほうが多いみたいで……」
「あー そんな感じだったな。」
「一応教官が言っていたような才能?みたいのは有るけど戦闘用じゃないんだ。それ以外はただの女だし、戦いは――怖いんだ。」
「なら前の施設に戻ってみるとか。いまならまだ、」
「ううん。戻れないわ。 私の”チカラ”を見てみんな避けていたもの。やっぱりこの”チカラ”は気持ち悪いのよ。普通の人からしたらね。」
「それじゃあやっぱりここで頑張ってみようぜ。ここなら”チカラ”にドン引きするやつなんていないだろ。」
オレだって似たようなものを持っているしな。
「生きるための訓練なんだし、ただ殺し合いの勉強ってわけじゃないだろうよ。」
「そうだね。少しやる気でたかも。見かけによらずに優しいユウヤ君に慰められちゃった。」
顔を赤くするユウヤに照れちゃって可愛いと言葉を続けるメグミ。
「お互い呼び捨てにしましょう。 ”お仲間”なんだろうし。それじゃまたね。ユウヤ。」
そう言って去るメグミを見送るユウヤ。
「アップダウンが激しい子だったな。調子狂うぜ、まったく。」
続いて人形遣いの緑髪の子に 腹話術で話しかけられたり、水をがぶ飲みしているひとつ年上の男と仲良くなったり。
なかには9歳の双子の女の子もいて、この施設は大丈夫なのかと不安になった。
そして今日一番の不安材料が目の前に居た。
ここは厨房だ。アケミさんという女性がフライパンを使って料理をしている。イダーさんという炊事管理の女性が慌ててアケミさんを止めようとしているが、いーから、大丈夫だから。と適当にあしらっている。
医務室に行ったときにアケミさんに挨拶をして、話の流れでアケミさんのゴハンをたべてみたいと発言してしまったのだ。
こっちはただでさえ食うのにやっとの生活だったんだ。こんな綺麗な人のご飯が食べられる機会があるなら、逃してはいけない。
そう思っていたのだが、 イダーさんの焦りっぷりを見ると失敗したかなと思い始める。
そんなことはツユしらず、中華丼をお皿に盛ってやってくるアケミさん。
「はいできた。 どうぞ召し上がれ!」
ズモモモモモモ。そんな擬音が聞こえてくる。
「やばい、なにか来る!!」
襲いかかってきた中華丼(作:アケミ)をスプーンで受けながら相手をよく見る。
なんで動き出したのかはわからないが、どうやら敵らしい。
何度かスプーンで打ち合っていると相手の耐久力の高さに気がつく。
これは一気に行くしか無いかと ”チカラ”を発動し 周囲を見渡す。
急に動きが鈍った中華丼(作:アケミ)に対して、ユウヤ必殺の高速ストレートパンチを2連続で叩き込んだ。
相手の元気がなくなったところで、先程のスプーンを取り出し食べてみる。
失った体力が回復したようなきがするが、その場で意識を失い倒れることになった。
次に気がついた時には医務室のベッドの上に居た。
どうやらアケミさんに介抱してもらったようだ。
「目が覚めた? ごめんねー 今度はうまくいくと思ったのよ。」
「何がどうなってるんですか?」
「本当は私が炊事管理だったんだけど、関係者のお披露目会でみんな倒れちゃってねー。でも全員治したら医務室担当で残れたの。医学の勉強しておいてよかったわー。」
アケミさんにゴハンを頼むという選択肢は固く封印することにした。
…………
「ん? あれはたしか、モリト君か。
どうしたんだこんな所にいるとぶつかるぜ?」
1階の角部屋の前でウロウロしているモリトくんがいる。
「ユウヤ君か、丁度良かった、この部屋なんだけどさ。」
ヨクミの部屋と書かれた扉が見える。
「あの子可愛いしさちょっとお話できないかなって。僕はこういう時にどう話していいかわからないから困ってたんだ。」
両親が厳しくてね、っと補足される。
「話し始めりゃなんとかなるさ。要はきっかけだけだ。オレがノックしてやるから頑張れよ。」
「それはありがたい。」
「あと呼び捨てでいいぜ。女の相談に乗ったなら友達だろ?」
「ああ、助かるよユウヤ。」
…………
「さっきから部屋の前に誰か居る。ブツブツ言いながら何してるのかしら。」
やっと確保した部屋で一息入れていたヨクミが、警戒心を上げている。知らない世界で次から次へと面倒が起きる。
こうなったらガツンと先制攻撃しか無い。
余所者だからって舐められるわけには行かないのだ!
その時ドアがノックされて声をかけられる。
ヨクミは勢いよく扉を開けて、準備しておいた魔法を使う。
「不審者め! これでも食らえ! ”ヴァダー”!」
突如ヨクミの手のひらから、魔力で集められた水球が発射される。
「へ? うわぁぁぁぁあああ!」
少年の顔面に水球がヒットすると、相手は気を失って廊下に倒れる。
「どうだ、思い知ったかー! 部屋の前で何してたか知らないけど、不審者にはお似合いの姿ね!」
「おいモリト、しっかりしろ! ヨクミさん、何するんだよっ」
「30分も部屋の前でウロウロしてたら警戒くらいするわよ。」
「それは確かに……だが待ってくれ。彼は君に声をかけたかっただけだ。」
「へ? そ、そんなことでウジウジしてんじゃないわよ。とにかく、そのバカを早く医務室にでも運びなさい!」
「待って!」
その時階段から降りてくるメグミが声をかけてきた。
「初日から医務室送りだなんて、目をつけられるわ。私に任せてくれない?」
すでに医務室にご厄介になったユウヤは、微妙な心持ちでメグミの言に従った。
…………
「それじゃ始めるわね。」
ヨクミの部屋の床に寝かされたモリトにメグミが近づく。
彼女が手をかざして強く念じると光が溢れてモリトに降り注ぐ。
するとモリトの顔色が良くなり、目を覚ました。
「モリト、良かった目が覚めたか。」
「ううん。何だったんださっきのは……」
「お前不審者と思われてぶっとばされたんだよ。メグミ、今のが例の”チカラ”か?」
「えぇ、そうよ。私は体力を回復させることが出来るの。」
「ねぇねぇそのチカラってさ、詠唱とかいらないの?」
ヨクミさんが妙なことを言い出す。チカラって詠唱とかいらないと思うけど。
「別にそういうのはないわね。ファンタジーの魔法とは違うもん。ただ意識を集中して相手に光を当てるだけよ。」
やっぱりそうだよね。オレも詠唱なんてしたこと無いし。
「へー! ニンゲンってそんな子もいるんだ。私は見ての通り水の魔法を使えるわ。男連中もなんかあんの?」
「言っておくけど僕はそういうのは無いよ。」
「うぇえ? つまんないのー。 何でここにいるのさ!」
モリトの答えに露骨に不満を撃ちだすヨクミさん。
「ひどい言い草だけど、守る力がほしいからこそここに来たんじゃないか。」
「立派な理由じゃないか。食い詰めてただけのオレよりよっぽど漢だな。」
このご時世、他人のために頑張ろうってなかなか公言できないさ。フツーはただ生きるのに必死なだけ。オレみたいにな。
「それでユウヤは? あなたも何かあるみたいだったけど。」
「オレは、なんか早く動ける。」
「どういう事?」
「この目でチカラを放ちだすと 周りが遅くなるんだよ。だから他人から見たら、早く動けるって感じかな。」
「それ、すっごく強力なチカラなんじゃない?」
「相対的に早く、か それって時間干渉だよね。現代の魔王もそういう事ができるとか説明されたけど。」
言われてみればそうだな。モリトってこういう分析は得意なのか?チカラ持ちではないけど、格好いいやつだな。
「でもすっげー疲れるんだぜ。だからここぞって時にしか使えないんだ。」
酷い時はとても立っていられない状態になるし、さっきみたいに寝込むこともある。燃費悪いんだよなぁあれ。
「それはそれとして、さっきから気になることがあるんだけど。ヨクミさんって何者なんだ?」
「それは僕も気になってたけど。 魔法が使えて、僕らのことをニンゲンと呼ぶ。まるで自分が人間ではないかのような言い草だよね。」
「ふ、不覚っ!!」
3人の視線を受けて観念したヨクミは、どうせ信じないわよ。
と前置きして話しだした。
…………
「それで、気がついたらこの建物にいて、生徒と勘違いされて教室にレンコーされたってワケ。」
今までのことを正直に説明し終わったヨクミ。
元の年齢はちょっと詐称した。
「へぇ! 別の世界から来たの!? すごいや!」
「ロマンチックな話ね! 向こうと比べて景色はどう!?」
「男からみても浪漫のある話だぜ! くぅぅ未知なる冒険!」
「なんかあっさり信じられると、こっちが驚きなんですけど!」
変な目で見られるどころか、喜び興奮する3人に戸惑いを隠せないヨクミ。
「俺らはフツーじゃないヤツの集まりだしな。いちいち気にしない。」
「悩んでたのがバカみたいね。」
「ヨクミさんは元の世界に戻りたいんだよね?」
「そんなの当たり前じゃない。やりたいこと一杯あるんだから。」
「それじゃ、この4人で協力して手がかりを探そうよ!各自で情報集めて、またこうやって話し合ってさ。」
「「賛成ッ!」」
モリトの提案にユウヤとメグミが賛同の声をあげる。
「しょ、しょーがないわね。 そこまで言うなら協力させてあげるわ!!」
照れながらそう言うヨクミに生暖かい視線が向けられる。3人共、かわいい生き物を見る目をしていた。
今日のところは解散する。続きはまた明日だ。
「ありがとう……」
1人ベッドに入るヨクミは、小さな声でつぶやいた。
お読み頂きありがとうございます。
ここら辺でゲーム版1話と話が繋がります。
あちらでは最初の主人公はユウヤですが、こちらではあくまで登場人物の1人です。